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始まりは唐突に

 「———ぅー。疲れたー」


 シャワーを終えた神崎さん。部屋に戻ってクッションへと腰を下ろすと盛大に息を吐きながらそう言った。


 「だな。俺も疲れたわ」


 そう言う俺も結構疲れた。

 急いでスーパーやホームセンターを回り。

 更に荷物を運んでそれを数時間で行ったのだ。日頃運動不足の俺にはかなりの重労働である。

 ぐっと背伸びをして体をほぐす。

 ボキボキと体の関節が悲鳴を上げた。


 「うわーっ、凄い音出ましたよ? 骨がおかしくなったんじゃないですか?」


 「残念ながらこの音は骨から鳴っているんじゃないんだよね」


 「えっ? じゃぁ何の音なんですか?」


 「よく、分かってないらしいけど骨液? って奴の気泡が鳴ってるらしいね」

 

 あまり体に良くないらしいけどね。

 特に首をポキポキ鳴らして体が動かなくなったなんて話も聞く。


 「ほへーっ」


 俺と神崎さんは雑学やテレビを見ながら時間を過ごした。

 神崎さんは寝間着姿で膝を抱えながら話を聞いている。

 こうしていると平和だなと思う。

 本当に何か起きるのだろうか……このまま何もないといいな。

 と言うかいろいろありすぎて、寝起きのどんよりとした気分はいつの間にか無くなっていた。

 今は寂しさを紛らわすとかじゃなくて普通に会話を楽しめている。


 しかし、テレビでもあの声の事を放送しているな。

 インタビューされている人の話だと。


 「悪戯じゃないんですかね?」


 なんて回答している人が殆どだ。

 それに、専門家の話を聞いてみると集団ヒステリーだとかで、過去の例なんて流している。

 ただ、焦点は日本全国で聞こえたと言う事が挙げられた。

 更には海外でもそれが聞こえたらしい。

 言語の壁を越えているんだが。

 そうテレビを見ていると。


 「あ、これって」


 俺がそんな事を考えていると神崎さんは何かを見つけたのか、それを手に取った。


 「ドラゴンとクエスト10じゃないですか」


 「おっ、神崎さんもやってたの?」


 「もちろん! 私は初代から全部やってましたよ」


 まさかの俺以上のファンだったとわ。

 初代って20年くらい前の作品なんだけど、神崎さん何歳だっけ?


 「今失礼な事考えませんでした? 特に年齢とか。

 それ、セクハラですからね」


 考えただけでセクハラとか怖い世の中だわ。


 「まあ、いいんですけどね」


 良いなら言うなよな。

 俺は心の中でツッコミを入れる。てか、勘が鋭すぎるだろう。


 「宗田さんはこれのルナテイックモードやりました?」


 「もちろんやったよ。神崎さんは?」


 「当たり前ですよ! もう、完クリしましたからね」


 マジ? 俺は魔王にボコボコにされたんだけど。


 「ルナテイックモードの魔王ヤバいですよね。

 何回もやられましたもん。魔王にたどり着くまでもかなり難しいですが、魔王は別格ですよね。宗田さんはクリアしました」


 「えっ? あ、あぁ、クリアしたかなー」


 その言い方から全てを察したのだろう。ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。


 「あれ? もしかして宗田さんともあろう者が? クックック」


 そうやって悪い笑みを浮かべた神崎さん。

 俺はふっと視線を外す。


 「ふっふーん。宗田さんともあろうお方がまさかそんなことないですよね?」


 「あっ、あぁ……

 ———もちろんだよっ!」


 やべ、声が裏返った。


 「宗田さんは嘘が下手ですね。

 はは~ん。良かったら攻略法を教えてあげましょうか? 魔王の第一形態とか瞬殺できますよ。ニヤニヤ」


 瞬殺とかマジかよ。

 俺はそこすら越えられてないんだが。


 「スキル構成はですね———」


 「ストップ! だめだめ。俺は攻略を見たり聞いたりしないでクリアする派なの。

 だから、自分で試行錯誤する! そんでもって魔王を倒す」


 手をぐっと握り締めそう力説した。

 昨日の事を思い出す。

 何度戦っても勝てない魔王。かれこれ勇者が敗北すること数えきれない。

 きっと勇者の居ないあの世界は魔王に支配されてしまうんだろうと思ってしまう。

 架空の世界といえ感情移入をしてしまった。


 ……もし、戦争が始まったらドラゴンとクエストの主人公のように、悪を許さず正義を愛するような人物は現れるのか。

 ふと、そんな事を考えると現実に引き戻される。


 「そろそろ時間ですね」


 俺と神崎さんはずっと話しこんでいた。

 仕事の愚痴だったりゲームの話しだったり。

 夕食を済ませてからも会話が途切れる事はない。むしろ、どんどんと話題が出てきては時間があっという間に過ぎ去った。


 0時まで残り10分。

 俺はそわそわとした気持ちでそれを待つ。

 神崎さんも同じなのだろう、落ち着きなくキョロキョロとしては手わすらが止まらないようだ。


 「ふぅ。なんだかんだあっという間だったな」


 「そうですね。楽しかったです。また、こうやってお話していですねっ!」


 なるべく不安な事が悟られないように間接的に楽しかったと伝える。

 最初はどうなるかと思ったが、純粋にこの時間を楽しめて良かったと思う。


 「あっ、もう0時だーーーえっ!? 何?」


 神崎さんが時間を告げると驚いた声を上げる。

 全ての電気が消えたのだ。


 停電か?


 それにしてはおかしい。

 あまりにも静か過ぎる。俺は急いでスマホの電源を入れようとしたが……。


 「あれ? えっ? なんで?

 ———つかない」


 「う……そ。私のもつかない……やだ、怖い」 


 どう言うことだ。

 外からまったく音が聞こえない。それに、スマホの電源も電気もつかない。


 急な出来事で俺はパニックになりそうになる。

 それをぐっと抑えると手探りで窓際まで移動した。

 かって知ったる我が家。

 暗いといえど、苦もなく目的地へと到着すると、カーテンの隙間から外を見た。


 「———暗い……」


 そこには闇があった。


 夜になれば道を照らす街灯は全て消えている。

 辺りの民家のも真っ暗だ。

 そして、車も完全に停止している。


 俺達は闇に飲み込まれていた。


 「どう言うことなんだ……?」

 

 ついさっきまでの楽しかった雰囲気とは売って変わって静寂と恐怖が俺達を支配的する。

 俺は外の光景を見て思わず一歩後ずさった。


 「———あれ」


 突然視界が歪んだ。

 体を何かが這いずるような感覚。

 それと、同時に胸が急激に締め付けられ息が出来ない。

 俺はたまらず膝をついた。

 

 「そう……た……さ……ん」


 苦しそうなくぐもった声。

 近くに居るはずの声が遠くから聞こるような感覚がする。

 ぼやける視界で姿を確認した。

 そこには横に倒れてピクリとも動かない神崎さんの姿が。


 「くぅっ……なんなん……だ」


 ———ダメだ。耐えれない。

 神崎さん……


 苦しそうに名前を呼んだ神崎さんの側にどうにかたどり着くと、そのまま意識を手放した。

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