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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第1章:グラハム家編「鎖を売る家」

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第24話 潜入

 ガロからもう一度、詳しい情報を聞き出す必要があった。俺は同じ裏路地で彼を待った。


「まだ来るのか」


「タンネルの件だ。今夜中に動く」


 ガロはその言葉に僅かに表情を変えた。


「本気か。無謀すぎる」


「無謀でも時間がない。あんたの知ってることを全部話してくれ」


「なんで、そこまでする。あの男とお前は、そもそも会ったこともねえだろ」


「理由は今は話さない。ただこの街の連中を片っ端から潰されるのを、黙って見過ごすつもりはない」


 その答えに、ガロは僅かに意外そうな顔をした。それ以上深くは聞かず、地面に膝をついて簡単な図を描き始めた。


     *


「本拠地、というのは、そもそも、どういう場所なんだ」


 俺がそう尋ねると、ガロは少し考えてから答えた。


「表向きは、グラハム家の財務を管理する、正式な事務棟だ。徴税の記録、融資の帳簿、そういうものを扱ってる建物として、貴族院にも登録されてる。地上部分は、実際、その通りの仕事をしてる連中が働いてる」


「地下は、違うのか」


「地下は別だ。あそこに入れるのは、紋官隊の関係者と、ごく一部の書記官だけだ。奴隷紋の刻印に使う道具、契約の台帳、そして……デズモンドの仕事場も、そこにある」


「表と裏、両方が同じ建物の中にあるのか」


「そうだ。地上で、まっとうな商売の顔をしてる連中は、地下で何が行われてるか、半分は知らねえ振りをしてる。知っても、得にならねえからな」


 その説明に、俺は頭の中で、この組織の構造を、改めて理解した。合法な財務機関という体裁の下に、非合法な処刑・拘束の機能を隠している。表と裏が、同じ屋根の下で共存している。この歪な二重構造こそが、グラハム家という組織そのものの本質なのだろう。


「デズモンドの部屋は地下のどこにある」


「入ってすぐ左手の奥だ。周りに見張りが二人。ただあいつの"仕事"が始まると、周りの人間もあまり近づきたがらねえ。見張りの数が減ることもある」


「その"仕事"が始まる時間は、決まってるのか」


「大体、日が落ちてから、深夜にかけてだ。奴は、明るい時間には、あまり動かねえ。夜の方が、じっくり時間をかけられるからだろうな」


 その情報に、俺は頭の中で地図を組み立てた。人の少ない搬入口から入り、見張りが減った隙を突く。決して確実な計画ではなかったが、他に選べる手段もなかった。


「案内は、頼めないのか」


「無理だ。俺が動いたことが知られれば、うちの家族が、真っ先に狙われる。分かってくれ」


 その言葉に、俺は頷いた。ガロにこれ以上を求めるのは、まだ早い。今回は、情報だけで十分だった。


     *


 セラフィナに、この計画を伝えた。


「無謀だと分かっていますか」


「分かってる。それでも行く」


 セラフィナはしばらく俺の顔を見つめていた。


「一つだけ条件があります。私も近くまで同行させてください。真如で内部の魔法的な仕掛けを事前に確認できます」


「危険が増えるだけだ」


「危険はあなた一人でも十分にあります。それなら成功率を上げる方が合理的です」


 その理屈は正しかった。感情ではなく損得で物を考える。この学者の、そういうところは、都合が良かった。


「分かった。ただし、無理はしないでくれ。あんたが倒れたら、俺の勝算も、そのまま消える」


「心配は不要です。私は、自分の身の守り方くらいは、心得ています」


 俺は頷いた。準備は、これで十分だった。


     *


 夜、二人で本拠地に近づいた。


 建物は、王都の商業区の一角に、堂々と建っていた。石造りの三階建て、正面には、グラハム家の紋章を掲げた大きな扉。夜だというのに、一階の窓には、まだ灯りが灯っている。表向きは、真面目な財務機関そのものだった。誰も、この建物の地下に、拷問部屋があるとは思わないだろう。


 搬入口の周辺は、ガロの情報通り、人の気配が薄かった。


「魔法的な結界は確認できません。ただの物理的な警備だけのようです」


 セラフィナが小声でそう報告した。


「なら話は早い」


 俺は搬入口の扉に手をかけた。鍵は簡素なものだった。前世でこういう錠を何度も開けてきた経験が、そのまま役に立った。あの頃は、もっと高度な仕掛けを、いくつも突破してきた。この程度の錠なら、造作もない。


 扉が、小さな音を立てて開いた。中からは、湿った土と、鉄の匂いが漂ってくる。あまり、良い予感のする空気ではなかった。


     *


「ここから先は、あんたはここで待っててくれ」


「一人で行くのですか」


「あんたを危険な場所に連れて行く理由はない。俺一人で十分だ」


 セラフィナは少し迷う様子を見せたが、やがて頷いた。


「分かりました。何かあれば、すぐに大きな音を立ててください。私にできることは限られていますが」


 俺はその言葉に軽く頷き、階段を下り始めた。


 階段は、思っていたより長かった。壁には、粗い燭台が等間隔に据えられ、赤黒い炎が揺れている。足元の石段は湿り気を帯び、一歩ごとに、微かな水音がした。上の階の、明るく整然とした事務所の空気とは、まるで別の場所だった。


 途中、通り過ぎた小部屋の扉が、僅かに開いていた。中を覗くと、無数の書類箱が、壁一面に、几帳面に並べられているのが見えた。恐らく、あれが、台帳を保管している部屋の一つだろう。今は、目を向けるだけに留めておく。優先すべきは、タンネルだ。


 闇の奥から微かに、人の呻き声のようなものが聞こえてきた気がした。タンネルの証言が、まだ生きているという唯一の証拠だった。俺は足音を殺しながら、その音の方へ進んでいった。


 階段を下り切ると、細い通路が奥へと続いていた。ガロの言っていた通り、左手の奥に一つだけ、光の漏れる扉がある。近づくほどに、呻き声ははっきりと聞き取れるようになっていった。


 見張りの姿は、今のところ、見当たらない。デズモンドの"仕事"が始まっている今、周りの人間が離れているという、ガロの情報は正しかったらしい。俺は、扉の脇に身を寄せ、中の様子を窺った。

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