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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
序章「外道、贖罪の使徒となる」

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第18話 天啓

 私――エリーゼ・ヴァルディアは夜、寝台に横たわり目を閉じると、時折、あの光景が脳裏に浮かぶ。


 黒い髪、黒い瞳を持つ一人の男。その姿が、炎に包まれるように、あるいは天秤の傍らに立つように、様々な形で私の意識に入り込んでくる。


 これが天啓と呼ばれる力なのだと、私は幼い頃から密かに理解していた。


     *


 王家の血筋に時折現れるという、この力。私がそれを持っていることを知ったのは、十四歳の頃だった。


 最初は断片的な夢のような感覚だった。眠りに落ちる直前、あるいは何かに強く心を動かされた時、ふと見知らぬ光景が脳裏を過ぎる。それが何なのか、自分でも理解できなかった。


 だが成長するにつれ、そのビジョンは次第に鮮明になっていった。国の災害や転換点を予知する、伝承通りの力。それが確かに私の中に存在していた。過去には大規模な水害の前触れを夢に見たこともあった。実際にその通りの災害が数か月後に起きた時、私は初めてこの力の正体を確信した。


 この力は、初代の王がお持ちだったと伝えられている。建国の混乱期、幾度もの戦乱や飢饉を事前に見通し、民を導いた王。歴史書には、そう記されている。だが、その後の代々の王にはなかなか発現せず、数世代に一度現れるかどうかという、まさに伝承に近い力になっていた。父の代にも祖父の代にも、この力が発現した記録はない。


 だが私は、そのことを誰にも明かしていない。父にも、貴族院の誰にも。


     *


 もし、この力が発現していると知られれば、私は間違いなく貴族院の駒にされる。天啓を持つ王女、という肩書きは、政略結婚の材料にも、あるいは傀儡としての即位を正当化する道具にもなり得る。


 この国では、力を持つ者は必ず誰かに利用される。それを私は、この十年近く貴族院の様子を間近で見てきて、痛いほど理解していた。


 五大貴族家の当主たちは、表向き王家への忠誠を語りながら、裏では互いの利権を絶えず奪い合っている。私が彼らの会議の場に出席するたび、その視線の奥に値踏みするような色を感じずにはいられなかった。

 先日も財務を司るグラハム家の当主が、次期国王候補として名の挙がる若い貴族の子息を、私に紹介してきた。にこやかな笑みの裏で、こちらの反応をじっと窺っている目が酷く不快だった。次期国王の伴侶として、あるいは自分たちの派閥に取り込む駒として、私という存在をどう利用できるか。彼らは常に、それだけを考えている。


 だから私はこの力を、ひた隠しにしてきた。国を憂う王女、という表向きの評判だけを静かに纏いながら。


     *


 だが最近、見るビジョンには、これまでとは違う確信のようなものが混じり始めていた。


 黒髪黒目の男。この国には存在しないはずの色彩を持つ、その人物が、確かにどこかに現れている。そして、その存在が、この国の"天秤"を大きく動かすことになる。


 根拠のない直感のようなものだった。それでも、王家の血が持つ力がそう告げている以上、疑う余地はなかった。


     *


 この孤独を、誰かに話せたらどれほどいいだろうと時折思う。


 父にはもう、そんな力は残っていない。貴族院の誰も信用できない。侍女たちは皆善良だが、この重荷を背負わせるには、あまりに危険すぎる。もし誰かに漏れれば、その者自身の身も危うくなる。私はこの城の中で誰よりも多くのことを知りながら、誰よりも何もできない立場に置かれている。


 傀儡。その言葉が自分に、どれほど当てはまるか、私はよく理解していた。それでも表向きは、国を憂う聡明な王女を演じ続けるしかない。笑みを絶やさず、当たり障りのない意見を口にし、誰の敵にもならない。それが、この城で生き延びるための唯一の術だった。


     *


 ――その異物は、すでに、この国のどこかで動き始めているのだろうか。


 私は寝台の上でそっと目を開けた。窓の外、月明かりが静かに部屋を照らしている。


 もし本当に、あの男がこの国に現れているのなら。その存在が、この腐りきった国をどう変えるのか。恐怖よりも、むしろ微かな期待のようなものが、私の中に生まれていた。


 この国は、もう長くは持たない。誰の目にも、それは明らかだった。財政は五大貴族家の私利私欲によって蝕まれ続けている。地方の村々には満足な庇護すら届いていない。それでも貴族院は、互いの利権を守ることに汲々としている。この構図があと何年保つのか、私には正確な見通しさえ立てられなかった。


 ならば、たとえそれが、どれほど得体の知れない存在であっても――今の、この停滞した均衡を動かせる者を、私は待ち望んでいたのかもしれない。


 こんな考えを抱くこと自体、王女としては、あるまじきことなのだろう。だが、この孤独な城の中で、私はもう正しい在り方など、あまり信じられなくなっていた。


 私は再び目を閉じた。次に、あのビジョンが訪れる時、もう少しはっきりとした答えが見えることを願いながら。

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