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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
序章「外道、贖罪の使徒となる」

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第17話 小さな灯火

 セラフィナの家を出て宿へ戻る道を歩きながら、俺はこれまでの経緯を、頭の中で振り返っていた。


     *


 ミラという女に出会い、契約紋という壁に直面した。力だけではどうにもならない現実を、初めてはっきりと理解した。そこからセラフィナに辿り着き、対等の証を示し、契約を結んだ。この国の輪郭も少しずつ見えてきた。


 思えば転生してから、これまでの日々はほとんど、自分自身のために動いていた。スキルの検証、資金源の確保、この街の構造を知ること。どれも生き延びるため、あるいは次の一手を打つための下準備だった。


 だが、ミラという駒のために、初めて明確な労力を割いた。まだ、彼女の紋を解けたわけではない。それでも、これまでの動きの質が少しずつ変わってきている実感があった。前世にはなかった種類の投資だった。


 まだ、何も成し遂げたわけではない。ミラは、まだ契約紋に縛られたままだ。だが、これまでの道のりを振り返ると、確かに何かが少しずつ進んでいる感覚があった。


     *


 その夜、宿の寝床で目を閉じた瞬間だった。


 ふと、あの空間にいた時のような奇妙な気配を、微かに感じた。姿は見えない。声も聞こえない。だが確かに、あの存在の"視線"のようなものが、一瞬俺に向けられた気がした。


 次の瞬間、頭の中に数字が浮かんだ。


 998


 まるで初めから、そこに刻まれていたかのように、はっきりとその数字が意識の中に映し出されていた。カルマ値。あの空間で告げられた、あの数字だ。


     *


 千から二つ減っている。


 俺はその数字を何度も頭の中で確認し直した。見間違いではない。試しに意識して、数字を"確認する"つもりで意識を向けてみる。すると、また同じように998という数字が、はっきりと浮かび上がった。


 どうやら、この数字はいつでも俺自身が意識すれば確認できるものらしい。前世のゲームで言えば、ステータス画面を開くような感覚に近いのかもしれない。


     *


 カルマ値。あの存在が語っていた、千から零までの基準。


 千から998へ。動いたのは僅か二だ。それでも、この目で――正確には、この意識で直接その変化を確認できたことに、俺は少し意外な思いを抱いた。


 これまでの行い――ミラという駒の一件を進めたこと、セラフィナとの間に利用し合える関係を築いたこと。それらが、まだ完全な結果には至っていないにもかかわらず、何らかの形で評価されているらしい。


 ――結果じゃなく、過程も見られてるのか。


 その気づきに俺は少し驚いた。てっきり明確な"成果"だけが、カルマ値に反映されるのだと思っていた。だが、どうやら、そうとは限らないらしい。


 だとすれば今後、動き方の指針も少し変わってくる。結果を焦って性急に事を進める必要はない。動いているという事実そのものにも、点数が乗るということだ。前世で染みついた、結果だけを追い求める性分には、あまり馴染まない考え方だった。それでも、使い方によっては、都合のいい仕組みだと思えた。


     *


 二という数字は千という総量から見れば、あまりに小さい。それでも動いたという事実そのものが、俺の中に小さな実感を生んでいた。


 前世では、こういう感覚を味わったことがなかった。誰かに評価される、という経験自体が、俺の人生には、ほとんど存在しなかった。組織の中で評価されたことはあったが、それはあくまで仕事の成果に対するものだった。今回のように、動機や姿勢そのものを、誰かに見られているという感覚は初めてだった。監視されている、と言い換えれば、あまり気分の良い話ではない。それでも、この評価軸を利用できるなら、それでいい。


     *


 ――この灯火を、消さないようにしないと。


 そんな言葉が頭に浮かんだ。妙な言い回しだと自分でも思った。それでも、この小さな数字の動きを、今後の指針として使う価値はある。


 千のカルマを零にする。まだ途方もない道のりに見える。だが、今夜、確かにその道の最初の一歩が刻まれた。数字という、分かりやすい進捗表示があるなら、それを使わない理由はない。


 窓の外、月の光が宿の部屋に僅かに差し込んでいた。俺はその光をしばらく眺めていた。


 この街に来て、まだそう長くない。それでも、スラムでの日々、セラフィナとの出会い、そして今夜初めて確認した、この小さな数字の変化。積み重ねてきたものが、確かに形を持ち始めている。


 明日からはグラハム家という、この国の歪みの最初の一角に、本格的に手をつけることになる。まだ何が待っているか正確には分からない。だが少なくとも、この道を進むための、小さな確信だけは手にすることができた。


 俺は目を閉じ、静かに眠りに落ちていった。

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