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第五話 銀河deファイト

校正しても校正しても補助文章が増加して再校正になり

あれよあれという間に3万7千文字になって力尽きたので、

校正が甘くてもアップです…Orz


いやここ、次のセクションの導入なんで、

そこまで気合い入れる所でもないし…


うーん、確かに部分部分的に

「ここの説明文、こんなに解説必要か?」

と書いた自分でも悩む所はあるんですが、どっかで書いてないと

なんでそんな風に考えるのか?ってのが謎のままになるんで

長くてもやむを得ずという所で。



ファン:

「ヴァーチェ宙域のみなさーーん!!

 こんにちわ~~こんばんわ?

 それとも、おはようございます~~??

 ともかく!!

 このノードノーク自由放送を受信されているみなさんっ!

 大人気緊急特別番組

 『銀河deファイト!』のお時間が、またやって参りました!

 司会は、いつもニコニコ元気で人気!

 銀河のアイドル突撃リポーター、私、ファン・メイが

 今日もまたお送りせていただきますっ!」


オロードが立体ビジョンに接続した宇宙放送から、そんな感じの

かなり頭の悪そうな宇宙バラエティ番組の映像が飛び込んで来た。

そこに映っていたのは、顔の見てくれだけは良いけれど

これまたかなり頭の悪そうな自称銀河アイドルなるリポーターで

その彼女が脳天気に喋っている様であった。

加工画像で手がこんでいるとはいえ、番組のロゴからして

『銀河deファイト!』とされている時点で、

リポータ同様、相当に脳天気な番組だろうと第一印象を受ける。

それを一目見てエスカの目は棒の様になるしかなかった。


エスカ:

「なんだこの軽薄そうな番組は…」


開口一番で腐ってみる。

しかし放送は容赦なく続いた。


ファン:

「さーて、緊急特番の『銀河deファイト!』ですが

 なんと!なーーんと!!な、なんーーんと!!

 私達ノードノーク民のもはや英雄的存在っ!

 我等が、宇宙冒険家レディン・ルーク氏がっ!

 かの赤色連邦帝国で有名な雷撃戦の女王

 エスカ・ロックフォード中将と

 ヴァーチェ宙域赴任早々、雷撃戦勝負をしたとの事!

 その緊急情報がレディン氏より入りまして

 そしてその戦闘結果をレディン氏自ら報告してくれるそうなので

 いつもの様に番組を緊急特番として放送させて貰う事になりました!

 これから亜空間超重力通信で、レディン氏と電脳リンクしますので

 私とレディン氏が電脳リンク空間で直接お話しするという形で

 レディン氏に戦闘記録映像と一緒に

 戦いの様子を語ってもらいたいと思いますっ!」


と脳天気な司会者が語ると、

これまた頭の悪そうな煽りのBGMが入る。

その映像によってエスカの表情が強ばるしかなかった。

仕事で視聴しなければならないとはいえ、

番組にもう少し「品」というモノが無いのか…

と、エスカは泣きそうな思いで脱力する。


ファン:

「……え?スタッフの方? もう良いです?

 レディン氏と電脳空間、繋がった?

 …………

 はい、そうですか! 

 では超重力通信ダイブで、位相空間に移動してっと!

 電脳空間リンケージです!!

 で~~~ん!!

 はい!

 入りました~~~!

 こっちのアバターでも、私は可愛いぞ、うん!!

 さてさて~~??

 えーっと、レディンさ~~~ん?」


と、リポーターのファンが放送内で言って電脳リンクの動作を行う。

それは情報発信をしているノードノーク星系から

星系の離れている場所に居るだろうレディンに会う為に

超重力通信で作られた仮想電脳空間にアクセスして

リアルタイム会話をしようとしたのであった。

ファンは電脳空間に自分とそっくりのアバターを生み出しては

レディンのアバターと合流しようと試み

作られた電脳空間で周囲を探す動作をしていた。

そんな動作の最中に、レディンもそこにアバターとして現れる。


レディン:

「いやいや、すいません~~~

 まだノードノークに帰投中でしてね~~~

 こんな亜空間通信での番組で、

 アバター同士でなんて申し訳ない…」


そう言ってレディンは、

自分の腕にギブスの様な塊を装着した姿で、

電脳空間に現れたのだった。


ファン:

「わっ!レディンさんっ!

 その両腕どうしたんですか!

 なんか物凄い事になってるんですけど!!」


出てきたアバターを確認しては

怪我をしているレディンの腕の様子に仰天するファン。

と同時に、演出過剰過ぎるその様に閉口するエスカ。

電脳空間のアバターなのに、

どうして現実の戦傷をそこで再現する必要が有る…

そう思って、エスカはその様にポカンとなるしかなかった。


レディン:

「いやいや、見ての通りですよ~~

 あの紅の雷光様が来ると聞いて、

 喜び勇んで襲撃してみたら

 こんな返り討ちに合ってしまいました~~」


レディンは自分の両腕を見せては

楽しそうに笑ってそう言った。


ファン:

「か、返り討ちっ!?

 まさかレディンさんっ!

 遂に、初めての黒星が付いたんですか!?」


そんなレディンの言葉にまた仰天するファン。

驚くファンの言葉にレディンは腕を頭の後ろにやって

楽しそうに笑いながら続けた。


レディン:

「いやー、やられた、やられたっ!

 返り討ち…返り討ちねぇ…

 う~ん、どうなんでしょうねぇ…

 個人的には、引き分けって事にしたいんですけど

 こんな大怪我食らってて、

 引き分けって言っても説得力が無いですからねー

 遂に負けたのかもしれないですね~~~」


言って、やっぱり楽しそうに笑うレディン。


ファン:

「は~~~

 自分で負けたかもって言われる…

 そう言われたんなら、

 遂に敗戦という事なんでしょうか?

 いや…でもレディンさん…

 今、ノードノークに帰投中なんですよね?

 なんで色連邦帝国の提督相手に雷撃戦で負けて

 五体満足で帰って来れてるんですか?」


そんなレディンの言葉に

しかし真っ当な意見を出して眉をひそめるファン。


レディン:

「いやいや!!

 見ての通り、両腕にこんなに大怪我!

 五体満足とかじゃない!!

 もうそりゃ、必死になって逃げてきたんですよ~~」


そのファンの真っ当な疑問に、相変わらずの軽い調子で返して

やっぱり楽しそうに笑うレディン。

そんなレディンの言葉に、また目が棒の様になるエスカ。


エスカ:

「何言ってやがるんだ…コイツは…

 その気になれば、私を斬り殺す事だって出来たろうに

 白々しい…」


エスカはそう毒づくしかなかった。

そしてレディンの持つ『奥の手』を思い出し

彼の乗艦の火力と、自身の持つインチキ武器を使えば

第17艦隊全てを容易に殲滅できただろう予想に

身震いするしかなかった。

色帝機動六艦の1隻が、あんな直ぐ近くに居た事を思うと

何故自分が今、五体満足で生きているのか?

その方が不思議に思えてしまう。


ファン:

「ええええっ!!

 我々、ノードノーク民的には

 もしかして銀河最強はレディン氏じゃないか?って

 思ってまして、

 あの炎の皇帝アルシオン陛下とも

 互角に戦えるだろうと考えてましたのに…

 エスカ提督に遂に連勝記録を止められて

 痛恨の一敗となったという事ですか!?」


そう騒いでは、

ファンはレディンのそのギブスをまじまじと眺めた。


レディン:

「まぁ、そこら辺は、勝負がどっちに優勢だったかは

 赤色連邦の公式報道を待ちましょうや…

 こっちとしても、

 紅の雷光様を無傷で勝ち逃げさせたわけじゃないけれど

 この両腕のていたらくを思うと

 負けかなぁ…ともね…

 そんでもノードノークに逃げ帰ってこれたんだから

 引き分けって線で妥当な気もするけれど

 赤帝的にはどういう見解なのかねぇ?

 その判断は赤帝の公式アナウンスに俺は任せるさね…

 ただ、負けなら、負けって事でもいいけどね…

 それならその敗北を糧に

 再戦を誓うのも、それはまた興だしな…」


そう言ってレディンはケタケタと笑う。

そのレディンの『再戦を誓うのも興』という言葉に

思わず肩をビクっとさせて震えるエスカ。

『悔しいから、今度はエンペリオンで全力で斬るわ!』

とか言われてリベンジマッチで襲撃されたら、

今度は間違い無くエスカが三途の川を渡る事になるだろう。

それを想像してエスカは冷や汗をかくしなかかった。


ファン:

「連戦連勝を続けてきて、

 遂に黒星がついたかもって言うのに

 何だかサッパリされてるんですねぇ…

 初めて負けて、泣くほど悔しいとか

 そんな気持ちは無いんです?」


と、司会のファンは、レディンのあまりのサッパリした態度に

首を傾げるしかなかった。


レディン:

「いや~~~、負け戦なんて

 クラーリンとは、しょっちゅうやってるからなぁ~

 負けて尻尾を巻いて逃げ帰るなんて

 宇宙冒険家にとっちゃ日常茶飯事だし…

 いつもの事に戻っただけ…って程度だよ~~

 負けるのなんか、いちいち気にしてちゃ、

 宇宙冒険家なんかやってられませんぜ?

 宇宙冒険家はクラーリンと戦って財宝を掠め取って

 生きて帰ってくるのが一番大事なんだからサ~

 最近の腕試しの雷撃戦旅行で、

 勝ってばっかりで、その感覚が麻痺してたんで

 遂に負けて逃げ帰らにゃならん

 クラーリン並の超強敵に出会ったって所で…

 銀河外縁部にもクラーリン並のが居ったわ…って

 そんな所かな~~~~」


ファン:

「ほぇぇぇ~~~」


レディン:

「むしろこの広い銀河で簡単に銀河最強になれたら

 それこそ興がないってもんだしっ!

 自分が敵わない強敵に出会って

 負けて、負けて、それで修行して、もっと強くなって

 んでもって再戦をして、ようやく勝ってとか…

 そういう勝敗で苦労する階段を登り続けてこそ

 最後に銀河最強って頂点の椅子に座るのに、

 相応しいと思わないかい?」


言ってレディンはおどけてみせる。

そんな、子供の様に言った言葉だったが、

その言葉の中にあった

『負け戦なんてクラーリンとはしょっちゅう』

という驚きの発言を耳にし、

自分自身の記憶を同時に思い出してエスカは僅かに震えた。


そうだ。


銀河最強を標榜しながらも、心に一瞬も慢心が生まれないのは

奴等クラーリンが、この宇宙に存在している事を知っているからだ。

そして、それに敗北の味を覚えさせられているからだ。

奴等が居る限り、銀河最強などという言葉は

本心では絶対に口にする事ができない。

銀河最強を目指すと口にするのは、己を発憤させる為であった。

そうやって自分を奮い起こし続けなければ

強大なクラーリンという存在に心が折れて、

戦う事すら辞めてしまうだろう。

だから違うと分かっていても『銀河最強』を口にする。

自分を逃げない様に追い込む為に…。

それと同じ感覚を、エスカだけでなくレディンも持っている…

そういう事だった。

その何気ない発見にエスカは僅かに項垂れる。


ファン:

「はへ~~

 雷撃戦で連戦連勝のレディンさんも

 銀河深淵のクラーリン様には、

 負けてばっかりだったんですか~

 それはびっくりですっ!

 なんだか、ただアホみたいに強いレディンさんだから

 クラーリン様も連戦連勝でボッコにしてたんだと

 思い込んでましたよ~~~。

 だから、レディンさんから

 強くなる為に修行って言葉を聞くと、逆に新鮮でっ!」


そう言ってファンはレディンのサバサバした態度と言葉に

目を白黒させながら素直に驚くしかない様だった。

ぴょこぴょこと飛び跳ねながら、驚きの心を表現している。

だが本当の意味でその言葉に驚き、

感嘆したのは、むしろエスカの方だった。


『銀河で簡単に最強になれたら、それこそ興が無い』


その何気ない言葉の中にあるとても強い決意に

思わずエスカは自分の拳を握りしめる。

そう、クラーリンを倒す為には、

今の現状で満足していてはダメだ。

強くなるしかない。

今よりも、もっと。

今よりも、遙かに。

映像でレディンが言っている様に、

その鍛錬の過程に、『興』を感じてしまう程に

寡黙な鍛錬を積み重ねて、強くなるしかないのだ。

素直にエスカはそう思えた。


ファン:

「でもだったら、

 銀河deファイトで勝手にランキング付けしてる

 雷撃戦の銀河ランキングは、

 どうなっちゃうんですかねぇ…

 今の所、各色帝から正式に公表されている

 中央派遣艦隊にいる雷撃戦の名手で、

 本国内地での宮廷競技大会結果、

 銀河中央での艦隊戦での実戦戦果など

 色々な情報を加味しての評価で、

 1位アルシオン陛下、

 2位エスカ提督、

 3位レディン氏と

 そういう順位でしたんで、

 これが引き分けたというと…

 ……う~~ん?

 順位的には…変わらず?」


と、ファンは、映像内に立体ランキング表を出現させては

その上位順位の位置関係を指し示す。

そんな物凄く雑なランキング表を見て

エスカの目がまた棒になった。


レディン:

「まぁ、そうだな…

 とは言っても、赤帝と黄帝は直接交戦してないし

 赤帝と青帝とは2つ隣なんで、

 この近年は手合わせすら無いから

 そこら辺は俺の雷撃戦の戦歴との照らし合わせて

 相対評価してるってだけなんだけどな…。

 前々からずっと言ってる様に、

 このランキングは、各色帝の公開情報を元に

 この番組と一緒に作った基本類推評価から

 俺が実際に戦った実績の実情報を合わせて

 ようやくリンケージしてる順位表だからな…」


そう言ってレディンは頭をかく。

その言葉を聞いてエスカは激しく机に突っ伏した。


エスカ:

「どこにそんなランキングあるんだよ!?って

 思ってたら、コイツが作ってたのかよっ!!

 雷撃戦の銀河ランキングって!!!」


エスカはレディンと初対峙した時に奴が言っていた

『銀河雷撃戦ランキング表では~~』という文言が

全部、この男が作っていたモノだと分かって

絶句するしかなかった。


(そりゃ聞いた事もないランキングなわけだ…)


と同時に呆れる

このヴァーチェ宙域限定のローカル放送局と

一緒に作っているランキング表だったというのだから。


レディン:

「…ただ、公開されてる情報だけなら、

 かなりこれで正確な評価だとは思うがな…

 俺が手合わせした結果での情報リンクだしな…

 問題なのは、華帝国だけは雷撃戦に関しての

 公開情報そのものが少ないって事かな~~~

 意外に、あの幻術師、魔導師とも言われる

 『華帝国の魔術師』のニア・ラルフ提督も

 実は雷撃戦、滅茶苦茶強かったとか

 あるかもしれんしな…」


言ってレディンは苦笑する。


ファン:

「ふむ…確かに華帝国は200年近く、

 華帝国の門前領域であるサファナム宙域へ

 再進駐してませんからねぇ…

 サファナムでの戦闘情報が近年ではゼロなので

 華帝国の実働戦力が銀河中央領域では不明ですし

 それに、青帝…

 華に対応して、海帝国の呼び方の方にしましょうか…

 その華海帝戦争が、2帝国間では、

 ずーっと続いて、今は膠着化してますから

 あっちの隣接宙域での地方戦の具体的な情報は

 銀河中央には、中々、流れて来ませんからねぇ…

 華帝国の魔術師、ニア・ラルフ提督が

 海帝国のエリート艦隊を両帝国の境界領域で翻弄して

 海帝国の門前領進駐を阻んでいるという話しか

 広報されてないのが実情です…

 それもあって、隣のサファナム回りの航路は

 荒れてますし…

 華帝国は根本的な情報がですねぇ…」


と、ファンが赤帝から真反対に位置する色帝

華帝国の話を内容に盛り込んできた。


レディン:

「なんだよねぇ…

 サファナムなんざ、ヴァーチェの直ぐ隣なんだから

 海帝や黄帝にはあっち回りで行っても良かったんだけど

 サファナムは今は地方内戦で、なんか面倒だしなぁ

 だから迂回して、ニルクルヴァ、アリッソ回りで

 黄帝や海帝まで行ったんだし…」


そう二人は何気なく談笑する。

しかし、その何気ない談笑で、

その場に居た赤帝の全提督は瞬時に青ざめた。


エスカ:

「おいおい…

 確かに中枢近くの星系検問は

 アリッソ宙域でもザルとは言え、

 アイツ、赤帝の門前領を通って

 黄帝の門前領メタフまで行ってたのかよっ!!

 赤帝の門前領を気付かれずに通過とか

 どんだけ奴の船の隠密能力はあるってんだ!」


そう吐き捨てて、エスカはレディンの驚異的な独白に

またしても騒然となるしかなかった。

自分達の門前領であるアリッソ宙域を

赤帝中央艦隊の検問さえ無視して通過してると知ると

その何気ない彼の航路情報公開ですら、

赤帝全土が震撼する内容であった。


何故なら、それは、奴がその気になれば

アリッソ宙域にあるインペリアルゲートを使って

赤帝中央艦隊に気付かれずに

赤帝本土に潜入できる事と同義だからである。

それがどれほど脅威的な事かは、エスカだけでなく、

赤帝の全ての提督に瞬時に分かる事であった。


あんな銀河ぶらりの雷撃戦闇討ちをしている男である。

ならば色帝本土奥深くに居る

六大帝国色皇帝の直接暗殺、等という

普通に考えれば荒唐無稽なアイデアも、

状況によっては可能だという事になる。


それがどれだけ脅威的な事か分からなければ

こんな銀河中央派遣艦隊というエリート部隊に

所属する事さえ許されないだろう。


だがレディンの持っている座乗艦の

『ヴァーユ・イルスキュルト』が

『ヒルリ・ベリア』の偽装艦だとするなら

そんな馬鹿な!な話も

十分、まかり通ってしまうのも

この銀河中央で起こる不可思議現象ではあった。


何せ緑色皇帝旗艦『ヒルリ・ベリア』は

古代戦艦の中でも別格中の別格である

『対クラーリン殲滅用・機動六色皇帝旗艦』

の1隻である。

その狂った破壊力は、アルシオン帝が昔に駆った

『Q(ギュー)・バルディオス』によって、

エスカ自身がアーツァマリッテ星域の戦いで

目撃しているのだ。


『烈宙震・空間断裁砲』


という

各色帝の持つ常識的な武器の威力を遙かに越えた

”ナニか変なモノ”をQはぶっ放して

水緑連合艦隊の古代戦艦艦隊中枢駆動機関に

直接ダメージを与えて、9割を機能不全にした。


雷撃戦だとか打撃戦だとか、そういう宇宙艦隊戦の常識を

正に空間をねじ曲げて、ちゃぶ台返しにしたのが

赤色皇帝旗艦『Q(ギュー)・バルディオス』であったのだ。


あの様な武器が機動六色皇帝旗艦の標準武装だとすれば、

他の六色皇帝旗艦もどんなインチキ武器を

持っていたとしても何の不思議もないと思われる。

それは防御兵器も、航行偽装能力でさえ同じであろう。

だからエスカの乗艦「シュルトワルゼ」と「オロード」が

ゼロ距離になるまで彼の乗艦を感知さえ出来なかったのだ。


色帝の検問を無視できる潜行能力を持つインチキ艦の存在。

実はそれが色皇帝機動旗艦かもしれない可能性。

そんな二重の問題で、エスカは頭を抱えるしかなかった。


エスカ:

「まぁしかし、奴の言う様に…

 海帝の古代要塞ゼロンを

 謎の方法で陥落させた魔術師が居る様な

 怪しい帝国の近くは

 私も近付きたく無いのは同意だがな…

 華帝国は幻惑技術に長けている帝国らしいんで

 雷撃戦でもしようモノなら

 魔術師以下、華帝国の提督全員に

 煙に巻かれる様な気もするし…」


その映像での二人の談笑を聞きながら

エスカも不意に自分の感想を口にしてしまった。

それを聞いて思わず提督一同は噴き出す。

エスカの様な雷撃戦の名手をして

戦う前から戦意を削がれる相手だというのが

みんなには妙にツボだった。


しかし笑ってはしまったが、

それは本当は笑える冗談でもなかった。


『炎』でイメージされる、

赤色連邦帝国、あるいは別称の炎帝国は、

伝統的に直線的な技術や戦術を得意としており、

固有技術も『エネルギー制御技術』に一日の長がある。


それは、やはり赤からの『炎』のイメージに沿って

汎用的な優位性を示す特性だったのだが

華帝国の様な『幻惑技術』が国家の真髄にまで

染みこんでいる帝国に対しては

逆に『純エネルギー技術』は不利特性であるとも言えた。


『幻惑技術』に関しては

緑帝も赤帝に比べて一日の長がある。

しかし実際に緑帝と交戦し続けての赤帝提督の感想は

『緑帝の所有技術とは、やや赤帝は相性が悪い』

という程度であった。


それに対して、その緑帝をして過去の戦争から


『華帝国とだけは二度と戦争したくない』


と言わしめるほど、

『幻惑技術』が飛び抜けているのが華帝国であった。


故事であり、赤帝の真反対の出来事でもあるので

詳細を赤帝は正確に把握できていないのだが

サファナム宙域で緑帝は200年以上前に

華帝国相手に『華森帝国戦争』を起こした。

その時、侵攻した森帝艦隊を『幻惑技術』で翻弄して

サファナムから撃退したのが華帝国艦隊であった。


困った事に当時戦況を、華帝国は当然として、

森帝国も情報開示しないので、

緑帝が当時どんな酷い目にあったのかは

未だに赤帝には謎のままである。

だが華帝国の固有技術の『幻惑技術』が

森帝国の『幻惑技術』を上回り

その技術によって緑帝の侵攻艦隊を

ズタズタにして追い返したのだけは

容易に予想出来る事であった。

故に、華帝国の『幻惑技術』は

全ての色帝が危険視している固有技術でもあった。


そんな華帝国は、赤帝からすれば

『天敵』に近い存在と思える所である。


銀河座標位置が銀河中枢を挟んで真反対という事もあって

直接交戦はこの1000年、炎帝と華帝には一度も無い。

にも関わらず、赤色連邦帝国は相性問題から

本能的に華帝国を重度に危険視していたのだった。


危険視する別の理由として国政の態度にも問題があった。

よく分からない事なのだが、

華帝国は何故か銀河の覇権に興味が無いらしく、

門前領域での銀河中枢開拓を、ほとんどしていない。

華帝国の門前領域であるサファナムにロクに進駐もせず

サファナム宙域の色帝国艦隊派遣による宙域支配を

『華森帝国戦争』が終わった後の200年、

全くしていないのだった。

そのせいでサファナム宙域は

華帝国のバイパスゲートや星系守護要塞が撤収されており

『通りの悪い宙域』になっていた。

バイパスゲートが無い為、サファナム宙域は

標準のスターゲートと沢山のゲートルートしか無く

標準のスターゲートしか無い為

巨大物体のワープ輸送において

難儀な体積重量制限があったのだった。

そんな航路の悪さは、流通の停滞を生み

流通の停滞は情報の不明瞭さを更に増す。

赤帝が華帝国の内情を調査する為に

諜報員を派遣しようにも、道が悪すぎるので

華帝国内地に行く事すら困難であった。


対立し合っている六色連邦帝国達ではあったが

そこはそれ『大帝国の面子』という奴があり

自分の門前領の交通整備は、

例え敵帝国の諜報員が本国内に入り易くなろうとも

『するものだ』

という色帝国同士の暗黙の了解事項があった。

門前領の交通整備は危険因子を増やすのも事実だが

貿易交易の風通しを良くするというメリットもある。

それゆえ、それを積極的に行わないというのは

『帝国の怠慢』とも『帝国の弱体化』とも

見られるのだった。

何より門前領域に進駐し銀河中枢を開拓して

銀河中枢の『秘宝』を手に入れなければ

他の色帝の銀河支配をむざむざと許す事になるのだ。

それを自ら放棄するというのは、

他の色帝の常識から考えれば

有り得ない国政態度であった。



なら弱小帝国なのか?と言えばそうでもなく


、

六色帝国の中でも、赤、緑、青の色帝は、

三原色帝国と呼ばれており

水、黄、赤紫の補色帝国より

基礎軍事力が、やや強いと考えられていた。

その為、三原色帝国と補色帝国が

1対1で交戦する事になれば、

三原色帝国有利で補色帝国の不利になる

というのが銀河の基本イメージだった。


(そのイメージは、赤色帝国が

 過去からの水緑帝連合軍との戦争で

 初期段階で常に水帝相手に優勢状態を作ったのと

 黄帝の横槍妨害を尽くはね除けた事

 また、かなり古い時代に起きた事だが

 青黄色帝戦争において黄帝不利になった時に

 赤帝が援軍を黄帝に出して赤黄帝連合軍で

 青帝の黄色帝国侵略を撃退した事

 等等の故事に由来している。

 それらの結果だけを見れば

 三原色帝国は補色帝国に対して有利というのは

 正しい見解ではあったのだが…)


その補色帝国である華帝国が、いざ戦争をしてみれば、

過去には緑色帝国とサファナム宙域で会戦して

二度と交戦したくないと言わせて追い返し

今は、海帝国が仕掛けた戦争を受けて

『境界隣接領域』と呼ばれる帝国間隣接領域で

『華海帝国戦争』なる戦争を続けており

華帝国が海帝国の強力な古代要塞ゼロンを無血占領して、

海帝国の軍事バランスを著しく狂わせてしまった。


それは一般的な三原色帝国有利という見解を

大番狂わせにした結果であり

改めて『強帝国』であるという存在感を

内外に知らしめたのであった。


そういう視点では、今の銀河では赤帝と並んで

銀河の話題ではホットな帝国でもあった。


しかし伝えられる結果だけの戦況に対して

航路悪さの問題から内部情報は著しく少なく

『華海帝国戦争』の詳細がどうなのかは

赤帝には過分に不明であった。

海帝国が門前領から中央派遣艦隊を内地に戻して

銀河開拓を停止する事態に陥っているという状況から

華帝国がかなり優勢なのだろうと

類推するしかない程度だった。


そんなミステリアスな所が華帝国の不気味さであり、

最も遠い赤帝をして、重危険視する所以でもあった。


エスカが、ふとぼやいてしまったのも

そんな赤帝全ての潜在的な華帝国への恐怖感から

どうしても生まれる無意識感情であった。


レディン:

「ま、ともかくもだ…

 エスカ提督の内地での

 アルシオン陛下との宮廷模擬戦の

 レギュレーションマッチ戦歴と

 アーツァマリッテ星系会戦での実戦における、

 艦隊戦の戦果を思えば

 この下馬評価の2位も妥当とは思うけどネ…。

 レギュレーションマッチの公開記録では

 エスカ提督は、アルシオン帝に

 22勝35敗11引き分けだしな…

 で、この数字が本当かどうかを知る為に

 実際に戦ってみたわけだが、

 いやぁ、戦ってみれば、

 エスカ提督が、まぁ、強い強い…

 今まで戦った提督も、みんな強かったけど

 雷撃戦で引き分けて、

 俺が命辛々で逃げなきゃならなくなったって

 散々な結果なんで

 このランキングの2位ってのは

 間違い無かったって事よ…」


そう言ってレディンは

自分のギブスをプラプラさせた。


ファン:

「ふーむ…

 引き分けで命辛々で逃げたですかぁ…

 あ、そろそろ映像入ります?」


と、二人で話合っている間に

何かのサインがスタッフから入ったのか

ファンが戦闘映像の話をし始めた。


レディン:

「おう、映像いいよ…

 でも雷撃戦使いは、

 みな企業秘密的に奥の手を持ってるんで

 どんな奥の手を持ってるかとかが

 完全に分かってしまう所は

 いつもの様にカットしてんよ…

 ま、そこら辺は礼儀って事でさ…」


そう言ってレディンはファンと番組側の

戦闘記録映像の公開の要請に言葉を添える。


ファン:

「はい~~分かっていますよ~~~

 それでも、出来る限りの解説はお願いしますね~~」


とレディンの言葉を了承しながら

ワクワクした様子で戦闘記録情報を迎えるファン。


エスカ:

「礼儀を口にするんなら、

 まず銀河辻斬りそのものをするなよ…

 それを映像公開する時点で

 超失礼を通り越しているんだが…」


エスカはそう言って

レディンの言葉に毒づくしなかった。

と同時に冷や汗をダラダラと流す。


今までの水森連合帝国戦争における雷撃戦で、

『明示的』に『ナージェスタ』様を使った事等

実の所、一度もない。


本当は、局所局所で『ナージェスタ』様を起動して

相手から戦闘のペースを少しずつ奪っていくというのが

エスカの戦闘の企業秘密だったのだが、

それを水森連合艦隊との雷撃戦で

『明示的』に対戦相手の提督に示した事は無かったのだ。


しかし今回の襲撃では、

レディンの所有艦『ヴァーユ』と

その駆動機関『イルスキュルト』の

初撃空間攻撃があまりに強すぎて

『胸の宝石飾り』と思わせておいたナージェスタ様が、

反射的に全力防御をして、エスカを助けてくれた。

そのせいで最初から物凄い違和感が

生まれてしまったのだった。


そんなナージェスタの強烈な空間中和圧によって、

エスカの企業機密は初手からレディンにバレてしまった。

皇帝護石ナージェスタの存在は

確かに自分から口にしたのもあるが、

あんな不思議な力のやり取りでは

エスカが口にせずとも、そのうちレディンに

自然に気付かれてしまった事だろう。

だからこそエスカ流の『戦闘儀礼服』として

ナージェスタの事を自らバラしたのだ。


『所有の噂』は既にあったので、

ある程度は公開的にバレていたのだが

皇帝護石の本当の形を見た事がある者など、

赤色連邦帝国ですら筆頭御三家の皇族程度である。

オルフェニウス公国の秘宝石であり

赤帝の皇帝護石でもある『ナージェスタ』様を

縁を加工して胸飾りとして飾っている等と、

普通は誰が思うだろう?


その

『きっと秘宝石など持っていたとしても

 位相空間の奧にしまっているだろう』

という誰もが持つ先入観を突いて、

自分の胸に飾って何時でも力を借りられるという

策略をエスカは行っていたのだ。


それがレディンにバラされてしまうと…


それを思ってエスカは頭を抱えた。


『ナージェスタ』が間違い無くエスカの元にあり

それは胸に飾るレベルで実空間に展開されている

等と知られてしまえば、

これから先に雷撃戦をしかける敵将の腰が

間違い無く最初から引ける。


皇帝護石等という、色皇帝の暗殺を狙う輩からの攻撃を

完全防御する為の強力なフォースフィールドが張れる

国宝複素結晶を持っている者だと分かっていて

何処の馬鹿が、好き好んで雷撃戦を仕掛けてくる

あるいは受けて立つ等、するだろうか?


そんな事が積極的に出来るのは

同じく皇帝護石を持っている者か

皇族所有艦を持っている人間だけだ。


ならばこの情報公開によって

雷撃戦におけるエスカの戦いのリスクが

単純な方向で上がるとは考えれない。

むしろエスカの雷撃戦の強さがブラフではなく

確実なモノとなり、不用心に近付かれるという事が

無くなるだろう。


エスカの単人突破を真剣に考えるのなら

内地に居る事を本国に強要される皇帝族が

それでも無理して出張ってくる等とか

国政が傾きかねないレベルでの

よほどの体制が必要になるだろう。


となると、この情報が公開されれば

それが牽制になって実雷撃戦は有利になるわけだが

その反動で、よりエスカとの雷撃戦による交戦を

全力回避する様に敵軍が動く様にもなる。


つまり相手に籠城戦の行動オプションを

取りやすくさせるという事である。


そんな敵軍の守勢の行動オプションは、

今の戦略会議的には最も好ましく無い流れだった。

だからエスカにはこの情報公開は

あらゆる意味で冷や汗モノだったのだ。


しかし、そこに映った戦闘映像は…


ファン:

「おおっ!

 これがエスカ提督の雷撃戦の様子…

 赤帝の公開情報で

 提督が美人さんなのは分かってましたけど

 いざ雷撃戦で立たれているのを見ると

 凛々しい方ですねぇっ!!

 ……あら?

 戦闘儀礼服はエスカ提督は着られてない?」


と、エスカがミージェを構えて

対峙している絵が映っていたのだった。


レディン:

「ふむ…

 エスカ提督は

 俺と同じで戦闘儀礼服の考え方に

 自分なりのポリシーを持っておられる様でね…

 今の気分高揚の為の装飾華美な儀礼服ではなく

 元始的な防護用の複素結晶を

 位相空間に配置して戦うスタイルが好きなんだと…

 だから、派手な衣装に防御護石を縫い付けまくった

 戦闘儀礼服じゃなくって

 こんな古典スタイルの装束での雷撃戦がお好みらしい…」


そう言って、

レディンはエスカの出で立ちの解説をしたのだった。


その解説の内容を聞いて、思わず安堵の息を盛らすエスカ。

どうやら最初の言葉通り、

雷撃戦使いの奥の手は、企業秘密的にナイショにする

というのを確かに守ってくれるらしかった。

この時の戦闘では

「儀礼服の在り方とは、簡素に護石を配置するべき」

とエスカが『ナージェスタ』の存在を示したのである。

それに対して、今のレディンの言い回しでは、

有ったとしてもナージェスタは位相空間に隠している

といった風に聞こえる。


冷静に考えれば番組放送する事そのものが

普通に無礼千万なのだが、

その言葉使いの印象操作で視聴者を幻惑してくれた事に

エスカはレディンに奇妙な感謝を感じた。

そこには雷撃戦使いの似た様な矜持

『雷撃戦は対峙して戦った、その時に感じろ』

という思いがあるようにも思えた。


ファン:

「あっ!

 このエスカ提督が持っている小太刀ってっ!

 もしかしてっ!!」


その時ファンが、

戦いの様子をカットカットで展開している映像において、

エスカが使っている小太刀に目を付けて嬌声を上げた。


ファン:

「この形状…この刃の発光の仕方…

 これってあの伝説の赤帝の三将

 ジルフィール・ロックフォード提督が

 120年前にヴァーチェで暴れた時に使われた

 ロックフォード家の名刀『ミージェ』じゃないですか!?」


そう興奮して、ファンは映像で映る小太刀を指して

黄色い声を上げた。


レディン:

「ですよっ!!

 あの120年前の、伝説の名刀ですよ!!

 そんな伝説の名刀を使って戦う人と

 俺はこの時、直接やり合ったんですよねぇ~~~

 ちょっと、感動的でしたよ…はい…

 このヴァーチェ宙域では、

 ガキの頃にゃロックフォード中将ゴッコをして

 小太刀でやーやー!!!

 とチャンバラするモンだからねぇ…」


と言ってファンの黄色い声に同調して

同じ様にレディンも黄色い声を上げた。


レディン:

「ヴァーチェ宙域の全体で見れば、

 本来は敵性連邦の将軍だけど

 ロックフォード提督の真っ直ぐな雷撃戦伝説は

 誰の目から見ても、カッコ良いからな~~~

 俺も、ガキの頃はロックフォード提督ゴッコしてたしなぁ

 『命が惜しくば、我が刀の前から立ち去られよ…

  それとも汝が真(まこと)の武士(もののふ)ならば、

  何も言わず、刀が命ずるままに我と戦い給え…』

 ってミージュの模造刀作ってな!!

 だからその本物の『ミージェ』を使う

 お孫さんと戦えたってのは

 それだけで、なんかヴァーチェ民的に熱くなったよ!!

 俺は今、あのミージェと切り結んでいるんだってね!

 う~~~む!!

 もうそんだけで、ヴァーチェ宙域民的には満足だよな。

 これから緑帝艦隊相手に、新しいロックフォード提督伝説が

 120年前のロックフォード提督の様に始まる予感もするな!」


そう興奮してレディンはファンにその思いを語る。

その語りは、半分は冗談も入っていただろうが

声の音の中に、無邪気な子供っぽさが混じっていたのもあり

本音である部分も、過分にある様に思えた。

その言葉を聞いてエスカは破顔するしかない。


エスカ:

「ですって、お爺さま…

 いや~~、お爺さまは、何でか敵性連邦の

 ヴァーチェ民には随分、愛されていますわよ?

 あのレディン・ルークにも、憧れられていたとか…」


と、思わずその言葉に毒づくしかない。

その皮肉に提督一同が、またどっと笑った。

別の意味で赤帝連邦軍に愛されている元帥を思うと

こうも普通にベタ褒めされる元帥に新鮮さを感じる。


とその時、エスカが腕を切られ、その切られた腕を使って

逆にレディンに切り返したシーンが映し出された。

そのシーンを見て顔が強ばるエスカ。


ファン:

「うわっ!!これっ!凄いっ!!

 何なんですかっ!

 この攻撃の応酬っ!!

 切られた腕を使って、

 エスカ提督のミージェがレディンさんを!!」


そう叫んで、レディンの両腕をザックリと斬り裂く

ミージェの様子を見て興奮するファン。


レディン:

「そうなんだよ!!!

 それが、この腕の傷さ!!

 武器を持ってる手を取った!と思った瞬間

 それを逆手に取られて、ミージェでバッサリとね…」


言ってレディンは、アバターでわざとらしく

ギブス腕を見せて楽しそうに腕を振る。

なんで大怪我を食らわされたのに、

その本人がこんなに嬉しそうなのか。

その光景は心理的に理解し難いモノがあったが

少なくともその映像の公開で

レディンは間違い無く嬉しそうであった。


そんな映像の様子と

わざとらしい腕のギブスを見れば、

ミージェがレディンの腕を斬り裂いた光景で

この雷撃戦はエスカの圧勝に思えた。


だが、映像の意味がよく分からない

一般の視聴者はともかく、

実戦で雷撃戦をする者にとっては

その前のレディンの『ソードオブダンス』の雷撃戦技が、

当たり前の様に彼から繰り出されていた事の方が

よほど背筋が凍りつく光景だったろう。


色々なモノに配慮しているのか、

映像の音声を重要な所は消音して

BGMを混ぜていたので、

そのナイフが6階のボゾン刀であるのは

分からない様に細工されていたが

その情報が無くとも映像に映っていた

10以上の高階複素結晶の刃を

同時に遠隔操作する攻撃など、

それ自体がどんな雷撃戦手をも抹殺する

必殺攻撃であった。


高階複素結晶を、直線投射ではなく

軌道変更をして操作するなど、

『それ特化』の武器でない限り、

せいぜい2,3個が限度である。

何故なら体から離した複素結晶では、

複素結晶への本体からのエネルギー供給が途絶し、

空間操作の実効的な運動性や破壊力が

著しく落ちてしまうからだ。


そもそも雷撃戦をしかける相手の艦橋、

相手の『結界空間』が張られている状況下において

攻撃用の遠隔操作のナイフが

これだけ自由に動いているという光景が

雷撃戦の使い手の視点からは根本的におかしいのである。


相手の『結界空間』の中に入り込んだ複素結晶は

相手の結界空間によって、

その運動量をどんどん奪われていくモノである。

その様な相手の『結界空間』に

ナイフの様な武器を投射すれば、

本来は相手の結界空間の作用で

ナイフが完全静止するハズだった。


故に映像の様にナイフが運動量を維持して

刺突を繰り返す等、雷撃戦の常識的には有り得ない。

もし相手の結界空間内でこれを起こそうとするなら

それは相手結界空間に投射する複素結晶が

運動量を奪われ続けて尚、運動量を保持出来る様に

複素結晶内部から逐次エネルギー補填する事であり

それを起こす為に、投射する複素結晶内に

高エネルギーを予め貯蔵する事である。


その様な相手の結界空間を切り裂けるほどの

高エネルギー充填等、戦闘中の刹那で行うのなら

1つか2つ程度しか、出来るわけがないのだ。


そういう常識的な限界数に対して

体から離した複素結晶の素体を、

強制的に5個以上は思念遠隔操作して

相手結界空間の中で

本体と一緒に同時攻撃を行う超高等雷撃戦技

それが『ソードオブダンス』


相手の結界空間で凝固されないように

複素結晶に高密度エネルギーを瞬間複数充填する

大量のエネルギーコントロールと、

相手の動きを予想演算して

思念制御で全方面攻撃のイメージを作る

緻密なイメージコントロール。

この二要素が高度に融合しなければ

繰り出す事もできない雷撃戦技であった。


もっと言えば常識的な『ソードオブダンス』の使い手とは

『ソードオブダンス専用複素結晶』と呼ばれる

エネルギータンクを増設している特殊複素結晶を持ち

通常の近接武器よりもタンク増設分

やや大きな複素結晶に、戦闘前に予めエネルギーを充填して

戦闘中は遠隔操作の空間制御だけに集中する者である。

むしろ『ソードオブダンス』という雷撃戦技は

そんな『専用武器』を持っている者だけが出来る

特殊雷撃戦技といえた。


そして、そんな常識的な使い手ですら

遭遇したら死を覚悟しなければならない難敵である。

まして専用武器も持たず、通常複素結晶に

瞬間的に高エネルギー充填までしてのける使い手など

常識的に居るはずがなく、もしそんな者が居たとしたら

ただの雷撃戦の使い手なら、死ぬしかない。


その『出せたら勝てる者など居ないのではないか?』

と錯覚してしまう程の必殺の攻撃を相手に

しかし、腕を犠牲にして逆必殺の反撃を返すなど

雷撃戦使いとして鍛錬をした事がある者なら

それだけで戦慄するやり取りであろう。


『ソードオブダンス』で攻撃されようが

腕の一本吹き飛ばされようが、そんな事は構わず

圧倒的な不利の中でそれでも勝機を見いだす。

その互いの雷撃戦の技量、

何より『メンタル』のレベルで

どれだけの力量を持つのかは

この映像を見れば雷撃戦使いには一目瞭然であった。


ナージェスタの存在はボヤかしてはくれたが

それでもこの映像だけで

緑帝の敵を戦慄させるには十分と思われる。


だからこそこの映像公開に

エスカは頭を抱えるしかないのだった。



と同時に、雷撃戦使いなら

『ミージェ』の様な9階の光子刀にここまで腕を切られて、

どうしてここから生き延びて逃げる事が出来るんだ?

という疑問が自然に生まれてくるだろう。


9階の光子刀で斬られる等、

A級人類ならそれだけで即死である。


S級人類といえども9階光子での直接打撃など

映像で見える傷以上に体内複素結晶の破損が酷いわけで

即死ではないにせよ、重傷や致命傷を被ったという所だ。

なので雷撃戦使いの誰がどう見ても

この映像からは、この段階で


『勝負有り!』


という評価しかできない。

なにせ、当のエスカ自身が本能以外の理性では

ここで勝負有りだと思ったのだ。

この後の『超インチキ』を直に見るまでは…。


ファン:

「……あの、レディンさん…

 この状態で…赤帝の艦隊から脱出できたんですか?

 名刀ミージェに両腕を切られて、

 物凄い大怪我なんですけど…」


流石の素人でもその違和感に気付いたのだろう。

ファンはその部分を指摘し、その不思議を尋ねた。


レディン:

「いや~~、だからもう大変だったヨ~~

 もうこの後は、映像に見せれない程

 エスカ提督から無様に逃げ回ったからねぇ~~~

 本当に命からがらで逃げ出したってわけで…」


そう言って、レディンは後ろ頭を抱えてワハハハハと笑う。

その言葉にエスカの頬は引きつらせるしか無かった。


エスカ:

「こっちは、この次の瞬間

 私の生きるか死ぬかの確率が

 シュレディンガーの猫状態になって

 命からがらだったけどね…

 いけしゃしゃあと、よく言うわ…この男は…」


そう毒づいて、

エスカは乾いた声を出すしかなかった。

こっちに企業秘密がある様に

レディンにも「とっておき」の企業秘密がある。

それもそれは色帝の皇帝レベルで笑えない機密だった。


映像で示された様な、こんな状況に追い込まれながら、

今は何事も無かったかの様にケラケラと放送内で笑って

自称銀河アイドルと対話しているのだ。

そんな余裕の姿を見せられたら

素人は兎も角、雷撃戦のプロなら

無様に逃げ回ったというのは嘘だと見抜けるだろう。

この映像の後に、この状況下で、

色帝の提督であるエスカが賊を仕留め損なったという

有り得ない大失態が起きたのだ。

となれば、恐らくその時に、

レディンが何らかの「奥の手」を

使ったのだろうという事が容易に想像できる。


エスカが客観的に番組情報からそう思えるのだから

他の雷撃戦使いも同じと思えた。


そう言う意味では、雷撃戦の専門家には

やはり痛み分けの戦いだったと見える映像だ。

レディンの言う「引き分け」というジャッジも

あながち間違いではないと思えた。

どう見ても、致死しかない状況下で「謎の方法」で

互いに生存して自陣地に帰還しているのだから。


少なくともエスカにとっては、その映像を公開されて

相手が「負け」あるいは「引き分け」と主張してくれるのなら

それならそれはそれでいいか、という気にはなれた。


少なくともレディンは「勝った」とは言ってないのだ。

なら赤帝の面子的には十分ではないか…


そう思う。


そうは思うのだが…、

それで良しと笑って流せない

困った内容の放送でもあった。


なにせ、この情報公開で、

エスカの利き腕には、現在、何らかの戦傷が

レディンによって付けられたという事も広報されたのだ。


そう…実の所、

今のエスカは、実空間の肉体の方はともかく、

切断面の有機複素結晶が破壊されて手負いであり

体内ナノマシンを入れて位相空間を緊急治療中なのである。


その内情がこの映像で多くの人間にバレた。


映像では何階のナイフで攻撃されたのかは

明示されなかったので、

10以上の高階複素結晶ナイフでの

『ソードオブダンス』等

せいぜいナイフの階強度は

3階か4階の武器だとしか思わないだろうが…。


これが6階まで深く切られた等と分かれば

雷撃戦の調子が、かなり悪いのだと敵側に知られてしまう。

それだけでエスカにとっては渋面になる事だった。


ただこの戦闘の公開で

エスカの戦闘力は余すことなく伝えられたので

エスカに戦傷有りと油断してノコノコ近付けば、

身を切るのも持さない覚悟で迎撃されるのだと

示した事にもなっている。


それはそれで威嚇としては十分な効果があると思われる。


雷撃戦で最も大事なのは、

持っている武器の最大攻撃力でも無ければ

複雑な雷撃戦技を使いこなす事でもない。

身を切り落としてでも相手を抹殺するという

不退転の覚悟である。


そのハートの強さが、

銀河最強に比肩するのだという事が

この映像公開で示されたのだ。


となると、赤帝と緑帝のお互いの事情を考えて

互いの陣地で睨み合いの膠着化となる…

という流れになっていくだろうか?


常識的に考えれば、そうなるのが自然だった。


それを思って、

エスカも他の提督一同も頭を抱えるしかない。


亀の様に古代要塞に引き籠もる緑帝艦隊を

どうやって引っ張り出すかを

この会議で思案していたのだ。

なのにそこにこんな映像が公開されれば

緑帝の要塞への引き籠もり度合いは、

益々強くなるだけだと考えられる。


それはそれで最悪の事態だった。


だからみんなで円卓の前でその映像公開に

頭を抱えるしかなかったのだった。


そんな、みんなでその場で頭を抱え始めた

その時だった。


レディン:

「ま、銀河でぶらり雷撃の旅をしてりゃ

 こういう事もあるわな…

 それも相手は、この銀河で2位と評価できる頂点様だ。

 戦ってこっちも深手を負うぐらいじゃなけりゃ

 銀河最強の雷撃主なんて話は、お笑い種だね。

 むしろそれくらい強くないと、

 クラーリンとの戦いで持ち帰った戦利品の複素結晶

 その性能テストの試し切りにはならんよ…」


レディンは不意にそう切り出して、

またケタケタと笑いだした。

その言葉を耳にして

エスカは自分の視線を漫然と映像の方に向ける。


ファン:

「そういえば、

 今の銀河でファイトでの雷撃戦旅行は

 前回の大遠征で入手された、

 クラーリンからの戦利品…

 その特殊な複素結晶の

 性能テストでやってる事でしたっけ?」


と、レディンの言葉に合いの手を入れるファン。


レディン:

「そうそうっ!!

 忘れて欲しくは無いんだけど、

 これは俺の宇宙冒険の

 新しいステップに移る為にしてる事なの!

 それを忘れないで欲しいのよ!

 それをね!

 ぶっちゃけ、雷撃戦での勝ち負けなんて

 基本的にはどうでもいいんだよ!

 自分の力が、どうであるか?

 今の雷撃戦の自分の実力はどうなのか?

 それを知る事が、一番大事な事なんだからね!」


そう言ってレディンは嬉々としていた。

その言葉を耳にしてエスカは思わず首を捻る。

それはどういう意味なのだろう?と放送を凝視した。

この銀河で話題の銀河辻斬りが『性能テスト』?

レディンはそのまま続けた。


レディン:

「ま、雷撃戦で、銀河最強にでもならなきゃ

 今、俺達が行く手を阻まれている

 銀河中枢の最大の壁

 あのクラーリンを切り倒す事なんて

 できるわけがないからな。

 一番の問題はそこなんだよ…

 宇宙冒険家にとってはな…」


言ってグルグル巻きのギブスで腕を組むレディン。

エスカはレディンの真意を知ろうと番組に食らいつく。


レディン:

「それに対して、今回の結果は

 俺の実力は、銀河2位にまで肉薄したって事だな!

 まぁ、その結果は俺的には悪くない。

 そして、同時にそれは、

 今の銀河で知られている雷撃戦の使い手の頂点は

 クラーリンの少将級と

 互角に切り結べるって事でもあるわけだ…

 何故なら、今回のこの性能テストは

 俺がクラーリンの少将級を討ち取って

 持ち帰った戦利品のテストでもあるんだしな!」


そう軽い感じで喋るレディン。

その言葉を耳にしてエスカは己の目を見開いた。

クラーリン少将級の戦利品の性能テスト?


『お前、どうやってこれだけの複素結晶

 手に入れたぁっ!!!』


あの時叫んだ、自分の言葉をエスカは思い出す。

エンペリオンはともかく、

ソードオブダンスに使った6階の大量のナイフ…

あんな貴重なお宝をどうやって手に入れるのか?

それは戦ったあの時から眉をひそめていた疑問だった。

しかしクラーリン少将級の撃破と

その戦利品の性能テスト

等というレディンの言葉が出てくると、

その疑問が1つに結びつく。

次から次へとレディンが持ち出してきたインチキ武器…

それ全てが、クラーリン少将級を撃破して

入手した戦利品だったとしたら?

そう考えてエスカは震えた。


ファン:

「そうでした!

 レディンさんが最近ずっと

 『銀河deファイト!』をされてるので

 雷撃戦の通り魔的にみんな思い込んでいましたがっ!!

 元々は、今、レディンさん達、

 ノードノークの宇宙冒険家が、

 宇宙開拓で止まっている宇宙中央深度での

 更なる先へ進む為の試験でされている事でしたよね?」


レディン:

「そうそう…

 ただの快楽戦闘狂だと思われたら

 個人的にはちょっと困るな…」


ファン:

「でも、襲撃してる時って、

 ノリノリでされてますよね?」


レディン:

「まぁな…

 やっぱ人間と雷撃戦するのって会話とか弾んで楽しいし…

 クラーリンと戦う時はレスポンスが何も無いんで

 命懸けで戦ってるのに、躍動感とかは何も無いからな…」


と、元々の背景も説明しながら

この番組も含めて、全部楽しいとばかりに笑う二人。

何の話をしているのか分からない者には

レディンの言っている言葉のニュアンスは

少々、理解し難かったと思われる。

しかしクラーリンと直接交戦した事のある

エスカ達にはレディンの言葉のニュアンスは

痛いほどよく分かってしまった。


そう、命懸けの戦いをしているのに

恐ろしい程に躍動感の無いあの戦いだ…。

それを思い出して項垂れるエスカと会議室の提督達。


ファン:

「いや~~~、

 しっかし、色帝国なんて銀河六大帝国の

 その頂点の雷撃戦使いと肉薄しなければ

 あるいは銀河最強にでもならなければ

 それ以上先に、進む事も出来ないなんて…

 銀河中枢に居るクラーリンというのは

 本当に化け物なんですねぇ…」


そう何気なくファンは一般人の感想を口にする。

それを受けて笑顔を浮かべるレディン。


レディン:

「おうよ!

 真に銀河最強なのは、

 やっぱ銀河中枢に居るクラーリンさ!

 そしてあいつ等が、

 この銀河の全ての謎を守っている

 人類最大の壁でもあるんだ!

 俺が銀河最強に拘るのも

 むしろ、銀河最強のアルシオン帝に拘るのも

 それが一番の理由なのさ…

 アルシオン帝は、この時代で唯一、

 六菱覚醒した真性の色帝だかんな。

 つまり、120年前の故事で言えば

 赤帝のナストア帝の再来だ…

 その雷撃戦の戦闘能力は完全公開されてはないが

 ナストア帝と同等と見ていいだろう…」


そうレディンは淡々と理論的な思考を語り出す。


レディン:

「とすれば、アルシオン帝に挑めば

 そして、かの炎の皇帝と互角に勝負が出来たとするなら

 120年前にナストア帝が刺し違えたという

 クラーリン大将級の戦艦とも戦えるという事になる。

 ま、丼勘定の理屈ではあるがな。

 でも例え丼勘定であっても、俺達、宇宙冒険家で、

 最深度まで到達している最先端開拓グループからしてみりゃ

 その先陣である俺の実力を測るという事は

 命をかけでも調べるに値する事なのさ!

 なんせ俺達の次の相手はクラーリン中将様だしな」

 

レディンは相変わらずの軽い調子で

恐ろしい事を事も無げに口にしたのだった。

赤帝との勝負が目標の1つである等と。

そしてそれは、彼等にとっては

通過点に過ぎないという事も。


そのレディンの発言は赤色連邦帝国の軍人からすれば

看過など到底できない、不敬の発言であった。

その発言だけで赤帝としては、レディンを賞金首として

指名手配をしなければならない程の内容であった。

なのにその言葉を耳にして、更に目を見開くエスカ。

自分の中にあった自分では越えられない固定観念の壁が

レディンのその軽い言葉で、

簡単に粉砕された様な気がしたからだった。


ファン:

「しかし…それで色帝の銀河最強の艦隊に

 単艦で飛び込むというのは…

 単艦で敵艦隊に飛び込むなんて

 包囲されて集中砲火の袋叩きにされないんですか?」


ファンはそんなレディンを言葉を受けて

うーんと唸りながら、素人考えでの

至極当然の疑問を口にする。

そんなファンの言葉にチッチッチと否定の意味で

レディンは腕を振った。


レディン:

「そりゃ色帝の艦隊に飛び込むのは

 確かに命懸けだけどよ…

 それでも、クラーリンの巣窟に飛び込むよりは

 遙かにまだマシだぜ?

 宇宙冒険は危険地帯に自分から飛び込んで

 そこから生き帰ってナンボの商売だかんな…

 むしろ色帝の艦隊に飛び込んで

 生きて帰ってこられない程度じゃ

 銀河中枢を目指すなんて、夢のまた夢だね!!

 クラーリンは色帝艦隊ほど甘くはないからな!」


レディンはそこで

銀河の六大帝国の全てを敵に回す様な

とんでもない不遜の発言を重ねた。

それを聞けば、色帝の誰もが激高し

レディンの首を、帝国全体で動いて取るという

帝国会議議案が帝国議会において全会一致で

可決されてしまうような

そんな果てしなく不遜な発言であった。

だがその不敬な言葉が

エスカ達その作戦会議に参堂している

全ての提督の胸を貫いた。


『クラーリンは色帝艦隊ほど甘くはない』


その言葉。

その言葉は、色帝で本国内勤で活動している

調停監査の方の連邦艦隊所属のスタッフなら、

ただ激高するだけの言葉だった。

だがエスカ達、第17艦隊は

その言葉に激高できなかった。

その言葉は正に真実だったからだった。

その場に居た提督達全員が

その言葉に誘われて昔の事を思い出す。


昔の事で、統合本部より、

再編成されたばかりの第17艦隊は

自分達の銀河中枢での実力を自覚する為にと

アリッソ宙域から探査ルートが延ばされている

宇宙開拓ルートに派遣され、

『その入口付近でのクラーリン艦隊』と

試しに戦わさせられた事があった。

それは中央派遣艦隊として編成される色帝国艦隊の

通過儀礼的な初任務とされており

先任で中央派遣艦隊として銀河中央で活動していた

第16艦隊まで、全艦隊が通って来た登竜門であった。

そして、後に敵性である色帝艦隊と戦えば

並み居る敵艦隊を次から次へと

蹴散らしていった第17艦隊も

その最初の『試し』にクラーリンと戦わされた時は

ボロ雑巾の様に返り討ちにあったのである。


その再編成時点で、全中央派遣艦隊内を眺めて

雷撃打撃では最高の突破力を持つと評価された

第17艦隊が、クラーリン艦隊の戦闘では

子供の手を捻るかの様にズタズタにされたのだった。

その時のクラーリンとの戦いは、エスカの雷撃戦の奮闘で

なんとか敵旗艦を討ち破り

間隙を突いてクラーリン艦隊の包囲網を突破して撤退し、

痛み分けの辛勝として、

這々の体で門前領に帰還したのだった。

しかし12支柱国自慢の新鋭打撃戦艦は

その戦いで打ちのめされて大破状態になり

門前領のアリッソ宙域から、

更に奥にある玄関領のルクセア宙域まで帰還して

ルクセア宙域にある

『赤色連邦帝国機動天体要塞ザグバルツ』

の修理工房で、緊急修理を余儀なくされた。


普通は機動天体要塞の修理工房で緊急修理など

負け戦をした艦隊にしか有り得ない不名誉な事である。

しかしクラーリンとの泥沼の戦いで

駆動機関の複素結晶までダメージを受けてしまった以上

恥辱に塗れても、

ザグバルツでの緊急修理を受け入れるしなかなった。


艦隊戦で敗戦した時以外、動くハズがない

ザグバルツ修理工房での緊急修理。

大破した自艦隊を、本土の帝国予算の多くを使って

機動天体で緊急修理する…。

その修理されていく光景を見続けて

それで勝った等、誰が思ってくれようか…

前任の帝国内調停艦隊として

猛威を振るっていた頃の第17艦隊では

考える事もなかった初めての敗戦。


その時の身も震える恐怖の体験を思い出す提督達。


だからこそ自分達の無様な辛勝を踏まえて


『クラーリンは色帝艦隊ほどは甘くない』


というレディンの言葉に

悔しいほど率直に頷かなければならないのであった。





そうだ…


『この銀河はクラーリンに支配されている』


と言ってもそれは過言では無かった。





大帝国を尊称する六大帝国も、いざ銀河中央に討って出れば

銀河中枢に居るクラーリン達に

赤子の手を捻るかの様に簡単に撃退されるのだ。

それが現実だった。


一体、その有様の何処が、

六色帝国こそが銀河を制している覇権国だ

といえるのだろうか?


この現状は、クラーリンが銀河中枢に引き籠もっているから

なんとか六色帝国時代として、均衡が保たれているだけであり

もし銀河中枢にひしめいているクラーリンが

怒濤の様に全軍で銀河外周に侵攻して来たなら

六大帝国の尽くは宇宙の化け物、クラーリン達に殲滅されるだろう。


それが実感を伴った色連邦帝国達の実情であり

大帝国の矜持の裏に隠された、潜在的な恐怖感でもあった。


レディン:

「まぁとはいっても

 色帝の艦隊がズラリと並んだ艦隊から逃げるのと

 クラーリンから逃げるのは、勝手が全く違うけれどな…

 それはこの銀河の最大級の謎だよ…

 そして宇宙冒険家の誰しもが

 不思議に思う奴等の特性さ…

 『クラーリンと戦う時は、大艦隊で押し寄せても無駄』

 ってのはな…」


そう言ってレディンはギブスの手で自分の頬を撫でる。


ファン:

「そう言われるとそうですね~~

 う~~ん、時間もまだ残っていますし

 ではレディンんさん、

 宇宙ミステリーとして

 ここからは第一線で銀河開拓をされている

 銀河一の宇宙冒険家として

 『銀河の化け物クラーリン』の特徴について

 お話し頂けますでしょうか?」


言ってファンは話題の興味を移し

そのマイクをレディンに向けた。

生放送ならではの興味のフットワークの良さであろうか?


レディン:

「ほう…そう来たか…

 う~~ん、そうだな…

 ま、むしろ俺はそっちの方が本業だしな!

 じゃぁ、宇宙の化け物

 クラーリン様の特徴をおさらいをしようか!」


ファン:

「はい!お願いします!」


そんな二人のやり取りで、話題の中心が移って

『銀河の化け物・クラーリン』の

一般的なおさらいを番組内でする事になる。

クラーリンの特徴などエスカも重々承知の事ではあったが

何かこの宇宙冒険家が自分の知り得る知見以外での

面白い知識でも持ってないだろうかと、

思わずその内容に耳を傾ける。

そんな風に赤帝の提督に注視されている事も知らず

レディンは淡々と宇宙怪獣について語り始めた。


レディン;

「銀河の化け物『クラーリン』

 そう呼ばれる無人の宇宙戦艦艦隊が

 この銀河には存在している。

 そして、その『クラーリン』は、

 何故か銀河中枢に侵入する者を迎撃し、

 銀河中枢を守る様に存在している。

 これがクラーリンの最初の特徴というか、大前提だな…

 宇宙怪獣『クラーリン』

 人類が銀河中枢を奪還する上での最大の壁で、人類の敵だ。

 その『クラーリン』は、通説では、

 1000年前に起きた革命戦争において

 『流血の女皇帝』が銀河中枢・汎銀河帝国本土防衛用に用いた

 本土防衛艦隊だと考えられている。

 つまり汎銀河帝国から残された残兵って事だ。

 その真偽は定かではないけどな…

 なんせ、それに関する正確な情報は、各色帝の思考天体達が

 何故か1000年前に、焚書してしまっている…

 これも不思議な話で、この銀河の最大級のミステリーだ。

 1000年前の革命戦争についての詳細情報は

 色帝の思考天体の全てによって尽く焚書されているというな。

 ともあれ、1つだけ確かな事は…

 奴等は間違い無く銀河の中枢に存在し

 そして銀河中枢に侵攻してくる敵を…

 まぁ敵ってのは俺達、

 宇宙冒険家か、色帝の銀河中央突破艦隊の事だが…

 その侵攻艦隊を排除する様に動く。

 これが基本だ…」


ファン:

「はいっ!

 銀河の中枢を奪還する為に頑張ってる人類を阻む

 人類最大の敵ですね!」


レディン:

「そうだ…

 そして、これが一番クラーリンの不思議な事だが…

 特徴の2つめとして…


 『クラーリンは、何故か、

  侵攻してくる敵と必ず同数の数で、迎撃しにくる』


 だ…


 例えば、

 1000隻の艦隊で侵攻すれば1000隻のクラーリンが。

 1万隻の艦隊で侵攻すれば1万隻のクラーリンが。

 クラーリンは、常に侵攻してくる艦隊と

 ほぼ同数の数で迎撃艦隊を出してくる。

 常時完全に同数とは言えないが…

 それでも1000隻対2000隻とか1万隻対3万隻とか、

 クラーリンの方が多数という事は

 公開されている記録上では1つもない。

 この性質……

 『鏡面量性』と呼ばれているが、

 この性質のおかげで、俺達『宇宙冒険家』なんて

 不思議な職業が成り立つ事にもなっている」


ファン:

「と、いいますと?」


レディン:

「この性質の応用だよ…

 この性質を応用すれば、だ…

 同数の艦隊のクラーリンしか現れないから

 『1隻の艦で侵攻すれば、1隻の迎撃艦が出てくる』

 という不思議な現象が起きてしまうんだ。

 クラーリンと戦う場合においては、小数精鋭の方がいいんだ。

 なので、単純な事を言えば、

 ただ単艦が強い奴だけが居れば、

 宇宙の奥深くに、どんどん侵攻できるってわけだ。

 ぶっちゃけ銀河最強の戦艦が1隻存在して

 それで全てのクラーリンを撃破していけば

 銀河の最深部までたどり着ける事になる。

 宇宙冒険家の、宇宙開拓の歴史を振り返れば

 その認識はあながち間違っているわけでもない。

 …とは言っても、宇宙の奥深くに進むには

 もう一度スターゲートを開設する必要があるからな。

 スターゲート建造組織が必要で

 その建造部隊が、簡易のスターゲートを作れたら、

 そこからクラーリン支配星系へ、

 斥候部隊として小数精鋭で殴り込むというのが

 クラーリンと戦う場合の、だいたいのスタイルになる。

 そこで宇宙冒険家は、3隻から6隻の集まりで

 クラーリン支配宙域に侵入して宇宙開拓をするわけだ。

 これが宇宙冒険家の宇宙開拓における定石だな…」


そう言ってレディンは、宇宙の化け物達の

しかし、あまりに不思議で、お茶目な性質を口にした。

常識的に考えれば、

銀河中枢に人類を絶対に侵入させたくないのなら

常に大軍のクラーリン艦隊で侵入者の元に駆けつけて、

小数の宇宙冒険家を撃滅すればいいハズである。

そうすれば、大艦隊を編成できる色帝以外

銀河中枢に殴り込める者は居なくなる。


だがその性質…『鏡面量性』によって

クラーリンは常に侵入者と同数の艦隊で迎撃に出て来るので、

大帝国の物量作戦が、逆に徒と成るのだった。


大帝国の物量に頼って銀河中枢に攻め込めば

それと同数のクラーリン艦隊が出現し

彼等の独特の性質を踏まえて

泥沼の艦隊戦になって殴り合わなければならなくなる。

同数戦になれば単艦性能の性能差で消耗戦になるのだから

クラーリンより性能が劣る戦艦で侵攻すれば、

悪戯に兵力を損耗するだけであった。


故に少数精鋭での侵攻開拓は、宇宙冒険家だけでなく

色帝が指導する公的宇宙開拓組織でも

定石の開拓方法であった。


この重要な特徴によって

クラーリンと戦うという行動のみにおいては

大帝国の優位性は、ほとんど無かった。


そんなクラーリンの不思議なシステムの穴を突いて

『宇宙冒険家』という、小数精鋭で尚且つ、

色帝に帰属するのを良しとしない自由集団が

独自に宇宙開拓ができるという

奇妙な現象が同時に起きてしまったのだ。

『宇宙冒険』という、この銀河の珍現象の1つである。


ファン:

「不思議な性質ですよね…

 なんというか、

 騎士道精神に溢れているというか…

 常に侵入に対応するだけの同数が出てくるという事は

 実際には銀河中枢のあちこちに、

 物凄い数のクラーリンが居るって事でしょう?

 なのに侵入してくる数だけでしか

 迎撃に出て来ないなんて…」


レディン:

「うん…確かに不思議な話だ。

 しかしそのおかげで

 宇宙冒険家って職業が成り立つんだから

 俺達にとっては、クラーリン様々でもある…

 色帝の様な大組織であっても

 クラーリンが相手になると、

 個人運営の宇宙冒険家にも遅れを取るのは

 正にこの『鏡面量性』の性質のおかげだからな…」


ファン:

「個人経営者にとっては

 色帝も舌を巻くほどの有りがたい存在なんですね

 クラーリンって…」


レディン:

「ふむ…そうだな…

 ただそれは『クラーリンと戦えれば』の話だけどな…

 クラーリンが1隻しか現れないとしても

 それを倒せなければ何の意味もねぇし…

 だから、特徴その3だ…


 『クラーリンは雷撃戦でしか倒せない』


 これだな…

 俺が雷撃戦で銀河最強に拘るのも、このせいだ…」


そう言ってレディンはにこやかに笑った。

その大事な特徴を耳にしてエスカの表情も硬くなる。

『雷撃戦』

クラーリン討伐においての最大の武器…。


ファン:

「本当にクラーリンってのは

 雷撃戦でしか倒せないんですか?」


そんな不思議な文言にファンはその真偽を尋ねる。


レディン:

「いやぁ、本当は違うんだけどな…」


その問いかけにレディンは困った様な顔になって

頬を引きつらせながら返事を返した。


ファン:

「本当は違う??

 何が違うんですか?」


レディン:

「うーん、違うというかなんというか…

 本当のクラーリンの特徴は


 『打撃戦に異常なまでに強く

  遠距離攻撃からのシールド技術が

  我々の持っている技術を遙かに越えている』


 なんだな…

 光子魚雷使って遠距離で撃ち合えば

 あいつ等と勝負なんか、永遠につかんだろう…

 だから雷撃戦で中枢部を破壊するしか

 クラーリンを討ち取る方法が無いんだよな…

 だから雷撃戦でしか倒せないって話になってる。

 そして普通の宇宙艦隊戦では有り得ない事だが

 俺達が雷撃戦を仕掛けにかかると

 クラーリンは光子魚雷での迎撃を辞めて、

 雷撃戦を積極的に受けてくれるんだ…

 人間が乗っている宇宙艦隊では

 まず回避が優先される雷撃戦への持ち込みが

 逆にクラーリンは逃げずに受けてくれるわけだ…

 これが宇宙冒険家なんて職業が

 更に成りたつ理由だな…」


言ってレディンは笑った。

その笑いに釣られてエスカも笑う。

そう…

雷撃戦が不得手な艦隊司令官なら

艦隊運動で全力で回避する

艦隊戦術『雷撃戦』

この雷撃戦に、どうやって持ち込むかが

雷撃戦使いの艦隊指揮の腕の見せ所なのだが

有り難い事にクラーリンという宇宙の化け物は

挑み掛かったらオールオッケーで

その雷撃戦を受けてくれるのである。

それはエスカの様な雷撃戦手にとっては

涙が出るほど有り難い性質であった。


ファン:

「そう言われると、嬉しい存在にも聞こえますね…

 宇宙の化け物、クラーリンって…」


レディン:

「雷撃戦で勝てればな…

 それは強者の余裕という奴かもしれん…

 『チャンスをやろう?雷撃戦で勝ってみせろ?』

 って感じか?

 それほどクラーリンの中にある

 中央機関のリンクコアの強さといったら、

 まぁ話にならんわけで…」


言ってレディンは頭をかく。

そのレディンの言葉にエスカも笑った。

雷撃戦を艦隊運動で回避せず積極的に受けてくれるのは、

確かに有り難いのは有り難いのだが、

中にあるモノと戦う事を思えば

『雷撃戦』が楽か?と言う事にはならない。

ゼロ距離近接して白兵戦を行う雷撃戦で負ければ

そこで自分も艦隊も全滅なのだ。

つまり、クラーリンと戦うという事は、

常に一か八かの博打戦を強要されるという事でもある。


ファン:

「しかし、どうしてクラーリンって

 そんなに強いんですか?

 銀河最強の雷撃戦使いを目指さないと

 とても太刀打ちできないなんて…」


そんな説明だけなら規格外の強さを解説されて

ファンはまたしても疑問を口にするしかなかった。


レディン:

「『太陽を食らうモノ』」


その問いかけを受けた時、

レディンは不意に真面目な表情になってその言葉を呟いた。

その言葉を耳にして同じ様に真剣な顔になるエスカ。


ファン:

「ん?『太陽を食らうモノ』?

 それは?」


ファンはレディンの不思議な言葉を諳んじて、それを尋ねた。


レディン:

「御伽話さ…

 だが、クラーリンの語源でもある…

 『太陽を食らうモノ、クラーリン』

 そういう御伽話があって、

 それに似た動きをするから

 奴等の事を誰かがクラーリンと呼び始めたらしいんだ…」


ファン:

「へ~~

 それはどんな御伽話なんですか?

 クラーリンの語源の御伽話なんて…」


レディン:

「クラーリンの語源の御伽話か…

 アレはよくわからん御伽話なんで

 聞いても面白くもクソもないんだけれどな…」


ファン:

「いや、でも人類の敵、

 クラーリンの語源になった御伽話ですよね?

 なら聞いてみたいですよ!」


レディン:

「ふーん、いやでも、全然面白くもないし

 寓話性もない御伽話なんだぜ?

 そもそも御伽話になってんのかも、アレは謎なんだが…」


ファン:

「そういう風な不思議な事を言われると

 益々聞いてみたくなりますよ!!」


レディン:

「そうか…

 まぁ、宇宙冒険家の間でよくネタにされる御伽話だし、

 ここはそんな笑いも込めて…

 その語源の御伽話も含めて解説してみるか…」


ファン:

「はいっ! お願いします!!」


そんなやり取りの流れでレディンは

クラーリンの語源になったと言われる

宇宙の御伽話を口にする事になった。

その御伽話を思い出して、エスカも渋い顔になる。


レディン:

「では…

 御伽話

 『太陽を食らうモノ、クラーリン』

 


 昔、昔、ある所に宇宙怪獣が居りました

 その宇宙怪獣の名前は『クラーリン』

 

 『クラーリン』は太陽を食べて繁殖する宇宙怪獣です。


 太陽を食べては生まれ、

 生まれたクラーリンは、また別の太陽を食べる。


 そうやって生きて、そうやって増える宇宙怪獣。

 クラーリンは、そんな宇宙怪獣でした


 クラーリンは生物本能のままに太陽を食べ続け…

 沢山増え続けました。


 本能のままに増え続けたクラーリンは

 際限なく太陽を食べたので、

 周辺の太陽という食料は直ぐになくなってしまいます。


 仕方なくクラーリンは新たな食源である太陽を求め

 銀河の全てに広がって行きました。

 

 クラーリンは食べて増える為に

 銀河の何処までも広がって太陽を食べました。


 そうして銀河の全てに広がれば

 太陽の全てはクラーリンに食べ尽くされ

 銀河の中に太陽は無くなってしまいました。

 

 太陽という食べモノを失ったクラーリンは

 やがて餓死していき、

 クラーリンは遂には全滅してしまいました。


 また太陽を食べ尽くされた銀河も

 光輝く白き星の大河を失い

 全ては漆黒の闇に飲み込まれて、

 無くなってしましたとさ…


 めでたし、めでたし…



 って内容だな…」


ファン:

「………

 ……何ですか、

 その寓話性の1つもない御伽話は?」


レディン:

「さぁな?

 何でこれが御伽話になってんのか

 未だに俺もさっぱりワカランのだが…

 ただ、俺が子供の頃から、親父ら冒険者仲間から

 酒のネタで聞かされてきた御伽話でさ…

 

 『太陽を食らうモノ、クラーリン』


 という、この御伽話のあまりの寓話性の無さと

 それがあの宇宙の化け物、クラーリンの挙動に似ているんで…

 この御伽話の『宇宙怪獣クラーリン』から

 奴等の事を伝統的にクラーリンと呼ぶ様になったんだと…」


ファン:

「似てるんですか?

 そのよく分からない御伽話と

 銀河の化け物、クラーリンは…」


レディン:

「どうだろうな?

 俺達が戦ってるクラーリンは

 強さこそ化け物という言葉に相応しいが

 外面は普通の宇宙戦艦だからな…

 見た目では『宇宙怪獣』なんて印象は無いな…

 直に戦っていれば

 その強さは正に『宇宙怪獣』って思うから

 『宇宙怪獣』でもいいとは思うが…」


ファン:

「ならどうして、クラーリンって呼ぶんです?

 外見が宇宙怪獣でもないんなら

 その御伽話と何の関係も無い様な…」


レディン:

「それがクラーリンの特徴4さ…

 特徴3にもこれは関係もしてるがな…

 クラーリン…

 いや正式には『クラーリン型宇宙戦艦』だが…

 奴等は太陽エネルギー補充システムを

 単艦でオールインワンしている

 『太陽動力炉』を持っている型の特殊戦艦だ…」


ファン:

「太陽動力炉?」


レディン:

「太陽放射エネルギー収拾ネットってあるだろ?」


ファン:

「はい…

 あの巨大な太陽風エネルギー収拾ネットですよね。

 太陽付近に広げられているエネルギープラントで

 私達へのエネルギー供給の要ですけれど…」


レディン:

「奴等はあの大きさで

 人類居住可能惑星の状態維持用の太陽風エネルギー収拾ネットと

 同じだけのエネルギーを捕獲できる、

 特殊変場フィールド発生装置

 いわゆる『太陽動力炉(サン・イーター)』を持ってるのさ。

 それが打撃戦では、クラーリンに勝てない最大の理由だ。

 奴等は、太陽付近に布陣し『太陽動力炉(サン・イーター)』で

 半無限状態で太陽からエネルギーを補充し

 自己内で高階光子魚雷弾を生成して迎撃射撃を続け、

 太陽エネルギーを無尽蔵に使って

 強力なフィールドバリアを展開するんだ。

 この無尽蔵にエネルギーを使う状態になってしまうと

 遠距離からの打撃戦では、奴等のシールドが貫けず

 こっちのエネルギー切れになって打撃戦が継続できなくなる。

 いわば、太陽と戦っているかの様な状態にさせられるのさ…

 そんな『太陽動力炉』を常に持った戦艦

 それを『クラーリン型宇宙戦艦』って呼ぶんだな…

 太陽をムシャムシャ食って増え続ける

 宇宙怪獣『クラーリン』の御伽話になぞられてな…」


ファン:

「へぇぇ…『太陽動力炉』と

 『クラーリン型宇宙戦艦』…ですか…」


レディン:

「そそ、クラーリン型宇宙戦艦。

 ま、太陽動力炉ってのは、そこまで珍しい技術でもないし

 大きささえ無視すれば、

 太陽風エネルギー収拾ネットだって

 『太陽動力炉(サン・イーター)』と同じモンだ。

 色帝でも『クラーリン型宇宙戦艦』って

 持久力とサバイバビリティが異常に高いレア艦がある。

 しかし銀河中枢に居るクラーリンほど

 コンパクトな太陽動力炉を持ってる宇宙戦艦は、

 銀河中で探しても、色帝古代戦艦の中にしか居ないな…

 それこそ、アルシオン帝…というか

 オーラクルム皇国の皇王旗艦

 『ルード・マルフィニア』なんかがそうだな…

 アルシオン帝が、昔、ニルグルヴァ宙域で

 『ルード・マルフィニア』で暴れ回っていた時なんざ

 門前領にクラーリンが居るのかよって思うぐらい

 酷い傍若無人だったしな…

 クラーリンと対峙する現実的なイメージは、あんな感じかな…

 ともかく『太陽動力炉(サン・イーター)』ってのは

 そんな汎銀河帝国の時代に生み出された技術で

 今の人類は失伝してしまったロストテクノロジーさ…

 それをあの銀河中枢に居るクラーリン達は

 全てが当たり前の様に持ってるのさ…」


ファン:

「へぇぇぇ~~~~~~

 それがクラーリン!!」


レディン:

「そう、それがクラーリン…

 と同時に、奴等と戦って破壊したその残骸は

 そのまま汎銀河帝国時代の

 ロストテクノロジーの獲得になるわけだ…

 いわゆる、宇宙冒険家の財宝入手って奴だ…

 『一攫千金にはクラーリン』

 これも宇宙冒険家にとっては、銀河の標語だな…」


ファン:

「はへぇぇぇ…

 なるほどぉぉ

 銀河deファイト!を長い事、司会してきましたが

 それは初めて聞きましたぁ…

 レディンさんの雷撃戦旅行は

 そういうクラーリンと戦う為の

 深い深い事情があったんですねぇ…」


レディン:

「ああ、そうさ…

 それは、特徴その5に関係だな…」


ファン:

「特徴その5?」


レディン:

「銀河中枢に行けば行くほど、

 クラーリンの強さが跳ね上がり

 奴等の階級レベル…

 『尉官級』『佐官級』『将官級』と戦艦強度が上がっていく。

 また、宙域エリアセクションのボス戦艦を倒すと

 その宇宙エリアは人類が奪還でき

 以降、クラーリンはそこに再奪還をしに攻めて来る事はない…

 これが『宇宙開拓』という言葉が使われる所以だな…」


ファン:

「それも不思議な特性ですねぇ…

 クラーリンは銀河中枢を守っているのに…」


レディン:

「ああ、そうだ…

 不思議で尚且つ、有り難い話さ。

 宙域開放さえすれば、人類がその宙域を奪還できるんだからな。

 そして俺達ノードノークの宇宙冒険家は

 この前の大規模遠征で『少将級』のエリアボスを討ち取って

 少将級宙域の奪還に成功した…

 強行侵攻でエリアボスも倒さずに銀河中枢に走った

 120年前の赤帝のナストア帝みたいな

 後でクラーリンに宙域の再奪還をされるような

 急進的な侵攻じゃなく、

 エリア開拓をしての一歩一歩の確実な開拓で

 安全侵攻ルートを作って来たんだ…

 宇宙冒険家ってのは、

 派手な様で、本当は地道な宇宙開拓者なんだぜ?」


ファン:

「うううう!!

 そんな事を聞くと、

 もう少しで、我々ノードノーク民が、

 銀河深淵に到達できてしまいそうですねぇ!」


レディン:

「そうだな! 銀河深淵までもう少しだ!!

 ……って、喜びたい所だが…

 『少将級宙域』を開放したって事は

 次に隣接するのは『中将宙域』って事で、

 それが大問題なんだよ…。

 大規模な開拓遠征には、

 ……特に最深部への開拓には

 スターゲートの開通の様な

 開拓支援船団も伴わなければならないんだ。

 スターゲートを建造して進む以上

 確実に宙域開放できなきゃ

 支援船団のゲート開拓工事も徒労に終わる…

 となると、次に大規模遠征する時は、

 必ず出てくる『中将級クラーリン』を

 確実に仕留めなければならんのさ…

 だからこその、銀河で雷撃旅行をしての

 腕試しだったわけだよ…」


ファン:

「なるほどぉぉぉ!!!

 そこで銀河の2位と引き分けですか…」


レディン

「そういう事…

 まぁこの両手の有様を見て

 引き分けと言っていいのかどうかだがな…」


ファン:

「うーん、これは赤帝からの公式アナウンスを

 待つしかないですねぇ…

 この映像を見て、果たして赤帝はどう判断するのか!!」


レディン:

「ま、俺もエスカ提督と戦って分けたとはいえ

 お互いに手の内をバラし合ったからな…

 互いに手の内を見せ合ってる今の状況で

 もう一度、直ぐにリベンジマッチとかも無いよ…

 少なくとも今回の雷撃戦で、今の俺の装備では

 銀河最強の男、アルシオン帝に挑むのは

 かなり危ないって事は分かった。

 って事は、クラーリン中将級とやり合うのも

 万全とは言い難いってこった…

 それが今回の宇宙冒険の収穫だな…」


ファン:

「むむむ!!

 レディンさんをして、まだ力不足と言わしめる…

 やっぱり銀河は広いですねぇ…」


レディン:

「ああ、そうだな…

 銀河はまだまだ、俺が最強になるには広すぎるな。

 となると暫くは腕の治療も含め

 本業の宇宙冒険家に戻って

 佐官あたりのクラーリンを凹って

 複素結晶の更なる補充をするって所かな…

 もっと武器を集めて確度を上げなければ

 アルシオン帝に挑むのも、

 中将級クラーリンに挑むのも危ない危ない…

 宇宙冒険家ってのは見た目の派手さとは裏腹に

 こんな感じで地道な調査と下積みを重ねて

 力を付けるモンなのさ…」

 

ファン:

「はうぅぅ

 そうなると、もしかして銀河deファイト!は

 今回のこの特番で終了って事ですか!?」


レディン:

「まぁねぇ…

 俺の都合でやってる事だしねぇ…

 俺はこの後の予定は、クラーリンの討伐なんで

 次からは、『宇宙冒険家がクラーリンを斬る!』

 とかに番組変える?」


ファン:

「はうう!!!

 それいいです!!それ!!

 私のレギュラー番組無くなっちゃうしっ!

 それは困るんで、

 銀河の皆さんもクラーリンとの戦闘模様も

 きっと興味津々でしょうから

 その企画…えっと、スタッフさん、どうですか?

 ………

 あ、はい! おっけーみたいです!

 っていうか、スタッフさんも番組無くなっちゃうと困るんで

 クラーリン討伐の番組企画

 次回からそれで行きましょう!それで!」


レディン:

「ふむ…

 クラーリン討伐か…

 なんか、久しぶりな感じもするな…

 元々、こっちが本業だったハズなんだが…」


等と、その二人は弾丸トークと諾々と続けた。

その弾丸トークを食らい脳味噌が白くなるエスカ。


『エリアボスであるクラーリン中将級の討伐』


それがレディンの真の目的だと分かり呆然となる。

銀河辻斬りで遊んでいる様で、実は命懸けのミッションに

下準備と下調べを入念にしている行動であった

という事が本人の口から明かされたのだ。

色帝の艦隊に殴り込む等、正気ではない行動だが

『クラーリン中将級に必ず殴り込む』等

もっと正気ではやれない事に

挑まなければならないのなら

先に言っていた様に

『色帝の艦隊に飛び込んで、生きて帰れない程度じゃ

 クラーリンと戦うなんて夢のまた夢』

とは、正にその通りである。

エスカはそんなレディンの

軽い口調で述べられた命懸けの宣言に

思わず自分の手の平を広げて

それを見つめるしかなかった。

自分はクラーリン中将級と雷撃戦をして

それを討ち取る事が出来るだろうか?

それを己の手の平に問いかける。


ファン:

「…はい?スタッフさん?

 ………

 ああ!はいっ! もうそんな時間ですか!

 さてさて、

 では、そろそろ時間も頃合いになってしまいました!

 と言うわけで、緊急特番 『銀河deファイト!』は、

 どうも今回で一時、番組終了となる様です!

 銀河一の宇宙冒険家レディン・ルーク氏の

 銀河雷撃戦旅行は、

 銀河ランキング2位のエスカ提督と引き分けで終了!

 という感じになると思われます!!」


レディン:

「赤帝にはエスカ提督と2位でタイと評定して貰わんと、

 面目的にもう一回エスカ提督と

 やりあわんとならんしな…

 赤帝の評価が同立2位だとお互いに嬉しいな…」


ファン:

「ですねぇ…

 ともあれ、戦闘記録では互角の勝負が出来ているとも

 見る事が出来ました!

 銀河ランキング2位と互角となれば

 残すは銀河最強の雷撃手、アルシオン帝一人のみ!


 これからもレディン氏の銀河最強を目指す冒険の旅は続く!

 頑張れレディン氏!

 負けるなレディン氏!

 ノードノークの希望の星よ!!

 みんなは、貴方の活躍と

 銀河最深淵部に到達する日を待っている!


 …という事で、次回からは

 レディン・ルーク氏の銀河の化け物

 『クラーリン討伐紀行』の始まりになると思われます!」


レディン:

「強引にまとめたな…ファンちゃん…」


ファン:

「仕事ですから!!

 いやーしかし、この番組が終わると思うと、

 なんだか少し感慨深いのもっ!!」


レディン:

「まぁ終わるとなると、俺もちょっと感慨深いな…」


ファン:

「しかし、終わらぬ旅など有りません!!

 そして、新しく始まらない旅も有りません!!!

 それでは、この番組は

 ここで一先ず、終了したいと思いますっ!

 最後に、この番組の司会は

 いつもニコニコ元気で人気!

 銀河のアイドル突撃リポーター!!

 ファン・メイがお送りしました~~

 それでは、銀河のみなさん~~~

 さようなら~~~~

 さようなら~~さようなら~~さようなら~~~~」


そうして、そのノーテンキで不躾で品のない宇宙放送は、

言いたい放題、やりたい放題の映像を発信した後

途切れたのであった。

唐突に終わって、映像が途切れ

夢見状態から突き離されて現実に戻された皆は、

夢から目が醒めた時の様に呆然となる。

その直ぐ後には互いに顔を見合って


『これどうするよ?どう反応するよ?』


と目だけで会話をして、狼狽するしかなかった。

レディンの言っている事は、

素っ頓狂な内容の様に聞こえても

しかし宇宙冒険家の目的に対して理路整然としており、

視聴する者に対して妙な説得力があった。

故に色帝国として不敬に激しく激高するというのも

それはそれで大人げない事の様に思えた。

少なくとも相手は『クラーリン少将級の宙域開放』

という色帝ですら経緯を払わなければならない

輝かしい実績を示しているのだ。

それを踏まえて相手と対峙しないのは

逆に色帝の無能を喧伝している様なモノである。

賞賛される実績を持つ者には、それ相応の敬意を払う。

それが大帝国という強者故の尊厳というモノであった。

しかしこの放送でレディンから

帝国の面子に泥を投げつけられたのも事実であり

看過して放置するというのも

帝国の沽券に関わる事であった。

だからこそ反応に困ったのであった。


エスカも、その投げ出されたかの様な終わりに

手を組んでその手に顎を乗せて

沈黙して思案するしかなかった。

しかしその思案は、

他の提督達の狼狽とは全く違う所にあった。


無意識と意識の狭間の境界で、

自己従属複素結晶のオロードとリンクし

その時思いついた戦術案を、

大雑把に見積もり計算をして

それ是非を自分の中で模索する。

超速で可能性計算がオロードとの共同作業で進み

プラン案が複数生まれていった。

そして自分の中でそれらを検討し

ある程度を結論を付けた後に、

エスカはおもむろに口を開いた。


エスカ:

「ギネス准将…

 参考として1つ…

 いや、聞くならば、本来、誰でも良いのだが…

 まぁ私と卿の仲なので

 他の提督よりも問いやすいという理由で、卿なのだが…

 そこで卿に問いたいが…」


とエスカは切り出した。


ギネス:

「はい、何でございましょうか? 閣下…」


そのエスカの言い回しは、

誰か他の提督にこの会議の席でその質問内容を聞くと

連合艦隊という体裁上ではカドが立つ可能性がある時の

慣例的な言い回しであった。

御三家や12支柱国等、各国の出向提督で構成される

中央派遣連合艦隊では、

例え形式上、上司部下という関係であっても

各国家面子への配慮というものが同時に必要だった。

それは全員が長い艦隊活動で熟知していたので

最も話しかけ易い、オルフェニウス公国軍所属で

同国軍内においてもエスカと上司部下の関係であるギネスが

第17艦隊参謀長の立場で自然に受けたのであった。


エスカ:

「では、今の集まって貰っている全提督に

 同時に質問をしているという意図も込めて

 こう問いかけるのだが…

 我々、赤色連邦帝国艦隊の目的とは何だね?」


エスカは、穏やかにそう問いかけた。


ギネス:

「は?

 どういう意味でございますか?

 我が艦隊の目的を聞かれておられますか?」


そのエスカの唐突な質問に流石に呆然として

ギネスは思わず問い返す。

その場の誰もが、先ほどの放送における

エスカの所見表明であろうと思っていたので

予想していなかった方向からボールが飛んできた事に

場の全員が驚くしかなかった。


エスカ:

「いや、本当はそうではないのだが…

 難しい問いかけの様にも思えるので

 範囲を絞って、我が艦隊に限定しても良い…

 では、的を絞ってだ…

 我が艦隊の目的とは何だね? ギネス准将…」


エスカは自分の質問が少し唐突過ぎたかと

そのギネスの反応を見て理解し

思考の範囲を狭めてやる事にした。

今、出しているエスカの結論は

瞬間的にオロードとリンクして

二人で大雑把に計算した結果の上での事のである。

その結果を踏まえて話を始めたのだから

全員の思考が付いていかないのは当然だった。

なのでエスカの結論を直ぐに述べるのではなく

全員にエスカと同じ思考過程を

トレースして貰おうと考え直し、そう促した。


ギネス:

「よく分からない問いかけですな…

 我が艦隊の目的は1つ…

 このヴァーチェ宙域に派遣された以上

 緑帝艦隊の牽制、

 あるいは敵艦隊の殲滅と宙域制圧だと思われますが?

 出来るかどうかは、ともかくとして…」


ギネスはエスカの意図を測りかね

同時にその言わんとする事は

恐らく常識的な意見の展開をする事で

議論になるのだと思い、その常識論を口にする。


エスカ:

「ふむ…模範的な解答だな…

 普通は100点を出さなければならない解答だ。

 だが、あえてそれに答え返そう…

 それは違うな……」


エスカはギネスが思い通りに

常識的な思考の流れを作ってくれたので

楽しそうにニヤついて言葉を放つ。

ギネスとも、もう長い付き合いである。

『こういう流れを作って欲しい』と思う時に

思い通りに場を作ってくれるので

エスカの参謀としてはとびきり優秀な男であった。

分かってる部下を持つのは良いモノだなと微笑みながら、

エスカはその常識論に気持ちよく否定を打ち出す。


ギネス:

「は?……違う…のですか?

 はて?何が違うのでしょうか?

 小官には、我が艦隊の目的が

 これ以外にあるとは思えませんが?」


エスカがたぶん面白い事を言い出すだろうと

予め予想していたので、ギネスは阿吽の呼吸で

エスカのこれから展開する別論に

耳目を提督が集めれる様、

そう誘導質問を返したのだった。

ギネスの狙い通りに、皆の注意がエスカに集まる。


エスカ:

「いやいや、確かにそれは正解なのだよ…

 艦隊司令という立場であったらな…

 だが、こんな大事な事を…

 それも、またしてもあの宇宙の不埒者に

 気付かされるとは…

 それはそれで、ある一種、屈辱の極みだが…

 私は、今の放送で、私の盲を開かされたよ…

 そうだ…

 艦隊司令としては100点のその解答でも

 それではダメなのだ…」


そう言ってエスカは思わず溜息をつく。

色帝の人間としては全く腹が立つ存在だというのに

どうしても憎みきれないレディンのキャラクターに

エスカは、ただ苦笑するしかなかった。

ただのキティガイの様に見えて

その持論をこうも真面目に展開されれば

色帝の上級管理職の誰もが押し黙るしかない合理性に

呆れを通り越して笑うしかない。


ギネス:

「この解答ではダメ?

 はて?

 では我々の艦隊の目的とは何なのでしょうか?」


ギネスは流石にその言葉の意味を測りかねて

素でエスカの言わんとする事を尋ねた。


エスカ:

「『クラーリン』だ…」


その時エスカは間髪入れずに答え返す。


ギネス:

「は?」


その返事にギネスは素っ頓狂な声を上げる。

他の緒提督も完全に想定の範囲外から

ボールが飛んできた事に驚いて

思わず前のめりになるしかなかった。


エスカ:

「我が艦隊という狭い範囲で考えるのではなく

 赤色連邦帝国の艦隊という、大きな視点で見直せば…

 という事なのだよ…

 私が本当に聞きたかった事は…

 だから、あえて今一度

 我等が中央派遣艦隊の存在意義を思い返そうじゃないか…

 我々の最大の目的は何か?

 それは、銀河中枢の突破…

 つまり、クラーリンを打倒する事だ!!」


エスカはその場で、そう強く語った。


ギネス:

「は!? 閣下!?」


あまりにエスカが想定の右斜め上の言葉を口にするので

呆然と成ってその意図を問うしかないギネスと緒提督。

エスカはそこで得意になって持論を展開し始めた。


エスカ:

「そうだ!

 ヴァーチェの制圧はその為の下地作りでしかないのだ!

 これが『盲』なのだ。

 我々は、何で六色帝国戦争なんてモノをしているか?

 それは銀河中枢にある『秘宝』を手に入れる為だ!!

 その為にはクラーリンを打倒しなければならない!

 その為には自陣の門前領での宇宙開拓を

 確固たるモノにしなければならない!

 だからこそ、隣接する門前領を制圧して

 他の色帝の妨害活動を阻止しなければならない。

 なので我が第17艦隊は、ここに遠征に来ている!!」


ギネス:

「そ、その通りです…

 何を今更!?」


エスカの展開する自分達第17艦隊の立場の

大局的な位置の説明を聞いて、

ただそれを肯定するしかないギネス。

そんなギネスの反応に

エスカは奇妙な喜びを感じて苦く笑うしなかった。

これが立場による思考の限界なのだと。


エスカ:

「はっはっはっ!!

 この思考ルーチンの罠に

 私は完全に填っていたと言う事だ!!

 こう考えてしまっては

 我が第17艦隊が取れる戦略オプションは

 如何に現状の緑帝艦隊と戦うか? 

 という発想しか出て来ないのだ!!

 それが100点の解答の限界と言う事だ!」


ギネス:

「100点の解答の限界!?」


そんなエスカの満点解答の否定に

ギネスも同席の提督達も呆然と成るしかなかった。

エスカは配下の提督達に向かって

晴れやかな笑顔で訴える。


エスカ:

「諸君っ!!

 目的設定を小さくしてしまっては

 出てくる戦略オプションも、当然小さくしかならん!!

 発想を逆転させて原点に戻るのだよ!!

 我々は『クラーリン』と戦う為に存在してるのだ!!」


ギネス:

「クラーリンと戦う!?」


エスカが、また言い出した素っ頓狂な発言

それも今度は「戦う」と言い出した事に

流石に歴戦の猛者達も口をポカンと開けるしなかった。

だがエスカは勢いのままに続ける。


エスカ:

「そうだ! その原点に戻って考えれば

 緑帝を攻略するプランの設計に対して

 別の視点からの戦略を組み立てる事が出来る!!」


そう震えながら叫んで

エスカはその会議室のテーブルを叩いた。

その歓喜の打撃で時空振動が緒提督に響く。


ギネス:

「クラーリンと戦う事を考えて

 別の戦略を組み立てる…のですか!?」


ようやくエスカの素っ頓狂な言葉から

今の戦略会議での議義との関係性が出てきて

その異質な2つの取り合わせに

興味を持たされる全員。

しかし当然、繋がらないその二因子に首を捻る。

エスカはその混乱する提督達に向かって

力強く指さした。


エスカ:

「そうだ!

 そして結論から先に言おう!!

 私のこれから取る戦略はこれだ!!

 我が艦隊は、まず『ノードノーク』を制圧する!!」


その時、宇宙図をその場に出して

エスカは戦略目標地点を皆に指し示した。


挿絵(By みてみん)


ギネス:

「はっ!? ノードノーク!?」


ギネスだけでなく、その場の全員が

指し示された星系を見て騒然となった。


エスカ:

「この銀河で最も宇宙開拓が進んでいるという

 最も宇宙冒険家達の活動が活発な

 この無所属開拓星系。

 宇宙冒険家拠点星系『ノードノーク』!!

 この星系を我が艦隊で陥落させる!!

 そこに100点を超える、別の解答が現れるのだ!」


エスカは満面の微笑みを浮かべて

その場の皆にそう語った。


ギネス:

「は!?

 閣下っ!!正気ですか!!!

 ノードノークは宇宙冒険家の巣窟ですよ!!

 あのレディン・ルークの拠点でもあり

 数こそ色帝艦隊の総数には及びませんが

 クラーリンと戦う事を生業とした

 その道のエキスパート達が集まっている

 一騎当千の雷撃武闘集団の集まりです!!

 そこを我が第17艦隊だけで陥落させるとか

 クスコア星系を墜とすよりも

 遙かに難しい話ですよ!!」


ギネスはあまりにエスカが素っ頓狂な事を言い出したので

今度は本気で常識論を持ち出して

その提案の無謀性をエスカの前に提示する。


エスカ:

「そこは考え方だよ准将!!

 我が第17艦隊の単純な戦力で侵攻すれば

 准将の言う様にノードノークを墜とすなど夢物語さ!!

 だが墜とすという言葉にも

 色々な考え方や、手段がある!!

 要は宇宙冒険家を敵に回さない様に

 ノードノークを陥落させればいいのだろう?

 そういう陥落のさせ方なら、間違い無くあるさ!」


言ってエスカはニヤつく。


ギネス:

「宇宙冒険家を敵に回さない陥落方法!?

 閣下!?」


そんなエスカの

『宇宙冒険家を敵に回さない様な陥落』

という不思議な物言いに

目を白黒させるギネスと全提督達。

敵地を制圧しに行って、そこの守護兵を敵にしない等

そんな方法が有り得るのだろうか?


エスカ:

「どっちみち戦力の拡充の為に

 向こう3ヶ月は緑帝との睨み合いになるんだ!

 そして自陣要塞用の複素結晶も無しで

 我々は敵要塞制圧をしろという

 無理難題を押しつけられている!!

 なら、その本国の今の方針さえも

 思わず変えてしまう様な

 驚くべき戦略オプションを

 取ってみようじゃないか!」


ギネス:

「驚くべき戦略オプション!?」


矢継ぎ早に聞かされるエスカの素っ頓狂な言葉に

ただ目を白黒させるしかない提督達。

だがその反応でエスカには十分であった。

常識論の中で意識が閉塞化させられている誰もが

聞けば耳を疑う様なこの提案である。

だからこそ戦略的な意味があった。


エスカ:

「だがしかし、

 それをする為には

 我々は今は圧倒的に情報不足だ!!

 私が考えた構想を実現させる為にも

 私自身がこの目で、

 ノードノークを視察する必要が有る!!

 本国からの弾薬補給が続くこの1ヶ月の間

 私はノードノークに潜入調査に出向くぞ!!」


そしてそこでエスカの行動指針が提示された。


提督一同:

「閣下っ!?」


そんな『エスカ自身の潜入調査』という言葉に

その会議室の全提督は騒然となったのだった。



で、ようやく序盤のセクションパート『ノードノーク編』の始まりです。

うーん、エスカの乗艦「シュルトワルゼ」のリデザインを修正してるんですけど

実は『ノードノーク編』終わらないと、シュルトワルゼは仕事しないんで

「出て来ない戦艦、一生懸命デザインするのって、どうよ?」

と悩むわけで…


むしろレディンの乗艦「ヴァーユ・イルスキュルト」の方を

緊急にデザインしないとあかん必要が有り、

「これから出てくるS級戦艦、全部デザインすんのかよ…Orz」

と、戦々恐々とする日々でありまして…


ま、ちょっとノードノーク編始める前に

渋の方では補助用に「基本設定解説」をパワーポイント資料で

作って置いていたのを、こっちでも同じ様に置くしかないナァというのがあり


こっちはその資料設定ありきで、話書いているんで

次から次へと謎単語を当たり前の様に作中で使ってますけど

読んでる人には、さっぱり分からないハズなんで

次、資料設定乗せてから、ノードノーク編始めるかと…


「スターゲート」なんか外観まで決まってるのに

謎物体のまま話の方書いてますんで、もうこれはしゃーないなーと…


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