第一話 宇宙冒険家 レディン (Ⅱ)
分割二話構成に改変した後半になります。
最初の投稿内容から大加筆になりました。
文量も二万三千文字って表示されてるし、これ最初の第一話と同じ文量やん…
分割したのに、加筆したせいで、
前と文量が変わらなくなってしまいました~
「おおっ!! おおおおおっ!?
それ、ジルフィール・ロックフォードのあの『ミージェ』かっ!
マジか!? 本物か!?
アンタがあの剣を英雄ジルフィールから継承していたのか!?」
エスカが出したその小太刀を見るや
レディンが先ほどの毅然した表情を崩して
まるで子供の様な表情になって、嬉々としてその剣を凝視し嬌声を上げた。
「……あ? ジルフィール・ロックフォードのあの『ミージュ』?
英雄…ジルフィール?? 私の…お爺さまが??」
奇妙な物言いをレディンから聞きた事、そして確かに有名であるとはいえ、
緑帝門前領の『ヴァーチェ』宙域にまで、その剣の『銘』が知られている事に
エスカは思わず眉をひそめる。
ただし違和感の比率は、九対一くらいの割合で
『英雄ジルフィール』の方に偏っていたが。
「何だ?その反応…
ジルフィール・ロックフォードと、その愛刀ミージェと言えば
ヴァーチェ宙域で知らない雷撃戦士は居ないって程、有名な名前なんだが?
そんな有名な人の孫娘のお前さんが、なんでそんなに淡泊なんだ?」
エスカの物言いに、逆にレディンの方が怪訝な顔になって
言葉を聞いた途端に破顔したエスカにそう尋ねてみる。
「……ああ、ええっと?
120年前に、お爺さまがこのミージェ持って
このヴァーチェ宙域で暴れていたらしいってのは聞いてはいるが…
ここ緑帝の門前領だろ? お前達にとっては敵将だぞ?
当時のジルフィール・ロックフォード少将閣下は…
それが…英雄ジルフィール??」
そうエスカは、エスカが聞かされている範囲での
過去に『そうだったらしい』という赤帝での伝承を口にしてみた。
もう120年程の昔の話になるが、同じロックフォード家の者で
このヴァーチェ宙域に進駐し、雷撃戦士として暴れ回った将軍が居たという…。
それがエスカの祖父だった…
…という事は、本人からも他人からもエスカは聞いている話だった。
ただしヴァーチェ宙域は緑帝門前領。
赤帝にとっては敵色帝の支配宙域である。
『進駐』という単語通り、
赤帝は120年前にも水色帝の門前領ニルクルヴァを蹂躙し
同時に牽制の為に緑帝のヴァーチェ宙域まで進軍した歴史があった。
その時に緑帝に攻め込んだ三将の一人がエスカの祖父だったのである。
つまりヴァーチェ宙域においては、立場的に『赤帝の敵将』になるハズなのだが
その敵側の祖父が英雄呼ばわりとは、どういう事なのか?
そう思って眉をひそめていた所に、レディンが返事を返した。
「バーカ…
俺達、宇宙冒険家には、緑帝とかそういうのは関係ないんだよ…
持ち帰った宝を売りさばく為の、一番得意のお客様ではあってもな…
宇宙冒険家の拠点、ノードノーク星系は中立地帯だぜ?
なら、雷撃戦使いで痺れる戦士は、
宇宙冒険家にとっては誰でも憧れる存在なのさ…
特に、英雄ジルフィールと宿敵ヨッテンハイムとの
雷撃戦での斬り結び合いは、ヴァーチェ宙域では語り草だからな…」
言ってレディンは自分の事の様に微笑んで、嬉しそうに鼻をかいてみた。
そんな無邪気な様子を見て、また奇妙な気持ちになるエスカ。
「へー、私達は『そういう事があったらしい』ってしか
伝承で聞かされてないんで、こんな現地ではあのポンコツ爺が
英雄扱いされているのは、素直に驚きだわ…」
レディンの物言いを聞いて、エスカはそう返して閉口するしかなかった。
別の意味で赤帝の連邦軍部の誰もが恐れる、あのポンコツ爺が『英雄』。
そのイメージギャップにエスカは少しだけ眩暈を覚える。
思えば『ミージェ』を継承した時の事もそうだ。
確かに現役を祖父が退いた時に、同時に愛刀のミージェも譲り受けたが
継承の有様といったら、格式ある名家のハズなのに酷いモノで…
特に重要な用事でも無い雰囲気で呼ばれて、祖父の提督執務室に入ったら、
何の感慨もなくポンと投げられて渡された、この愛刀であり、
『じゃ、ワシ、元帥昇格したんで、現役の次はお前な…』の言葉だけ添えられて
それで、ロックフォード家の現役の継承儀式は終わりだった。
ロックフォード家に先祖代々受け継がれてきた家宝の宝刀を
そうも簡単に投げ捨ての形で継承させられた時点で、
代々の家宝をようやく継承できた感動よりも前に
自分の祖父のあまりのいい加減さに、呆然となったモノであった。
それも、自分で『これが宿敵ヨッテンハイムと斬り結んだ愛刀だ!』と
散々、自慢げに言って来たのにである。
そんなポンコツな祖父が、ここでは英雄などと呼ばれていると知ると
流石に目が点になるしか無いエスカであった。
「いかんなー!
あの英雄の孫娘がそんな事では!!
名刀ミージェが泣くぞ!!
このテクルコアツ星系で生まれた、
数々の緑帝雷撃戦士と英雄ジルフィールの名勝負…
その生き証人が、アンタの持つその刀だって言うのに!!」
エスカの淡泊な返事に激しく憤り、エスカを指差してレディンは抗議する。
「辻斬りごときに、お爺さまの事で説教されるとは
なんか色んな意味で本当にババを引いた気分だわ…
まぁ、どうやら、お爺さまの伝説は、眉唾ではなく
ここでは本当の事らしいので…
騙りじゃないのが分かっただけでも、何かホッとした所だけど…」
本人からも他人からも話を聞かされて来て、しかし年齢を重ねる毎に、
伝説を語る人物の人間性から、
話その物が『騙り』ではないか?と疑っていたのだが
レディンの真剣な抗議を聞いて、どうも伝承は本当らしい事が分かり
その一点だけは奇妙な安堵感を覚えるエスカ。
ロックフォード家は、少なくとも1000年前からオルフェニウス大公国の
筆頭守護騎士として皇族護衛官を務めてきた名家である。
その騎士の名家で、一応、軍内部では英雄視されている祖父が
騙りをしていたとなると名家の名折れであり、切腹モノの恥であった。
だからこそ、『赤帝の三将』と呼ばれる120年前の英雄伝が
嘘では無いらしい状況に出会って、安堵感と共に僅かな喜びを見いだすエスカ。
祖父は兎も角、他の二将の一人は前赤帝陛下なのだ。
それが騙りであったら、赤帝全てのレベルで大恥なのである。
『赤帝の三将伝説』は嘘では無い。
それがこんな形であれ分かった事は、ただ純粋に安心であった。
「ちょっと、今の赤帝、どうなってんの!?
ヴァーチェ宙域での英雄ジルフィールの伝説もロクに伝わってねーとかっ!
そんなの在り得なくね!?
お前等の世代が、銀河の耳目を集める事を次から次へとするから
もう120年前の事なんか忘れましたって事!?
そりゃまぁ、アルシオン帝の界隈の話なんざ、センセーショナル過ぎて、
120年前のナストア帝時代の事なんか、忘れてしまうかもしれんが!!」
エスカの物言いに憤慨し、レディンはそう言って、アルシオン帝の…というよりも
アルシオン帝を巡っての、その界隈で起きた衝撃的な事件の数々と
その後の、アルシオン・ダンフォースの『前の赤帝の双璧』の二人が
ニルクルヴァ宙域で暴れ回って、水帝門前領を陥落させた一連の流れを思い出し
最近の赤帝のやる事なす事のショッキング性から、
120年前の事など今の赤帝では忘却の彼方なのか?と問いかけてみる。
「それはあるかもしれんなぁ…
120年越しに、赤帝としてはヴァーチェ宙域まで再進駐したんだ…
その原動力となったのは、今の赤帝二人の奮戦のおかげだし…
120年前には動かなかったQが、
今の時代には動くという超珍事も起きたからな…
この1000年越しの異常事態に、赤帝全土があっぱらぱーになっても
仕方ないといえば仕方ないのかもな…」
レディンの指摘に肯定も否定も出来ずに、もどかしい返事を返すエスカ。
アルシオン帝が頭角を現すまでの流れには、エスカも直接参加していたので
銀河を震撼させた『あの決闘』までの流れまでを、全て見てきたのである。
そしてその後には、旧友の二人が最前線に出ては水帝を蹂躙していく様も。
その頃は皇族二人が白帝領域に出兵するという状況に対して
薄くなった赤帝本土の防衛に調停艦隊を率いて走り回っていたエスカなので
遠くに行ってしまった旅の仲間の活躍ぶりに
嫉妬に近い感情を抱いたものだったが…。
しかし、今の赤帝の二人が当時は最前線司令官として
競うように戦果を上げてはニルクルヴァ宙域を制圧していったものだから、
その炎の様な攻めに、水帝がたまりかねて緑帝と軍事同盟を組み
最終的には赤帝の本土内待機艦隊まで招集を受けての
二大色帝同盟軍相手の大決戦にまで発展したのである。
その大決戦には流石にエスカも派遣艦隊に招集され、
ニルクルヴァ宙域に増援として送られ、初の白帝領域での参戦になった。
それは色帝が全力を出しての大決戦であった。
と同時に120年ぶりの色帝大戦でもあった。
だからエスカも初の色帝同士との戦いに参戦できた事に感動するよりも
戦いの大事に、終始緊張しか無かったのを思い出す。
白色帝国領域での戦いにおいて実力が遺憾なく発揮できたのも
逆に言えばそれだけ、戦況がギリギリだったが故の余裕の無さであった。
アーツァマリッテ星域までの戦いは、赤帝艦隊も善戦はしたが
やはり二色帝の同盟艦隊相手に後退戦を余儀なくされて、
赤帝門前領アリッソ宙域まで押し戻されるかと、嫌な空気が漂っていた。
そんな所に、突然、古代最強戦艦の『Q・バルディオス』が
封印を解除されて出陣してきたのである。
あれには他の色帝どころか、赤帝の軍部ですら頭が白くなったものだった。
1000年の間、機動天体要塞に封印されていた古代最強戦艦が
1000年ぶりに封印を解かれて、出陣してきたのである。
それに銀河中が仰天するのは当然の事だった。
そして、伝説に違わぬ、最早『理不尽』というレベルでのQの強さにも
銀河は仰天した。
ただの一艦が、連合色帝艦隊を一撃で蹂躙したのだ。
何が起きたのかは、水帝緑帝どころか、赤帝の軍部ですら分からなかった。
たった一撃。
たった一撃の謎の砲撃だった。
それが色帝の連合艦隊を壊滅させた。
水森同盟軍が、決戦の為に大艦隊を1つの星系に集結させていたのが、
その時ばかりは災いしたのである。
そして、その戦いで『銀河最強の男アルシオン』の伝説は完成したのだった。
ただの一人に、色帝の連合艦隊が敵わない…。
そんな理不尽が成立してしまう様を見せられると、
120年前の戦いの事など、忘れてしまっても仕方ない事の様に思える。
それほどの衝撃であった。
戦略的に見れば、事実上、あの戦いで全てが終わってしまっていた。
今の赤帝の軍事行動は、変わってしまった戦局と戦力に対する後始末である。
そんな『今』を思えば、120年前の話で憤慨されても
何を古くさい事を言っているのだ? という気にもなってしまう。
『今』という時代が赤帝にとっては一番面白い。
それは赤帝の誰もが隠さず思っている事であった。
だからこそ、どこか120年前の
ナストア帝時代の話を忘れがちになるのでもあった。
「はっ!歴史を軽んじる、行け行け集団めっ!
ま、あんなおかしな力を持ってる皇帝を戴いてしまったら
どうしても、そうなるのかもしれんが…
だが、そこに至るまでの経緯に、あんたの爺さんが
ヴァーチェ宙域の雷撃小僧達に夢を与えてきたんだって事も
忘れないで欲しいもんだな!!」
そう叫んで、レディンは、ヴァーチェ宙域、特に宇宙冒険家をやってる
雷撃戦士達にとっては、子供の頃から憧れてきた剣豪が居たからこそ
自分達もそれを目指して修行してきたのだという思いをエスカに訴える。
そんなレディンの絶叫にエスカは「ほう」と相づちを打った。
「じゃぁ…、その英雄ジルフィールの孫娘としては、
名刀ミージェを継承する者の名に恥じない雷撃戦を、
アンタとしないといけないわけね…
ヴァーチェの雷撃小僧達に対して
戦士の夢を与えてきた男の、直系の子孫なのだから…」
と、エスカは勝手に一人で盛り上がっているレディンに
今のこの状況、『雷撃戦下』にある事を思い出させる様、言葉を紡いだ。
と同時に、相手にとっては自分が特別な存在であり
親族経由ではあっても、雷撃使いとしての敬意を、
持たれている存在である事もその言葉で自覚できた。
ただ、どうにも、その『英雄ジルフィール』という謎の単語と
いわゆる『赤帝のあの元帥』の間にある意識的な齟齬が
エスカだけでなくその戦いを観戦していたシュルトワルゼのクルー達にも
釈然としない所ではあったが…
「そうだな…名刀ミージェ
9階3次の光子を操る次元刀なんて
銀河に轟く『銘』を持つ宝石刀を持ってるんだ…
なら、伝説に違わぬ戦いをお願いするぜ?」
エスカの雷撃使いとしてのプライドをその言葉で感じ
レディンも戦闘下である事を思い出しては、伝説に違わぬ戦いを言葉で求める。
「黄色帝国のイルウリッヒ大将と青色帝国のブルーメン中将とか
色帝国の名だたる秘宝石武器持ってる奴らを
片っ端から斬ってきたあんたが、今更、何言ってるんだ?
我が家の家宝ぐらいじゃ、そこまで脅威でもあるまいに…」
そんなレディンの軽口に、エスカは呆れて言葉を重ねた。
『ミージェ』は確かに皇家護衛騎士が持つに値する名刀の1つであるが
最高級の武器というわけでもない。
皇族武器を、直接、下賜されていたその両提督を思えば
ミージェはやはり、格が1つ落ちると言った所であった。
「いやいやいや、ナージェスタとか化け物石胸に飾ってる状態で
そんな伝説の名刀を使われたら、流石に俺だって怖い…
イルウリッヒ大将やブルーメン中将より、
遙かに物騒な武装状況なんだけど?
お前さん、今、赤帝寸前の武装で戦ってる事になるんだがね?
それ、理解してる?」
そんなエスカの言葉に対して、
レディンは、皇族武器どころか皇帝護石をぶら下げている相手が、
その結界空間に護られて最高級武器を振り回せれているという
今の状況を説明し、エスカが口にしたその両提督達よりも、
エスカの武装状況の方が、遙かに凶悪である事を指摘した。
「ほう…そう言われると、そうか…
……言われてみるとそうだな…
メリシア様から下賜されたものだから、自然に使わせて貰っていたが
皇帝護石を身につけて戦えているという事は、
瞬間的には赤帝と同等の防御力を持っている事になるのだったな…」
レディンの指摘を受け、言われてみればと
今の自分の最高レベルの武装状況に納得するエスカ。
今までは『ナージェスタ』を持っていると公言した事は無く
本来は皇帝を護る為の護石を、実戦の中では全力で使った事も無いのである。
レディンとのこの攻防で、初めてナージェスタが
実戦において全力起動したのを見たのであるから
エスカ自身にとっても、
今の状況が赤帝の戦力に肉薄している状態なのだと、そこで気付けれた。
とは言っても、その赤帝本人のアルシオンと
何度も模擬戦をして訓練をしてきたエスカにしてみれば
『ナージェスタ』がこれだけの結界防御力を持っているのは既知であり
ナージェスタの結界空間の能力に驚く事はなかった。
だからこそ驚くべきは、アルシオンと模擬戦をして居る時と同じ状況が
実戦で起きているというこの状況、
相手の持つ艦『ヴァーユ』の駆動機関『イルスキュルト』の
高すぎる複素結晶の能力であった。
これだけの能力を持つ複素結晶を所有していれば、
銀河最強をレディンが目指していると言うのも冗談の類ではない。
赤帝と互角の戦力を持つと判断できる宇宙冒険家。
その事実にエスカは苦い顔になるしかなかった。
レディンも、今が雷撃戦の最中である事を思い出しては
そんな風に会話で相手を賞賛してばかりというわけにもいかず、
ミージェを出して近接戦闘体勢に入ったエスカに対して
空間から突然アーミーナイフの様な刀を出現させ、それを手に握った。
そのレディンのナイフをじっと凝視するエスカ。
「6階2次のウィークボゾン刀か…業物だな…」
エスカは空間歪みの量を測定し、
瞬時にその複素結晶の特性を割出して、口にする。
「そちらの歴史ある名刀には全然及ばないがね…
銘は無いが、宇宙発掘してたら出土した品で
俺のお気に入りさ…」
「宇宙を掘ったら6階の刀が出てくるのか…
それなら、私も宇宙冒険家に転職しようかな…」
レディンの言にほとほとあきれ果て、本気とも冗談ともつかない調子で
そんな戯言を口にしてみるエスカ。
しかし、この銀河の白色帝国領域では、
そんな戯言を本気にしてもいいほど、宝の魅力に溢れていた。
銀河1と目されている宇宙冒険家が、
こうも次から次へと色連邦帝国の人間ですら涎が出るような
高価なお宝を発掘しているというのだから、
その魅力に抗えというのは中々難しい。
そうやって無駄口を叩きながらも、刀をお互いに構えた状態で、
水の中でお互いの間合いを詰めていく二人。
二人がジリジリと寄る度に、二人の空間歪みが左右にブレ続ける。
近接戦闘用に刀を構える間も、空間演算操作においての戦いは、
戦いの開始からずっと続いていたのであった。
多数、水の中に浮遊している『複素結晶』の演算と力場生成によって
水の中に溶けているミクロからナノサイズの大量の『空間素子』は
『空間回路』を高速で組み替え続けられ、互いの波動力場を伝達できるよう
空間回路を形成させていく。
その自己支配している空間回路の領域を『結界空間』とも呼ぶのだが、
互いに運動力場を自在に支配する『結界空間』を作ろうとするのだから
結界空間と結界空間が重なり合う領域では、
互いの『複素結晶』群が空間回路の組み替え動作を阻害し合い
互いを完全防御する結界空間を、その空間で中和していく。
そんな『液相』での『空間演算戦』が
ナノ秒単位の刹那に交錯し合っていた。
『空間演算戦』での力場と力場の奪い合いを繰り広げている刹那の隙に、
突然エスカが相手の懐に空気中に居るかのように飛び込んだ。
液体の中だというのに、空気中に居るかの様な抵抗のない速い動きであり
と同時に、それが空気中であってさえ、
人の動きとは思えない程の素早い突撃で、レディンに肉薄するエスカ。
液相の中に作った空間回路によって液相場の粘質状態を変え、
多数のマイクロスクリュープロペラによる液相流体力場の補助を受けての
高速移動であった。
「チェイサァァァッ!!」
流れに乗って手にした小太刀を一閃し、レディンに斬撃を与えようとするエスカ。
その太刀筋を見切ってレディンはミージェの刃を交わそうとするが、
後ろにのけぞろうとしていたその時に、体が突然『硬直』する。
動いていた周囲の液体が瞬時に固体の様に固まったのであった。
「獲ったっ!!」
瞬間的に生み出した強い結界空間に相手を拘束したのを見て
必殺のタイミングで自らの小太刀をレディンに向かって振り切るエスカ。
「ちぃぃっ!!ナージェスタの空間凝固、硬てぇぇ!!
でいあっ!」
レディンの体が結界空間で固まり、
エスカの小太刀がその体を切り裂こうとしたその瞬間
レディンは左手のグローブを光らせて液相空間を『掻き分け』た。
固まっていた周囲の液体はそのグローブを中心に柔らかくなり
粘性を取り戻して流体化する。
そして硬直した空間を中和してその場から
レディンは飛ぶように脱出したのだった。
当然これも、液体の中とは思えない程の液体抵抗の無い動きでである。
その交錯の中でエスカの小太刀が、レディンの頬をかすめる。
レディンはそのまま水中の中を体を丸めて転がっては、
エスカから間合いを取り直した。
エスカはそんな間合いを取るレディンに対して、相手を追撃するのを止め、
目の前で起こった納得のいかない現象に頬を引きつらせて叫んだ。
「ちょっと、ちょっと、宇宙冒険家さんっ
何なのそれっ!?」
必殺と思った一撃が、
あり得ない空間開放を食らっては相手を取り逃がした今の光景に
エスカは引きつった笑みを浮かべながら、レディンの謎のグローブを指す。
「空間裁断だけに特化した複素結晶~~
銘はこれも無いが、繊維型の複素結晶だ…
難しい織り込みをされていて、階も次も俺でも測定できないが
ナージェスタの空間凝固を切り裂けるところから
瞬間的には、同等の階を絞り出せるらしいな…」
と陽気な顔でグローブをしている手をプラプラと動かしては
そう返事を返すレディン。
「SHGを生み出して
空間中和する繊維質の防御特化複素結晶か…
またふざけたモノ、持ってやがって…
道理で、寸前まで階空間の圧を感じなかったわけだ…
突然に高階干渉を生むなんてね…
そんなおかしなモノ、次から次へと発掘できるなんて
あんた、本当に宇宙冒険家としても一流らしいわね…」
エスカはレディンの装備している武装の特性を見抜き
同時にそんな特殊な宝を宇宙冒険で手に入れられ続けている
相手の宇宙冒険家としての力量にも感心する。
「いやいや、今のは危なかったよ…
イルスキュルトの空間操作が、ナージェスタに追いつかねぇもんな…
やっぱ身につけてる複素結晶は一番強くて早いな…
危ない危ない…」
エスカの言葉にそう返して片手をハラハラと払って、
レディンは苦笑いを浮かべた。
そんな相手の率直な感想を受けエスカは呆れた顔をずっと続けながら、
思わずある事を思いつき、それを不意に言葉を口にしてみる。
「ねぇ…アンタ、ウチの帝国に雇われない?
それだけの発掘才能、ヴァーチェを制圧したら
我が帝国には是が非でも必要なんだけど?」
エスカは苦そうに笑いながらそう尋ねてみた。
自分の戦艦に揚陸戦を仕掛けられているというのに、
自分は何を言ってるのかと、自分の思わず言った言葉に呆れるエスカ。
しかし、そう思わず言ってしまう衝動が、
エスカのレディンに対する宇宙冒険家としての公平で公正な評価でもあった。
「ふーーむ…
俺も生まれた時から宇宙冒険家してるからな…
宇宙冒険は俺の人生そのものだし、色帝のパトロンが出来て
経費をこれからはドン無視できるとなると、
確かに、悪くはない申し出だが…
でも、そうなっちゃうと、アルシオン陛下と戦えなくなっちゃうからな~」
エスカの譲歩案に、レディンは難しそうに笑いながらそう返す。
そんなレディンの返事にエスカはまた渋い顔になるしかなかった。
「いやいやいや…
アルシオン陛下の首を狙ってると、また堂々と言われると
赤色帝国軍人としては、
命に替えても討ち取らないといけなくなるわけですよ…
それが、赤帝の軍人であり、皇族護衛騎士の本分ですからねぇ…
私個人としては、その才能を消すのは惜しいのだけど…
それもS級人類で皇帝一族血脈系の複素結晶に適合できる様な奴が
宇宙を野良してるってのも考慮するとねぇ…」
とエスカは相手が皇帝打倒を口にしてはばからない事に
眩暈を覚えながら、不可避のこの対立に残念さも感じる。
実戦の雷撃戦をしている以上、何より色帝の艦隊に乗り込まれた以上
その相手への報復は、死殺以外にありえない。
しかしそれは、自分と対等以上に戦える相手の消失でもあり
宇宙的重要資産の大損失であった。
「強力なパトロンは大歓迎だが、それで銀河最強と戦えなくなるとしたら
俺としては、その案に乗るのは死ぬのと同じだぜ?
男なら、銀河最強目指さないと、生まれてきた意味無いだろ?」
エスカのぼやきに対して、あまりに自然にそう言うレディン。
その言葉に思わずエスカの息が詰まった。
馬鹿ってのは、どうやらこの銀河には自分も含めて沢山いる様だった。
それを感じてニヤリと頬を緩めるエスカ。
「惚れたくなるような台詞だけど
ゴメンナサイね…
ロックフォード家は代々、武芸を重んじてきた軍人一家
最強たりたいのは、男だけじゃないわけ…」
そのレディンの言葉に、小太刀を差し向けて若干の訂正を求めるエスカ。
そんなエスカの返し言葉に、今度はレディンの方が思わず舌を巻いた。
「こっちが惚れたくなる頑固な精神だな…
なるほど…確かに、アンタは強いな…」
そうやって無駄口を叩きながらも、二人は間合いを取り直した後に
ずっと空間操作をし続けてお互いの歪み空間戦で鬩ぎ合ってもいた。
相手の懐に飛び込むには、相手の結界空間を中和するしかない。
それを互いにさせずに、
自分の有利な結界空間を造るために空間演算戦を続けるのだから
会話を交わしている巨視空間の様子は静かであっても、
空間回路の組み直し合っているというミクロの世界では
戦いはずっと白熱していたのであった。
「しかし…あんたのもってるインチキの様な品はともかく
それだけではどうしてもないと思う
この不気味さが嫌なのよね…」
「いやいや、俺はクリアに戦ってるだろ?」
「色帝国の最高技術をあしらえるような
インチキ発掘品使って、何言ってやがる…」
「宇宙冒険の末の戦利品をインチキ呼ばわりされるのは
ちょっと傷つきますねぇ…
知らないかもしれないですけど発掘は命がけなんですよ?
銀河深淵の化け物と戦わないといかんのだから…」
「あの銀河深淵の化け物共…
クラーリン達とは、私も二、三度戦った事があるから
あんたの苦労は理解できるけどね…
それでも、あんたほどの戦利品は持って帰れなかったわ…
あんだけの被害を出したのにね…
だったらインチキ呼ばわりでもいいでしょ?」
ミクロ空間で空間演算戦を続けて、
目に見えない激しい戦いを繰り広げながらも
互いの間合いを維持したままで無駄口を叩き合う二人。
エスカはレディンの言った『宇宙の化け物』
『クラーリン』と戦った時の事を思い出して、これまた眩暈を覚えた。
宇宙冒険家とは、銀河中枢の古代遺跡に眠る高階高次複素結晶を発掘するか
それを護る宇宙の化け物『クラーリン』を倒してその残骸を解体し
駆動中枢の複素結晶を手に入れるか、
それ等の古代複素結晶を手にして、誰かに売買する生業である。
そんな銀河中枢の発掘業は
古代帝国の遺産技術をそのまま手に入れる事が出来るのだから
当たればデカイ仕事であるが、
リスクは宇宙の化け物『クラーリン』との必然的な戦闘であった。
クラーリンは色帝の艦隊ですら全滅しても不思議ではない強力な相手であり
色帝レベルでリターンに対するリスクの方が、遙かに大きな相手であった。
そんな猛烈な相手に、命知らずにも陽気に喧嘩を売りつける者共
それが宇宙冒険家という、歪な存在であった。
「おー、クラーリン達との戦闘も経験済みでしたか…
これはとんだご無礼を…
うーん、でも発掘品の大当たりは、所詮、運だしなぁ…
だからこそ宇宙冒険は面白いんだが…」
「そんな宇宙冒険で命がけで手に入れた品物使って
銀河最強を目指して辻斬りとか…
分かる様な、分からない様な…」
言って、レディンの生き様を思い、エスカは難しい気持ちになる。
『銀河最強を目指す者』なれば、
発掘で手にした武器がどれほどの能力を持つのか?
それを知りたくなるのは戦士の本能だろう。
宇宙冒険家などという、
年がら年中、クラーリンを相手にしているキティガイ達にとっては、
己の力を知りたいという渇望に溢れているのは普通の事に思えた。
しかし、だからといって、力試しに色帝を相手に喧嘩を売って、
色帝の賞金首に自ら成りに行くというのも正気の沙汰ではない。
喧嘩を売られた以上、色帝も『連邦帝国』という威信が掛かっている。
見つけ次第、賞金首は抹殺、は、どこの色帝でも原則であった。
そんな正気とキティガイの境界線にこそ、
『銀河最強への道』があるというのなら
それをエスカは肯定する事も否定する事も出来なかった。
それが色帝の軍人という立場の不自由さなのだろうか。
己を試したいという雷撃戦士の本能と、色帝の軍人であるという矜持、
その両者に板挟みになって、本音が何であるのかを明確にできない。
それは不自由な事だと、言葉にされないでも
レディンにこんな生き様で笑われているような気がした。
そんな事を不意に感じて、溜息を付きながらエスカは戦闘を続行する。
二人は会話を続けながらも、お互いの複素結晶群を使い
有利空間を作り出せるように空間回路の形成合戦で
空間演算戦闘を続けていた。
エスカは、エスカの持つ旗艦シュルトワルゼの駆動管理機関
『オロード』とオルフェニウス大公家の秘宝石『ナージェスタ』
空間演算戦には参加していないが演算補助も行う次元刀『ミージェ』
3つの最高級複素結晶を巧みに操りながら空間演算戦を続ける。
そうやって、有利空間を形成して戦局の掌握を計るものの
レディンの持つ艦『ヴァーユ』の駆動管理機関『イルスキュルト』
彼の頼りにする複素結晶の空間操作演算能力は非常に高く、
僅かにある距離などモノともせず、
赤帝の最高戦力級と互角の空間演算を続けたのだった。
そんな互いの複素結晶を使った空間演算戦は一進一退であり、
弩級戦艦用の巨大複素結晶故の
猛烈な空間操作能力を持つ『イルスキュルト』に対し
同等以上の性能ながらも根本的質量が違うので
出力パワー不足であった『ナージェスタ』が、
演算距離が最近接であるという有利点と
『オロード』からのエネルギーバックアップを貰って
『イルスキュルト』の空間演算操作を中和していた。
お互いが操る複素結晶での空間制圧戦は、
これまでの戦いを評価すればほぼ互角。
なれば、レディンがエスカの戦艦内に侵入してきているので
僚艦を使っての持久戦に持ち込めば、
レディン側のエネルギーが枯渇するまで空間演算戦を続ける
…というのも戦術オプションの1つである。
エスカは演算戦を続けながら、それを脳裏に過ぎらせた。
しかし味方艦のエネルギー支援を貰っての『演算持久戦』という
圧倒的有利戦術があるにも関わらず、
それを恐れもせず戦闘を続ける目の前の宇宙冒険家の様子に
眼を細めるエスカ。
故に、エスカは相手に何らかの『切り札』の存在を感じた。
「明らかな罠を感じるけど…
でも、雷光と呼ばれるのは雷撃戦の名手だからじゃなくってね…」
「ほう? となると?」
エスカはむしろ己に言い聞かせる様に言葉を放っては己の意を決する。
虎穴に入れずんば虎児を得ず。
その不条理な現実を受け止めてエスカは叫んだ。
「罠と分かっていても雷の様に飛び込みたい
私の気質から来るモノなのよっ!!
額紋展開っ!!」
エスカが叫ぶと、エスカの額に赤い3つの菱形の紋様が浮かび上がり
その瞳が金色に変わる。
同時に、彼女の周囲の液相空間が更に強い空間歪みを引き起こし始めた。
「ちょっと…菱が3紋って…、おまえ皇帝一族と同格なのかよっ!」
その目の前の光景に、思わず噴き出すレディン。
「いきなり奥の手よ!
アンタの隠してる『何か』
それを見切らないと勝機はないんでねっ!」
エスカは絶叫で返して体内複素結晶のリミッターを外し
周囲液相に展開している複素結晶とのより強い強制リンクを形成した。
次の瞬間にはオロードからエスカに供給されている空間エネルギーを
周辺の複素結晶に分配し、液相空間エネルギーの凝縮を開始する。
「なるほど、皇帝一族級の適合能力者…
だからナージェスタと、そこまでシンクロできるのか…
しかし、ロックフォード家はオルフェニウス大公国の筆頭騎士名家だが
オルフェニウス大公家との血縁関係なんてあったのか?」
レディンはナージェスタの存在を認識してからずっと感じていた違和感を
ようやくその光景で理解した。
オルフェニウス大公国メリシア大公姫、…いや今では赤帝皇后でもあるが
そのメインマスターからの貸与系複素結晶にしては、
エスカがナージェスタから引き出せる空間操作能力が、
あまりにメインマスターのメリシア姫並に調和しすぎている。
それがレディンは最初から気になっていた。
貸与系複素結晶は、メインマスター以外が使えば、
その能力は格段に落ちるというのが複素結晶武具の常識である。
にもかかわらず、エスカが操るナージェスタの能力は
これまでの戦いを思えばレディンのイルスキュルトと互角。
質量比を考えれば、性能だけなら相手の方が遙かに上と考えれる。
それだけの複素結晶の能力を引き出すには、貸与者への仮登録ではなく
メインマスターとしての本人登録でなければ無理であり、
と同時に、そんな高度な複素結晶を操るには、自身の肉体に持っている、
己の複素結晶の性能も、同等でなければ使いこなせるものではない。
つまりこれだけの芸当は、赤帝の現在の赤帝皇后
メリシア・オルフェニウスにしか出来ない事のハズなのだが…。
しかし、使用者が複素結晶にとってメインマスター級の識別だったとすれば
その常識に対する異質な挙動にももつじつまがつく。
だが、そうなるとエスカは皇族という事になり…
「不思議そうな顔ね? 宇宙冒険家さん…
ま、意地悪せずに種明かししてあげるとね…
私の曾おばあさん、オルフェニウス大公家の姫だったの…
その当時は、姫と騎士提督の大恋愛で半駆け落ち同然だったらしいんだけど
国の世論に感動されちゃって、大公家に最終的に婚姻を許されてね…
なので、ロックフォード家の血の中に、皇族の血が直接入っちゃったのよ…
ロックフォード家的には、守護騎士としての長い伝統があるんで
皇族の直接的な外戚入りを拒んで、貴族位のままだったんだけど…
で、ロックフォード家としては、
それから2代は、皇帝一族級の血継共鳴者は出なかったんで、
このまま家の伝統を守れば良いか…という姿勢だったんだけど…
『覚醒遺伝』で、遂に私に発現したみたいでさ…」
意地悪そうに舌を出して悪戯っぽい微笑みを浮かべながら
エスカはレディンが抱いた疑問を隠す事なくその場で説明した。
「おいおい…本当かよ…
なら、俺は、オルフェニウス大公家と直接決闘してたって事か…
あんた、野良の宇宙冒険家、笑えないよ…
フリーで戦争しに行ける皇帝一族って、敵としたら嫌だと思うぜ?」
そんなエスカの種明かしにレディンは絶句して口をポカンと開ける。
エスカの武装状況だけでも赤帝と同レベルに近いというのに、
血継のシンクロ性まで赤帝の同じレベルというのでは、
皇家や赤帝と戦っているのと全く変わらない状態だ。
それは頻繁に見られるものではなく、
皇族と直接戦うなど、それだけで栄誉な事であった。
色帝直系皇族は、先天的に最高級戦力のS級人類であり、
戦闘訓練を丹念に積めば貴族階級のS級人類よりも遙かに強い戦力になる。
それが銀河の常識であった。
ただし皇家S級人類は軍事業務よりも国家統治業務…
特に『思考天体のコアマスター』として行政管理をする事が最も重要な職務であり
どれだけ純粋な軍事能力が強力な皇族であれ、
本土を長期に離れる事は難しいし、あるいは法典で禁止されている。
それもまた、銀河の常識であった。
であるので、皇族と直接血縁関係を持った貴族の中で
『覚醒遺伝』で皇族と同じだけの戦闘力を持つ者が生まれれば
遠征出兵を皇室典範で強く制限される直系皇族と異なり
自由軍人として皇家の力を宇宙に振り回す事が出来るわけで…
皇室典範の取り決めで、皇家人としてのキャリアを積むために、
一時的に、銀河中枢か戦況が活性な戦闘宙域に遠征派兵されて
適当に戦って、ある程度の戦果を上げたら帰るという、
そんな短期間しかいない直系皇族などよりも
最前線に常駐できる皇家代理人として、非常に危険な戦力と見なされるのである。
その常識を思い、レディンの自然に出た愚痴に対して、
しかしエスカは肩を上げて、冷たい視線を送った。
「はっ!皇帝一族級の複素結晶とリンクできる
おそらく、どっかの色帝皇帝一族から先祖がバックれて
色帝の手が届かない場所で、子孫が宇宙冒険家にやってるような
そんな困った『覚醒遺伝』してる野良S級人類より危なくないと思うけどね?
額紋展開、貴方もしてくれない?
何所の色帝国の皇帝一族の落とし子なのか、知りたいんだけど?
どうせ、あんたも三紋菱なんでしょ?」
エスカはそう言って自分と互角に戦えているという事実で
相手も同じ皇族系の血筋である事を揶揄してみた。
最高級の宇宙冒険家など、いわゆる『逃亡皇族』の成れの果てであると
銀河の常識的に分かっている。
だから、そう挑発して、あわよくば、何処の色帝から先祖が逃げて、
その子孫が宇宙冒険家をやってるのか?
その情報を引き出そうとしたのだった。
「丁寧にお断りするっ!」
その挑発に全力で首を振るレディン。
「あらそう? なら紋様展開もしないまま死んで…」
エスカは、レディンのそんな頑な返事を聞いて、
この期に及んで何を出し惜しみをしているのか?と不機嫌になり
ならば迷わず全力で殺す思想と体勢になった。
そうやって無意識に感じている『何か』をあぶり出すのが最大の狙いだった。
エスカが無造作に腕を振るうと、
先ほどの空間歪みより、更に強い歪み波動流体が生まれ
均衡を保っていた空間操作戦が、瞬時にエスカの掌中に下る。
強い流速が生まれ、その流れにレディンの体は流されていった。
「ひぃっ!額紋展開で体内複素結晶が全活性してるよっ!
ナージェスタとのシンクロ率も上がった…
どないしよ…」
レディンは次空間観察を行って、エスカの体内にある複素結晶達が
歪曲空間を強く作っては空間支配率を増加させているのを凝視する。
彼女自身の複素結晶共鳴と同調し、彼女の胸にある秘宝ナージェスタも
より強く次空間操作を開始していた。
最低限の空間防御だけを行って、流れに任せて間合いを保とうとするレディン。
「全力になって、尚、まだ感じるこの不安と罠の感覚…
でも私は雷の様に早く飛び込むだけっ!」
そんなエスカ側が全力展開を示したのに
何処か様子見と余裕を保っているレディンの態度に本能が危険を感じ
『罠』の存在を瞬時に思い浮かべる。
しかし、引く事の出来ない戦いであるという現実が、
その感じる危険感を無理矢理押し殺し、あえて罠に飛び込むように命令した。
だから意を決してエスカはその服の上に、突然、大量の宝石群を出現させる。
「出し惜しみは無しだっ!
私の直感が危機を訴えるっ!!
だからこそ斬るっ!!」
そう叫ぶや、エスカは自らの体を流動化させ
レディンに向かう流れ場となって
自らの小太刀を雷のように直線的に当てに飛んだのだった。
「ひぃっ!そんなに武装系の複素結晶隠し持ってたのかよっ!
アンタ、今までで、やっぱり一番つぇぇなっ!
だったら、こっちも出し惜しみできねーわっ!」
エスカが空間に隠していた武装複素結晶を全て出し、
完全武装化して飛び込んで来た。
その意気を見て、一撃に全身全霊を賭けているのを看破すると、
これ以上、周囲空間を相手に支配させているのは危険と判断して
レディンは自身もようやく手の内の『とっておき』を披露する事に決めた。
それを決断しなければならない相手だと感じれると
レディンの口元が自然に緩む。
レディンは手の中に沢山のナイフを出現させ、それを握った。
そうやって握ったナイフ内に、次の瞬間には物凄い早さで
手にある己の体内複素結晶からエネルギーを注入する。
その高速なエネルギーの注入で、やがては自身に空間圧が生じて
周囲の流速を弾く程になるナイフ達。
そしてエネルギー充填が終わったと判断するや、
レディンは手の中のナイフ達を離して流体場の中に流したのだった。
「何っ!?
ソードオブダンスだとっ!?」
レディンが流体場に大量のナイフを投げた様を見て、エスカは青ざめた。
放流されたレディンのナイフは、暫く流体の中を流れていたが
突如各々が意志を持ったように動き始め
四方八方を流動してエスカを刺突するように動き始めたのだった。
全力展開によって強い水流を作り、その流れに乗ってレディンに近接して
必殺の斬撃を食らわせようとしていたエスカは
そこで自分の周囲に作っていた流れ場を開放し、
逆に静止する流体場に変えてその場に止まり、
襲い来るナイフを迎撃する体勢に変わる。
自分の流れを無理矢理に止めて、レディンの雷撃戦技『ソードオブダンス』を
防御フィールドを空間回路で急速に組み上げて、防ぎに入るエスカ。
『結界空間』は、本来、運動物体の運動量を吸収して停止させる空間であり
同時に攻撃物体を、自分の支配下にしてしまう空間操作である。
しかし、その『結界空間』に入ってなお、レディンのナイフは運動量を失う事無く
意志を持っているかの様に四方八方を飛び回っては、
エスカを全方位から攻撃したのだった。
エスカは己の小太刀で切り払い、
あるいは空間を凝固させてそのナイフを止めようとするも
それらは『普通のナイフ』では無かったので
破壊する事も完全停止させる事もできなかった。
それがレディンの使った雷撃戦技『ソードオブダンス』であった。
「アルシオン陛下得意の皇帝技っ!
他にも使う奴がいるなんてっ!!」
「あー、そう…
やっぱアルシオン陛下も使うのね…
俺のと、どっちが強いかな?」
口では互いに無駄口を叩きながらも、エスカもレディンも
互いの結界空間、あるいは結界空間を破る為の特殊攻撃の
空間演算、空間操作に全力を注ぐ。
作られる空間回路と力場、それを相殺する空間回路と力場の鬩ぎ合いの中で、
物理的な運動が、流体振動として同時に交錯していく。
「ええい、どいつもこいつも、6階2次のナイフとはっ!!
レディンッ!! お前、どうやってこれだけの複素結晶
手に入れたぁっ!!!」
容易に運動量を奪えない特殊な複素結晶の武器…
それも6階2次の偏微分方程式空間場を自己生成する
ソードオブダンスで操作されているナイフ群と対峙して
そんな高価な代物が、目の前に大量にある事に絶叫するエスカ。
「宇宙冒険家は、地道な発掘の蓄積で生計を立ててます」
「馬鹿言うなっ!!」
レディンの冗談とも言えない軽口にエスカが激高したその時、
ナイフの1つがエスカの張っていた結界空間の『緩み』を見い出し、
そこに弾丸の様に突入した。
そして止まらないナイフの刃は、エスカの腕を切り裂き、
彼女の腕を2つに切断したのだった。
「獲ったっ!!」
ナージェスタの結界空間を斬り裂きながら、空間の隙間
刺突の道を作り出したレディンのナイフ空間操作がエスカを捕らえ
エスカの右腕を切断した。
それでレディンはこの勝負は決まったと目を見開く。
「いやっ!斬らせたのよっ!」
レディンがエスカを斬って勝利を確信した時、エスカの瞳が慟哭する。
額の三菱紋が輝き、切断された腕から溢れる血が
自ら意志を持って動きだしたかの様に振る舞い、紐のように繋がっていった。
と同時にエスカとレディンの間にあった水の流体空間に対して
エスカは高速エネルギー注入を行って、瞬時に蒸発させて水蒸気にし、
その蒸気圧で空気による直系30cm程度の円筒管路を作り出す。
そしてエスカは切断された右腕をその空気の管路を伝って矢のように飛ばし
己の小太刀をレディンに刺突させたのだった。
「何だとっ!?」
思わぬ空間状態変化から自分の遠隔操作ナイフで切り裂いた腕が飛んで来て、
レディンは直ぐさま両腕で身を庇う。
そして庇ったその腕の前方に液体を纏って青く発光する液体の盾を生み出した。
「ソードダンスの空間演算にリソースを割き過ぎたなっ!!
シールドの空間演算が遅いぞっ!!
斬れっ!『ミージェ』ッ!!」
レディンの前方に急速展開された青い液体の盾だったが、
エスカの絶叫と共に小太刀が光り輝き
その青い盾ごとレディンの体を庇った両腕を切り裂いた。
そして身を庇ったレディンの両腕は
エスカの『ミージェ』に切り裂かれ血飛沫を上げるのだった。
エスカは、レディンの腕を深く切り裂いたのを見届けると、
切断された腕を己の血をゴムの様にして引き寄せ、それを左手に持つ。
と同時に瞬間的に生み出した水蒸気の空気管路は
エネルギーを失って、元の液体相に戻っていった。
エスカは直ぐさま、左手に持った切断された自分の右腕を、
自らの腕の切断面にくっつける。
そのナイフに切断されたハズのエスカの右腕は、
互いの細胞達が空間回路が補助する水を媒介に繋がり合い
あるいは欠損してしまった細胞は水の中から再生成され
急速に元の姿に戻っていった。
「切断された界面の空間操作が、思うように制御できないな…
この周辺の複素結晶は全部ナイフに斬られたか…」
切断されていた腕は、そんな水の中の再構築治療によって
斬られた腕の切断面が恐ろしい速度で跡形もなく元に戻っていった。
だが、その治癒速度は、B級人類的には脅威的な速度ではあったが
彼等S級人類にしてみれば、苛立つほどに遅いモノであり、
それがエスカの愚痴になっていた。
本来、切断された周辺にあった体内複素結晶があれば、
もっと速い速度で、原子分子レベルまで操れるのであるが…。
「ナイフに切り裂かれて、俺が一瞬油断するのを計算して
わざと空間の切り裂きやすいルートを作って腕を切らせたのか…
攻撃用の空間回路計算に計算を集中させるための誘いでな…
そして斬られた腕を逆に半遠隔操作して想定外の空間生成で斬撃とはな…
6階のナイフだぞ?
切断された腕が通常空間で復元しても
腕の中にあった6階複素結晶は破壊されるのを承知で?」
腕から溢れ出る血を液体空間操作で止めながら、
レディンは自分のソードオブダンスを逆手に取ったエスカの反撃に
感嘆の声と、そんな曖昧な問いかけを漏らす。
「お前ほどの雷撃戦の使い手に、
無傷で勝とう等と虫の良いことは言っていられないっ!
私の6階の体内複素結晶は壊されたが、
その見返りに、お前の9階の複素結晶を斬ったっ!
これを、なんといったかな?
そうだっ!
『肉を斬らせて、骨を断つ』だっ!」
「ほうほうほう…」
エスカの仁王立ちとその言葉に、思わず頬を緩ませるレディン。
二人の視線がその時、交錯した。
互いの必殺をかけた思いの交差の果てにある、今のこの状況。
僅か一瞬の機転のやり取りが、立つ者と膝を付く者の差を生んでいた。
レディンはそれに思わず息を吐く。
「はっはっはっはっ!!
強ぇ-、こりゃあ、強ぇわ……」
言ってレディンは水の中を転げるようにして笑った。
「あはははっ!
S級人類の遺伝血統の優劣とかじゃねぇよな、こりゃ…
その意志力の強さ…
先天的能力だけじゃない、別の強さ。
自分の大事なモノを失ってでも何かを為そうとする
才能よりも更に踏み込んだ、その向こうにある強さ…
俺が求める『魂の強さ』
それをあんたは見事に持ってたわけだ…」
そうレディンは言って、宇宙を飛び回っては探し回っている
『出会いたいモノ』に、ここで出会えた事に歓喜の声を上げる。
「はっ!『魂の強さ』だと!?
命を差し出す覚悟のない奴に、銀河の覇を志す軍人はできんよ!」
そんなレディンの不思議な賞賛に奇妙な違和感を感じて、
会話の流れに沿ってエスカは己の信念を言葉で投げつけた。
相手に深手を負わせたとはいえ、自分も相当の代償を食らったわけで
会話で腕の再生の方に時間を稼ぎたい打算もあった。
だがそれよりも、レディンの言葉に自分の過去が…
『父のあの言葉』が共鳴して、
自分が自分である事を本心で叫びたい衝動がエスカを突き動かしたのだった。
「なるほど、なるほど…
『その覚悟』か…、そりゃ強いわけだ…
『アンタの親父の問いかけ』への…『アンタの答え』は…『それ』なんだな…
だからこそ、アンタは魂まで強いって事か…」
言ってレディンは、エスカの銀河中に知られている過去の逸話を思い出し
もし当人に出会ったら聞いてみたかった事をの答えをその言葉に見いだして
不思議な満足感を覚えるのだった。
「ふふん…宇宙冒険家風情に我が父の事を口にされるのは
少々、遺憾な所もあるが…
そういう風に解釈されるのなら、それはそれでアリなんだろうな…
命を賭けるからこそ、生きる事にも、戦う事にも価値がある!
私はそう思うっ!」
エスカはレディンが口にした『自分の父』の事を不意に思い出し
父の人生の全てをかけた『問いかけ』に、不意にそこで返事を返したのだった。
「命をかけるからこそ…
生きている事にも、戦う事にも価値がある…か…
悔しいかな、同感だな…
宇宙冒険家なんざ、そう思ってなきゃやってられねぇモンな…」
そう言ってレディンはエスカの言葉に共感する。
と同時に、心の底から見たかった光景が、この雷撃戦の中で
今、この両者を別つ決着の狭間にある事に、とても満足な思いであった。
「きっと…俺は、こういう戦いがしたいから
こんな生き方してるんだろうなぁ…
互いの命をかけてのやり取りの中でしか
見つかる事の出来ない、形の無い宝…
それを発掘するために生きる事…
宇宙冒険なんか、それが見つけられれば、他の事はどうだっていいんだよな…
いや、これ以上の価値が、この宇宙の何処にあるってんだ?
心の底からそう思う…」
斬られた腕を振るわせながら、
レディンはその次空間裂傷の痛みに、逆に心地良い笑いを浮かべる。
この痛みの中から感じられる信念の邂逅は、
この危険に飛び込まなければ絶対に見つかる事が出来ないという矛盾。
だからこそ、自分が求める答えがそこにあった事を知った時の満足感は
矛盾を破壊するほどの充足感になった。
それをただ単純に、レディンは喜んだ。
そんな妙な事言って笑っているレディンを見て、眉をひそめるエスカ。
「何かな…
私の方が圧倒的に有利な致命打を与えたはずなのに
アンタにまだある、その余裕…
藪をつついて蛇を出したような、こんな感覚は…」
そのレディンの笑いを見て、エスカは寒気を覚えた。
どう見ても獲物を追い詰めた状況だった。
6階までの複素結晶の傷を負ったが、相手の9階までの複素結晶を斬り裂いた。
これで空間演算戦のパワーバランスは著しく傾き、
このまま結界空間に閉じ込めて、圧死させれば良い。そだれけの事だった。
自らの大傷を代償に、銀河に名の轟く男を討ち取った。
そして向こうは、死の恐怖に怯える、そういう展開のハズだ。
その状況のハズなのに、しかし目の前の男は
この状況で『決死』の何かが生まれない。
潔く斬首される様なタイプには見えないので、
死ぬ最後まで死中に活を求める戦いを挑んでくる。
そうだろうと思っていた。
だが何かが違う。
それよりも『何か』
対峙した最初からエスカにまとわりついていた
直感領域で感じていた『危険な何か』
それを、この状況を生んだ事で、むしろ引き出した様にエスカには思えた。
それが故に、追い詰めたこの状況で、エスカは逆に怯える。
「いやいや、見事ですよ…
こんな風に完全に追い詰められたからな…
しかし、俺もまだやりたい事は沢山あるんでな…
ここで討ち取られるわけにはいかんのだわ…
だから、この戦いはこれで引き分けにしようや…」
そこでレディンは不思議な事を口にし出した。
「何を言っている?
引き分け? この状況で?」
この状況下であまりに頓狂な言葉を口にした事にエスカは思わず呆然となる。
普通なら、ただの負け惜しみにしか聞こえないのに
そうではないと何故か思えるからこそ、苛つきもする。
「まぁ雷撃戦に関しては、俺の負けでもいいけどな…
勝負の勝ち負けは、たいして重要な事じゃないんだ…
命のやり取りで、充実できるかどうか?
その中で、何かを見つける事が出来るか?
それが俺には一番重要な事だからな…
だったら、紅の雷光エスカは本当に強かった
そういう事でいい…
それが今回の冒険での、最大の獲得財宝って事だからな…」
言ってニヤけるレディン。
「何を言っている?
この状況でアンタの様な危険な奴、討ち漏らすと思っているのか?」
レディンの頓狂な言葉に、買い言葉でそう返してすごんで見せるエスカ。
しかし言葉とは裏腹に、これから一歩先、
相手を本当に討ち取る為の殺傷圏に入るのをエスカの本能が強く拒んでいた。
その一歩先には、エスカが死滅する何かがある様に
直感が警鐘を鳴らしていたのだった。
「そう言いながら、何故私は冷や汗をかいているんだろうな…
この不思議な恐怖の感覚…
何だ…」
エスカは、にこやかに微笑みながら、言葉通り、冷や汗をかいていた。
ただし水の中なので、溢れる汗は直ぐに水に混ざってしまうのだが…。
それでも肌から、冷たい汗が溢れ漏れ出していたのであった。
「まぁ、ここは尻尾を巻いて逃げるとしようか…
それが一番良かろうな…
って事で、ガンマ、逃げるからお前も手伝え…」
レディンがそう言った時、今まで主人を護るでもなく
その場で不動だった漆黒のガードロボがようやく動き出した。
「コピー、
マイマスター、では『あれ』を出しますよ?」
そのロボットがそういった時、ガンマの瞳が輝き
背中が展開して開いていき、背中のパーツが割れて観音開きになった。
その観音開きで開いたパーツは『鞘』であり、
その鞘の中には武器が秘められていた。
ロボット1体を使ってまで、何某かの所以で厳重に封印されていたその武器は
一見するとショートソードの様な、剣にしては短い武器であった。
その一振りのショートソードをガンマの己の封印から解いて出現させると
レディンは応急処置で傷口だけ塞いだ手をその場で上げて、
そのショートソードが手の中に入るように流体場を操っては剣を呼び寄せる。
「これを使わにゃ逃げれんなんてな…
本当にエスカは強かったって事だな…」
そう言ってレディンは苦笑いを、ただ、ただ、深くするしかなかった。
エスカはレディンが取りだしたショートソードを刮目して見つめ、
同時に息が詰まるような思いになる。
「ちょっと待て、レディン・ルーク…。
アンタ、何を持ってる?
ちょっと待て、アンタ…
その剣…、アンタ、その剣は……」
エスカはレディンがその場に出現させたショートソードを見て
その心当たりに更に嫌な汗を流すしかなかった。
「はー、エスカさんは、流石にこの剣を見た事がある…
いやー、見られちゃったかぁ…
流石は、筆頭御三家に長年仕える由緒ある守護騎士の家柄…
それもアルシオン皇子と武者修行の旅を一緒にした事もあるわけで…
それなら、やっぱ、そういう事もあるわなぁ…」
レディンはやっぱりなと思いながら、自分が逃走用に持ち出した
その剣の正体を看破されて、ただ苦笑いを返すしかなかった。
「まぁ、この腕、本当にかなり重傷だからね…
うん…
こんなに重傷だと負けて逃げるでもいいのよ、俺は…
剣に勝たせて貰ってもしょうがないからな…」
言ってレディンはその剣を『発動』させ、その刃に緑色の光を浮かべる。
「お…
おい…
ちょっと、レディン・ルーク…
アンタ、『それ』発動できるの?
何その刃の色…、アンタ、ふざけてんの?」
エスカは、レディンが展開する目の前の光景を見て、
あまりにおかし過ぎて、もう笑うことしかできなかった。
今、目の前で起きている様々な『在り得ない事』
それが同時に展開されれば、もう後は笑いしか残らない。
馬鹿なっ!を叫ぶ前に、最大のからくりを見破ってエスカは叫んだ。
「おいっ!そこの黒いロボットっ!
空間偽装して映像ジャミングなんか、かけてないで
ちょーっと、今の目の前の馬鹿が、額紋展開発動している、
額紋の菱の数を、私に見せてみ?
まぁ、色の事の文句はこの際、言わないから、ちょっと数の方を見せてみ?」
エスカは何の為に居るのか全く不明だったガードロボットが
一体今まで、何をしていたのか、ようやく気付いて、そう叫ぶ。
そうだ、額紋展開もせずにソードオブダンスを繰り出すなど
アルシオン陛下でも出来ない事ではないか!
エスカは戦いの高揚感に飲み込まれて、相手が『色菱』を徹底的に隠していた
その所以を完全に失念していたのだった。
「それは、そちらの御想像にお任せします!
それじゃぁさようなら!」
エスカの問いにレディンは楽しそうに笑いながらそう返して
『ナージェスタ』が圧迫している凝固空間をその剣を振って『斬った』。
そのたった一振りの斬撃で、ナージェスタが作っていた結界空間は
容易く斬り裂かれる。
そして、その斬った液相空間の裂傷から水がどんどん漏れていった。
…というよりも、どちらかというと蒸発していき、気相の空気空間になる。
その気相というか、ただの空気になった空間に転がるように飛び込み
レディンとガンマは戦闘区画となっていたブリッジから
文字通り無重力の宙を飛んで逃亡していった。
そして彼はシュルトワルゼのブリッジに張り巡らされていた
トランスポート中和空間領域から脱出すると、
彼の艦『ヴェーユ』にトランスポートしたのだった。
『なんだと!? この結界空間を切り裂いて逃げた!?
馬鹿なっ!! ナージェスタ様の結界だぞ!?』
ギネス准将は、見た事もない光景を目にして驚愕し
次元融解したその世界の中で、次元振動で絶叫する。
そんな絶叫を他所に、自分の艦にトランスポートしたレディンは
そのまま早々と次元潜宙を開始し、雷撃戦宙域を離脱していくのだった。
『エスカ閣下、逃がしてしまいます!
どうして空間捕縛しないのですか!?
あの男は危険です、艦隊戦をしてでも討伐しないと!!』
ギネスはそこで次元潜宙して感知が難しくなる前に
全艦隊の火力を集中させてでも『ヴァーユ』を攻撃する事を進言した。
「いやギネス准将
見逃して貰ったのは私達だよ…
あーいう性格の奴らしい
だから、これで本当に終わりだろう…」
そう言った後に、エスカはその床にへたり込む。
レディンがあの剣で空間を切り裂いたときの時空振動が
エスカ級のS級人類には僅かなショック毒になっていた。
なので、体が思う様に動かないのであった。
「それに、ヴァーユが何か分かった…
追撃だと?
阿呆…、追撃なんかしたら、逆に殲滅されるわ。
次元潜宙能力? オロードが気付かないほどの?
どうしてそんな簡単な事に気付かなかったんだ、私は…」
エスカは斬られた腕の、高階高次裂傷の特有の痛みが残る中で
笑ってしまう化け物に遭遇していた事を理解して、呆然となっていた。
と同時に、そんな化け物との戦いに生き残れただけで
今は良しとするしかないとも思えた。
それを思って、押し殺す様にエスカはその場で笑う。
『閣下、あの者が最後に出した複素結晶の剣
見覚えがあったようですが…
あれは…いったい…』
二人のやり取りを位相空間の中で観戦していたギネスは
最後にレディンが持ち出した剣の挙動を不審に思い
心当たりがあったらしいエスカにそれを問う。
「ああ、あれか…
あれはなぁ…、この銀河に6本しか存在しない剣の1つだよ…」
そう言って、言った後にエスカは腹を抱えて笑った。
何でそんな奇特な剣に、一生で、二本も巡り会う事が出来たのだろう?
そんな確率など、本当に在り得るのだろうか?
そんな自分の奇妙な幸運を思えば、やはりそこには笑いしか残らなかった。
『銀河に6本しか存在しない剣?そんなモノがあるんですか?』
「ああ、ある。
実在する…。
その一振りを私は見た事があるからな…
それを、あいつが持っていた事も大問題だが…
むしろ、それを『発動』できた事の方が問題だった…
この時代の銀河で『あれ』を発動させる事ができる人間が
まさか、2人も居たなんて…」
エスカはそう言って、今日、この場に生き残れた事に喜びを
心の底から感じて、笑うしかないのだった。
いやー、最初に投稿していた時のゲラは
細かい設定とか何も考えずに、「噂のあの人達」が出会って決闘
って感じで書いてたんですけれど、
この外伝を続けて、先々で細かい設定が改めて決まって行くと
全体的な概要である「六色帝国戦争」なる1000年戦争の
具体的な話が決まっていってしまい、そこに出てくる人の名前とか
そこら辺も具体的に決まって、どんな事をしたのかも決まると
「歴史」が出来ていき、歴史に沿って伝承が続いて行くと…
…と、この外伝の先々で明らかになる、一話の間ではまだ伏せていた設定が
もっと自分が考えてるより重要な話なんだという事に気付き、
「エスカとレディンのファーストコンタクトは、
淡泊な出会いと戦闘ではおかしいんだ!」
という事にも気付いてしまって、それを加筆してたら
凄い量の加筆になってしまいました…
最初はただのキティガイさんにしか見えなかったレディンが
話が進む毎に、明確な目標を持って行動している
プロの宇宙冒険家だって演出にしたかったんですが
と同時に、レディンにもあった幼少期がどうであったか?を考えると
ミージェと対峙した時に、「ほう~」程度の反応ではおかしい事に気付き
そこら辺の、色々な「登場人物は最初から既知だが読者はまだ知らない情報」
で、色々と会話が発生する事に気付くと
それを、第一話から盛り込んでないと、
後の話で「こういう設定が~」の説明すると、
「何で第一話で、その話に触れてねーんだよレディン!」
って事になっちゃうんで、そういう修正を行いました。
いやー、書けば書くほど、設定が明確に出来ていって
設定が明確に出来ていくと、前半の反応がおかしいねぇってなる
もどかしい所ですねぇ…




