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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第3章:オーレリア家編「値札のついた命」

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第75話 エリーゼへの開示

 翌日、俺はセラフィナと共に、エリーゼから指定された小屋に向かった。


 既にエリーゼは到着しているようだ。前と同じように、護衛が小屋の周囲を取り囲んでいる。


「王女殿下より伺っております。中へどうぞ」


     *


 小屋の中には、エリーゼが地味な装いで佇んでいた。


「お待ちしていました」


「回りくどい話はよそう。あんたは一体何を聞きたいんだ」


「そうですね。今回、あなたを助けたことへの対価として、聞かせてほしいことがあります」


「何だ」


「先日、天啓でオーレリア家があなたに飲み込まれる光景を見ました」


「そうだ、既にオーレリア家も俺の支配下になった」


「そのようですね。また、先頃はあなたに伝えた通り、グラナイトと思われる組織がセドリック家に飲み込まれる光景も見ました」


「何が言いたいんだ」


「私の天啓は、なぜあなたやその周辺を示すのか。ずっと気になっていました。あなたの本当の正体を教えてください」


「そうか。まあ予想していたことだ。ただ、今日ここで聞くことは口外できないように契約させてもらうが、それでいいか」


「構いません、ぜひ」


     *


「これから話すことは、あんたには俄かには信じ難い話だろう。だが、まずは最後まで聞いてほしい」


 俺は、以前セラフィナへ説明した通りのことをエリーゼへ伝えた。


 元は別の世界で生きていた、峰岸透亜という名前の人間であったこと。


 裏社会のトップとして大きな非合法組織を束ねて、悪行の限りを尽くした外道であったこと。


 四十二歳のときに、部下に撃たれて最期を迎えたこと。


 死後の世界、神のような存在と会ったことや、その会話内容。


 その存在から、この国の傾いた天秤を中立に戻す試練を与えられたこと。


 そして、俺が神から特殊な反射スキルをと十八歳の身体を与えられて、この世界に転生したこと。


 エリーゼはこの話の間、驚愕の表情を浮かべつつも、口を挟まず黙って聞き続けていた。


     *


「以上が俺の正体と真の目的だ。納得したか」


 その言葉に、エリーゼは静かに口を開いた。


「なるほど。あなたの話を聞いて、これでようやく全てが繋がりました」


「何のことだ」


「ご存じかもしれませんが、私の"天啓"と呼ばれる力は、ここ何代の王族にも発現していませんでした。正確な年数は分かりませんが、記録が残っているだけでも百年ほどは」


「それがどうした」


「天啓とは、神の啓示を受ける力と言われています。何代も途絶えていたそれが、私に急に発現したこと。それと、神の試練を受けたトーア、あなたが顕現したこと。これは無関係ではないと思うのです」


「顕現とは大げさだな」


「いいえ。あなたが神の使者であることは疑いようがありません。これまで私が受けた天啓の内容を考えれば、そうとしか思えません」


「仮にそうだとして、結局何が言いたいんだ」


「つまり神はこの国をお見捨てになっておらず、あなたへの試練という形で救済の道をお残しになった、ということです。その補佐をするために、私の代でこの天啓という力を再び授けられたのだと」


「都合の良い解釈だな」


「あなたはそう感じるかもしれません。しかし、神があなたを遣わしたこと、神が人にスキルを与えていることを聞くと、やはり無関係とは思えないのです」


     *


「いくつか教えて頂きたいことがあります」


「なんだ、言ってみろ」


「まず、神の試練とは具体的にどのようなものですか」


 ――俺はカルマ値のことをエリーゼへ説明した。


「もとは千から始まった。これをゼロにすることで、この国の天秤の均衡が中立に保たれるらしい」


「今はいくつなのですか」


 俺は頭の中で、カルマ値の数字を見た。


 580


 ファーレン家を支配下に置いた時点では780ほどだったか。


「580だ」


「もう半分ほどを達成しているのですね」


「そうだ。ここまでは順調だったが、ここから先はこうはいかないだろう」


     *


「もう一つ聞いてもいいですか」


 エリーゼがそう切り出した。


「神はなぜ、この国の均衡を「中立」にしたいのでしょうか。その意図まではお分かりですか」


「そこまでは俺にも分からない。ただセラフィナが学者として、一つの見立てを持ってる」


 俺はセラフィナに目を向けた。彼女は小さく頷いた。


「トーアから、神は「悪を管理・制御することで、不幸になる人を減らす」という目的を示唆されたと聞いています」


 セラフィナはこう続けた。


「私は政治や帝王学は詳しくありませんが、社会から悪が消えることで必ずしも人が皆、幸福になるとは限らないのでは、と考えます。悪がいることで発展するものもあるでしょう。司法、軍事、経済など、国の運営に関わる全てに当てはまるはずです」


「神のような上位者の視点では、善悪の均衡が国の発展のために重要と見ている。私はそう考えていますが、いかがですか」


     *


「なるほど。もう一つ伺いたいのですが」


 エリーゼが続けた。


「なぜ悪とされる手段を以て、均衡を保とうとしているのでしょうか。善とされる方法ではいけなかったのですか」


「これもセラフィナの見立てを、聞かせてやってくれ」


「秩序を乱してしまった者たちを、正義や慈悲だけで正すことは、恐らくできません。同じ理屈、同じ土俵に立てる者でなければ、その歪みを根本から断ち切ることはできないのだと思います。神はそうお考えになり、トーアを遣わしたのだと私は考えています」


「あとは、悪は潰したところで、また別の悪が出てくるだけだ。これは俺の前世の経験から断言してもいい。だから神は、今よりはまだましな悪に管理させることで、国の均衡を保たせようとでも思ってるんじゃないのか」


     *


「あなた方の考えは、納得がいきました」


 エリーゼはそう頷いた。それから少し間を置いて続けた。


「もう一つ伺いたいことが。転生してから二年弱ほどで、五大貴族家のうち三つを押さえられたと聞いています。なぜこれほど早く、進められたのですか」


「それは俺一人の力じゃない」


 俺はそう答えた。


「セラフィナとの出会いが大きい。エリーゼには話しても構わないか」


 セラフィナはそれに頷いた。


「私には"真如"というスキルがあります。あらゆるものの構造を知覚できる力です。契約書の矛盾を見抜いたり、上書きできたり。また、薬物の成分を把握することもできます。それを使って彼を支えてきました」


「俺は前世では闇金融、麻薬密売、人身売買、闇市場といった裏稼業の組織作りや運営は散々やってきたことだ。その経験とセラフィナの能力が上手く嚙み合ったことが大きい」


「なるほど。あなた方二人の組み合わせが、この速さを生んだのですね」


 エリーゼはそう納得したように頷いた。


     *


「もう一つ最後に聞かせてください。あなたの秘密を知っているのは、他に誰がいますか」


「セラフィナだけだ。今日あんたで、二人目になる」


 その答えにエリーゼは、少し表情を引き締めた。


「これからは私にもその役割があるということですね。あなたの秘密を守り支える。その責任を負う覚悟が必要だと」


「重く受け止める必要はない。あんたができることをやってくれれば、それでいい」


「いいえ。私は天啓を授かった王族として、この国を変える責任があります」


 エリーゼは決意の表情を浮かべて、こう言った。


「今までは私は国を憂いるのみで、王族であるにも関わらず何もできませんでした。しかしあなたは一人で遣わされたにも関わらず、これだけのことを成し得ています」


「たまたまだ、気にするな」


「いえ、私の役割はあなたの試練を王族の立場から支え、この国を良い方向へ導くことだと思っています。それが私にできる、唯一の貢献だと思います」


     *


「俺からあんたに一つ聞きたい」


 俺はエリーゼにそう尋ねる。


「何でしょうか」


「今の話を聞いてあんたはどう思った。あんたから見れば、俺はただの罪人だ。そんな奴がこんな大それたことを言って、本当に信じられるのか」


 エリーゼは少し間を置いた後、こう言った。


「あなたは前世でどれほどの罪を重ねたのかは正直なところ分かりません。おそらく、私には聞くに堪えないことも多いのでしょう」


「だろうな」


「しかし神はこの国だけではなく、あなたもお見捨てにならなかったことになるのではないでしょうか。贖罪の試練を課された神の使徒、私にはあなたはそう映ります」


「また都合の良い解釈だな」


「いいえ。そのあなたは既にいくつもの成果を挙げており、実際に国が良い方向へ動き始めている。神の試練を抜きにしても、それが何よりも信頼に値する根拠です」


 この女は、王女という立場なりに今まで何もできない自分に悩んでいたことは伺える。そこへ俺という劇物が現れたことで、国を変える実感を得ているのかもしれないな。


 それなら、これからはこの女を権力側の駒として利用するだけだ。


     *


「次はどのように動くつもりですか」


 セラフィナがそう尋ねてきた。


「ここまでの三家は、俺の過去の経験が活かせる相手だった。だが、国の司法、軍事を俺は相手にした経験はない。だから俺の考えが正しいかは分からないが……」


「これまでとは違う種類の相手ですが、方針はあるのですね」


「ああ。次はアーヴィング家を叩くつもりだ」


「一応、その理由を教えて頂けますか」


「エリーゼからの情報だと、セドリック家とアーヴィング家が繋がっている可能性がある。今回のオズワルドの件は捕吏数人程度だったが、今後もし奴らが何らかの確証を得たら、有無を言わさず軍で攻めてくる可能性も否定できない」


「だから先に、軍事を司るアーヴィング家を押さえるんですね」


「そうだ。だが正直なところ、どう攻めるかの方針は全く決まってない」


「今までのように、うまくいくとは限らないと」


「そうだ。だからこそエリーゼ、あんたの協力がこれまで以上に必要になる」


 エリーゼはその言葉にしっかりと頷いた。


「分かりました。私にできることは全てやらせていただきます」


     *


 小屋を後にしながら、俺は内心思った。この王女に全てを明かしたことで、失うものより得られるものの方が恐らく多い。前世では有り得なかった、国のトップに近い者との繋がりが得られたことは、今この世界では確かな力になるはずだ。


 次に崩すべき相手は既に見えている。アーヴィング家。これまでとはまるで質の違う戦いになるだろう。

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