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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第3章:オーレリア家編「値札のついた命」

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第55話 積年

 オーレリア家を次の標的に定めてから、既に一年近くが過ぎていた。


 この一年、俺は決して遠回りをしていたわけではない。むしろこれまでで、最も慎重に時間を使った一年だったと言える。


 グラハム家、ファーレン家。二つの地盤をより確実なものにする作業に、多くの時間を費やしてきた。焦って次の標的に手を出し足元をすくわれる愚行を犯すつもりはなかった。


 振り返れば、この世界に転生してから、通算で一年半ほどの月日が流れたことになる。グラハム家との対峙と地盤固めに数ヶ月。ファーレン家との対峙と地盤固め、祭祀を経てエリーゼとの関係を築き始めるまでに、さらに数ヶ月。そしてこの一年。焦らず一つ一つ、積み上げてきた結果が今の状況だった。


     *


 鏡に映る自分の姿を、俺はふと見つめた。


 この身体は二十歳に近づいていた。転生した当初十八だったこの若い肉体も、一年半分確実に歳を重ねている。それでも前世の四十二歳という年齢に比べれば、まだ驚くほど若い。この事実にいまだに、慣れない部分があった。


 前世では三十をいくらか過ぎた頃から、身体の衰えをはっきりと自覚していた。無理の利かない関節。回復の遅い傷。それが今は全く感じられない。一年半という時間をこうして、身体的な負担なく動き続けられることの意味を、俺は改めて実感していた。


 組織の頭に立っていた頃は、部下に矢面を任せることが当たり前になっていた。自らの手を汚す機会は年々減っていった。それが今は、真逆だ。この街に来てからというもの、自分の身一つで幾度か修羅場を潜ってきた。それでもこの身体は、まだ疲れを知らないかのように動き続けてくれる。


     *


 この一年で、グラハム家の地盤は完全に俺たちの手の中に収まっていた。


 台帳に記録されていた被害者たちは、その大半が既に救済を終えている。バルドという傀儡も、今では余計な反抗心を見せなくなっていた。表向きの当主として、粛々と日々の政務をこなす。それが、今のあの男の全てだった。


 ファーレン家も同様だった。イグナーツは完全に従順な駒と化し、麻薬市場は俺たちの管理下で安定した運営を続けている。


     *


「随分と板についてきましたね」


 セラフィナがそう言って、俺を見た。


「何がだ」


「この街での、あなたの立ち振る舞いです。転生してすぐの頃とは随分と違います」


「そうなのか。だが、あんたも随分と変わったように見えるが」


 俺はそう言い返した。


「そうでしょうか」


「以前はもっと遠慮がちだった。今は思ったことを、はっきり言うようになってる」


 その指摘にセラフィナは少し驚いたような表情を見せた。それから静かに微笑んだ。


「あなたの影響かもしれませんね。私も変わらないと、この変化についていけませんから」


 セラフィナのこの言葉に俺は少し考えた。


 この街もそうだが、俺自身も確かにこの一年で多くのことが変わった。この世界の常識、貴族社会の力学、そして、この身体そのものの扱い方。全てが以前より遥かに、馴染んでいる。


     *


 ルーシャの療養も着実に進んでいた。深紅の依存から、ほぼ抜け出しつつある。冒険者ギルドでの彼女の新しい役割も、少しずつ軌道に乗り始めていた。


「次にあなたと戦うときは、もう経験不足なんて言わせないから」


 セラフィナの家で療養を続けているときに仲良くなったらしく、頻繁にセラフィナの家に来ている。俺に対してもこんな軽口を叩いてくるようになっていた。


「勘弁してくれ。俺はもうあんたとはやり合いたくない」


「ダメ。いつか必ず再戦を挑むつもりだから。経験を積んで、あなたの意味の分からない力を突破してみせる」


 もともとは明るい性格の人間なんだろう。現人神としての体裁が必要のない場だと、気の置けない話し方になる。


 ちなみにルーシャには、俺がやっていることをある程度話してある。前世のことや神の試練だとかは伝えていないが、五大貴族家を抑えようとしていることは伝えている。普通に考えるとかなり危険なことだと理解できるはずだが、今のところは協力的だ。信頼されているのであれば良いことだ。俺の駒として動いてもらうことも何度となくあるはず。


     *


「エリーゼとの、その後の関係は」


 俺はセラフィナに、そう尋ねた。


「あの通信用の魔道具を通じて、時折情報のやり取りをしています。貴族院の内情、王家の動き。少しずつですが、有用な情報が集まり始めています」


「あんたの見立てでは、信用できるか」


「これまでのところ、渡された情報に嘘は見つかっていません」


 その報告に俺は頷いた。表舞台の情報網。この一年で確かに育ち始めている。


「ガロとカインの様子は」


「ガロさんは相変わらず、紋官隊の内部で目立たないよう立ち回っています。カインさんは巡花の再編を、ほぼ終えたようです」


「あちらも順調ということか」


「はい。この一年で、あなたの下に集まった人材は確実に増えています」


 その報告に俺は内心、満足した。恐怖と利害で繋いだ駒たちが、それぞれの持ち場で着実に役割を果たし続けている。


     *


「そろそろ、オーレリア家に動くべき頃合いだ」


 俺はそう切り出した。


「これまでの地盤固めは、十分だと」


「ああ。これ以上時間をかけても、得られるものは少なくなっていく。むしろ動きが遅れれば、他の家に警戒される可能性が高まる」


 セラフィナはその言葉に頷いた。


「では、いよいよ次の戦いですね」


「そうだ」


     *


 この一年を振り返れば、確実な積み重ねがあった。カルマ値も着実に動いている。それでも、まだ道のりの半分にも届いていない。


 あの日、宿の粗末な寝床で初めて自分の状況を理解した時のことを、俺は時折思い出す。右も左も分からない、ただの若者としてこの世界に放り出された。あれから一年半、この街の裏側を確実に手中に収めてきた。焦りはない。それでも、この歩みを緩めるつもりもなかった。


 二十歳の若いこの身体。前世の記憶と経験。そして少しずつ育ち始めた駒たちとの関係。全てを使い切って、次の相手に挑む時が来ていた。


 オーレリア家。商業を司り、裏では密輸と人身売買、そして闇市場を動かす一族。その正体をこれから暴いていくことになる。

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