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1話 ゴーレムバトル決勝戦


『さあ、これより開始となります、第1回ゴーレムバトル決勝戦。実況は引き続き私、ハロウィンエリアよりやってまいりましたジャックオーランタンのパンプキンと』


『解説の工場エリアよりやってまいりました、カーバンクルのルビーです』


『ルビーさん、昨日までは自分のエリアの代表を応援しようと、選手が変わる度に違うエリアの方々が集まっていて凄かったですね』


『はい、カーヘル様を除く全ての代表の皆様が出場されているので、試合毎に観客の方々が入れ替わるのは壮観な眺めでした。今日は決勝戦と、リリ様とのエキシビションマッチが予定されているので、全エリアの間で熾烈なチケット争奪戦があったようですよ』


 スタジアムからは観客の歓声が聞こえている。

 パンプキンが笑っていると分かる声色で言う。


『ルビーさん、会場の盛り上がりも最高潮ですね』


『ええ、本当に。私も決勝戦が楽しみで、昨日は1日中そわそわしていました』


『私もです。どんな戦いが見られるか今から楽しみですね』


 実況と解説の声が聞こえている。


 リリはちょっと感慨深げに、VIP席からスタジアムを見回した。


 ゴーレムバトル決勝戦が行われる会場は、工場エリアの砂漠に新設した巨大なスタジアムだ。

 収容人数は1万人である。

 しかし、見ている者が1万かと言われればそうでもなかった。

 1席に小さい種族の者達が何人も並んで座っている場所もあった。

 逆に身長がスタジアムより大きい種族の者達は入れないので、スタジアムの外から中を覗き込むようにして見ていたりもする。

 カメラを回す者もいて、チケット争奪戦に敗れた者達のために、それぞれのエリアに配置されたモニターにライブ映像配信も行われていた。

 見渡す限りにリリが創ったNPCがいて、全員試合が始まるのを楽しそうに待っている。


 拠点の全員がここに揃っているわけでもないが、よく5年でこんなに創ったなーというのがリリの正直な感想だった。




 パンプキンの実況が続く。


『ルビーさん、選手の皆様の準備が終わるまでの間、もう一度ルールとゴーレムの操作方法の確認をしていきましょう』


『はい、そうしましょう。今回使われているゴーレムは、操作方法が通常と違いますからね』


『では、私からルールの説明をさせていただきます。ルールは簡単です。選手が直接相手に何かすることは禁止です。自分のゴーレムだけを使って、相手のゴーレムを攻撃不能にする、または耐久度を0にすれば勝ちです』


『私の方からは操作方法を説明しますね。ゴーレムの操作にはこの魔道具、ゴーレムコントローラーを使います。このコントローラーを使えば押したボタンに合わせた攻撃や、スティックによる移動や回避を簡単に行えます』


『ルビーさん、私は普通のゴーレムの操作方法として全自動、事前に戦略を全て教える、言葉で行動を全て指示するの3パターンがあると聞いています。その3つ全てが、思うように動くようになるまでに結構な手間がかかっていたそうですね』


『はい、なので逆にやれることを制限することで、誰でも簡単に動かせて遊べるようにしました。このゴーレムバトルで使われるゴーレムは、誰でも簡単に扱えるゴーレムを目指して作られているんですよ』


 ルビーはゴーレムコントローラーを実況席から中央に向かって掲げている。

 スタジアムや各エリアにあるモニターにゴーレムコントローラーが映し出されていた。


 見た目はリリがゲームをする時に使っていたものによく似ていた。

 リリは1人反省する。


(完全に人が使う用で作っちゃったから、プニプニ、ぼーん、乙姫がすごい使いにくそうだったんだよね……)


 リリは両脇に並んで座っている6人のエリアの代表達を見る。

 この場には決勝戦に出る2人と審判のカーへルを除く全員がいた。


 見られたことに気がついたのか、ピンクがかった青色の鱗に覆われた顔がリリの方を向いた。


「リリ様、いかがなさいましたか?」


 リリは少し申し訳なさそうに言う。


「いやー、乙姫もだけど、ぼーんとプニプニもあのコントローラー使いにくかったんじゃないかなって」


 体が大きすぎて普通の人が使うコントローラーでは小さすぎるように見えたぼーんが言う。


「リリ様、拙者の敗北はリリ様の創造された道具の難解さ故ではございません。ただの拙者の修練不足故、次回までには習得してみせますぞ」


 手というものがそもそもないプニプニが揺れながら言う。


「負けたのは悔しいですが、私もぼーんと同じ意見ですな」


 リリは右を向いていた顔を左に向けて、何も言わなかった乙姫を見る。

 リリは乙姫を水属性の龍として創ったので、人の大きさになっても手に水かきがあってコントローラーを持つのは難しそうに見えた。

 乙姫は深い慈愛に満ちた笑みを浮かべて、胸に手を当てた。


「リリ様がお気にかけてくださったこと、とても嬉しく思います。ですが、妾は今回の大会で勝敗はあまり気にしておりません。この家にいる大勢の中から選手としてリリ様に選んでいただき、このような大会に参加できたことを心から光栄に思っておりますので」


 プニプニがしらーっとした目で乙姫を見て、ぼーんも表情は分からないが鎧の顔の部分が乙姫の方を見た。


 リリは感心したように頷く。


「乙姫は謙虚なんだねー」


 リリから見て乙姫を挟んで向こう側にいるトレニアが不思議そうな顔をした。


「え、乙姫って、負けた瞬間デモクをすごい睨んでなかった? すごい殺気立って――」

「トレニアよ。あれは妾のパフォーマンスだ。負けたのにヘラヘラとしていては、真剣に戦ったと見ている者達に思ってもらえないであろう?」


 トレニアが、そういうことだったんだ、と理解したような顔をした後ろから、驚いてつい出てしまったような大きな女性の声がする。


「え! わ、私、真剣に戦ってないように見られちゃいましたか!? ヘラヘラしちゃってましたよね!?」


 女性の背後にある8本の尻尾が本人の動揺をそのまま表したように、勢いよく振り回され始めた。

 乙姫がゆっくりと落ち着いた様子のまま声をかける。


「いなも、落ち着け。よいか、そなたはヘラヘラなどしていない。あれはそなたの自然な姿だ。この家の誰が見てもそう言うだろう」


 いなもの尻尾が止まる。


「あ、そうなんですね。自然な姿なら、普段通り真剣にやってるって思ってもらえますよね?」


 乙姫は威厳を感じさせる佇まいで頷く。


「もちろん、そうだろう」

「なーんだ。心配しちゃいました。あはは」


 リリはそれで納得するんだと思った。一応言っておく。


「いなも、もし何か誰かと契約とかすることになったら、名前書く前に相談してね」


 いなもは不思議そうな顔をした。


「はい、リリ様がそう仰るのでしたら間違いなくそうします。でも、どうして急にそんなお話になったんですか?」

「急に心配になってね……」


 リリは乙姫の前で詳しく説明するのもダメかなと思い、目を逸らした。

 いなもはキョトンとしている。


 リリの隣の席に座っているファーストが言う。


「リリ様、そろそろ選手入場のようですよ」

「それは見ておかないとね」


 パンプキンとルビーの実況が再び始まる。


『会場の皆さん、選手の皆様の準備が整ったようです。ついに決勝戦が始まりますよ』


『楽しみですね。練習期間は短かったですが、選手の皆様のレベルは全員同じ120レベルです。接戦になるのではないですか』


『ますます試合のゆくえが楽しみになってまいりました。それでは、選手の皆様の入場です』


 スタジアム中央、楕円形をしたグラウンドの両端にある選手席に、1人ずつ選手が入ってくる。


『決勝戦で戦うことになりました、御二人とゴーレムの種類の紹介をさせていただきます。赤色の選手席に入られましたのは魔界エリア代表、デモク様です』


 デモクは黒いコウモリのような羽を大きく広げて、観客に手を振った。


 主に魔界エリアの者達から大きな応援の声がする。

 パンプキンが今までの戦いを振り返る。



『デモク様は第1回戦で乙姫様の守りを突破し、次に準決勝ではトレニア様のスピード勝負を耐え凌ぎ、決勝の舞台まで進まれました』


『デモク様が使用しているゴーレム、ディアイトはパワータイプのアイアンゴーレムです。攻撃力に優れ、速さが遅いのが特徴のゴーレムとなっております』


 ルビーの説明と同時に、デモクが操るゴーレム、ディアイトが現れる。


 4m以上の高さがある、人形の鉄製ゴーレムだ。

 パワータイプの特徴を持っているので、全体的に太く、力強そうな見た目をしていた。

 手には巨大な剣が握られている。


『続きまして、デモク様と決勝の舞台で戦うこととなったもう御一方を紹介します。白色の選手席に入られました天空エリア代表、ルエール様です』


 ルエールもデモクと同じように羽を広げて手を振った。


 ルエールには純白の羽が12枚もあるので、広げるだけで選手席が明るくなったようにも見える。

 リリは羽はたくさんあってもいいよねという気持ちで増やしまくったことを思い出した。


 ステジアム内では主に天空エリアの者達からの歓声が響いている。


『ルエール様は最初の戦いで、いなも様の力強い攻撃を見事に避け、次にファースト様の堅実な戦いをどうにか切り抜け、決勝戦に進まれました』


『ルエール様が使用しているゴーレム、キニルルはスピードタイプのアイアンゴーレムです。速さに優れ、防御力が低いのが特徴のゴーレムになっております』


 キニルルが現れる。

 ディアイトと身長や材質、剣を持っている所は同じだ。

 違いは見た目が全体的に細く、身軽そうな所になるだろう。


『開始の前にデモク様、ルエール様、一言お願いします』


 デモクはルエールを指さした。


『ルエール! お前相手に手を抜くつもりはないからな! お前も全力でやれよ!』


 ルエールは楽しそうに笑った。


『ははっ、デモクは面白いこと言うなぁ。僕はいつも本気でやってるよ』


『いつもそう見えないから言ってるんだ。真剣にやれよ』


『分かってるよ。それに、今回はリリ様の手料理がかかってるからね。僕も含めて真面目にやらなかった人はいないでしょ?』


 デモクはニヤッと笑った。


『ならいい』


 2人は観客席の方を向いた。


『お前ら! 今から決勝戦だ! どっちが勝っても恨みっこなしの一発勝負! 楽しんでけよな!』


『みんな、応援よろしくね。どっちの応援してもいいけど、盛り上がってた方が楽しいから声出してこー』


 観客席から大きな声援が響く。

 パンプキンが話し出す。


『デモク様、ルエール様、ありがとうございます。観客席からの応援のボリュームが上がりました』


『盛り上がってまいりましたね。どんな結果になるのか楽しみです』


『私もです。では、皆さん、これからゴーレムバトル決勝戦を行います。今まで通り攻撃不能もしくは耐久度0の審判は、カーヘル様に行っていただきます』


 カーヘルが審判席に立って手を振った。

 カーヘルにも声援が届く。


『そして、決勝戦の開始の合図ももちろん、今回のゴーレムバトルの主催者である、リリ様にしていただきます。リリ様、よろしくお願いいたします』


 リリは7回目となって少し慣れてきた歓声の中、VIP席から姿を表す。


 観客も選手も全員がリリの方を向く。


 リリは全員に向かって手を振った。


 大歓声が響き渡る。


 リリはマイクを口元に近づけて話し出す。


『みんな、今日も集まってくれてありがとー! 最後まで楽しもうね!』


 会場全体から楽しそうな叫び声が聞こえる。

 もはや大絶叫といってもいいそれらをリリは気にせず話す。


『さっそくだけど、ゴーレムバトル決勝戦始めようか。デモク、ルエール、カーヘル準備はいいかな?』


『はい、俺は問題ありません』

『僕も大丈夫です』

『お任せください』


 リリは頷くと言う。


『じゃあ10秒数えるね。0って言ったら開始だよ。最後だし観てるみんなも一緒に言おうか。間隔は10、9、8くらいで言うよ』


 リリのことを見ている全員が、リリに対して一緒にやりますという風に声を出し、手を振った。


 リリはスタジアム全体を見渡して、頷くと言う。


『じゃあ、言うよー! 10、9、8――』


 リリの声に合わせるようにスタジアム中からカウントダウンの声が聞こえている。


『――3、2、1、0!』


 ゴーレムが動き出す。


『さあ、始まりました。ゴーレムバトル決勝戦。最初に動いたのはルエール様のゴーレム、キニルルだ。さすがスピードタイプ、走るのが速い』


『キニルルは今までも俊敏な動きで攻撃して、その後攻撃を避けるようにしていましたからね。今回も手数で勝負を決めるのでしょうか』


 解説と実況を聞きながら、リリはVIP席に戻る。


「みんなはどっちを応援する?」


 トレニアが真っ先に元気良く言う。


「アタシはルエールを応援します! ルエール! デモクなんてボコボコにしちゃえー!」


 いなもが、敵討ちですね、とトレニアの言葉に納得した様子で話す。


「なら私はデモクさんを応援します。デモクさん! 頑張ってください!」


 残りの4人はトレニアといなもを見て笑っている。

 プニプニと乙姫が言う。


「では私はデモクとしておきましょうかな」

「妾もデモクを応援しようと思います」


 トレニアが聞く。


「あれ? 乙姫はデモクに負けたのにいいの?」


 乙姫はデモクを見下すように見て、ふっと笑った。


「妾に勝ったのだから、優勝以外は許さぬ」

「ちなみに私も同じ意見だよ。私に勝ったトレニアに勝ったのだからね」


 リリがなんか黒いなーと思っていると、ぼーんとファーストがリリに言う。


「拙者はルエールを応援することに致します」

「私もルエールですね」


 リリは首を傾げた。


「乙姫と同じ理由?」


 ぼーんは朗らかに笑って言う。


「いえいえ、拙者は純粋にファーストに勝利したルエールの実力を認めているだけですぞ」

「私もです。それにルエールなら勝てそうですからね」


 ファーストは微笑んで言った。


 観客席から悲鳴と歓声が聞こえる。


『あ! キニルルにいい一撃が入った。キニルル倒れてます』


『待ってください! キニルル、似たような攻撃してると思ったら、1発くらいながらもディアイトの腕1本切り落としましたよ』


『おお、確かに! そしてディアイトは倒れたキニルルに追撃をかける!』


『ちょっと当たりましたが、直撃は避けれたようです』


『ディアイトの追撃が続きます!』


『どうにかしてキニルルは距離を取りたいですね』


『お! キニルル何とか立ち上がった! キニルルも攻撃に移るようです』


『キニルル、素早い連続攻撃をしています。相手がパワータイプと言っても片腕になりましたから、スピードタイプのキニルルでも何発かは耐えられるという判断ですかね』


『速い! 速いぞキニルル!! 攻撃が止まらない!』


『ディアイトも負けてません! 片腕でキニルルにしっかり攻撃を当てています!』


『どうなる!? どうなる!?』


『あ! ディアイトがキニルルを腰から折りました!』


『同時にキニルルもディアイトのもう片方の腕を切り落としてます。現在ディアイトは両腕を失った状態です。キニルルは上半身と下半身が分かれてますね』


『通常のゴーレムでしたら、この状態でもまだ攻撃手段はあります。ですが、ゴーレムコントローラーを使った操作の場合、もう攻撃はできません』


 カーヘルが攻撃不能のため、終了の合図を出した。


『両者とも攻撃ができなくなってしまったので、勝敗は耐久度による判定になるようです。今ある耐久度が多い方が勝ちです』


『ゴーレムの現在の見た目と耐久度は関係あります。ですが大きく壊れていても、耐久度自体は意外に減っていないこともあるので、勝敗はまだ分かりません』


『ルビーさん。それは五体満足で全体にヒビが入っている状態の方が、一撃で半分にされた時よりも耐久度は低い可能性があるということですか?』


『そうなります』


 カーヘルがディアイトとキニルルの耐久度を確認している。


 リリは目を輝かせて言った。


「すごい接戦だったね」


 代表達は深く頷いた。

 トレニアが目を離せない様子で言う。


「うー、なんか見てるこっちが緊張しますね!」


「リリ様が娯楽としてゴーレムを戦わせると仰られた時は、迫力にかけるのではないかと心配していたのですが、いやはや、これはつい熱が入りますな」


 代表達はプニプニの言葉に頷いている。


『結果が出たようです。カーヘル様、発表よろしくお願いします』


 リリは始まった、と中央を見る。


 カーヘルが観客席を見渡した。


『143ポイント差、僅差だが、キニルル、つまりルエールの勝利だ』


 観客席から歓声が響き渡った。


 デモクがルエールを指さして言う。


『悔しいが俺の負けだ。次は勝つからな』


 ルエールは少し困ったような顔をして笑った。


『足技があったら、この後動けないから足で攻撃されて負けてたよ』


 デモクはルエールの言葉に満足げに笑った。


『実戦じゃなくてよかったな』


 デモクは選手席から退場していく。

 ルエールもそれを見て退場していった。

 グラウンドの整備が行われ始める。


 リリは立ち上がって言う。


「じゃあ、エキシビションマッチがあるし準備に行こうか」

「はい、リリ様と戦えるなんて楽しみです」


 リリはいなもを不思議そうに見る。


「いなもって知らないの?」

「何をですか?」


「これから実況と解説で説明があると思うけど、私が使うゴーレムは特別性だから戦いにならないと思うよ」

「リリ様がそこまで言うならすごいゴーレムなんですね。でも、戦いにならないならリリ様と何を楽しむと言えばいいんでしょう?」


「え……鏖殺?」


 リリはこれから何をするのかを考えて言った様子だ。


 オウサツ? と、いなもとトレニアは首を傾げる。

 ニコニコとしたまま様子を見ていた残りの4人は、笑顔を引きつらせてリリを見た。

 プニプニと乙姫が言う。


「リリ様、何をするおつもりですかな?」

「少々聞き流せない単語があったように思います」


「まあまあ、試合ではゴーレムはゴーレムしか攻撃しないルールだから大丈夫だって」


 リリはネタバレする前にさっさと移動しようと扉の方に移動する。


 トレニアといなもの声がする。


「オウサツが何かは分からないけど、リリ様が大丈夫って言うなら大丈夫だよね!」

「そうですね。デモクさんとルエールさんにも教えてあげないといけませんし、意味は後でデモクさんに聞いてみましょう」


 リリは聞かれるデモクを想像してふふっと笑うと、VIP席にいる全員に手を振った。


「じゃあ、また後でねー」

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