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外道転生 〜元裏社会の帝王、千のカルマを賭けた贖罪の成り上がり〜  作者: 中原九尾
序章「外道、贖罪の使徒となる」

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第15話 グラハム家という壁

「ミラという女の話、覚えているか」


 俺はセラフィナに、そう切り出した。


「あなたが契約紋のことで、最初に相談を受けた方ですね」


「その女を縛ってる契約紋、あんたの知識で解けるか」


 セラフィナは少し考え込むような表情を見せた。


「話を聞く限り、恐らく可能です。ただし簡単ではありません」


     *


「まず、契約紋の解除には大きく分けて三つの方法があります」


 セラフィナは羊皮紙に簡単な図を描きながら、説明を始めた。


「一つ目は、契約を結んだ本人が明示的に解除を宣言する方法。これが最も簡単ですが、相手が素直に応じるとは思えません」


「二つ目は」


「専門の術者による儀式的な解除。ただし、これには対象となる契約紋の構造を、正確に把握する必要があります。適当な術で無理に解こうとすれば、対象の身体に深刻な後遺症が残ることもあります」


 その説明に俺は少し、値踏みを続けた。後遺症が残っては、材料としての価値も落ちる。


「三つ目は」


「契約書そのものを、法的、あるいは魔法的に無効化する方法です。これが恐らく最も確実です」


     *


「無効化、というのは、どうやる」


「契約書には必ず、締結時の条件が明記されています。もし、その条件に法的な瑕疵――つまり、そもそも成立し得ない不当な条件が含まれていたなら、契約自体を無効だと訴えられる可能性があります」


「あのミラの契約書、中身を見てみないと判断できないか」


「その通りです。実物を見なければ詳しい分析はできません」


 俺はそれを聞いて、頭の中で次の一手を考えた。契約書を正式な手続きで見せてもらうのは現実的ではない。何らかの形で手に入れる必要がある。


「正面から頼んでも、渡してはもらえないだろうな」


「当然です。契約書は、貸主が自分の権利を主張するための、唯一の証拠でもあります。手放すはずがありません」


「だとすれば、写しを取るか、あるいは貸主本人から直接聞き出すしかない」


「その貸主が、どこまで契約の詳細を記憶しているかにもよります。多くの高利貸しは、契約書の細部をあえて曖昧にしたまま、口先で相手を追い込みます。記憶している内容と、実際の契約書の内容が食い違っている可能性もあります」


 セラフィナの指摘に、俺は頷いた。前世でも似たような手口を、何度も見てきた。契約書そのものより相手の"認識"を利用して追い込む。狡猾な人間ほど、そういうやり方を好む。俺自身も、よく使った手口だった。


     *


「その高利貸し、グラハム家の下請けだと、ミラは言っていた」


 俺がそう確認すると、セラフィナは頷いた。


「グラハム家は、この王都における、奴隷契約と闇金融の実質的な支配者です。表向きは財務と徴税を司る、五大貴族家の一つですが、裏では多くの闇金業者を下部組織として抱えています」


「五大貴族家?」


「この国の貴族院を事実上、動かしている五つの家系です。財務を司るグラハム家、軍事を司るアーヴィング家、商業を司るオーレリア家、司法を司るセドリック家、そして王家の祭祀を司るファーレン家」


「その五つが、それぞれ裏で何をしてるかも知ってるのか」


「詳しいことは私も、全てを把握しているわけではありません。ただ噂程度の話は耳にしています。アーヴィング家は軍事の裏で、傭兵ギルドや暗殺の依頼を実質的に統括しているとか。オーレリア家は商業の裏で密輸や、もっと非道な取引にも関わっているとか」


 セラフィナはそこまで言って、一度言葉を切った。


「セドリック家は司法の裏で、賄賂による判決操作を。ファーレン家は王家の祭祀の裏で、違法な薬の流通に深く関わっているという噂もあります。どれも確かな証拠があるわけではありません。ですが、この国でまっとうに生きようとする人間ほど、貴族の醜聞に近づかないよう自然と、口を閉ざす傾向があります」


 その説明に、俺はこれまで断片的に集めてきた情報が、ようやく一つの構図として繋がっていくのを感じた。この国全体が五つの家系によって、まるで分割統治されているようなものだった。狙うべき順番も、これで、大まかに絞れる。


     *


「その五家が、この国の腐敗の根本ということか」


「少なくとも、その中心にいることは間違いありません。私の一族の負債も、グラハム家が絡んでいます」


 セラフィナはそう言って僅かに視線を落とした。


「ミラという女性の一件を片付けるためには、恐らく、グラハム家の闇金融の実態そのものに踏み込む必要が出てきます。私自身の事情とも無関係ではありません」


 その言葉に俺は内心、頷いた。ミラという駒を回収することと、セラフィナをこの負債から解放すること。二つの目的が、同じ相手――グラハム家に繋がっている。都合の良い一致だった。


     *


「やるべきことが、はっきりしてきたな」


「簡単な相手ではありません。グラハム家は、紋官隊という独自の武力組織を抱えています。奴隷紋の刻印、そしてその執行を担う集団です」


「戦力は、どの程度だ」


「詳しくは分かりません。ただ、貴族家が抱える組織である以上、街の裏社会の連中とは一線を画す実力を持っているはずです。正面から力だけで挑めば、恐らくこちらが不利になります」


「相手にとって不足はない」


 俺はそう言って笑った。前世でも、こういう明確な"次の標的"が見えた時こそ動きやすかった。相手の全体像が見えなければ対策も立てられない。だが輪郭さえ見えれば、後はその弱点を探るだけだ。


「まずは、あのミラの契約書をどうやって手に入れるか。そこから詰めていく必要がある」


 セラフィナはその言葉に小さく頷いた。


「協力します。これは私自身の問題でもありますから」


 こうして俺とセラフィナの間に、初めて明確な"共通の敵"が定まった。グラハム家。この国の歪みの最初の一角に、俺たちはこれから手をつけることになる。

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