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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第3章:オーレリア家編「値札のついた命」

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第67話 駒にならない男

 翌日、俺はガロとルーシャを連れ、波影の本拠地へと向かった。


 波影の詰め所は港に近い、倉庫街の一角にあった。周囲には他の商店の倉庫も立ち並んでおり、一見しただけではただの物流拠点にしか見えない。表向きの商船護衛という仕事も、あながち嘘ではないのだろう。


「随分と地味な、拠点だな」


 ガロが歩きながら、そう呟いた。


「目立たない方が都合がいいんだろう。密輸を扱ってる組織なら尚更だ」


「私はこういうじめじめした場所はあまり好きじゃない」


 ルーシャがそう僅かに、顔をしかめた。


「今日はあんたの出番は少ないはずだ。我慢してくれ」


「分かってる。でも次は私にもちゃんと暴れさせてよね」


「あんたはいつもそればっかりだな」


「私、トーアに勝つために身体を鍛え続けてるの。暴れる機会がないと困る」


 その軽口にガロが小さく笑った。


「ドレットは俺が直接、始末する」


 俺は二人にそう告げた。


「あんたはそれでいい。俺は他の連中を抑えておく」


 ガロがそう答えた。


「私は」


 ルーシャがそう尋ねてきた。


「万が一波影の取り込みに失敗した場合、あんたの出番だ。それまでは周囲を見張っていてくれ」


「分かった」


     *


 詰め所に足を踏み入れると、複数の男たちがこちらに視線を向けた。ガロがすぐさま、その場の空気を制するように前に出た。


「サガンに話がある。抵抗するな」


 その一言と、ガロの隊長格としての威圧感に、男たちは僅かにたじろいだ。


「ドレットはどこにいる」


 俺はその場の一人に、そう尋ねた。


「表の路地にいる、はずだ……」


 俺はその情報を頼りに、詰め所を出た。ガロとルーシャはその場に残り、他の男たちを抑える役割に徹していた。


     *


 路地に出て奥に行くと、恰幅の良い大柄な男が目に入った。この男が若い男を痛めつけている最中だった。


「てめえ、分かってんだろうな」


 この男はそう言って、若い男の胸ぐらを掴み上げていた。


「す、すみません……」


「謝って済むと思ってんのか」


 ドレットの手のひらに、僅かな圧のようなものが発生した。若い男はたちまち身体を硬直させた。恐怖に竦み上がっているのが遠目にも分かった。


「動けねえだろ。それが俺の"威圧"だ」


 威圧を使っているということは、この恰幅の良い男がドレットで間違いだろう。


 ドレットはそう言って笑った。それから無抵抗の男を拳で、何度も殴りつけ始めた。


「ぐっ、サガンさんがいない時を狙って威張りやがって」


「サガンがいると止められるからな、抵抗できるならやってみろ」


 ドレットはそう言いながら、さらに激しく若い男を痛めつけていた。


 俺はその様子を、少し離れた場所から観察していた。ガロから聞いていた通りの、いやそれ以上の残虐さだった。


 ガロや噂でしかドレットの人間性を聞いていなかったが、この様子を見る限り、間違って無さそうだ。排除することに何の遠慮もいらない。


     *


 しばらくしてドレットは、満足した様子で若い男をその場に放置した。


 俺はその若い男に一瞥をくれた。かなり痛めつけられて気を失っているが、見たところ命に別状はないだろう。意識が無いのは逆に都合がいい。


 俺はそのタイミングを見計らってドレットに声をかけた。


「お前がドレットか」


「誰だ、お前」


「お前を始末しに来た男だ」


 ドレットはその言葉に、僅かに目を細めた。それから下品な笑みを浮かべた。


「面白いこと言うな。俺の威圧を見たことねえのか」


 ドレットはそう言って、俺に向かってその手をかざした。


 だがその瞬間、ドレット自身の身体が硬直し、表情は恐怖に歪みだした。


 おそらく俺のスキルが、ドレットのスキルを反射したのだろう。


「……なんで」


「恐怖なら今までいくらでも味わってきた。今更その程度で竦むほど柔じゃない」


 俺はそう言って距離を詰めた。


     *


 ドレットは恐怖に打ち震えながらも、慌てて剣を抜いて振るってきた。だが、この一撃はそのままこの男自身に返る。


 ドレットは自らの剣で、自らを斬ることになった。


 痛みと出血で膝から崩れ落ちる。


「な、なんだこれは……」


「お前のような人間を、俺は何人も見てきた。暴力を振るうことでしか、自分の価値を確かめられない人間。そういう連中は大抵、同じ末路を辿る」


 俺はそう言って、倒れたドレットを見下ろした。こういう暴力そのものが目的化した人間に、これ以上の慈悲は必要ないだろう。


「お前は生かしておく価値がない。ここで終わりだ」


「ま、待て……金なら、いくらでも払う。見逃してくれ……」


 ドレットは震える声でそう縋りついてきた。先程までの暴力的な態度は、既に跡形もなく消えていた。


「お前があの若い男に見せた態度と同じだな」


 俺はそう冷たく、返した。


「命乞いをする資格は、お前にはない」


 俺はドレットの剣を拾い、その剣で頸動脈を斬りつけた。大量に血が噴き出す。もうどうやっても助からない、これで終わりだ。


     *


 ドレットの死体は、路地にあった資材で雑に隠しておいた。人通りの少ない路地の奥だ。二、三日見つからなければそれでいい。


 始末を終えた俺は詰め所へと戻った。ガロとルーシャが既に、他の男たちを大人しく座らせていた。


「終わったのか」


 ガロがそう尋ねてきた。


「ああ。あとはサガン本人との交渉だけだ」


「そうか。サガンは今日は外回りで居ないそうだ。明日はここに来るらしい」


「分かった。では明日また来るとするか」


「私の出番は」


 ルーシャが少し残念そうに、そう尋ねた。


「今回はなかったな」


「つまらない」


 ルーシャはそう言って、小さく肩をすくめた。それでも、その表情には以前のような緊張感はなく、どこか気の抜けた軽さがあった。


     *


 明日、サガンと直接向き合うことになる。ドレットとは違い、話の通じるであろう相手だ。恐怖ではなく義理と実利を正確に突く必要がある。


 ルーシャとガロ、二人の協力があったからこそ、今日この場を混乱なく収めることができたはずだ。サガンもこの二人のような協力者にできるか。頭の中で明日の段取りを、もう一度丁寧に、組み立て直した。

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