全てがハラスメントになる世界で
コクハラという言葉を知っていますか?
相手にまるで脈の無い状態で告白するのは非常に迷惑、という事で告白自体をハラスメント、つまり告白+ハラスメントでコクハラと言うそうです。
こんなに悲しい事があるのかと作家としてペンを執らずにはいられませんでした。
幼馴染みの卓也が信号無視の車に轢かれた。
報せを受けた私は心臓が破れそうな程に駆けて、救命救急の奥にある処置室へと飛び込んだ。
「卓也っ!……ウソ」
既に医者の姿は無くて、ベッドには布で顔を隠された卓也らしき人、横には茫然と立ち尽くすおばさん。
モニターには息絶えた事を示す起伏の無い真っ直ぐな線が絶えず映し出されて。
「愛梨ちゃん……もうね、脈が無いんですって。17時25分、ご臨終だって」
ウソ、嘘、うそ。だって、明日の私の誕生日プレゼントを買いに行くから先に帰るって別れたばかりなのに。幼馴染みを卒業するんだって期待してたのに。
「顔、見てやってくれる?」
おばさんが布を外す。さっきまで隣にいた幼馴染みの安らかな寝顔。まだ赤みが差していて、脈が無いなんて信じられない。
「卓也、卓也……卓也っ!」
私は彼の体に倒れこんで、おばさんが止めに入るまでまるで壊れたオルゴールみたいに名前を呼び続けた。
「これ、卓也の鞄に入ってたの。愛梨ちゃんにだと思う」
眼鏡ケースぐらいの大きさの、ピンクのリボンで可愛らしくラッピングされた箱を開ける。中にはキラキラと輝くハートのネックレスにメッセージカードが入っていた。私の好きなウサギのキャラクターがデザインされたそのカードには、ガサツな卓也には似合わない綺麗で丁寧な字でこう書かれていた。
――好きです。付きあってください――
「バカ……どこに返事したらいいのよ。こういうのをコクハラって言うんだから」
涙を拭いて、ハートのネックレスをつけた。彼のもう開くことの叶わない目を真っ直ぐに捉え、私は告白の返事をする。
「私も……大好きだよ」
~fin~




