第57話 燃えかすの正体
シンダーズについて詳しく調べる必要があった。俺はゴブに改めて話を聞くことにした。
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「シンダーズについて詳しく知りたい」
俺は賭博場の一角で、そう切り出した。
「結成されて、どれくらいになる」
「五年ってとこか。俺がこの街に来た頃には、既にあった気がするな」
「構成人数は」
「はっきりとは知らねえが、二十人前後って噂だ。増えたり減ったりを繰り返してるらしい」
「どういう連中が集まってる」
「大体が若い連中だ。貴族に見出されなかった奴や、まっとうな仕事からはぐれた連中が多いって話だな」
「頭は」
「そこまでは知らねえ。ただ頭も若いって噂だ。二十代前半くらいらしい」
「名前は」
「確か、ジンとかいう名前だったか。詳しいことは俺も知らねえよ」
その情報に俺は、頭の中で輪郭を組み立てていった。
「本拠地は、どこにある」
「本拠地は転々としてるが、今は街から離れたところにある廃墟を、根城にしてるらしい。俺も賭博場をやってる関係で、こういう話は自然と耳に入ってくる」
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「他に何か知ってることは」
「暴力沙汰が多い。それと金の使い方が荒い。稼いだ端から酒と女、賭け事に注ぎ込んでるって話だ。長続きする組織にはあまり見えねえな」
「仲間割れなんかは起きてないのか」
「聞いた話じゃしょっちゅうらしい。金の取り分で揉めてジンや幹部に消されたり、何人か逃げたり、逆に新しく入ったり。出入りの激しい連中だ」
その評価は俺の想像と大きくは、違わなかった。組織立った統率より、その場限りの享楽を優先する集団。前世でもこういう連中を、何度も見てきた。目先の欲を満たすことだけが目的で、長期的な忠誠や組織としての結束を、まるで考えない。そういう集団はどれだけ人数を増やしても、いずれ内側から瓦解する運命にある。
「頼む。もう一つ聞きたい」
俺は続けた。
「話が通じる相手だと思うか」
「無理だろうな。あいつら金と暴力にしか興味がねえ。義理も筋も通じる相手じゃねえよ」
その答えに俺は内心、確信を深めた。
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セラフィナの家に戻り、俺は集めた情報を整理して伝えた。
「結成五年ほど。構成員二十人前後。頭は若く、力で仲間を従わせて、金のことで仲間割れもしょっちゅうらしい。話し合いの通じる相手には思えない」
「どう判断しますか」
セラフィナがそう尋ねてきた。
「取り込むのは無理だ」
俺はそう言い切った。
「前世でも、こういう連中を何度も見てきた。組織の型を持たず、目先の利益だけで群れてる連中は、大抵長くは使えない。恩を売っても恐怖で縛っても、その場限りの従順さしか示さない。ガロやカインのような駒にはなり得ない」
「両者の違いは、どこにあると思いますか」
「ガロやカインには守りたいものがあった。家族や仲間だ。だからこそ、こちらの要求を飲む理由があった。守るものがない人間には、そもそも脅しも恩も効きにくい」
「それでも放置はできないと」
「ああ。この街の裏稼業を確実に俺の管理下に置くには、この連中を野放しにはできない。それに」
「それに、というのは」
「グラナイトも、まだこちらにはっきりとした反応を見せてない。ある程度目に見える形で、力を示しておく必要がある」
「見せしめ、ということですか」
「そうだ。シンダーズを徹底的に潰して、見せしめにする。それを見てグラナイトがどう動くか。向こうの出方も、それで見えてくるはずだ」
「もし、グラナイトもシンダーズと同じような、無秩序な集団だったら」
「その時は同じ結末になるだけだ。だが、あんたの話を聞く限り、グラナイトはもう少し話の通じる相手のようだ。まずは様子を見る」
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セラフィナはその説明に、しばらく考え込んでいた。
「一つ確認させてください。この決断は、あなたの前世の経験に基づくものですか」
「ああ。組織に取り込めない連中は、どう扱っても無駄だ。それなら早めに片をつけた方がいい」
その答えにセラフィナは、小さく頷いた。
「彼らも、居場所がなくて集まっただけなのかもしれません」
セラフィナがそう、呟いた。
「勘違いするな。きっかけは関係ない。この世界に足を踏み入れた時点で、そいつの人生は遅かれ早かれもう終わってる。俺だってそうだった」
その言葉にセラフィナは、少し驚いたような顔をした。
「俺たちのような人種の末路は大抵決まっている。警察、この世界で言えば衛兵とか治安隊か。捕まって牢屋に入れられるか、大きな組織に飲み込まれて死ぬまで使い潰されるか、敵の組織かあるいは味方に殺されて終わるかだ」
俺はさらに言葉を続けた。
「そのときの居場所がより力が強く、賢い方が長く生き残れる、それだけの話だ」
俺のこの言葉に、セラフィナは静かに頷き、こう言った。
「……確かに、そうかもしれません。私も、あの一族の負債から逃れられなかったら、同じ道を辿っていたのでしょう」
「そのとき、あんたの力を借りた俺がグラハム家を上回っただけだ。こいつらがいつ俺を上回るか分からない。生き残るために、潰せるうちに潰す」
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「オーレリア家に手をつける前に、この件を片付けておく」
俺はそう決めた。
「シンダーズの本拠地を直接攻めるのですか」
「そのつもりだ。一気に片付けてしまう」
「戦力はどうしますか。ガロさんとカインさんに頼みますか」
「いや、カインにはできるだけ冒険者ギルドの仕事を優先してもらいたい。今回はルーシャに手伝ってもらう」
その提案にセラフィナは、少し意外そうな顔をした。
「ルーシャさんを、ですか」
「二十人前後の相手だ。数を捌くにはあの女の力がちょうどいい。本人も身体を動かしたがってた」
「確かに、最近は随分と元気を取り戻しているようです」
「それに、俺はあの女とやり合ったときは逃げ回っただけだ。ハッキリとあの女の力を見ていない。ある程度の人数との対人戦でどこまでやれるかを見ておきたい」
「彼女ほどの人なら大丈夫だと思いますが、まだ薬が抜けたばかりですし」
「仮にも現人神と呼ばれる女だ。薬なんかなくても負けることはないだろう。いざとなればガロも俺もいるしな」
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この街の裏稼業を完全に俺の手の中に収める。そのための最後の障害が、この二つの勢力だった。片方は力で潰す。もう片方は取り込む。その方針は既に固まっていた。
シンダーズという名の通り、燃えかすのように意味もなく燃え広がるだけの連中に、この街を荒らされ続けるつもりはなかった。この街に来てこれまで、何度も似たような決断を下してきた。使えるものは取り込み、使えないものは確実に取り除く。その繰り返しが、今の地盤を築いてきた。今回も、同じことをするだけだった。次に動くべき時が来ていた。




