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35 継承式

 神殿の本殿では継承式が始まろうとしていた。

 今回の継承式はいつもとは違い、王族達まで招かれ、かなり華やかな顔ぶれとなっている。


 神官長がしずしずと入場する。

 神官長と神官達が縦に並んで歩いてくるはずなのに、なぜか神官長を真ん中にして2人の神官が横を歩いている。いや、正式にはフラフラ歩いている神官長を2人の神官が両側から支えている。


 酒臭い?


 集まった人々はそう思ったが口にはださなかった。


 いろいろな手順をすっとばし、いきなり新姫巫女の紹介が始まる。

 美しく飾り付けられた夢乃が前に進み出る。

 夢乃は外面だけは良いし、見目も麗しい。


 ほう、と人々から称賛のため息がもれた。


 粛々と儀式は進められるが、神官長はどっかりと座りこんだまま、一言も話さず動かない。

 動かないどころか、小さく鼾をかいて眠っているような、いや、鼾だけでは収まらず、船を漕ぎ出した。


 長老達は焦っていた。

 どう見ても、あの「神官長」は榊ではない。

 あのお方は・・・。

 神の中でも荒ぶる神と恐れられる竜神。

 その竜神がなぜか神官長の格好をしてどっかりと腰をおろし、鼾をかいて眠っていらっしゃる。

 現姫巫女、初音の姿も見当たらない。



「いったいどうなっておる? 初音はどうした? 初音は?」

「変ですね。初音は・・・、あ、あんなところに!」


 初音はいつのまにか招待客である大和の王子、弥勒の腕に護られるようにして、その傍らにちょこんとすわっていた。

 神官長の異様な動きと、美しい新姫巫女に気をとられて、誰も初音の存在に気が付かない。


 舞台では新姫巫女、夢乃の舞が始まろうとしていた。

 もう、継承式の手順などめちゃくちゃである。


 しかしながら、夢乃は初音とは違って動き一つ一つが洗練されており、美しい。誰もが、変と思うよりも先に夢乃に見惚れていた。


 源雅浩の竜笛りゅうてきに始まり、しょう篳篥ひちりきが合わせられる。天から光りが射すような、日の光とも月の光とも夢のような舞。

 誰もが息をするのも忘れ、見守っている。


 そして、神おろしの儀。

 継承式の一番の目玉は新姫巫女としての実力の証明である。

 みなの集まるその場で、神と対話、あるいは神の声をきかなければならない。


 夢乃はトランス状態となった。

 いつもの甲高い夢乃の声とは全く違う艶のある女の声がした。


「わらわは山の女神じゃ。大和の王子よ。そなたには、そなたの欲しがっていた娘をあたえる。われらの可愛がっていた姫巫女じゃ。大切にするがよい。大きな力を持つ娘じゃ。そなたの助けとなろう。」


 どよめきが起こった。

 大和の王子に山の女神が姫巫女を与えたのだ。


 みなが大和の王子、弥勒をみれば、その傍らにはサルっぽい可愛らしい娘がちょこんと座っている。確かに、山の女神の贈り物に違いない。

 そして、弥勒はその娘を愛おしそうに抱いている。



「ちょっと、神官長、起きてくださいよ。神官長。竜神様ってば」


 夢乃は神官長の服を着て鼾をかいている竜神をつっつく。


「ぬぁ? 終わったか?」


 竜神は目をあけた。

 目をあけ、欠伸をし、離れた場所に愛しい初音の姿を見つける。

 その初音は嬉しそうな顔で弥勒の傍らに座り、弥勒もしっかりと初音の肩を抱いていた。

 竜神は、ムっとした。しぶしぶ夢乃に協力してやることにはしたが。腹立つものは腹立つ。


 突然黒雲が湧き上がる。

 竜神はただでさえ寝起きが悪いのだ。その上、嫉妬深い。そして二日酔い。

 いきなり竜神は神官長から竜の姿となり、弥勒の前に稲光を槍のように3本、地面に突き刺した。


「大和の王子、弥勒よ。私は初音を守護する竜神だ。初音を大切にしろ。さもなくば、国ごと滅ぼす」


 竜神の荒ぶる声は神やあやかしをみることができない、力無い者達にも届いた。


 弥勒は立ちあがり、竜神に向っていった。


「初音を我妻とし、大切にすることを誓う」


 竜神は頷くと、そのまま飛び去った。

 雷鳴が小さく鳴きながら竜神を追っていった。




 いろいろと変だったが、とにかく継承式、終了。


「なんとか終わったぁ・・・」

 夢乃はへなへなと崩れ落ちるように座り込む。



「しかし、大和弥勒様も姫巫女様を所望し、娶るとは。何とも豪胆な男ですな」

「これで、我が国も安泰というもの。何せ、花嫁は姫巫女で神々の守護を受けている」

「まことに」

「新しい姫巫女殿は初々しく美しい方ですね」

 人々は思い思いの感想を口に、三々五々に帰ってゆく。




「ふーむ、初音が俺の妃だというお披露目もできちゃったみたいだな」


 弥勒は初音を抱き上げると神殿を出た。


・・・・・・・・・・・・・・


 王宮は神殿の隣である。

 弥勒が姫巫女を貰い受け、妻にすることを神殿で誓った、という事はあっという間に王宮に伝えられていた。

 神サマから貰い受け、神サマに誓ってしまったのだ。覆すことはできない。


 初音はいつぞやの土砂崩れのときのように、弥勒に抱き上げられ、王宮にもどる。


 王宮の女官達がわらわらと出迎えた。


「サル姫様、ようこそおいでくださいました」

「姫巫女様、お帰りなさいませ」

「あら、姫様はもう巫女は引退されたから、姫巫女様ではなくってよ」

「それならやっぱりサル姫様、お帰りなさいませ」

「うな丼もご用意できておりますよ」


 ・・・またサル?と初音は思ったが、うな丼、というキーワードの方がより初音のココロを強くとらえた。継承式やらなにやらあり、まともに食事をしていない。

 わーい。

 しかも、うな丼!


「初音、食事は一緒に食べような」

 弥勒はうな丼に向って走り出しそうな初音の首根っこをつかむと言い聞かせるようにいう。

 初音はきょとんとした顔で弥勒をみていたが、こっくりうなずいた。


 2人仲良くうな丼を食べた後、お茶を飲む。


「榊、どうしてるかなぁ・・・」


 榊は山神に連れられて山へ入って行ったまま、帰ってこない。


「山神に見初められたんだろ。大丈夫だよ。それより今後の日程だけれどな・・・」

 

 弥勒が初音の方をみれば、初音はウトウトしている。

 お腹が膨れ、眠くなったらしい。


 山を駆け回り、木の実を集め、お腹がいっぱいになったら寝てしまう。

 ・・・餌付けには成功したが・・・。

 弥勒にもたれてすやすや眠ってしまった初音を見て苦笑する。

 サルはサルだな。


 弥勒は可愛いサルを抱き上げるとそっと抱きしめた。



 おわり。




読んでくださった方、本当にどうもありがとうございました。


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