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第十話 赤帝黄帝会談(Ⅰ)

さて、4ヶ月振りにこっちの方を再開ですが

メンタルの問題もあり、ちょっとしたウォーミングアップで間話を。

本編の方で出てきた話の始まりが、ここら辺から始まったんだよ

的な話を入れれば、本編の方への援護射撃にもなるなと…

アルシオンはアストラストの中でもまた特別な区画

『特異通信の儀』という名の場所に立ち、天に向かって語りかけた。


「本当なのだな、メリシア?

 トルパサスニアからの最高機密通信要請の打診が

 今日のこの時に指定されていたというのは…」


そう通信の儀の間で妻に問いかけるアルシオン。


『アストラストとの共同確認ですよ?

 嫁と赤帝の中枢の言葉が信じられませんか?』


アルシオンの問いに苦そうに笑い、そう言葉を返すメリシア。

メリシア自身はアストラストを強起動させるために

アストラストの巫女祭儀の場に立ち、

副巫女のネセイラと共に祭具を手にしては

ゆるゆるとした動作で祭儀の舞『炎の舞:序』を始めて、

アストラストと意識を結合させていくのだった。


『流石に相手が相手だ。

 閲覧席ででも、やり取りは見届けさせて貰うぞ?シオン。

 それが副皇帝の権限ってモンだろ?』


と、特異通信の儀の場には居なかったが、

その近くの展望室に座っては、自分の友人に声をかけるダンフォース。


「まぁ、赤帝4人が通信の証人となれば

 擬態行為であっても、色帝レベルの問題になるしな…

 それでいいのだろうが…

 何だろうな…会談の内容は…」


ダンフォースの言葉に苦笑しながら、

同時にトルパサスニアを使ってまでの会談要請をしてくる相手の

会談内容予想を口にしてみるアルシオン。


『宣戦布告かね?』


と、軽口で物騒な事を口にするダンフォース。


「嫌な予想をする…

 まぁ、今の白色宙域の状況が、状況だからな…

 そういう可能性も十分、在りえるが…

 全く外交の余地も無く、黄帝を動かすのかね?

 そこまで苛烈な皇帝ではなかったと思うのだが…」


ダンフォースの直球な言葉に笑いながら、

しかし、その言は在り得る可能性でもあり

かといって、直情的にそんな布告をする相手にも思えず

その戸惑いが、そのまま口に出るアルシオン。


『状況が状況だから、本人の意志とは関係無く

 苛烈にならざるおえん時もあろうさ…

 色帝ってのは、そういう立場だろう?

 こっちも黄色帝国本会議の議事内容まで諜報できてるわけじゃない…

 諜報部隊のレポートでは、黄帝の世論は戸惑っているってだけだ…

 なら、内々に議会の特別委員会でその方針が可決されてても

 不思議というほど不思議でもあるまい?

 後背を奇襲で突いての、ようやく宣戦布告するよりは

 先々に布告する方が、色帝の面子が保てるってぐらいで…』


とダンフォースは、在り得る可能性をまた口にしてみる。


「それなら、正式本会議での議会承認の後でも良かろうし…

 奇襲をかけるにしても、メタフ宙域の諜報報告は常に入って居る。

 侵攻艦隊がステージに入ったという報告は無いんだ…

 機密会談を指定してきたというのがな…」


『なら、もう腹をくくって会談に臨むしかないんじゃないのか?

 悩んでもどうにもなるものでもあるまい…』


「それは…そう…か…」


そんなダンフォースとの会話のやりとりで、

ダンフォースの思い切りの良い思考に諭され

言葉通りに腹をくくるアルシオン。


赤帝の長になって、それなりの時間は過ぎたが

色帝同士の直接会談などというのは、これが始めてである。

どこかの華の帝国を除けば、

アルシオン達は異例の若さで色帝に戴冠した若き王達なのである。

ならば初の色帝同士の会談に緊張するな、という方がいささか無理であった。


それでも仕事は仕事。

立場とはそう言うものであった。


『陛下、超深度重力波通信来ました。

 通信相手は間違い無く、黄色帝国思考天体トルパサスニアです…』


とメリシアが祭儀での精神融合でアストラストと同調して

感じる通信波を元に、通信要請をしてきた相手の名を口にする。


すると次の瞬間には、通信の儀の間に立体スクリーンが表示され

見た目だけは若そうな、しかし落ち着いた雰囲気の、

アルシオンとある一種、似た様なマント姿の男が映ったのであった。


「これはこれは、カルマード・アルバージ黄色連邦帝国皇帝陛下…

 やはり、陛下自らの会談要請でありましたか…

 通信秘紋に黄色皇帝印が入っていたので、

 もしや、とは思っていましたが…

 おっと、これは失礼…

 直接の会談としては、お初にお目にかかります。

 私は、赤色連邦帝国皇帝アルシオン・オーラクルムと申す

 色帝としては若輩者で御座います…

 以後、同じく色帝の座に就く者として御見知りおきを…

 さて、今日の突然の黄帝陛下からのお呼びかけ…

 どのような御用向きでの、機密会談の御要請なのでありましょうや?」


アルシオンはその姿を確認して、一般情報で知られている

黄色連邦帝国皇帝カルマード・アルバージ皇帝陛下、その人であると確認し

同じ色帝同士、会話に礼をつくしながら話を切り出した。


『ほう、炎の皇帝と、

 この銀河では敬称されておられるアルシオン陛下に

 そうも丁寧に御挨拶いただけるとは、意外でしたな…

 では、私も手短に…色帝の礼として…

 私は、黄色連邦帝国皇帝カルマード・アルバージと申す

 愚鈍な黄色の長に御座います。

 同じ色帝の座に就く者として、以後、御見知りおきを…』


そんなアルシオンの開口一番の言葉に、僅かに驚いた様な表情を浮かべ

その後、アルシオンと同じ様に恭しい口調を使っては言葉を返す黄帝。

僅かに礼として頭を下げては、顔に微笑みを浮かべる。


「御謙遜を…カルマード陛下…

 色帝位を40年も続けられておられる陛下に比べれば

 私など、まだ赤子の様な者でありましょう?

 陛下の統治が始まってからは、

 赤帝と黄帝の領土境界問題も、昔の喧騒は収まっております。

 これは赤色皇帝としては有り難い事…

 先代の赤色皇帝も含め、感謝の意をここに述べさせていただきたく…」


と、アルシオンは、見た目だけは若いが、

先代の赤色皇帝、アルシオンの父、フォニオス・オーラクルムと

色帝間同士のトップ会談で、積年の問題として両帝国の間に存在していた、

赤帝黄帝領土境界問題を調停してきた、外交の先達を相手に

形式でもあり本音でもある感謝の意を述べた。


『なんと…これは御丁寧な言葉を…

 アルシオン陛下は、父君の良い所を継がれておられる様だ…

 それは我々にとっても、良き事でありますな…

 私も、聞いただけの事でしかありませんが、

 この額に六つの菱を発現させた六菱皇帝というのは

 かなり強行な思考になる…と教えられていましたのでね…

 陛下がそうも腰低く、私のような三菱皇帝相手に

 対応して下さるとは…ありがたい事で御座います…』


と、カルマード皇帝は自分の額を指差し、

戦闘紋の黄色い逆三菱を示しては

アルシオンの額に輝く六菱の赤い印を笑ってみる。


「これはこれは、陛下から、その様な御冗談を聞かされるとは…

 若輩者としては光栄と言うべきでありましょうや?

 ただ、確かに先々代のナストア帝は

 苛烈な性情であったと聞いておりますし

 黄帝に対しても、脅迫めいた言葉で釘をさしては

 銀河中枢に艦隊を派遣した…と聞き及んでおります…

 それは、我等が赤帝がしてきた黄帝への非礼…

 先々代に代わって、その非礼、今生の赤帝が謝罪を致します…」


とアルシオンは赤帝と黄帝の間にある領土問題だけでなく

歴史問題に関しても、過去の非礼を詫びた。

特に相手が六菱皇帝紋を警戒するのに、十分な理由在る存在である。

なれば同じ、六菱皇帝紋を持つ者としては

頭を下げる程度で話が軟化するのなら、

幾らでも頭ぐらい下げるというモノであった。


例えこの後に、急転直下に宣戦布告をされようが…である。

それがアルシオンの考える「礼」であった。


『ふむ…直接話してみれば、噂以上に慎重な方の様だ…

 いえいえ、ナストア帝の事など、貴方の御父君の頃から

 会談の度に頭を下げられて貰っていたのです…

 我等、外交を司る者達にとっては、それだけで十分…

 むしろ、二代に渡ってまで頭を下げられれば

 赤帝の弱腰と見られかねませんぞ?

 我々ではなく…、陛下の愛する、赤帝領土の全ての臣民から…』


そんなアルシオンの腰の低さに逆に違和感を感じ、

黄帝は赤帝に、色帝の先輩としてのアドバイスを送ってみた。

礼を尽くすのは長の勤めであるが、

やり過ぎはまた全体の品格を下げるのである。

それが皇帝という難儀な役職であった。


「これはこれは…色帝の先達としての助言、痛み入る所で…

 それでは、適度なる感謝を…」


黄帝の言葉に流石にアルシオンも息が詰まり

僅かな頭での礼を以て、その言葉に返事を返した。

展望室で様子を眺めていたダンフォースは

思わずその光景に声を上げて笑い転げる。


『さて、この様な社交辞令を続けるのでもいいですがね…

 これが正式の直接会談なら、会談前のセレモニーからして

 莫大な規模になりますし…

 しかし、御存知の通り、思考天体同士を使っての極秘会談…

 色帝クラスにしか知る事の出来ない話という事…

 単刀直入に用件を申しましょう…

 アルシオン陛下…我等で…

 赤帝と黄帝で軍事同盟を組みませんか?』


そうカルマード帝は先達のアドバイスを送った後には、

歯に衣着せぬ言葉で、物凄い話をその場に持ち上げた。


「は? 赤帝と…黄帝で…軍事同盟を組む…ですか?」


その突然の提案には、流石のアルシオンも驚いて表情を歪める。

想定の中では、最悪は宣戦布告、普通でも白色領域での

軍事介入を臭わせての牽制の通達を言い渡されると思っていたので

その真逆の提案が出た事に、正直に驚くのだった。


『これはこれは…、若輩者の私の言葉一つで、

 銀河最強と目される炎の皇帝を驚かす事が出来るとは、

 私的には政治家冥利に尽きますかな?』


そう言ってカルマード帝はアルシオンの態度を緩く笑ってみる。


「いやはや…あまりに想定していなかった提案でして…

 これは一本取られた…という所ですが…

 しかし、冷静に考えて、正気ですか?

 カルマード帝…

 現状が現状なれば、我が帝国は貴帝国に宣戦布告を貰っても

 仕方ない状況でありますのに、それが軍事同盟とは…」


そうアルシオンは提案の内容を再びカルマード帝に確認する。

それは他の三人の赤帝達も同じ驚きだった。

四人は食い入るようにカルマード帝を見つめた。


『はっはっは…宣戦布告ですか…

 まぁ、そういう線も無くは無かったのですがね…

 特に、同じく極秘会談で水帝から軍事同盟の要請が来ていましたので

 我々がそっちの提案を呑めば、この通信はアルシオン帝の仰るように、

 宣戦布告の通信になったやもしれませぬな…』


そう言葉を足して少し値踏みするような

嫌らしそうな目をするカルマード帝。

外見は若く見えるが、82歳で戴冠して43年黄帝を勤めての

当年125歳という、色帝として貫禄が出てくる頃のS級人類中年である。

外交での腹芸はアルシオンに比べて達者なモノであった。


「普通なれば、黄帝の立場とすれば

 水帝からその様な要請がくれば、そっちの方を呑むのが自然なのでは?

 いえ、そんな事を赤帝の私が指摘するのも変ですが…

 しかし、本来はそうなるのが自然なのに

 その逆の提案をされるとなると、勘ぐるなという方が無理というもの…」


そうアルシオンは言葉の中で相手の意図を誘うように質問を積んでみる。

いや、自分の言葉通りである。

この様な、赤帝が白色宙域を二宙域制覇している状況で

黄帝が干渉戦争にやって来ない方が、普通はおかしいのであった。


『ふむ…まぁ最もな疑問ではありますが…

 私個人としても、黄帝全体としても…打算の面からして

 この提案は妙案だと思いますがね?

 我々の最大の懸念は、当然、これですし…』


と言ってカルマード帝は自分の額の黄色い逆三菱の帝印を指し示した。

そしてその指をアルシオンの方に向け、

アルシオンの六菱の赤帝印を指し示す。


「つまり…陛下と黄帝は、私のこの六菱が怖いと?」


非常に妥当な指摘を受け、アルシオンは自分の額に片手で触れてみた。


『当然でありましょう?

 我等が水帝の甘言に乗って軍事同盟を組んでアリッソにでも進駐したとして

 そこでギュー・バルディオスに遭遇して、

 黄帝の精鋭艦隊を殲滅されれば、これ以上の傷手がありましょうや?

 ルクセア宙域に、あの化け物の船が鎮座している以上、

 アリッソを攻めるなど、博打を通り越して、死にに行くようなモノ…

 水帝との軍事同盟で挟撃戦をするなど、黄帝としては危ない橋過ぎる…

 貴方が私と同じ黄帝の立場なら、そう判断しませぬか?』


カルマード帝はそう言って、この話の妥当な理由を口にしてみた。

その言葉に、やや納得を覚えるアルシオン。


「そうも理論武装で理由を語られては、

 こちらも、ある程度の納得をせざるおえませんが…

 しかし、色帝という、巨大な組織を預かる長ですからな…

 何か、巧妙な狙いがあるのでは? と勘ぐっても

 その無礼、お許しいただけませんか?」


アルシオンはそう言い、カルマード帝の提案に関して

魅力的過ぎるが故に、何か罠があるのではないかという危惧を口にする。


『まぁ色帝という立場なれば、それだけ慎重に考えるのが当然ですし

 そういう慎重さがある相手で無ければ、

 こういう提案を持ちかける気にもなりますまいよ…

 例えばアルシオン帝としては、

 黄帝艦隊のアリッソ進駐は無いにしても、

 水帝と示し合わせて、ローグザイン宙域で無く、

 ボートラント回廊を黄帝が強行突破すれば…と考えられておられるか?』


そう言って、カルマード帝はその場に、宇宙地図を展開して

赤帝と黄帝の間にある『境界領土問題』と言われる隣接宙域を示した。


挿絵(By みてみん)


アルシオンが考えた懸念を向こうの方から言い出した事に

流石に唖然とする四人の赤帝達。


『我等、黄帝艦隊だけで戦端を開けば、

 あまり愉快な戦況にはなりませぬでしょうが、

 赤帝と水帝の境界問題を含めて、例えば水帝が

 ノボス宙域からジッツ回廊を突破してサルディン宙域を攻めれば

 黄水帝国の挟撃の形となって、

 赤帝内の防衛艦隊は大忙しとなりましょうな…

 そういう戦略案を想定すれば、

 アルシオン帝の心労はつきませんでしょうとも…』


カルマード帝はそう言葉を重ねて、今度は赤帝と水帝の間にある

『領土境界問題』を宇宙図で図示する。


挿絵(By みてみん)


そうカルマード帝が指摘した事こそが

赤帝が抱えている「戦略的憂鬱」であった。


これは『銀河道非対称性問題』とも言われているが

この銀河は、赤帝と黄帝と水帝の間には

3本のインペリアルゲート級の道が繋がっているのに対して、

黄帝、青帝、華帝、緑帝、水帝の間にはせいぜい1本の

インペリアルゲートしか繋がっていない。

インペリアルゲートの繋がり方が銀河中心から見て非対称なのであった。


色帝の持つ技術からすれば、バイパスゲートの連続建造で

インペリアルゲート並の長航路を作る事は出来なくもないが

既にあるインペリアルゲートという長距離道に対して、

バイパスゲートを連続に建造する構想を実行して

莫大な建造費用を使う事を考えれば、よほどの事が無い限り、

インペリアルゲートを使っての進軍をするのが定石であった。


となると、防御の面においては、

インペリアルゲートが繋がっている宙域には、

宇宙要塞をしこたま建造して、

帝都に敵が侵入するのを防がなければならない。


だからこそ、赤帝と黄帝と水帝は、互いに

『何故、この三色帝間は、帝都宙域に繋がるインペリアルゲートが

 他所の色帝に比べて3本も繋がっているのだ!?』

と、青息吐息になっては、隣接宙域への宇宙要塞施設に

帝国予算を振り分けねばならないのであった。


と同時に、それは白色帝国領域で決着を付けるという

銀河中央突破の思想に対して、赤、黄、水の三帝国だけは

領土境界問題の方で牽制をする、という方法論も出てくるのである。


互いに宇宙要塞を作って防御を固めて居る要衝宙域があるのだから

そこを艦隊で突破するのは、常識的には容易では無い。

むしろ、不可能ぐらいの認識であった。


玄関領にある、機動天体要塞とかいう、ふざけた要塞では無いにせよ

この様な不思議な地理には相応するだけの『古代要塞』が

千年戦争が始まる前より、それらの宙域には設置されている。

その『古代要塞』が在る限り、機動天体要塞には及ばないにしても

はやり、宙域陥落突破不能、と考えるのが普通であった。


しかし、『牽制』という思想で考えれば、

その宙域を脅かすだけで十分な効果が生まれる。

それが他の色帝とは違う所であった。


普通に2つの色帝間同士における境界戦争なら、

決定的な戦力不足で戦争は千日手にもなろうが

今、カルマード帝が言った様に、

赤帝に対して、黄帝と水帝が同時に挟撃をしてくれば、

防御艦隊は二方面に割かなければならない状況に陥る。

そうなると、この挟撃作戦は中々に赤帝には傷手になる戦法であった。


今の赤帝のように、銀河中央に過剰に派遣艦隊を出している状況で、

二帝国からの挟撃戦を食らい、内部待機艦隊から更に防御艦隊を割り当てれば、

『古代要塞』の助力で防御艦隊が宙域防衛をする事は出来るだろうが

その反動で、「連邦体制」の方に歪みが生じるだろう。


色連邦帝国とは『連邦』なのだ。


色連邦帝国は多数の星系国家が、

連邦の一員として銀河の組織を形成している政体である。

それが、全体での大きな戦争によって、帝国内部の拘束力を落とせば

連邦調停艦隊の機能も悪くなり、

連邦周辺国の間での星間紛争の方が活発化する。


それがいわゆる『連邦体制の崩壊』という奴である。


連邦体制が崩壊していけば、エネルギー徴収税の入りが悪くなり

連邦帝国軍の中央軍事力の維持が難しくなる。

その為、更に連邦制度の拘束力が落ちてしまい、

参加星系国家の連邦脱退という事態もやがて起きるだろう。

その悪循環を起こす『牽制攻撃』をされたら、

流石の赤帝もたまったものではない。


赤帝から全艦隊を出して中央突破を目指す、という事が

現実的には夢物語なのはここら辺に所以があり、

120年前に、それでも強行にそれを実行したナストア帝の

敗戦による連邦への反動は、赤帝の勢力をもう一度このレベルに戻すのに

100年の回復時間を要した。


その記憶があるからこそ、今の赤帝は120年前よりも

更に慎重にならねばならないのであった。


その問題を思い返し、アルシオンは眉をひそめる。


「不思議ですな…

 陛下の御指摘された戦略案…

 実行されれば、我等、赤帝としてはかなりの手痛い話…

 その手の内を曝して、有効な方法論を棚上げにして

 実行すれば、色々と問題が起きるであろう、

 赤帝、黄帝の軍事同盟を提案されるとは…

 その思惑は、那辺にあるのでありましょうや?」


そうアルシオンは率直に相手の思惑を尋ねてみた。

外交交渉的には、相手側に主導権を与える言い回しであったが

提案内容が軍事同盟では、主導権を相手に与えてみてでも

その思惑を看破したい所である。

なので、あえて不利な物言いで、相手の言葉を誘ってみるのだった。


『ですから、言ったではありませぬか…

 我々としては、陛下の額の六菱…

 それが一番の憂慮すべき事であると…』


アルシオンの言葉にカルマードはまた額に指を当てて

この交渉の大前提を口にしては笑った。


「それは過大評価というモノではありませぬか?

 確かに、ギューは強大な戦艦なれど、

 所詮、単艦でしかありませぬ…

 戦争は、所詮、多勢に無勢…

 ギューが一方面で戦略的勝利を重ねようと

 全体において敗北が続けば、そっちの方が負けです」


そうアルシオンは嘘も絡めながら、

巧みに相手の思惑を看破する話術を展開した。

実はギューは、アルシオンが使いたい時に

自由に使える戦艦では無い。

あの時は、たまたま、

アストラストが封印解除を許してくれただけであり、

未だにアストラストへの封印解除申請の認可が下りなければ、

機動天体要塞から出す事もままならない問題戦艦なのである。


だがここでは、相手が擬性の六菱紋がどれだけの権限を持っているのか

知らないのであろうという期待感を込めて、

その様な話術を展開してみたのだった。


もし、黄帝の奥の院がベラベラと喋る組織であったなら

これらの嘘も簡単に看破されるのであろうと思われたが

まぁそうなら、それまでの事だ。


少なくとも、こちら側の奥の院は

知りたい事をベラベラ喋ってくれる優しい機関では無い。

謁見すら容易ではない機関なのだ。

ならば、黄帝も右に同じであろう、とアルシオンは期待した。


『ふむ…それは戦略論の正論でありますが…

 黄帝のみの安全保障を考えれば、

 やはりギューの存在は憂鬱だ…

 赤帝が水帝からの攻撃を防御艦隊で固めて、

 アルシオン陛下自らが出陣し

 ギューのソラン宙域から、ボートラン回廊を通っての

 モリスト宙域、タクラバント宙域への進駐…

 等と言うシナリオを考えると、

 タクラバント宙域に赤帝の旗が立つだけで

 黄帝の連邦体制は崩壊するでしょうな…

 ギューの戦闘力は未知数過ぎるので

 もしやすると、帝都ディッセカル宙域への進駐も

 可能性としては考えられます…

 水帝の戦力が弱っている今、各個撃破で直接帝都を狙う

 というのも、無い話でも無くなりましたからな…』


そうカルマード帝は苦そうに笑って宇宙図を示した。


「馬鹿な事を…

 よしんば、ギューがそこまでの戦闘力を持っていようと

 そちらの本土には、思考天体トルパサスニアがあるのですぞ?

 互いに色帝同士…

 思考天体の陥落など、不可能と分かって居る話…」


カルマード帝の示した戦略案に、

思わずアルシオンの方が馬脚を露わしてしまった。

色帝同士でしか、知り得ない事をそこで口走ってしまったのである。


『おやおや…外交会談で、その様な失態を…

 まだ、お若いですな…アルシオン帝…

 いやしかし、未来を預けようと考える相手が

 若者である事は、我等としては期待する所…

 外交話術的には汚点であっても、その率直さは好感が持てますな』


そうカルマード帝は、アルシオンが見せた取り乱しに

同じ様に表情を崩し、似た様なレベルでの外交失態を口にしてやる。


「どういう事ですか?」


そんなカルマード帝が見せた、

初めての本音の部分を感じ、それを問うアルシオン。


『いや、初会談で全て腹を割るというのは止しましょう…

 例え極秘の会談としても…です…

 それもまた、色帝のたしなみというモノ…

 まぁ、連邦議会に報告する為の言い訳を考えるなら…

 それらの、我々が考る最悪のケースの戦略案と…

 華海帝戦争のアレ…の複合で…ですかな?』


と、そう言ってカルマード帝は、海帝と華帝で今も継続されている

華海帝戦争の、宇宙地図を示した。


挿絵(By みてみん)


「あー、あの華帝国の魔術師…

 ニア・ラルフ提督が陥落させた、元青帝宙域

 フィルドバス宙域の古代要塞…『ゼロン』の話ですか…」


カルマード帝が示した宇宙地図を見て

アルシオンは閉口するしかなかった。

確かにこの宇宙地図を出されたら、

どの色帝の帝国議会も口を閉じるしかない。


『古代要塞ゼロンの陥落』


5年前に起きて、銀河を震撼させたあの事件。

それを思い出して、アルシオンの目も棒のように細くなるのだった。



いやー、ここら辺の話

華帝国の魔術師さんが何で脅威視されてんのか?

って本編への援護射撃以外は、同盟交渉そのもの以外の

厳密な領土境界問題とか、本編には、全くかすりもしない裏設定になるんで

宙域の名前すら付けてなかったんですけれども…


外伝の方に関しては、エスカ視点では、直接関係しませんが

エスタ達の背景視点では、そういう問題があるんで、

内部保留艦隊をかなり貯め込んでいないとマズイ…

特に赤帝が地政学的にそう

という事なんで、外伝の背景の為に、ここら辺の設定を作りました。


本編では、赤帝黄帝問題とか、全然、関係しないんですけどね

そんな話が、一文出てくるかどうか程度になりますか…


ともあれ、1回で収まらなかったんで、

まぁ分割2回で終わるかな?って所で、会談は次回に続く…です…



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