第66話 三つの施設を経て
花翳、石棺、揺籠。三つの施設をこの目で確かめた後、俺はセラフィナに、その全てを報告した。
「それぞれ随分と、違う性質の施設だったようですね」
「ああ。花翳の媼は協力的だった。石棺のゴドウィンは無関心なだけの実務者。揺籠のマグダは」
「マグダは、どうでしたか」
「危険だ。あの女は思想そのものが腐ってる」
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「今後の方針は」
セラフィナがそう尋ねてきた。
「花翳は媼の協力を得て、そのまま内部から切り替える。石棺もゴドウィンをそのまま使う。給金さえまともに払えば従うと言っていた」
「揺籠は」
「マグダは排除する。あの女を生かしたまま、施設を引き継ぐことはできない」
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「被害者たちの救済は、どうしますか」
「ロレンツォから奴隷たちの契約解除を明記させないことには、どうしようもない。だから、オーレリア家と決着したらまとめて進める。花翳のエルフたち、石棺のドワーフたち、揺籠のフェアリーたち。全員を解放する」
「かなりの人数になります」
「構わない。この街の多種族に恩を売って信頼を得ておきたい。そのためにはそれくらいの規模が必要だ」
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この一件を通じて、俺はこれまでとは少し違う種類の手応えを感じていた。人間だけでなく、エルフ、ドワーフ、フェアリー。様々な種族を救済することで、この街全体における俺という存在の認知が大きく変わっていくはずだった。
当然だが前世では、こうして複数の種族の運命を同時に左右するような立場に立ったことはなかった。人間だけを相手にしていた頃とはまた違う重みがあった。
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「あとは波影と、オーレリア家本体だ」
俺は頭の中で、これまでの情報を整理した。
サガン・ドレイクという義理堅い頭。ドレットという暴力狂。そしてロレンツォという冷徹な当主。この三者への対応も、既に大体の方針は固まっている。
「全体の段取りも詰めておく」
俺はそう続けた。
「まず波影を完全に押さえる。それが済めば、他の施設で何が起きても、オーレリア家に報告が上がらないようにしておける」
「波影が情報の流れを握ってるということですね」
「そうだ。だから波影を最初に片付ける」
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「波影は、どう片付けるのですか」
「まずはドレットを始末する。サガンとの交渉の材料にする」
「ドレットを始末することが、サガンを動かす材料になるのですか」
この理由を、セラフィナへはこう説明した。
まず、これまでの情報からサガンは部下への義理を重んじる男であり、ドレットのような無軌道な暴力狂を内心快く思っていない可能性が高い。その男を俺が代わりに始末してやれば、サガンにとっても悪い話ではないと踏んでいること。
また、もしそう思っていなかったとしても、俺にドレットを始末できるほどの力があることの証明になり、脅しにもなること。
「あとは、こういう人間は俺達の駒にはなり得ないが、かと言って生かしておくと他の貴族家に余計な動きを取りかねない。リスクは最初に排除しておかなければいけない。それが最も大きな理由だ」
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「波影が片付いた後は」
「次に花翳。媼には一旦、オーレリア家よりグラナイトが上位となる契約をしてもらい、花翳がオーレリア家にとって機能しない状態にする」
「石棺は」
「ゴドウィンを呼び寄せて、新たな契約を結ばせる。こちらも花翳と同じく、グラナイトとの契約にする」
「揺籠は、マグダがいます」
「マグダは始末する。その後は一旦、グラナイトの人間を所長として置く」
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「これだけの規模の切り替えを、一気に進めるのですか」
セラフィナがそう、尋ねてきた。
「ああ。相手は商業と流通を、司る家だ。報告が途絶えれば、すぐに怪しまれる」
「具体的にはどう進めるつもりですか」
俺はセラフィナに、計画の詳細を説明した。
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まずは石棺のゴドウィンをこの街まで呼び寄せるところから開始する。これはグラナイトの人間にやってもらう。
ゴドウィンが到着次第、ゴドウィンにはグラナイトとの新たな契約を。
媼には、グラナイトがオーレリア家との契約より上位となるように新たな契約を結んでもらう。これはセラフィナの真如でうまく契約の構造を見抜いてやってもらう。
また、その足で俺とセラフィナが揺籠へ向かい、マグダのオーレリア家との契約を一旦俺に譲渡、あるいは俺が上位にする形にさせて、そのまま始末する。
「波影に二日。三つの施設に、もう一日。合わせて三日間で片付ける」
俺はそう続けた。
「その翌日にはオーレリア家に、直接乗り込む。ロレンツォに、オーレリア家の裏の商売が全て機能しなくなったことを突きつける」
「ロレンツォの反応を見るんですね」
「大人しく従い、契約に応じるならそれでいい。反抗するなら、力ずくで契約させる。俺がこれまでやってきたのと同じことだ」
「分かりました。私も準備しておきます」
「明日、波影の本拠地に乗り込むことにするが、ガロとルーシャにも協力してもらう。万が一サガンの取り込みに失敗しても、あの二人がいれば波影の無力化も問題ないだろう」
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この街の裏稼業を完全に、俺の手の中に収める。その最終段階が着実に進んでいた。花翳、石棺、揺籠。三つの施設の実態を掴んだ今、残るは波影という暴力装置、そしてその先にいるロレンツォという当主だけだった。
オーレリア家という、この国の商業を支配する一族。その支配の終わりへ向けて動いていた。




