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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第3章:オーレリア家編「値札のついた命」

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第69話 切り替え

 波影を押さえた翌日。オーレリア家を攻める最後の準備として、花翳、石棺、揺籠。三つの施設の契約を切り替える段階に入った。


 サガンには既に、この一連の作業について詳しく伝えてあった。何か不測の事態が起きた場合は、波影の人間に対応させる手筈も整えていた。


「まずは花翳からだ」


 俺はセラフィナと共に、あの屋敷へ向かった。


     *


「媼、約束通り来た」


 俺はそう告げた。


「本当に、私たちは解放されるのですね」


 媼はそう言って、深く頭を下げた。


     *


「セラフィナ、頼む」


 セラフィナが真如を使い始めた。媼の既存の契約を丁寧に分析していく。


「オーレリア家との契約構造は把握しました。この上に、グラナイトを上位とする新たな契約を結ぶことができます」


「これで、オーレリア家はこの施設に対して、実質的な権限を失うことになる」


 俺はそう説明した。


「表向きの名義は、まだそのままですか」


「ああ。急に看板を変えれば怪しまれる。まずはオーレリア家の権限を失わせるところからだ」


 媼はその説明に、静かに頷いた。セラフィナが新たな契約紋を刻んでいく。作業は思いのほか速やかに終わった。


「これで花翳は、実質的にグラナイトの管理下に入りました」


 セラフィナがそう報告した。


「あとは被害者たちの解放だけだ。それにはロレンツォから契約解除を分捕らなければいけない。その決着がついてから進めるから、少し待ってくれ」


 媼はその言葉に、安堵したような表情を見せた。


「長い時間でした。それでも、こうして確かな一歩が見えてくると、これまでの日々にも意味があったと思えます」


「まだ終わってない。焦らず待っていてくれ」


 俺はそう言い残し、花翳を後にした。


     *


 次に俺たちは、ゴドウィンの元へ向かった。事前に石棺から、この街まで呼び寄せていた。


「わざわざ来てもらって、悪いな」


「別に構わねえよ。それで話ってのは」


「新しい契約を結んでもらう。グラナイトとの契約だ」


     *


「待遇は変わるのか」


「ああ。今よりまともになる。ノルマも見直す」


 ゴドウィンはその説明に、少し考えた。


「悪くない話だな。契約書は」


「ここにある」


 俺は事前に用意していた書類を差し出した。ゴドウィンはそれをじっくり確認しだした。


「要約すると、運営者はグラナイトへ変更、ノルマは無し、強制労働させるのは犯罪者奴隷のみ、一般の就業者受け入れのための施設の改善を考えて提出する、給金は今と同じ、か。俺はもちろん構わねえが、本当にこれでいいのか」


「不満があるなら他の奴に任せるが」


「馬鹿言え、不満なんかある訳ないだろう」


 ゴドウィンはためらいなく契約書に署名した。


「署名を確認した。まずは書類の条項に従って、新運営への移行を進めてくれ。近日中にグラナイトの担当者を派遣する」


「移行もなにも、今より規模が縮小されるだけだ。すぐ終わるぞ」


     *


「これで、石棺も片付いた」


 俺はそう確認した。


「あとは揺籠だけです」


 セラフィナがそう続けた。


     *


 セラフィナと共に馬車で向かい、揺籠へ到着した。


「これからやることはセラフィナ、あんたが見てあまり気分の良い事ではないだろう。終わるまでここで待っていてもらえないか」


「いえ、構いません。私も同行します」


 マグダだけは始末するつもりで来た。それはセラフィナにも伝えている。


 彼女にはこれまで直接現(・)場(・)を見せたことは無かったが、彼女にも彼女なりの覚悟があるのか。反対する理由も無いため、俺はセラフィナを伴って施設へ足を踏み入れた。


     *


 マグダは前回のように、白衣姿で俺たちを迎えた。


「また、いらしたのですね」


「今日で最後だ」


 その一言にマグダは、僅かに眉を動かした。


「あんたのオーレリア家との契約を、俺に譲渡してもらう」


 俺はそう告げた。


「拒否したら、どうなるのですか」


「拒否はできない。あんたには選択肢がない」


 そう言うと同時に、俺はマグダの腹を爪先で蹴り上げた。


「ぐっ、な……なにを……」


 苦悶して地面へ崩れ落ちるマグダに、俺はさらに数回、蹴りをお見舞いする。


「や、やめ……! なんで……!」


「なんで、か。それはそこにいるフェアリー達に聞くんだな」


     *


 痛めつけて抵抗できないマグダへセラフィナが真如を使い、オーレリア家との契約構造を素早く書き換えていった。


「これで契約上、あんたの立場は、俺の下に置かれた」


「……それで私を、どうするおつもりですか」


「お前の思想は危険すぎる。生かしておく価値はない」


 俺は彼女の髪を掴んで、ある揺籠へ向かって歩き出した。


 おそらくエルフや人間用のものだろう、一際大きな揺籠がいくつか並んでいる区画がある。


 俺の意図を察したのか、マグダは激しく暴れ出したが、何度も踏みつけて抵抗力を奪う。


「いや……! ぐ……やめ……!」


 その中の一つに、マグダを入れて蓋を閉じる。


「確か、魔力の可視化の研究が、お前の生涯の研究テーマだったな。生涯最期に、自分の魔力を可視化する様子を見ておくといい」


「こんなことをして、オーレリア家が黙っていません……! 今なら見逃してあげます」


 この期に及んで無意味なことを言うマグダを無視して、セラフィナへ尋ねる。


「この装置の起動はどうすればいいか、真如で分かるか」


「お待ち下さい……このボタンで起動、ここで出力の調整ができるようです」


 そう言うなり、セラフィナは自身の手でボタンを押し、最大出力へ調整した。


「あああ……! やめて……!」


 繋がっている結晶状の装置が、青く光り出した。これが魔力を抽出している様子であることは前に見たから分かる。


「……セラフィナ、よかったのか」


 セラフィナは悲鳴を上げるマグダの様子を見ながら、何も答えなかった。 


     *


 数分経った頃にマグダの悲鳴が止んだ。


「おそらく彼女はもう亡くなりました」


 力のない声で、セラフィナがそう言った。


     *


 檻の中のフェアリーたちを俺は、改めて見渡した。ミィという、あの小さな声のフェアリーも、こちらをじっと見つめていた。


「もう少しだけ待っててくれ。近いうちに解放してやる」


 俺はそう小さく、声をかけた。


「グラナイトの人間を、暫定の所長として置いてくれ」


 俺はセラフィナに、そう指示した。


「手配します」


     *


 自分で人を処(・)理(・)するのは初めてだったはずだ。まだ動揺しているのか、帰り道の馬車の中で、僅かに青い顔をしたセラフィナへ尋ねた。


「セラフィナ、なぜあんたが直接やったんだ」


 しばらくの間を置いた後、か細い声でセラフィナがこう答えた。


「正直なところ、うまく言語化できません。ただ……」


「ただ、何だ」


「……トーア、あなたが自分の手を汚して事を成し遂げようとしている中で、その片棒を担いでいる私だけが安全な場所で綺麗なまま、というのは、対等ではないと思います」


「対等かどうかという話なら、あんたにしかできない仕事をいくつも任せている。それは対等とは違うのか」


「……人を殺めることがどんな感情なのか、これからもあなたの支援をする中で、知っておくべきだと」


「俺が言うのもおかしいが、人を殺すということは、そんな単純なことではない」


「分かっています」


「これから罪悪感で押しつぶされることもあるかもしれない。夜眠るときに、殺した相手の顔が急に思い浮かぶこともあるかもしれない」


「分かってる……!」


 セラフィナにしては珍しく声を荒げた。


 彼女なりの思いがあるのだろう。俺のような人殺しに慣れた外道がこれ以上、説教じみたことを言っても仕方ない。


「そうか。もう何も言わないが、罪の意識で苦しむようなら言ってくれ。間違っても薬に逃げるなよ」


 彼女は静かに頷いた。


     *


 最後に思わぬ波乱があったものの、花翳、石棺、揺籠、三つの施設。全ての実質的な支配権を俺は確実に掌握した。これで、オーレリア家の裏稼業は全て機能しなくなった。


 密輸、人身売買、闇市場。この街の経済の裏側を支えていた仕組みが、今、俺の手の中に収まっている。前世でも、これほどの規模の裏稼業を一気に乗っ取った経験はなかった。


「これでいよいよ、ロレンツォ本人との対峙だけだ」


 俺はそう頭の中で整理した。オーレリア家はまだ何も気づいていないはずだ。だが、気づかれることももう時間の問題だ。そうなる前に一気に決着をつける、その最後の一手が目前に迫っていた。

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