第二話 赤色皇帝 アルシオン
うーん、アルシオン描きたかったナァ…そのうち描くかー、これまだ第三話の途中までしか書いてないんで(その途中の第三話が第二話の文字数越えてるんだけど)、ここで止めです。PlatonicLoveIdealで肩慣らしと文体の再考察再検証が終わったら、ダラダラと続きを書くと思いたい…
宇宙冒険家に襲撃されてからおよそ半日後
エスカは提督席の上
切断された腕あたりをさすって溜息をついた。
エスカ:
「ハァ…6階から4階はボロボロか…
2階から3階の複素結晶はまだ治るが…
4階より上はなぁ…」
そう言って、見た目では完全に繋がっている腕に
しかしその切断面に空間治療用のバンドを当てて
空間裂傷の案配を見つめる。
ギネス:
「我々A級なら、6階なんか破壊されたら
時空麻痺毒で死んでるでしょうな…
4階5階付近が複素結晶の主分布ですから
あんなナイフが暴れてるところなんか
とてもじゃないけど近づけませんよ…」
ギネスはそう呟き、先の戦いで宇宙冒険家が見せた
多数高階高次複素結晶刀舞踏操作
雷撃戦技『ソードオブダンス』を思い出してゾッとした。
エスカ:
「S級人類だって、分布が一番多いのは6階付近だよ…
そりゃ、10階11階にもあるにはあるが…
やっぱ基底エネルギーよりも
遙かに上の空間エネルギーは濃度が少ないからな
6階の刀っていうのは、
どんな奴にとっても丁度良い殺傷バランスだ
6階の武器は幾らあっても足りる事はないお宝さ…」
言ってエスカはハァと溜息をつく。
ヴァーチェ制圧に意気込んで来てみれば
初っ端からとんでもない戦傷を食らったモノだった。
ギネス:
「まぁ閣下、
あの、ともすれば銀河最強と目される
宇宙冒険家を9階斬って撃退したんですから、
閣下の名声は益々上がる事でしょう?
あの男に闇討ちされた他の色帝国の提督は
みんな病院送りなんですから…
撃退しただけで閣下の強さは証明された様なモノ…
我が艦隊にとっては想定外の事にしても
初戦勝利と言っていいのではありませんか?」
そう囁いて、本人ではなくむしろギネス准将の方が
その戦功に浮かれているかのようだった。
エスカ:
「手を抜かれていた状態で、
勝ったの撃退しただの言ってもなぁ…」
そんな浮かれているギネスに呆れて
エスカはそう呟いて腐ってみた。
ギネス:
「何ですと?
あの男、閣下との戦いで手を抜いていたと?」
そんなエスカの言葉にギネスはギョッとなり
エスカに真を尋ねる。
エスカ:
「いやぁどうだろうなぁ…
私があの男の立場だったら…と考えてしまうと
矜持の問題があるからなぁ…
『剣に勝たして貰っても仕方ない』
そう考えれば、引き分け、
若しくは私の勝ちでもいいのかもな…」
言ってエスカは宇宙冒険家の去り際の言葉に頭を抱えた。
エスカの直感で感じた恐怖は、
彼女が想像してい以上に正しかった。
『あんなモノ』が切り札として存在していたから
あの宇宙冒険家は余裕で居られたのだ。
そして、あの剣を最初から使われていたら
エスカはあっさりと負けていただろう。
それは間違い無いとエスカは思う。
しかし、もうそれは『雷撃戦』とか
そういう次元の問題ではない。
あの次元刀は『何でも斬れる』次元刀だったのだ。
『勝負』という形をあれ相手に作るには
『同じ武器』を使うしかない。
そして、それが出来る人物は
エスカの知るところでは銀河で1人しか居ないのだ。
それでは最初から『勝負』にならない。
だからこそ『剣に勝たせて貰っても仕方ない』という言葉なのだろう。
エスカはそれに心の中で唸った。
自分の意志力で勝ってこその雷撃戦、
と、変な矜持を持てば、条件が五分五分でなければ意味が無い。
宮廷競技までの空間戦闘なら
ハンディキャップマッチで条件を五分にするのが礼儀である。
相手より遙かに強い武器を使って勝っても、
それは本人の力を鍛えることにはまったくならないのだから…。
しかし『艦隊戦』においては、そんな温い事を言ってられない。
『艦隊戦』での雷撃戦には、勝利か敗北しかない。
より強い武器を使って勝つのが正しい。
結局、相手が『宇宙冒険家』という、
国家戦争に興味のない奴だったから宮廷競技の様に戦えた
という事だ。
宮廷競技のハンディキャップマッチで見れば
確かにあの勝負はエスカの勝ちで判定される。
しかしレギュレーションの無い実戦であれば、
ハンディキャップを貰う事自体が、
『手を抜かれた』と考えるしか無い。
その曖昧な所で、エスカは己の髪をかきむしるしかなかった。
ギネス:
「提督…
本当にあの剣、何だったんです?
ナージェスタ様の結界を『斬る』なんて
とんでもない武器でしたが…」
エスカ:
「すまんギネス准将…
とてもじゃないが、簡単には口に出せん話なんだよ…
オロードを使ってアストラストに時空間通信をコールした
それぐらいのレベルのな…」
ギネスの素朴な問いかけに、エスカはそう疲れた表情で返す。
その返事にギネスはギョッとなった。
ギネス:
「アストラストへのダイレクトコールッ!?
陛下に直接通信を打診せねばならん程の事なんですか!?
連邦帝国軍統帥本部も通さずに!?」
エスカ:
「そういう事だ…
オスロに入り次第、秘匿回線を開く…
だから、あまり追及してくれるな…」
長年の腹心にすら語ってやれない事に
エスカは苛立ちを覚えたが『事』が事過ぎて
どうにもならない。
赤色連邦帝国全土が、あるいは外に公開すれば
色帝国達全てが震撼する様な事が
つい半日の前に明かされたというのだから…。
ギネス:
「それほどの事なら、仕方ありません…
閣下、見えました…
テクルコアツ恒星系の我等が要塞、オスロです…」
エスカ:
「ハァ…ようやく着いたか…」
エスカは、あまりの出来事に
目的地に着くのに何年もかかったかの様な
莫大な疲労を感じるしかないのだった。
戦艦のクルー達を要塞オスロに下ろし
エスカだけがブリッジに残って席の上で待つ。
暫く座して通信を待つと、不意にオロードに時空振が感知され、
シュルトワルゼのブリッジに空間スクリーンが展開した。
そこには、鎧を思わせる肩のパッドに
マントを羽織って立つ精悍な男性が映っているのだった。
その額には、全てが赤色の6つの菱紋が浮かんでいた。
エスカ:
「毎日の御多忙の中、緊急通信に時間を割いて頂いて
恐悦至極に存じます。
アルシオン・オーラクルム赤色連邦議会議長兼
赤色連邦帝国皇帝陛下…。
赤色連邦派遣艦隊第17艦隊司令
エスカ・ロックフォード中将です。」
そう丁寧な口調で声を出し、
エスカは目の前の男に恭しく敬礼をする。
そんな彼女の調子に
いきなりそのアルシオンと呼ばれた男は破顔した。
アルシオン:
「なんだねエスカ、改まって…
君と私の仲だろう?
アストラストの秘匿回線なんだから、
堅っ苦しい挨拶は無しにしてくれないか?
ただでさえ連邦皇帝なんて
毎日毎日、連邦議会のウダウダで鬱陶しいんだからな。
もう連邦議会議長とかの呼ばれ方なんて、聞きたくもない」
言ってアルシオンは己の肩を回してほぐす様な動作を見せる。
肩が凝っているんだ、という彼のジェスチャーであった。
エスカ:
「いや、しかし陛下…
昔の様に、というわけには…」
そんなアルシオンの言に、エスカは流石に躊躇する。
昔は仕事の都合で、この目の前の男性と同席したモノだったが
今は立場がお互い全く異なっていた。
そんな硬い彼女にアルシオンは呆れた口調で呟く。
アルシオン:
「アストラストを使った秘匿通信だよ?
こういう時は、気軽にさせてくないか?」
そう言って皇帝の威厳を見せるわけも無く
むしろ逆に、皇帝とは思えない程の軽い調子で
己の肩を手でほぐしだしたアルシオン。
エスカ:
「陛下…お疲れですか?」
そんな格式張る気のまったく無い赤色連邦皇帝の様子に
エスカは自分の戴く王の身心に心配を寄せる。
アルシオン:
「それなりにな…
変な言葉になるが、気落ち良くない疲れというかな…
広大な銀河を治めようとすれば、
下らん話に延々と付き合わなければならん…
エスカ…、君ならむしろ分かるだろう?
連邦調停艦隊で調停活動してたんだから…」
エスカ:
「はぁ…確かに……連邦内の調停ほど、
身心ともに疲れる仕事はなかったですからね…」
そう言ってエスカは、領地内での仕事を思い出して
あの頃の身心疲労に身を凍らせた。
アルシオン:
「でも君はまだいい…
殴って子供の喧嘩を止めてたんだから…
連邦皇帝ともなると…、
ルードマルフェニアで乗り付けて、聞き分けのない国家達を
次から次へと殴り倒すというわけにもいかんからな…
私は暴君になるのはゴメンだ…
それで調停会議の会談で
アストラストであっちこっちに毎日電話さ…
時には本体で出向かにゃならん時もある。
毎日、何やってるんだろうって思うよ…」
エスカ:
「支配者の苦労という奴ですねぇ、陛下…」
アルシオンの威厳も糞もない泣き言に
エスカは目を細めるしかなかった。
銀河の六分の一を支配するという事は
言葉だけなら聞こえは良いが、
それだけの領土の揉め事を全て面倒見るという事である。
エスカ自身、領土内の面倒見をしていたので
その生産性の無さは身に染みて分かっていた。
調停艦隊として武力鎮圧も許されていたから
エスカはまだ
お互いの領土紛争に五月蠅く喚く複数国家に
鉄拳制裁で黙らす事もできた。
しかし皇帝がそれをするのは大問題だ。
調停艦隊で牽制をした後、連邦議会議決の上での調停案の
調停施行をするのが連邦議会議長の仕事。
要は今までエスカがしてきた鉄拳制裁の後の
妥協和平の話し合いをするのが今のアルシオンの仕事である。
エスカが一番『これだけはしたくない』と思っていた仕事部分の
領土全部の案件処理をしなければならないのが赤色連邦皇帝であった。
それを思ってエスカは心底アルシオンに同情するしかなかった。
アルシオンは続けてぼやいた。
アルシオン:
「連邦会議では、血気盛んな国家の爺さん達が
銀河の覇権、銀河の覇権とか、
働いてる若い奴の苦労も考えずに好き放題叫ぶし…
そんなに白色帝国領の制圧がしたけりゃ
お前達が行ってきてやれって、
議会で叫びたくなるのが毎日の事さ。
それをぐっと我慢して、うだつの上がらない時間を過ごしてる。
だが、考えてくれ。
この銀河を元の汎銀河帝国に戻すって事は
今の苦労が単純計算で6倍になるって事だろう?
正直、冗談じゃないよ…」
エスカ:
「陛下…
陛下がそれを口になさってはいけません…」
エスカはアルシオンの赤色連邦皇帝という立場の人が
絶対に口にしてはならない本音を聞いて
冷や汗を流しながら頬を強ばらせるしかなかった。
それを連邦議会なんぞで言おうものなら、赤色連邦どころか
すべての色帝国が大爆発するような爆弾発言である。
その…、どの色帝も本当はそう思っているだろう本音を口にすれば
『6色帝国戦争』とは何だったのか?という
今までの1000年戦争を完全否定するにも等しい。
アルシオン:
「ああ、まぁ、そうなんだがね…
まぁいいか、現状を愚痴ってても仕方がない。
これだけの宇宙距離を繋いでる時空間通信だ
重要会議要件を始めよう…
愚痴で時間を使ってたらメリシアにも悪いしな…」
エスカ:
「そうですね…我が姫にアストラストを動かして貰っている以上
負担はかけられません。要件に入ります」
アルシオン:
「うむ…。
概要は既にオロードからの戦闘データ記録で見せて貰ってる。
まぁそれでも、戦傷を食らったエスカ提督の気持ちもあるだろう。
提督の口から、直接、言って貰いたいが?」
エスカ:
「有り難い申し出…
それでは単刀直入に…
間違いありません…
『エンペリオン』です…」
アルシオン:
「………」
エスカがその言葉を口にした時、アルシオンの顔が曇った。
エスカ自身、自分で口にした言葉に僅かに震えながらも
起きた出来事を、冷静に自分の王に口上するしかない。
エスカ:
「私自身、とてもじゃないですが
そんな事、信じられませんけれど…
しかし『ナージェスタ』様の結界を『斬り』ました…
あんな事が出来るのは『エンペリオン』しか有り得ません…」
アルシオン:
「………」
エスカの理由の提示にアルシオンの表情は益々曇る。
エスカ:
「刃の色は緑…
『緑のエンペリオン』です…」
畏れ多いとは思いつつも、
『その銘』を口に出さずにはいられないエスカ。
アルシオンはそのエスカの言葉に唸った。
アルシオン:
「つまり、宇宙冒険家レディン・ルークは
『緑のエンペリオン』を持ち
それを発動させた…というわけか…」
先ほどの愚痴で泣き言を言っていた彼とは全く別に
非常に眼光鋭き鋭敏な顔つきになって、アルシオンはそう呟く。
エスカ:
「はい…記録の通りです…」
エスカはそう頷いて震えた。
自分は何を言っているのだろうかと少し頭が可笑しくなってくる。
アルシオン:
「ふむ…
なかなか興味深い話だ…
私以外にエンペリオンが発動できる人間が
この銀河にいるなんてな…」
エスカのその報告に深い溜息をついて
アルシオンはその出来事に対する率直な感想を口にするしかなかった。
その彼の感想に、エスカは思わず感情が昂ぶり
彼女の中にあるドロドロとした恐怖を王に叫ぶしかなかった。
エスカ:
「陛下…、あの男が緑のエンペリオンを持ち
それを発動させれたという事は…、あの男がっ!!」
険しい表情でアルシオンに向かってその思いを叫ぼうとするエスカ。
そんなエスカの勢いにアルシオンは前に両手をあげて
彼女を静止するかのようなジェスチャーをしながら口を開いた。
アルシオン:
「待て待て、エスカ、はやる気持ちは分かるが
結論をそう急ぐべきではない…
もしそうなら、理に合わぬだろう?」
エスカの激高に皇帝は疑問を提示して彼女を止める。
エスカ:
「と、申されますと?」
理に合わぬという言葉で虚をつかれ、その勢いを殺されるエスカ。
アルシオンは続けた。
アルシオン:
「エスカ提督の危惧は『緑のエンペリオン』を持つ以上
彼の『ヴァーユ』と『イルスキュルト』は
クラーリンを倒した後の発掘戦艦などではなく
『ヒルリ・ベリア』の偽装艦ではないか?という事だろう?
レディン・ルークは『ヒルリ・ベリア』を駆る者だと」
エスカ:
「はい…『ナージェスタ』様の空間結界と同等か
それ以上の空間操作能力
オロードも気付けないほどの次元潜行能力
『ヒルリ・ベリア』ならば全て説明がつきます…」
エスカはアルシオンの言葉に頷き、
連邦帝国の技術常識では有り得ない
あの宇宙冒険家の乗る艦の挙動を
唯一、有り得る可能性として理論展開する。
その『納得できる理由』に、だからこそ納得がいかないアルシオン。
アルシオンはそれを簡単に反論してみた。
アルシオン:
「しかし彼の船が『ヒルリ・ベリア』なら
エスカ提督、何故、君は生き残っているのだね?」
エスカ:
「う…、それは…」
アルシオンに彼女の仮説の最も痛い所を突かれ
エスカは思わず息を詰まらせた。
そう、そういう考察をしてしまうと、
まったくアルシオンの言うとおりの矛盾が生まれるのだ。
アルシオンは続ける。
アルシオン:
「もし、レディン・ルークが緑のエンペリオンを持つ者
緑色連邦帝国皇帝なら
何故、国家の大事のこの時に
『ヒルリ・ベリア』を動かせて
我が赤色連邦帝国を殲滅しに来ない?」
エスカ:
「………」
アルシオンはエスカが最後まで言い切れなかった
最も恐ろしい単語を簡単に口にして、
しかし、だからこそ
その可能性の中にある最大の矛盾を同時に提示する。
エスカの報告とそこから考えられる可能性は、
そんな簡単な矛盾を同時に内包していたのだった。
アルシオンは息をついてエスカに語りかける。
アルシオン:
「エスカの言うように、
あれがエンペリオンだというのは分かる。
私もそうだと思う。
メリシアの所有する皇帝護石『ナージェスタ』の力を
完全無効化できるモノなんか
その上の皇帝剣『エンペリオン』しか有り得んからな…
だが、だから彼が緑帝だと短絡に考えるなら
彼の行動の尽くが辻褄が合わない
彼の艦がヒルリ・ベリアだというなら尚更だ…」
エスカ:
「確かに陛下のおしゃられる通りです」
アルシオンの諭すような言葉に、率直に頷くしかないエスカ。
色皇帝の証、皇帝剣『エンペリオン』を持つ色帝が
それも、持っているからといってその力を発動できるわけでもない
エンペリオンにその発動を認められるための条件、
『6菱の紋様展開が出来る』という
真性の色帝だけが持つ重要な遺伝因子を発現させた者が
この緑色帝国の重大危機に、
国家も無視して気ままに宇宙をぶらり辻斬りしている等
とてもではないが、考えられない話である。
そのアルシオンの指摘にエスカは頭を抱えた。
わけがわからない。その一言に尽きる。
そんな目の前の頭を抱えている可愛い友人に、
アルシオンは異なる視点を与えてみた。
アルシオン:
「少し話の方向性を違う所から考えていきたいんだが
いいかね? エスカ…」
エスカ:
「は、はい…陛下…」
アルシオン:
「私はね、エスカ…
あのアーツァマリッテ星域戦において
Qバルディオスの封印解除をアストラストに指示された時
『こんな指示が降りるなんて事は
ヒルリ・ベリアが封印から解除されて
緑帝から出て来るのだ』と直感で思っていたんだ…
あの時にね…」
エスカ:
「あの、アーツァマリッテ星域戦の時にですか!?」
アルシオンの突然の驚くような独白に、仰天して目が点になるエスカ。
あまりに衝撃的な内容過ぎて、エスカはその身を震わせた。
アルシオン:
「ああ…。
それしか流血の女皇帝戦争で女皇帝との決戦の為だけに作られた…
対クラーリン決戦用機動戦艦、色皇帝機動6艦の封印解除が指示される
理由が思いつかなかったからね…
それも、かつてのわれらが先々代の炎の女皇帝ナストア帝が、
今の様に大攻勢に出て門前領の宙域制覇をしようとした時も
アストラストからのQバルディオスの封印解除は
許可されなかったという我等の歴史があるのにだよ?
私と同じ、6菱を発現させたナストア帝ですらだ…」
エスカ
「………」
アルシオン:
「そんな特別扱いも特別扱いの
使用禁止であったQを、私の時には許可してくれた…
だからQの封印を解除する程の事をアストラストが危惧したのは
同じ色皇帝機動6艦であるヒルリ・ベリアに適合できる者が
緑帝に現れたのだ、と思ったんだ、あの時…。
そしてニルクルヴァ宙域は、色帝連合軍の大反攻にあい
我が帝国は、負け戦の撤退戦になるのだとね…」
エスカ
「…陛下、そんな…、そんな…」
アルシオンの当時の危惧とその焦燥感を今更になって耳にし
震えが止まらないエスカ。
アルシオンは当時の戦場の事を思い出して
そして乾いた笑いを浮かべながら続けた。
アルシオン:
「だがそんな事は無かった…
会戦が始まれば、Qが1艦で蹂躙してしまうような
エスカ、君も参戦して見ていたとおりの、
あんな事になった…
私の予想は…勘は外れたというわけさ…」
その当時の焦燥と現在に至るまでの結果を口にされて
エスカは眉をひそめるしかなかった。
エスカ:
「では、あれはヒルリ・ベリアではない、と?」
アルシオンの話を聞きながら、
アルシオンの言わんとする事を口上で予想してみる。
その台詞に首を横に振って否定するアルシオン。
アルシオン:
「いや、君の報告を受けて、今は別の事を考えている。
君の報告を鑑みて、あの当時の事を思い返すと…
ヒルリ・ベリアは、あの時、出てこなかったのではなく、
『出てこれなかった』のかもしれない、とね…
ヒルリ・ベリアを機動できるような者が
緑帝にいたかどうかは考えずにだがね…」
エスカ:
「!?」
アルシオン:
「ヒルリ・ベリアはQの記憶ではQよりも大きな艦だった…
6色連合艦隊旗艦の中では、
あんな大きさでもQは中型だった…
しかしエスカ提督の遭遇した『ヴァーユ』は
Qの半分くらいだ…
サイズが合わない…」
エスカ:
「陛下、私には陛下のお考えになられている事が
いまいち分かりかねるのですが…」
エスカはアルシオンの遠回りな考察に
その言わんとする事の真意をつかめずにいた。
そんなエスカの曇り顔に僅かに笑いながらアルシオンは話を続ける。
アルシオン:
「うーん、所詮これは私の考えでしかないから
それが正しいのかは何とも言えないが…
ヒルリ・ベリアは昔に分裂したのかもしれない…
と、私は今、考えているんだよ…」
エスカ:
「分裂!?」
アルシオンの突然の頓狂な台詞に、
心の底から驚きの声を上げるエスカ。
アルシオン:
「珍しい構造ではあるが、あの頃の皇帝旗艦なら
そういう作りである可能性もあると思ってね。
ヒルリ・ベリアは2つないしは3つに分離できる
分離型機動戦艦だったのかもしれない…と…
そう考えてみたんだ…
Qの記憶で垣間見えた
過去のヒルリ・ベリア緑帝皇帝艦の映像を見ると
そう分離展開できる雰囲気があるからね…」
エスカ:
「!!」
アルシオン:
「Qやアストラストが、いつものだんまりではなく
1000年前の戦いの詳細を教えてくれれば
我々としても、こんな憶測や
何の為にやってるのかわからない戦争に
精を出さなくてもいいんだが…
銀河の秘密を完全に知る者達は、
いつものように皆が黙して過去を語ってくれない。
ただ何時もの様に『運命の時を待つ』と言うだけだ。
だから、我々はこうやって、あーでもないこーでもないと
可能性を考えるだけなんだよな…
これもまた鬱陶しい話ではあるが…」
そう言ってアルシオンは顔に皺を作りながら苦笑いを浮かべる。
そして続けた。
アルシオン:
「女皇帝の操ったと言われる『クラーリン』とはどんなモノだったのか?
そして色帝機動6艦は、それにどの様に戦ったのか?
その戦闘記録は、全て思考天体ガメット達に焚書されている…
残っているのは色帝機動6艦の名前だけ。
Qですら封印解除ができたあの時に、
ようやくその姿を1000年ぶりに
皆が知る事が出来たという有様だ…
ヒルリ・ベリアの当時の姿なぞ、Qとシンクロした時の
彼の無意識の奔流で、私が偶然、覗き見したにすぎない。
その姿を知るモノは、たぶん銀河では緑帝か私しか居ないだろう」
エスカ:
「………」
アルシオンの独り言にも近い語りに、
しかしエスカは黙してその耳を傾けるしかなかった。
過去の記録の抹消。
アルシオンの言ったそれこそが
銀河が混乱している最大の理由である。
実質的な銀河の支配者である『思考天体ガメット』達が
6色全てが結託して情報操作をしているので、
ある時期の過去記録を閲覧するのは不可能になっていた。
色帝国が最も頼らなければならない、
色連邦帝国管理中枢機構『思考天体ガメット』
赤色帝国にあるは、レッドガメット:『アストラスト』
この次元通信を繋いでくれている本人である。
その最も頼らなければならない赤色帝国の中枢が
同時に、銀河最大の裏切り者でもあるのだ。
その基本的な宇宙構造を思って、エスカは眩暈がした。
『ヒルリ・ベリア』を『ヒルリ・ベリア』と
知る事すら出来ないのも全てガメット達のせいなのだ。
その苛立つ環境の中でも、炎の皇帝は与えられた現状の情報で
合理的な考察を組み上げる。
アルシオン:
「もし、レディン・ルークが緑色帝国の皇帝なら
もっと緑色帝国の為に働いても良いはずだ…
しかし、彼は気ままに宇宙冒険をしてるだけの無頼漢。
彼の宇宙辻斬りの所行を拡大解釈で
緑色帝国の為の活動だと考えても
そこに連携性の、れの字もない。
わざわざ真反対の黄色帝国まで辻斬りに行くメリットが
緑色帝国の何所にあるだろう?
彼が緑色帝国と強く繋がっているなら
もっと効果的なやり方はあるハズだ…。
特にエスカ…緑のエンペリオンが使えて
君を仕留めない理由がないだろう?」
エスカ:
「…は、はい」
アルシオンの整然とした理論展開にただ頷くだけのエスカ。
アルシオンはモニターにエスカとの戦闘記録を映しながら呟いた。
アルシオン:
「彼の逃げ際の台詞は実に興味深い。
『剣に勝たせて貰っても仕方ない』
この台詞で去っていったのだから、
これはやはり彼の見たままの人となりだろう…。
この言葉を口にして、それを実行している以上
彼は純粋な剣客だよ。
それに緑色帝国の皇帝は、
皆が知ってる通りヨッテンハイム帝だ
つまり……」
エスカ:
「覚醒遺伝…」
エスカは容易に予想できる1つの可能性を
アルシオンに導かれる様に口にする。
アルシオン:
「という風に考えると、我々としては嬉しい所だね…」
エスカの解答に微笑みながら言葉を返すアルシオン。
エスカ:
「しかし、緑のエンペリオンを発動できます…
それは…」
完全な緑帝側の人間ではないと、都合の良い解釈をしても
それとは別件でエンペリオンを発動できるという事は
6菱の額紋展開が彼は出来るという事だ。
6菱の展開が出来る事こそ、真性の緑帝の証。
また6菱展開は色帝機動6艦の機動キーの1つでもある。
それが無所属で銀河をぶらついているとすれば
それはそれで、最大の脅威である。
赤色帝国で考えれば、アルシオンが職務放棄して
銀河中央でQとエンペリオンを使って
遊んで暴れ回っている様なモノである。
そんな恐ろしい光景は、赤色帝国では許されない事であった。
アルシオン:
「そんな事が1つの時代に同時に起きるモノなのか?
と、私だって信じられない事だが…
覚醒遺伝はアストラストにすら予想できない
宇宙の神秘だからね…
エスカ、君だってそうだろう?
それだけ代が離れての覚醒遺伝だ…
皇帝血の覚醒は、制御不能の複素結晶遺伝子の封印展開。
いわゆる『神の気まぐれ』さ…。
その覚醒遺伝で、私と同じ6菱紋を発現させた人間が
同じ時代に、在野でもう一人居た…
それが宇宙冒険家をしていた…という事か…
少々、信じられない話だがね…
そんな『特異な個体』が1時代に『2人』も現れるなんて…」
そう言ってアルシオンは、
アルシオン達だけが知る、口外のできない『ある秘密』を見つめ
だからこそ、その秘密に対して逸脱した『特異な個体』である
自分とレディン・ルークという2人に、
『神のきまぐれ』の深淵さを感じずにはいられないのだった。
そんな感慨にアルシオンが一人で浸っている間にも
エスカはその焦燥を口にする。
エスカ:
「信じられない覚醒遺伝が起きたとしても
それはそれで、真性の緑帝の発現者です…
我が赤色帝国には最大の脅威と考えるべきでは?」
そう言って、現在敵対している緑帝への
宙域戦を任せられているエスカにしてみれば、
最も危険な存在である事を訴える。
アルシオン:
「ふむ…、確かにエスカ提督の言うとおりなんだが…
それだと議論が元に戻ってしまうよ…
ヒルリ・ベリアの全部、あるいは一部を駆る者が
緑帝の意に従う者であったとして
こんなにニルクルヴァ宙域を我々が制圧していて
ただ眺めているだけ、なんて、間抜けな事をするのね?
それもレディン・ルークの銀河辻斬りの所行の中には
緑帝の提督アーマン中将も入っているんだ…
これはとんでもない背信行為じゃないか?
おかげでアーマン中将の駆る艦は、
この宙域の戦争に参加出来なくなったというんだからね…」
エスカ:
「うーん…」
アルシオンの非常に説得力のある説明に
腕を組んで顔に皺を作るエスカ。
アルシオン:
「エンペリオンにしてもだ…
『発動』できれば銀河の『何でも』斬れる剣だが
この1000年の間に、6菱を発現できた皇帝の数といったら
確認できているだけなら、10人も居ないときている。
各色帝では公に公開していない可能性もあるから
本当に10人に満たないのかは分かないが
我が赤色帝国なんか、ナストア帝の如く、
6菱が発現したら連邦全体が元気になって、
汎銀河帝国の復権制圧戦争に出たくらいだからな…
ま、私もナストア帝の事は言えない現状なわけだが…」
そう言って、思わず最後の台詞に自分でウケて
はっはっはと乾いた笑いを零すアルシオン。
エスカ:
「………」
(現状は既にナストア帝を越えています)
と反射的にツッコミを入れたくなったエスカだが、
次の瞬間にはアルシオンの過去を思い出し、あえてそれを止めた。
買い言葉でツッコミと歴史的大功績の賛美をしたくなったのだが、
古い付き合いのこの男性には
それは喜びには成らない事を知っていたので
他の者の様な脳天気な言がエスカには出来なかった。
昔から、本当は積極的な攻め気のないのが目の前の皇帝だ。
若い頃には周囲から陰険な陰口を叩かれながら
生きてきた辛い時代もあり、そのせいで思慮深くなり、
この戦争の本質をいつも真剣に考えていたのがこの男性である。
『あんな事』があり
『あんな事』で彼は6菱の発現者に覚醒し
銀河の覇権を臨むを『託された』から、
やむを得ず彼は銀河の覇者としての道を歩み出した。
エスカはそれを思い出せば、
脳天気な赤色連邦国家群代表の爺さん達の様に
『6菱皇帝紋の発現者こそ銀河を征するに相応しい』
とは、簡単に口に出来なかった。
この人は、酷い言い方をするならば
『やれと言われたからやっている人』なのだ。
今の彼の姿が、彼自身が望んでいる姿なのかは
昔によく彼と一緒に共に歩んできたエスカには疑問が残る。
しかし今の彼は『赤色連邦帝国皇帝』なのだ。
本人がどう思おうと、周囲がそれを戴いて頂点を目指してしまう。
それは皮肉な話だった。
そして、やる気満々で戦争を先導していた昔の赤帝よりも
やれと言われたからやってます的な今の陛下の方が
より歴史に残る戦果を上げているという矛盾もまた可笑しかった。
味な皮肉としか言いようがない。
それもこれもQという、化け物戦艦を使えたからという
イレギュラーが作用しているのではあるが…。
そんなたわいない事をエスカが考えている間に
アルシオンは言葉の続きを口にし始める。
アルシオン:
「まぁ、そういう風に
発現すれば銀河の再征服を野望するのが色帝国の6菱だ。
隠す必要性が無いと考えれば、それほどに少ない確率…
そんな者にしか使えないエンペリオン。
ウチのエンペリオンもそうだが、
使用不能の武器なんか
ずーっと飾ってるだけの典礼用の骨董品だ…。
誰も使えない最強剣よりは
誰でも使える6階のナイフの方が
遙かに今の帝国には有益だからな。
だから持ち逃げされたとしても、
使える者が誰も居ないんじゃ
緑帝としては、懐の痛み具合は難しい所ではないか?」
エスカ:
「持ち逃げ?」
アルシオンが不意に意外な言葉を口にして
その奇妙な響きにエスカの眉が歪んだ。
アルシオン:
「うむ…
覚醒遺伝の可能性を考えていたら、思い出したのさ…
そういえば我等のナストア帝が暴れ回っていた頃に
6色帝国の戦争に嫌気がさして緑帝から逃げ出した
筆頭家皇帝一族が居た…とかいうヨタ話を…
聞いた時には、そんな無責任な…とは思ったが…
あれがヨタ話ではなく本当の話で…
その時にエンペリオンが持ち逃げされていたとしたら…
とかね…」
エスカ:
「!」
アルシオンのその言葉により
エスカの思考の外から矛盾を埋めるピースが飛んで来て
納得できない情報群に、解答のルートが現れ始めた。
エスカは目を丸くする。
アルシオン:
「6色帝国戦争に嫌気がさして、
在野に逃げる皇族は珍しい話じゃない。
逃げていいんなら、私だってこんな仕事辞めて逃げたいしな…」
説明を続けながらも、ついつい日頃の
緩慢で絞め殺されそうな感覚になる日常仕事の思って
愚痴が混じるアルシオン。
エスカ:
「陛下!我々を路頭に迷わす気ですか!
冗談でもそんな事を仰らないでください!」
そんなアルシオンの言葉に、エスカは過敏に反応した。
そのエスカの言葉に笑うアルシオン。
アルシオン:
「半分は冗談でもないんだが、まぁそれはそれとして…
で、家から逃げる気になって
皇家のお宝を拝借して出て行く者が居ても
けしからんに話にしても、無い話じゃない。
現に、我が赤色帝国でも
逃亡皇族に家宝を持ち逃げされてるケースは沢山ある…。
ただ皇帝剣エンペリオンが持ち逃げされているなんて事が公になったら
緑帝が引っ繰り返る様な話だがね…
エンペリオンを知る者は筆頭皇族しか居ないんで
我々が吹聴したとしても、緑帝の支柱国家群は何の話?って言うだろうが」
エスカ:
「うーーーーん…」
アルシオン:
「うーん…」
アルシオンの赤帝内でもある話と昔聞いたというヨタの話を結合させて
二人は腕を組んで頭を捻った。
そんな事があっていいのか?という
この状況を説明する1つの予想は生まれるが、
その予想をしても、やっぱり
『そんな事があっていいのか?』と悩んでしまう。
しかし、唸ってるばかりにもいかないので
エスカはアルシオンが出して来た矛盾を解決するための
知識のピースを使って仮説を立ててみた。
エスカ:
「それなら納得できる仮説として…考えますと…
レディン・ルークは、
遙か昔に緑帝の緑のエンペリオンを持ち逃げした
緑色皇帝族の子孫で
ヒルリ・ベリアも彼の先祖に幾らか持ち逃げされた…
皇帝秘宝があろうと
適合能力者として6菱が覚醒できなければ、
使用する事もままならないので
骨董品として眠っていたが
子孫のレディン・ルークが覚醒遺伝で
6菱覚醒して使えるようになった…
だから緑帝の皇帝艦が
宇宙冒険家の好き勝手できる艦として使われている…」
アルシオン:
「………」
エスカ:
「……そう都合良く解釈していいのでしょうか?」
アルシオン:
「どっちかというと希望的観測だね。
そうだったら良いな、という類のね…
しかし、宇宙冒険してたらエンペリオンと同じモノが発掘できて
ヒルリ・ベリアと同じ次元潜行能力を持つ船が
クラーリンとの戦いで戦利品で手に入った、等と考えるよりは
我々にとっては嬉しくないか?」
エスカ:
「それは確かに…」
そのアルシオンの指摘にエスカは全力で頷いてしまった。
あんな赤色帝国の技術を蹂躙できるようなモノが
宇宙発掘してたら次から次へと出土してくれば
色帝国達の我が物顔も、
地方豪族の星間国家に打倒されてしまうだろう。
地方豪族に逃亡皇族が混じっていればという前提付きではあるが。
そんな恐ろしい別の仮説を考えるよりは
緑帝の大失態を見つけた、と考えた方が遙かに説得力があった。
アルシオン:
「ただ、もし我々の仮説が大当たりなら
これは我々は潜在一隅の好機を得た、とみるべきなのだろうね。
エスカ提督はヴァーチェ宙域へ侵入したてで
大戦果を上げたといえる…」
エスカ:
「と、申されますと、陛下?」
突然のアルシオンのその物言いに虚を突かれるエスカ。
アルシオン:
「いや、単純な話じゃないかエスカ提督。
ヒルリ・ベリアが緑帝には無い…とすれば
我々はQと同等の最強の古代戦艦の影に怯えることなく
宙域制圧の活動を進めれるという事だろう?
断定は禁物だが、そういう可能性が高いなら
ヴァーチェ宙域の制圧戦も
違う構想で組み立てられるんじゃないかな?」
エスカ:
「!!」
アルシオンは、エスカが余りの出来事に
いつもより「盲」になっている彼女の思考回路を、
その説明で開いてやった。
その説明を聞いてエスカの顔が紅潮していく。
アルシオン:
「それもこれもエスカ提督
君がレディンを追い詰めて、
彼のエンペリオンを『使わせた』からだよ…
彼のエンペリオンを引き出せなければ
我々は『とんでもないインチキな宇宙冒険家がいる』
という、今の銀河の皆の認識と同じままで居ただろう。
だが、彼のエンペリオンを見た事で
我々の認識は変わった…。
流石は紅の雷光と呼ばれるだけはある…
大手柄さ…。
それに戦闘記録を見たが、よくもまぁ6階のソードオブダンスに
あれだけの反撃をしたものだ…
『肉を斬らして骨を断つ』か…
あんな反撃なら私も同じ様に食らってたかもしれないな…
ソードオブダンスは、出せば勝てない敵などいない…
と、錯覚するほどに、強すぎる雷撃戦技だからな…
本当によくやってくれた…エスカ…」
エスカ:
「そんな、陛下にお褒め頂けるなんて…」
エスカはアルシオンの
何時もの裏表のない賞賛に頬を赤らめる。
先の宇宙冒険家の賞賛は裏表が無い点では同じだが
全てがジョークに満ちあふれていた。
しかし、今のコレは臣下と王の絆たる純粋な賞賛だ。
だからエスカは素直に喜べた。
アルシオン:
「いやいや、これは思った以上に大きな功績ではないかな?
まだ我々は、我々自身が上手く認識できてないと事だと思うが…
それに赤色連邦軍に完全な報告書を出すのは
ちょっと差し控えて欲しい案件でもある。
エンペリオンは筆頭御三家の帝族しか
存在を知らされていない剣だからな…」
エスカ:
「それは承知しております陛下」
アルシオン:
「まぁこの会議での話しは、まだ『仮定』に過ぎない。
断定するには早い事だから、
緑帝の戦力が我々の想定よりも下だと気を緩める事では無いだろう…
それにレディン・ルークがまた君を狙わないとも限らないしね…」
エスカ:
「うーむ…厄介な奴に遭遇したモノです…」
また狙われるかも、というアルシオンの不吉な言葉に
エスカは目を細めるしかなかった。
アルシオン:
「雷撃戦の名手としては、心躍る好敵手に巡り会えたと
前向きには考えられないかね?」
そんな脱力しているエスカにアルシオンは
些か意地悪な茶々を入れてみる。
エスカ:
「エンペリオン等という
色帝皇帝剣を持った奴と戦うなど
何を想像しても寒気がするのですが…」
アルシオン:
「それはそうかもしれんな…」
言ってアルシオン自身も、
自分の持つインチキ武器と同じ武器を持つ奴と戦う事を想像すると
少しばかり寒気を覚えた。
アルシオン :
「まぁ、あの男の性格では、
エンペリオンを使って勝って喜ぶような輩にも思えんがね…
やろうと思えば出来た事だからな…
互角の勝負を求めるタイプの男の様だから
エンペリオンを見られた時点で、
再戦を望まないかもしない…」
そう言ってみたが、
(同じエンペリオンを持っている私は例外だろうけど…)
と臣下が不安になる様な事は流石に口には出来なかった。
エスカ
「うーーーーん」
そんな言葉にしなかったアルシオンの思いも
ちゃんと読み取った上で、エスカは様々な思いを巡らせて苦悩した。
腕を組んで、押し寄せる不安に葛藤する。
アルシオン:
「気休めにしか成らんが、期待値として…
レディン・ルークがまた敵として君の所に来たとしても
緑帝艦隊と一緒に来る可能性は低いと考えていいだろうな。
なにせ緑帝からも賞金首になっている彼だ…
相当の和解案が結ばれない限り、協力関係になるのは難しいだろう。
緑帝も、緑帝にあれほどの弓引いた者と手を組むなど、
色帝国の面子が立たない事は無かろうしな。
それに、彼が真性の緑帝の発現者だと緑帝が公表しようモノなら
緑帝連邦内部から連邦制度が瓦解しそうな
歴史的失態の公表にもなるしな…」
エスカ:
「ふーむ…
それはそうですね…」
敵戦力の不安に葛藤するエスカに、
アルシオンはそんな助言を与えてみた。
『そう思いたい』という願望も混じっていたが
そう論理的に考えれば、非常に説得力のある言葉だった。
アルシオン:
「そうそう、話ついでに
ちょっと違う事を聞いておきたいんだが
エスカ提督…」
エスカ:
「はい? 何でございましょうか?陛下…」
そんなどでかい問題に出くわして悩み始めたエスカに
ちょっと気分転換してやろうかと、アルシオンは話題を変えてみる。
アルシオン:
「いやいや、猛将エスカ提督の
ヴァーチェ制圧戦の構想を聞いておきたいと思ってね…
ドール提督の後任に、エスカ、君が選ばれるとは
私も寝耳に水だったからね…
ただ、たしかに冷静に派遣艦隊の人材達を見れば、
十分アリな采配だとも思ったが…
今のニルクルヴァの状況では、
エスカ艦隊の機動力が使い難いのは間違いではないし」
エスカ:
「はて? 私の配属は
アルシオン陛下の御采配ではなかったのですか?」
突然、不思議な事を言い出すアルシオンに
また虚を突かれて目をぱりくちとさせて聞き返すエスカ。
アルシオン:
「いや? 私は最近は連邦帝国軍の采配に口を出してはないよ。
連邦帝国軍という、ちゃんとした組織があるのに
何時までも元前線司令官が口を出すのもどうかと思ったんでね。
連邦帝国軍の連邦皇帝への事後報告でしか今は聞いてない。
君への采配は、ロックフォード元帥の抜擢だと
本人から私は聞いたけど?」
エスカ:
「えっーー!!お爺さまの采配だったんですかぁぁぁーー!!」
アルシオンからの爆弾情報にエスカは瞬時に爆発した。
アルシオン:
「ああ『私の孫娘なら、なんとかするでしょう』って
決定を報告しに来て笑いながら言ってたよ…
それ聞いて、相変わらずいい加減な爺さんだなと思ったが…」
そうエスカに告げて、
あの時のロックフォード元帥の高笑いを思い出して
籠もった思い出し笑いを浮かべるアルシオン。
エスカ:
「うわー、なんか物凄くやる気下がったんですけど…」
アルシオンに告げられた衝撃の事実に
エスカは全力で肩を落とした。
アルシオン:
「あーー、そうだろうなぁ。
ロックフォード元帥は昔っから丼勘定な人だったからねぇ」
そう言ってアルシオンも目を細める。
エスカ:
「ちきしょっー!お爺さまの差し金だったなんてっ!
私はてっきり陛下の采配が続いていると思っていたから
陛下の大抜擢だと思って張り切っていたのにぃっーー!!」
エスカはさっきまでとはまるで違う事に
その頭を抱えて激高するしかなかった。
アルシオン:
「雷撃戦の名手を1艦隊だけで門前領域に送るなんて
そんな采配、私のカラーじゃないと思うんだが?
全く無いとは言わないが…
私の采配で雷撃戦の名手をヴァーチェ宙域の制圧に送り出すなら
それなら宙域工作戦の名手も同時に送るよ…
ホーフェイア提督の第8艦隊とセットで配置しなけりゃ
エスカ提督の得意の雷撃戦も、やり難いじゃないか…
単艦隊特攻だなんて、エスカ艦隊の戦闘力をむしろ削ぐ様なものだ。
でもニルクルヴァ宙域の詰めに入っている今では
ホーフェイア提督なんか、
とてもじゃないがヴァーチェに配置できないしな…」
そう言って報告を聞いた時のアルシオンの
「?」になった思いを、当の本人と一緒に話してみる。
エスカ:
「ですよねぇ…
ヴァーチェ宙域制圧戦の全権委任なんて
陛下も思いきった采配をしてくれたものだって
何か腑に落ちない思いはあったんですが…
お爺さまの采配なら、納得ですよ…」
アルシオンの言葉に相づちを打って、
エスカは派遣が決まった道中での
喜びと疑問の日々にようやく納得を得れた。
エスカ:
「くっそぉー、お爺さまの適当采配だったなんてーーー。
ほんと、ウチのお爺さまが、
昔は先帝たる陛下のお父様とイルフィリッフィ元帥の3人で
赤帝の三将と恐れられていたなんて、
今の丼勘定采配を見てたら
とてもじゃないけど信じられないんですが…」
アルシオン:
「俺も昔のあの3人の伝説話は、
今を見てたらとてもじゃないけど信じられないよ…
俺が軍に配属された時には、もう既にああだったからな…」
そう言ってアルシオンはオーラクルム皇王になる前の
オーラクルム王子の頃に連邦軍に入った時の
指導教官だったロックフォード元帥との日々を思い出した。
教えられたのは丼勘定戦略で、他には口撃イビリ。
特に既にその時にはオルフェニウス大公家の大公姫メリシア姫と
アルシオン王子の婚約は決まっていたので、
オルフェニウス大公国軍の元帥でもあるロックフォード元帥としては
『ウチの姫様を、
この菱さえ出せない特異体質のオーラクルムの若造がっ!』
という思いでイビッていたのは間違い無い。
思いというか、毎日ストレートにそう口撃されたのだが…。
そんな若かりし頃の苦労した時代を思い出して
アルシオンは苦笑いするしかなかった。
エスカ:
「陛下の采配だと思ってたから、張り切ってたのにぃーー!!
お爺さまの嫌がらせって分かったら
やる気、ダダ下がりですよぉぉっーー!!」
そんな昔に思いを馳せているアルシオンに対して
目の前で頭を抱えて落胆し続けるエスカ。
アルシオン:
「嫌がらせって訳じゃないだろう?
『ワシの孫娘なんだから勝って当たり前』って豪語してたんだから
可愛い孫娘に期待してるからこその采配なんじゃないのか?…」
エスカの陛下への節度も忘れてボロボロと泣いている姿を見て
アルシオンは哀れに思って、そんなポジティブな捉え方を提供してみた。
エスカ:
「そういう天然な所が結果的に嫌がらせなんですよ!
お爺さまはっ!!
シュルトワルゼだけで、門前領でどうしろっていうんですか!?
『ワシの孫娘はそんな逆境で勝てるから
ワシの孫娘なんですじゃ!』
とか、皇帝陛下への見栄きりで言ってるんでしょ!どうせっ!」
アルシオン:
「うん…一字一句間違わず同じ事言ってたよ」
エスカ:
「あの糞ジジイッ!!!」
手に取る様に分かる皇帝陛下への見栄の切り方が
本当に言ったままだったのでエスカは更に爆発するしかなかった。
アルシオン:
「まぁまぁエスカ、気持ちは分かるが抑えて抑えて…」
エスカの哀れな姿に、
アルシオンはここでも祖父孫喧嘩の
調停をしなければならないようだった。
アルシオンはやっぱり毎日何してるんだろうと悩んでしまう。
アルシオン:
「しかし現実、今はニルクルヴァ宙域の制圧戦で
派遣艦隊も人手不足だ…
ヴァーチェを本当に制圧するべきかどうか
連邦艦隊総司令部でも頭を抱えている…
連邦議会の方でもな…
こうも版図が急に広がると、どうしていいか
正直な所、本当に分からん。
それに、だんだん黄色帝国の横やりが強くなってきたし…
状況次第では黄色帝国とも開戦する事もありえるんだ」
エスカ:
「黄色ともですか!?」
アルシオン:
「可能性の話だよ。
赤色帝国のこの状況を良しとしなければ有り得ん話じゃない。
ただ、黄色帝国とは歴史的な事もあるし
外交ルートでやりようがあるんで
戦争の回避は出来るとは思うが…
そういう難しい状況での
ヴァーチェ宙域への第2段の派遣艦隊だ。
的確な司令が無いのは仕方がない。
ま、第1弾の派遣艦隊のドール提督のおかげで
バイパスゲートは破壊できたんだし
テクルコアツの防衛戦だけやって
時間稼ぎをしてるだけでも戦略的には十分なんだが…」
エスカ:
「私もドール提督とのスイッチで本部から下された指令は
『楔を打て』だけでしたから…
正直な所、戦略案なんて白紙ですよ…」
エスカから初めて聞いたそれに、思わずアルシオンは噴き出した。
アルシオン:
「ロックフォードの爺さんも本当にいい加減だよな。
孫娘に言う言葉が『楔を打て』だけとか…
俺が前線指揮総司令になったときも
『オーラクルム皇王の深淵なる力に期待する』だったモンな…
こんな人が連邦帝国軍統合本部総司令で本当にいいのか?って
あの頃も思ったけどなぁ…
今もウチの親父と毎日将棋打って遊んでるし
俺達に全部仕事振って、半引退組は本当にもう…」
愚痴らない様に頑張ろうとしていたアルシオンだが
どうしても老人達の事になると愚痴が自然に沸きだしてくるから
生きているという事は始末に負えないと笑うしかなかった。
そんなアルシオンとエスカの先人への愚痴話で、
もう二人は完全に皇帝と軍人臣下の関係も忘れて
昔の新兵時代の軍隊仲間の意識に戻って会話が砕けまくった。
エスカ:
「前陛下もお爺さまも仕事取られて拗ねてるんじゃないですか?
正直、陛下の連邦帝国皇帝即位は早すぎたと思いますよ?
陛下が赤色帝国皇帝にこんなに早く即位されなければ
ニルクルヴァの平定だって、もっと早くに終わってるでしょうに…」
エスカはそう、誰しもがそう愚痴ってる
赤色帝国軍の配置転換の不満を皇帝陛下に投げつけた。
アルシオン:
「言うな、エスカ…
時たま、アストラストは
銀河平定を本当は妨害したいんじゃないか?と疑うときもある。
それでもアストラストの指示だ…
アストラストの命では逆らえん…
それに、アストラストはアストラストで何か考えがあるようだしな。
裏で何を一生懸命心配してるのかは知らんが…」
全ての原因を作ったアストラスト本人に聞かれているのを承知で
二人は赤色帝国の事実上の支配者、アストラストへの愚痴を言ってみた。
この回線が開けれるのも、会話ができるのも
アストラストの超越能力のおかげだというのに、である。
それでも反面、皇室典範でもあるアストラストの無体な指示に
二人だけではなく不満を持つ者は多い。
何もかも都合よく運べないというのが、
色帝国連邦体制という実体であった。
アルシオン:
「だた、実際、赤色皇帝になってみれば
白色帝国領域だけに連邦の力を全て割くというのも、
国家安定の為にならんのも事実だよ。
連邦内調停の仕事が膨大な量になったのも、
アーツァマリッテ星域戦に
赤色帝国の主力全艦隊を総動員した反動だしな…
あれのせいで、地方の国家間領土紛争が活発化して
連邦議会に地方市民からの調停願いが殺到して
私はこんな毎日の電話生活になったんだ
それを考えれば、難しい所だね…」
エスカ:
「アストラストも前陛下が健康で御健在なのですから
連邦議会の議長調停など、前陛下に続けて貰えばいいのに…」
アルシオン:
「うーん、連邦の機能美を考えたら
エスカの意見が最もなんだろうけどね…
アストラストとしては
アストラストの巫女の旦那が、
銀河の真ん中で長くブラブラしてたのが嫌だったのかも?
考えようによっては
メリシアが巫女の天才だったのが原因かもな…
実際、私がアストラストに居を構えてから
アストラストも随分よく働いてくれるしな…」
そう言って、あはははと乾いた笑いを漏らすアルシオン。
エスカ:
「さり気なく私に対してノロケですか?陛下…」
そんなアルシオンの言葉に、エスカは思わずジト目になった。
アルシオン:
「いや、エスカ提督への気遣いのつもりだったんだけど…」
エスカの最愛の人の事を思ってアルシオンなりに
気遣ったつもりの台詞であったが、むしろ逆効果で
嫉妬の炎の方が燃え上がった様だった。
それを見て頭をかくアルシオン。
エスカ:
「はぁ…、まぁ、そんな感じだと我が姫様も
陛下の元で毎日、機嫌が良いようですね…
元メリシア姫護衛官
としては安心しますよ…」
そう呟いて呆れた口調で
おしどり夫婦に皮肉を飛ばすしかなかった。
この通信はメリシアも同時に聞いているのをエスカは知っている。
そして、よく言われる支配の三竦み構造であるが、
この三竦みは本当によくできた構造だと、
改めてエスカは舌をまくしかなかった。
アルシオン:
「安心してくれて何よりさ…
ハァ…、しかし最近よく思うんだが、
また昔みたいにみんなで領内をブラブラしたいモンだねぇ…
あの頃が懐かしい…」
エスカ:
「……陛下
…それはもう無理かと」
銀河の皆に『炎の皇帝』と呼ばれている彼の
しかし、ビックリするほどの逃げ腰根性にエスカはそれをいさめる。
アルシオン:
「無理かなぁ…」
エスカ:
「陛下、陛下はもっと野望をお持ち下さい…
陛下はこの銀河を再統合する力を持つ御方なのですから…
より高みを御見つめ下さいませ…」
アルシオン:
「みんな同じ事を言う…
そんなにみんなは、私に今の6倍の仕事をさせたいのか!」
アルシオンの痛々しい泣き言に
エスカは同情と批判の背反2津に陥り、葛藤するしかない。
エスカ:
「銀河深淵には、帝国の運営を合理化するための
もっとふざけた技術が眠ってますって…きっと…
それが『女皇帝の遺産』だと、みんな信じているんでしょう?
1000年前はその6倍の仕事を
汎銀河帝国皇帝がやってたというんですから…」
エスカはその『6色帝国戦争』をみんなが続けてる
みんながよくいう大義名分を持ち出して、戴く皇帝を叱咤激励した。
アルシオン:
「あるといいなぁ、そんな遺産…
これで銀河中枢に行って何も無かったら
俺達は1000年もの間、何の為に戦っていたのか
本当に分からなくなるぞ…」
そんな、友人同士のグダグダ電話雑談になり始めた頃
エスカは不意に、陛下との通信時間のカウントを見つめた。
エスカ:
「ああっ!もう会話時間が凄い事になっているっ!」
アストラスト電話だというのも忘れて、
愚痴合戦と漫談になっていた会議が
物凄い会話時間になっているのを見て
エスカは悲鳴を上げるしかなかった。
アストラストを使う遠距離時空通信は、巫女の祭儀で起動し
挙げ句に燃費の著しく悪いエネルギー食いだというのに
重要会議の半分が漫談となっては
帝国予算の無駄使いと誹られても申し開きができない。
巫女も起動中は常に祭儀に力を使うので、
アストラストの巫女にはずっと負担をかける事にもなる。
エスカ:
「陛下との久しぶりの会話で積もる話もありますが
重要案件報告と陛下からの御返答はまずはいただいたという事で
そろそろ秘匿回線を切りたいと思うのですが…
我が姫への負担もそろそろ心苦しい頃になってきましたし…」
アルシオン:
「この程度、メリシア程の巫女の天才なら
たいした負荷とも思えんがね…
まぁ、エスカ提督の我妻ラブを飲んで
言葉通り回線を切るとしよう。
どちらにせよ無理はしてくれるなエスカ提督。
ヴァーチェは緑帝の門前領
先の戦いで高次元艦を多数叩いたとはいえ
ニルクルヴァ程、機動艦隊は送れない。
緑帝が連邦帝国制度が揺らぐのを覚悟で、
帝国内待機艦隊を派遣してくれば
シュルトワルゼだけでは対抗しきれないのは明白だ。
普通なら有り得ん事だが、
水帝門前領を完全陥落寸前で
緑帝の門前領からの増援ルートを遮断したのだ。
この状況は既に普通ではない。
だから緑帝の常軌を逸するアクションの可能性は
五分五分と見積もっていいだろう。
それにレディン・ルークが突然故国への思いに
目覚めるかもしれんしな…
まぁ、この戦闘記録では、
むしろ何もかも無視して次元潜行して
私の所に遊びに来そうだが…」
エスカ:
「さらっと、陛下、色んな意味で恐ろしい事を言わんで下さい」
アルシオン:
「んー、ま、ともかく、
そんな危ない橋を渡らせて
君を失ったら友人の私も悲しいし
何よりメリシアが生涯泣き続ける。
君らしくないとは老人連中に言われるだろうが
元々、補給線の伸びきった無理な話だ…
適当にお茶を濁して、ニルクルヴァに帰ってきても
私は何も言わないよ…
あえて皇帝として命令するなら…
死ぬな、エスカ提督…
それだけさ…」
エスカ:
「そのお言葉を陛下に頂けただけで
エスカ・ロックフォード最高の誉れにございます。
なーに、このエスカ、
陛下が白色帝国領域を平定され
汎銀河帝国の正統な後継者として
この銀河の頂点に戴くのを見るまでは
決して死なないと心に誓っております。
この先、一敗地にまみれようと
死に急ぐような真似は決して致しません。
どうかご安心を…」
アルシオン:
「俺は本当に汎銀河帝国の再建や
銀河帝国皇帝としての君臨なんて
望んでないんだけどな…」
エスカ:
「陛下、運命から逃げては駄目です」
そしてグダったその会話はそこで終わった。
エスカとの長距離通信を終えて、アルシオンは広い祭壇部屋の中央
その場に置かれているテーブルに寄って行った。
既に先に祭儀檀上から離れそのテーブルに帰っている
黒く艶やかな長髪を持つ美女がアルシオンを笑顔で迎える。
他にも2人、豪奢な金髪を持つ美麗の男女がそこには座っていた。
その4人は赤色連邦の頂点、赤色連邦皇帝。
赤色連邦筆頭御三家、三皇族の代表。
主皇帝アルシオン・オーラクルム、
皇妃メリシア・オルフェニウス・(オーラクルム)。
副皇帝ダンフォース・ウィルソード、副皇妃ネセイラ・ウィルソード。
この広大な赤色連邦を治める、赤色皇帝の4人であった。
アルシオンはその皇帝達が座る席に自分も座りふぅと一つ息をつく。
メリシアがそのエスカとの通信を終えた主人に、
そっと紅茶を入れようと近付いた。
メリシア:
「貴方も悪い人ですね…
レディン・ルークが緑帝の元で私達の敵になるなんて
欠片もない様な可能性を話に混ぜ込むなんて…
エスカの頭には、その可能性の影が常に付きまといますよ?」
アルシオンにお茶を入れながら、
二人の通信をアストラストの祭儀で繋げて横で聴きながら
影でクスクスと笑っていたメリシアが悪戯っぽく呟く。
アルシオン:
「ふん…しかし、可能性が全くゼロとはいえない…
確率をゼロにする事だけは、この銀河で出来ないのだから…
それに『多分無い』なんて事を、根拠も無くいえないじゃないか…
無いだろう理由は言えないし…」
そんなメリシアの言葉に、
ヤレヤレといった風をして答え返すアルシオン。
メリシアは炒れた紅茶を夫の前に出して、難しそうに微笑んだ。
メリシア:
「子供の頃からの友達というか、
私にとっては姉妹みたいなエスカに
本当の事を言ってあげられないのは辛いわ…」
そう呟いたメリシアの紅茶を受け取って、それを少し口にしながら
アルシオンは深い眼差しをして言い添えるしかなかった。
アルシオン:
「しかし、本当に言えん…
6菱の発現者が、何故『特異な個体』であるかの本当の理由は…
緑帝がエンペリオンもヒルリ・ベリアの部分を失っても
それでも特にそれを国体の最重要問題にしない理由も
同様の起源に理由あるのは、伝えられない…
エスカの様な古い友人に
真実も知らぬまま苦労させるのは、心苦しいよ…」
言ってアルシオンは溜息をついた。
ダンフォース:
「まぁエスカなら、なんとかするだろう?
あいつは昔からそういう奴だ。
それよりも、レディン・ルークだ…。
いやー、同じ時代に2人も『6菱』が出るなんてな…
シオン…やっぱりお前といると『予感』と『運命』を感じるな…」
アルシオンの言葉を拾いながら副皇帝たるダンフォースは
砕けた調子でアルシオンに語りかける。
アルシオン:
「個人的には、そんな『予感』なんて迷惑なんだがね…
しかし、緑のエンペリオンが発動したのを見た時は
流石に私も胸が躍ったね…
フォースじゃないが、私まで『期待』を感じずには居られないよ…」
そんなダンフォースの言葉に、難しい表情で応えるアルシオン。
子供じみているとは自分でも思うが、
それでも『期待』に胸がときめくのを抑えるのは
今のアルシオンには難しかった。それは副皇帝も同様の様だった。
ダンフォース:
「緑のエンペリオンの発動に一番胸が震えたのは
墓石の中に居る人なんじゃないのか?」
不意に副皇帝はアストラストの祭壇の更に奥深くに目をやった。
アルシオン:
「どうだろうな?
何があったのかは相変わらずだんまりのままだしな…
『全ては緑帝の決断から始まったのだ』
それしか教えてくれなかったからな…
緑帝と赤帝のエンペリオンでの決戦…
それが何故起きたのかは、歴史の謎のままだ…」
そんなダンフォースの皮肉に対して、
淡々と己の思いを述べるアルシオン。
二人の妻は、そんな生き生きとしている夫達の姿に
ただ微笑みを盛らすだけであった。
ダンフォース:
「でも真実が俺達に分からないままでも
時代は確実に動くだろう…
『あり得ない事』が起きる…
そんな『神の気まぐれ』が起きるなら…
そういう時こそ、流転の時だと俺は思うね…」
アルシオン:
「ふむ…
その意見には同意かな…」
ダンフォースの力強い予感の言葉に、正直に首を縦に振るアルシオン。
そしてアルシオンはその天井、特殊次空間ガラスを張り巡らせ
銀河の中枢を展望できる、その中点、『星の大河』を見上げて、
不敵に笑って呟いた。
アルシオン:
「新しい時代の始まりが、また緑帝からだとするならば
この私の生きている時代に『その時』が来るのか?
レディン・ルーク…
お前の剣が目指している相手は、私と同じか?
『銀河の何でも斬れる』次元刀、皇帝剣エンペリオン、
ガメットの真実は見ていないレディン・ルーク…。
そんなお前でも、やはり私と同じ様に気付いているか?
何故『こんなモノ』が生み出されたのかを…」
まぁ結局、この人を出すのが、この作品が完全な1次創作といえないグレーになってしまう所以です。が、この作品は「星の大河」も含めて、あの未完の作に対するファンの憤りの形の1つであり未完作「シュヴァルツシルト」に対する感想文の様な物なので、作品が完結しないとはこういう事だ!という不思議感で捉えて貰えば。ファンの憤りの全てが、アルシオン・オーラクルム等という、外伝というか異世界扱いの「スーパー」の方の主人公が、一番好きなんだぜ! に籠もっています。メインの「クレア」と「エグザス」の主人公達の銀河漫才は、どうせ完結されないだろうけど、責任を持って原作者が終わらせて欲しいモノです。(その原作者が居なくなったから完結しないんですけれども) とまぁ雑談を。




