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31 師匠への回答

「サークル活動?」


「はい、師匠。ロメリア直営でいくつかサークルを作ってください。希望者が多ければ、申請式にして公認を出す用意も」


屋敷に戻り、事件の顛末を報告するとエレオノーラは訝しげな態度で答えた。


「はーっはっは、なるほどなるほど。そう来ましたか。」


情報の提供者として報告を聞きに来たのだろうカリーニはエレオノーラとは反対に大口をあけて笑っていた。

相変わらず一々挙動のうるさい人だ……。


「学生の本文は学業だ。趣味を持つなとは言わんが、くだらん課外活動をロメリアとして認めるのはいただけないな。


博士課程を超えて学者を名乗ることを許されてる者であれば、なおのこと本業をおろそかにすべきではない。却下だ。」


「師匠は、私に偽薬の調査を『課題』として出した時に『出処を探せ』と命じましたよね?」


「あぁ、そうだったな」


「私に言わせてみれば、『出処』は『ロメリアの歪み』です」


「……」


エレオノーラは現在、ロメリアを抱えるアリステリア公爵領の領主である。だから、現場の教育者ではない。

だから、往々にして実際にそこにいる人間の現実が見えていないのではないかと思った。


それに加え、家柄にも才能にも恵まれた彼女だ。自身が学生、学者として在籍していた時も、浮世離れした存在であっただろう。


「今のロメリアは教授会の下にぶら下がってるゼミ制度が基本的な構造です。縦社会なんです。


教授達から気に入られる学生はともかく、そうでない学生達が組織外に繋がりを求めるのは当然だと思います」


「ロメリアは才能を選ぶことをして是としている。教授に目を掛けられんような凡俗であれば必要ない」


「はい。『教授達が全員、実力と才能を見る力と器量を持っているなら』、たしかにその通りです」


「……」


多少挑発的な言葉にはなるが、聡明な彼女であれば私の言いたいことを理解するであろうと踏んで答えた。


実力社会といえば、聞こえはいい。

だけど、実力をどうやって保証するか? について語られることは意外にも少ない。


たとえ、教授たちが公正であろうとしたとしても、本当に才能を見抜くことはできるのか?

あるいは目立つ成果をあげる者の影で縁の下を支える者を見落とすことはないと言い切れるか?


サークルと言っても、別にテニサーだのバンド活動だのをやらせろと言うつもりはないのだ。

たとえば、理工系の大学には必ずと言っていいほど存在する「ロボット研究会」とか、農工系の大学に存在する「農園サークル」など『本気で役に立たないものを研究する』という集いは存在する。


そこで、思いもしない成果があがることさえあるのだ。

元の世界のフェイスブックのようにハーバード大学在学生の集いから世界的な企業へ躍進している例さえある。


ふるいにかけると同時に、本流とは異なる評価軸を持つセーフティネットを用意することは重要だと考えた。


スターダムから外れた者の再挑戦できる場所。いわば、敗者復活戦だ。


「……」


エレオノーラは肘をつきながら考えていた。

私の言いたいことは理解しているのだろう。ただ、生まれ落ちた時より王道をひたすら歩んだ正統派としてはやはり慣れない違和感のようなものを感じるのかもしれない。


しばし、時が流れるとカリーニはこれまた大げさな振舞で静寂を裂いた。


「はーっはっはっは! いいではないですか! おもしろそうだ! なんなら私が一つ運営を受け持ちますよ! ゼミには抱えられない凡庸な子を観察できる楽しみもある。


それに、机に嚙り付けば学業が進むというわけではないでしょう?」


「……アルフレード」


エレオノーラは自身の元研究パートナーであるアルフレード・カリーニが私に助け船を出したとみて舌打ちをした。

彼女にとっては、『弟子の課題』という側面からも評価をしなければならない部分で頭を悩ませていただのだろうが、カリーニはただ単純に実益をとればよい。


意見が食い違うのは当然であった。


「なに、うまくゆかぬと分かれば解体すればよいではないですか。一つの実験とみればよい。実証主義もまたロメリアの是でありましょう」


「……ふむ」


「それとも、やはり、この回答は『エレオノーラ・アリステリアの弟子』としては足らぬと断じますか? であれば、それでも私は構いませんよ?


何せ貴女と違い、私は『黄金』と呼ばれた昔のリディア様より、今の朴訥として冴えない凡人の彼女の方が好ましいですから。いらぬとおっしゃるなら是非私の弟子として引き取りましょう」


「黙れ、殺すぞ」


カリーニの挑発にエレオノーラは目元を引きつらせてピシャリと言い放った。

それを受けてなお、『凡人マニア』と呼ばれる彼はケラケラと笑って暗にエレオノーラの裁定を迫ったのだ。


「……はぁ。ま、確かに言い分は理解できる。

それに失敗したとしても、今偽薬を通してコミューンを作ってる阿呆どもを囲い込んで名簿を作れる公算は高いしな。ロメリアとして手を打ったという言い分にもできよう」


「はい、『公に横のつながりを作るというアイデア』を提示することに意味があると思います」


今回失敗しても、初めての施策なのだから当然と言える。

だったら、次をもっとうまくやれるようにすればいい。少なくとも、その検証をすることはできる。


「分かった。近日中に教授会に議題として提出してやる。まぁ、課題も合格にしてやるさ。今回も及第点だがな」


「……ふぅ、ありがとうございます」


「さがっていいぞ」


「はい」


応接室を出て、緊張から解放されてようやく気持ちよく伸びをしたのだ。

屋敷を少し歩くとバツが悪そうなキアラと鉢合わせた。


「姉さんはなんて?」


立場が違うシルヴァンを一方的に叱りつけたことを後悔しているのかもしれない。

私としては、別にキアラの言うことが間違っていたとも思わないのだが……。


「サークル制度を実用化するために手は回してくれるそうです。とはいっても、カリーニ教授の後押しがなかったら説得できたかどうか」


「カリーニ先生なら、そうだね、確かに賛成しそうだ」


「……あの、何か用があったんですか?」


「ん? あー、用事ってほどのものじゃないんだけどさ」


「……?」


「ちょっと話さない? わたし、寮に戻らなきゃいけないからさ、ついでに送ってよ」

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