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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
第1章:グラハム家編「鎖を売る家」

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第20話 紋官隊

 ザガンの両替商を、俺は数日かけて外から観察した。


 表向きはごく普通の店だった。客が出入りし、両替や小口の融資を行っている。だが裏口から出入りする人間には、明らかにまっとうな客とは違う空気があった。


 朝から晩まで店の周りに張り付いているわけにはいかない。日雇いの仕事の合間を縫いながら、少しずつ観察の時間を確保していった。前世でも、こういう地味な張り込みは何度も経験していた。焦らず断片的な情報を、積み重ねていく作業だった。


     *


「あの裏口、頻繁に人が出入りしてる」


 俺は見張りの成果を、セラフィナに報告した。


「取り立てに向かう人間でしょう。恐らくあの店自体が、グラハム家の下部組織――紋官隊の、この地域における拠点の一つです」


「紋官隊、というのは、どういう組織なんだ。詳しく教えてくれ」


 セラフィナは、羊皮紙に簡単な図を描きながら、説明を始めた。


「紋官隊は、グラハム家が抱える、独自の武力組織です。役割は大きく三つ。一つは、契約紋を刻む専門の術者――刻印師の派遣。二つは、取り立てや、契約違反者への"処罰"の執行。三つは、それら全体の記録管理です」


「規模は、どの程度だ」


「正確な人数までは分かりません。ただ、王都の各区域に、こうした末端の拠点が点在していて、その一つ一つに数人から十人程度の隊員が配置されている、という噂です。全体を統括する本拠地には、隊長格、副隊長格を含め、かなりの人数が常駐しているとも聞きます」


 その説明に、俺は頭の中で組織の構造を整理していった。バルド・グラハムを頂点に、紋官隊という実行部隊があり、その下にザガンのような末端の窓口が無数に存在する。単なる借金取りの集まりではなく、契約という魔法的な仕組みを、暴力で執行するための、専門化した装置だった。


「隊員は、どこから集めてる」


「多くは、成人の儀式で、支配系や戦闘系のスキルを示した平民です。貴族に買われる、という表向きの体裁を取りながら、実質的には強制的な徴用に近いでしょう。本人の意思とは関係なく、家族への手当てと引き換えに、この仕事に従事させられます」


     *


 裏口を見張り続けるうち、俺はある男に目をつけた。


 三十代半ば、体格の良い男だった。他の取り立て人とは明らかに動きの質が違う。無駄がなく、周囲への警戒も抜きん出ていた。


 その男が店を出た後、俺は距離を置いて後を追った。


     *


 男はスラムの奥にある、質の悪い住宅の一つに入っていった。少し離れた場所から、しばらく様子を窺う。


 やがて男は、また外に出てきた。今度は別の方向へ向かう。取り立ての予定が、まだ続いているらしい。


 俺は男の行動範囲を、数日かけて記録していった。前世で標的の生活リズムを、じっくり把握してから動くのは当然の手順だった。


     *


「あの男、ガロという名前らしい」


 賭博場の伝手を使って、俺はその情報を掴んだ。


「紋官隊の中でも、隊長格だという噂がある」


 セラフィナにそう報告すると、彼女は少し考え込んだ。


「隊長格が自ら取り立てに出向くのは、少し奇妙ですね。普通なら下の者に任せる仕事のはずです」


「ガロという男について、他に知ってることは」


「噂程度ですが、スキルは"縛鎖"。対象の動きを一時的に拘束する、支配系のスキルだそうです。奴隷紋の刻印や強制執行と、非常に相性が良いスキルです。腕力に頼らず、確実に対象を無力化できるため、紋官隊の中でも、実務能力の高い人間として、重用されているようです」


「性格は、どうだ」


「そこまでは分かりません。ただ、隊長格でありながら、末端の取り立てにまで自ら顔を出すという時点で、他の隊員とは、何か違う理由があるのでしょう」


 その言葉に、俺は内心、興味を惹かれた。組織の中で、地位に見合わない仕事を自らこなす人間。そこには大抵、何らかの個人的な理由がある。


     *


 ある日、ガロが一人の老婆の家を訪れる場面に、俺は遭遇した。


「頼む、あと少しだけ待ってくれ」


 老婆が必死に、そう訴えていた。ガロは無表情のまま、それを聞いていた。


「待てば待った分、利子が増えるだけだ。分かってるだろ」


 その声には感情の起伏が、ほとんど感じられなかった。だが目の奥には、僅かに迷いのようなものが見えた気がした。


「今日は、これで勘弁してやる」


 ガロはそう言って小銭を受け取ると、その場を離れた。要求した額より明らかに少ない額だった。


 老婆は深く頭を下げていた。ガロはそれを見ることもなく、足早にその場を後にした。振り返る様子もなかった。まるで自分の行いを、誰にも見られたくないかのような去り方だった。


     *


 その光景を見て、俺は前世の経験から一つの推測を立てた。


 こういう人間を、俺は前世で何度も見てきた。組織の命令には従うが、それ以上のことはしない。表向きは忠実に見えて、実際には、できる限り罪を軽くする方向に動いている。


 ――世界が違っても、やり口は同じか。


 人間が組織という枠の中で、生き延びるための知恵は、どうやらこの世界でも前世の日本でも、大きくは変わらないらしい。それが分かっただけで、ガロという男の扱い方が少し見えてきた気がした。


 ガロは、この仕事に完全には染まっていない。命令には従うが、限界まで相手を追い詰めることは避けている。前世で言えば"できる限り手を抜く"という、消極的な抵抗の形だった。取り立ての相手を、単なる数字としか見ていない者と、こういう、多少の情を残す者。同じ組織の中にも、その二種類の人間が混在している。それも、前世で見てきた組織と、まるで同じ構図だった。

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