遺跡の地下拠点ハーゼの町 2
この先にたくさん人間がいるとクウが言っていたけど、彼が俺たちのことを知らせたとは考えにくい。
それなのに、まるで来るのが分かっていたかのように出迎えてくれたのは妙だ。
「ようこそ、ハーゼの町へ!」
「……? あ、どうも」
女性は随分と表情を硬くしているが、警戒しているんだろうか?
「……ふむ。なるほど」
「ニャ? ココアも気づいたのかニャ?」
俺がそう思っているとレイモンは難しそうな顔をしているし、コムギさんも首を傾げている。
「えっと?」
どうすればいいのか迷っていると、レイモンが女性に近づいて顔や手に触れながらうんうんと頷きだした。
その直後。
「トージ。我らを出迎えてくれた女性はおそらく、挨拶専用の魔導人形だ」
そう言ってレイモンが力強く頷いてみせる。
「魔導人形?」
……ということは、魂が入っていない機械人形という意味だろうか。しかし、見た感じは普通の人間の女性に見える。
あまりまじまじと見つめるのは失礼になるから見つめないでおくとして、言われてみて初めて多少の違和感があるようなないような気が。
「我がよく知る魔導師が趣味で作っていたのだが、ここまで精巧な作りが出来る程ではなかったと記憶している。ううむ……」
「……遺跡都市にいた魔導師が作ったのニャ?」
確かレイモンの話ではテントを張って暮らしていたとか。
「うむ。砂に沈んで見る影も無く人もいなくなってしまったが、遺跡には古代の物が溢れていたからな。それらを使った可能性が高い」
レイモン以外知らない場所なだけに判断のしようがないが、危険は無さそうだし進んで確かめてみるだけだな。
「ようこそ、ハーゼの町へ!」
どうやら挨拶しか出来ない人形みたいだ。
「とりあえず、この先に進もうか?」
「ニャ」
「ふむ。そうしよう」
ここで立ち止まっていても魔導人形の女性は同じことしか言わず、動く気配を見せてくれない。それなら町に入って自分の目で確かめるのみだ。
コムギさんとレイモンを連れて魔導人形の女性を通り過ぎようとすると、女性は動きに反応したのか、向きを変えて俺たちを追い越し町があるとされる場所へと戻っていった。
「え? あれ?」
「役目を果たしたから戻って行ったと思うニャ」
「コムギさんは分かるんだね」
「何となく分かったニャ」
全く分からずにいるのは俺だけなのでは。
「コムギは使い魔だったからな。使われているものの違和感が分かるのではないか?」
「そんな感じニャ」
「な、なるほど……」
そういえばコムギさんは魔導師ルーナの使い魔として生きてきたんだった。それこそコムギさんを介して魔導師と会話をしたことがあったから、不思議な感覚みたいなものの区別がつくのかも。
先の方へと歩くにつれ天井が高くなっていくことに驚きながら進むと、かなり広い空間に出た。
するとそこにあったのは、石造りの建造物がいくつも建ち並ぶ光景だった。それこそ遺跡都市のような。
「人工的な地下だからてっきり洞窟要塞かと思ってたけど、これはどう見ても……」
「……うむ。トージが思っているように、この建造物はかつて地上にあった遺跡都市そのものだ」
「つまり、建物が崩れることなく地下に沈み込んできたものだと?」
「それ以外考えられんな」
地下への階段は明らかに人工的なものだったが、目の前に広がる光景は地上の遺跡都市そのものというわけか。
しかし人間の姿が一切ない。クウの姿も見当たらないのだが、そうなると俺たちをここに誘った者は――
「――トージ。クウの姿が見えたニャ!」
「あっ、コムギさん!?」
色々と疑問を抱いていたその時、コムギさんが一際目立つ建物に向かって駆け出していた。
猫の動きの早さには流石に追いつけず、どの建物に入ったのか分からなくなった。
「ふむ。コムギは教会に向かったようだぞ、トージ」
「え、教会?」
「うむ。はっきりとは分からぬが、我も何となくあの建物から我と似た気配を感じているのだ」
似た気配というと、同じ魔導師って意味だろうか。
「そ、それじゃあそこに行きますか」
「では、我と手を繋いでくれ」
「へ?」
「ふふ、そうすればきっと面白くなるはずだ」
レイモンはわけの分からないことを言いながら嬉しそうにしている。
手を繋ぐこと自体なんてことはないので、レイモンと一緒に教会らしき大きな建物に向かうことにした。




