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第九話 語らい(Ⅲ)

いやーー、この三つめで、語り合いシーンは

終わらせるつもりだったんですけどねー


1人1人のエピソードを書くんなら、

この文量の倍になりそうだったんで

三分割じゃなくて、四分割でにします。


エスカ:

「流血の女皇帝が未だに銀河中枢で生きていると

 お前は本当に思っているのか!?」


エスカはレディンの言葉に粟立って

物凄い形相で詰め寄った。


レディン:

「なら、どうしてお前は流血の女皇帝は

 もう死んでいると考えるんだ!?」


その言葉にレディンも笑って返す。


エスカ:

「1000年前の人間だ!

 とうの昔に寿命は尽きている!!」


エスカは真剣な眼差しで両腕を広げて『その常識』を叫ぶ。


レディン:

「ほうっ!常識論か!

 だが、どうして汎銀河帝国皇帝に

 俺達と同じ常識が通用して、

 普通に寿命があると信じられる!?

 いや、そもそも寿命って何だ!?」


エスカのそんな常識論に

しかしレディンは楽しそうに笑って返し

そして同時に重要な問いかけをエスカに投げつけた。


エスカ:

「それはっ!!!」


その問いかけにエスカは口ごもるしかなかった。

そういえば、それも銀河の謎の1つだった。

この船に乗せられてからというモノ

この銀河にある、数々の謎について語り合わされてしまい

そんな状態に笑ってしまうしかないのだが…

いや深刻さから言えば、それこそが最大の謎なのだろうか…。

それを思ってエスカは自分の拳を握りしめた。

寿命…という最大の謎…。

と同時に、懐かしき昔、あの4人でこんな事を

毎日の様に熱く語り合ったモノだなと、

今と似た様な事をしていた頃を思い出して

エスカは僅かに笑みを零す。

レディンはその様を見て軽く溜息を付き

その問題を自分でも確かめるかのように

独白じみた言葉で語り始めた。


レディン:

「俺達、体内に有機複素結晶を内包し

 体内の有機複素結晶を酷使すればするほど

 クリスタルテロメアが蓄積してしまうA級人類以上なら、

 力の代償こそが寿命だと、ある程度の納得もできるさ…

 これも強引な解釈だがな…。

 だが、体内に複素結晶を持たないB級人類…

 遺伝子情報だけで肉体を構成している

 二階空間までの存在さえ、

 規定された寿命があるのは何故だ!?

 俺達、A級人類以上であるなら、

 持って生まれた固有の力

 体内複素結晶の空間操作で

 二階空間にある肉体の原子分子再構築は

 簡単にできるんだ。

 ならその様に原子分子構築補正する

 無機の複素結晶を作れば

 B級人類のテロメア短縮を再構築して

 寿命を持たないB級人類を作る事は可能なハズだ!

 だが、不老長寿を作りやすいハズの

 B級人類でさえ寿命を持ち、

 必ずどの人類にも等しく寿命が存在している!

 それは何故なんだ!?」


そう言ってレディンは

B級人類平均寿命120歳

A級人類平均寿命180歳

S級人類平均寿命250歳と試算されている

体内の『遺伝子的性質を持つ機構』から逆算されている

人類主寿命の根源的な矛盾を口にした。


遺伝子の中にある細胞分裂回数記録因子『テロメア』

B級人類の肉体を構成する遺伝子による情報は

しかしながら、新陳代謝で細胞分裂を行う毎に

分裂回数情報であるテロメアを短くしていき、

そのテロメアの短縮によって『細胞の老化』が起きる。

それがB級人類主の根本的な『寿命因子』であった。


これと調和するように、肉体遺伝情報を

体内複素結晶にバックアップで保存し、

『複素結晶遺伝子』という呼ばれ方で

二重情報記録を持っているA級人類主以上も

クリスタルテロメアと呼ばれる複素結晶の内部因子が

自己修復をする度に短縮して『複素結晶の老化』が起き

やがては複素結晶が動かなくなり、

B級人類と同様の寿命を迎えるという相似性を持っていた。


この様な、どの人類主もが持っている

『テロメア』に起因する寿命。

それは、より原子制御が簡単なB級人類が、

未だに寿命問題を克服できないという現実で

銀河の謎…

それも生物学的には最大の謎とされていたのだった。


エスカ:

「分かっている!

 クリスタルテロメアにしても

 B級人類のテロメアにしても

 本来は思考天体レベルのサポートがあれば

 再構築して、理論的には不老不死は実現可能だという事は!!

 しかし、この銀河で不老不死は存在しない!!

 これも事実だ!!」


言ってエスカはその髪をかきむしるしかなかった。

外部の高度な無機複素結晶のサポートがあれば

原子分子の構成情報を再構築して

テロメア情報を再修正する事は

技術的には不可能ではなかった。

特に、原子再構築が簡単であるB級人類なら

テロメアの逐次補正は、かなり低いレベルの技術でも

実現可能なハズであった。

にもかかわらず、この銀河で

不老不死で生き続けているB級人類は存在しない。

その理由を苦しそうにエスカは口にするしかなかった。


エスカ:

処刑人(エグザキューター)が、

 不老不死に肉体を改造した者を狩っては

 この銀河に寿命を与えて居る…

 だから、不老不死など、この銀河には存在しない…」


そう呻いて、エスカは『都市伝説』を

悔しそうに歯噛みしてレディンに示す。


レディン:

「赤帝の提督様から、

 その都市伝説を聞かされるとはな…

 流石に、奇妙な気分だ…」


エスカの本人にとっては不本意な言葉を耳にして

そう返してレディンも苦そうに笑うしかなかった。


レディン:

「この銀河に…その姿を見せる事なく

 不老不死を技術的に実現しようとする者を

 尽く、闇で抹殺していく謎の存在

 『処刑人(エグザキューター)

 しかし、その存在感とは裏腹に

 その存在を誰も見た事が無いという

 銀河の『都市伝説』でもある…」


呟いてレディンは深い溜息を付く。

そういう風に言葉だけを並べたら、

何か御伽話でも喋っているのかと

自分の精神を疑ってしまう様な

頓狂な内容であった。


エスカ:

「だが、事実!!

 赤帝の筆頭三家や支柱12国家で、

 秘密裏に不老不死技術を作り寿命を延ばそうとした

 皇族や王家や共和国名家の者達は、

 それを行おうとした支援組織体と一緒に

 尽く奴等に殲滅させられている!!

 それも、赤帝が持つ技術レベルの探知セキュリティを

 全てかいくぐってでだ!!

 事実だけが残っているんだ!!

 『処刑人(エグザキューター)』達が

 誰の目に触れる事もなく現れ、不老不死を狩っていると…」


言ってエスカはまた眩暈の様なモノを覚えるしかない。

普通に考えたら何を言っているのだろう?と思う。

赤帝の他とは隔絶した軍事技術で要塞化された施設に

それも行政中央には知られない様に秘密裏に隠蔽された状態で

にもかかわらず、行政中央がその試みに気付くよりも先に

彼等はそこに現れ、不老不死を求める者達を殲滅し

その姿を残すことなく、去って行くのだ…。

それはどんなオカルトなのだろう?。

そう思うのに…現実の方が確かに残るのだから始末が悪かった。

不老不死を求めるモノは、処刑人に狩られ

どの人類主にも『寿命』があるのだ…と…。


レディン:

「そして世界には、誰も見た事のない

 『処刑人』が居るからこそ、

 流血の女皇帝さえも、1000年前に

 『処刑人』の手で寿命を与えられている…と

 そう考えるわけか?」


レディンは、エスカの言葉を受けて、

エスカが1000年前の人間が

既にこの世には居ないと考える根拠を

そう問いかけてみた。


エスカ:

「まぁ、どんなオカルトであろうと

 奴等が『居る』という事だけは事実だからな…

 なら、流血の女皇帝にも寿命があった…

 …と、考えるのだが?」


そう返事をして憮然とした顔に成るエスカ。


レディン:

「『処刑人』を派遣している者こそ

 流血の女皇帝だったとしたら?」


その時レディンは、とても真剣な眼差しで

エスカにその仮説を聞かせてみた。


エスカ:

「なっ!

 不老不死を狩っているのは

 流血の女皇帝、その人だというのか!

 お前は!!」


そのレディンの仮説に蒼白になるエスカ。


レディン:

「仮説だが、説得力はあると思うぜ?

 可能性の1つだが…

 銀河中枢に存在している『秘宝』は

 思考天体なんぞではなく…

 『不老不死を守る事』そのものなんじゃないか?ってな…」


そう言って不敵に笑うレディン。


エスカ:

「『秘宝』の正体が不老不死だと!?

 そんな馬鹿な!!」


レディンの言葉に背筋が凍り付くエスカ。

それは、あまりにもその仮説が

『在り得る可能性』が高かった為に生まれた焦燥感だった。

銀河の権力者と成った者が最後に望む力は何であるか?

そのレディンの言葉に動揺し、エスカの腕が震える。

昔アルシオン達と共に語り合って考えた可能性の1つ。

それを同じ様に考えていた奴が、ここにも居たとは…。


レディン:

「汎銀河帝国の皇帝陛下だ…

 全ての力を得た頂点が、逆に何故『その力』を求めないのか?

 流血の女皇帝のみが『不老不死』を独占し

 それ以外の不老不死を許さないために

 『処刑人』を組織して、銀河の不老不死を尽く潰している…

 そう考える事も、できないか?」


言ってレディンは自分の大胆な仮説に自分自身も震える。

これを赤帝の提督相手に語り合うなど

どんな数奇な巡り合わせだろう?

だからこそ、余計震えるのだった。

色帝の人間ならば、この可能性をどう考えるか?に対して。


エスカ:

「その可能性…

 確かに考えなかったわけではないが…

 それだと、やはり矛盾が出てくる…

 説得力はあるのだがな…」


レディン:

「ほう?それは?」


赤帝の提督はレディンの仮説に対して

直ぐにその矛盾を頭に思い浮かべて

だからこそ連鎖する矛盾に頭を振るしかなかった。


エスカ:

「なら、何で銀河中枢を封印する必要が有る?

 その説得力ある仮説が、しかしどうしても

 この現状を説明できないのは、この一点だ…

 汎銀河帝国の皇帝陛下の、1000年前の末期の乱心が

 もし仮に『不老不死技術の独占』だったとして…

 なら、その力を以て普通に銀河に君臨すればいいではないか!

 何故、そうしない?

 やった事といえば、こんな銀河中枢を

 インペリアルゲートをぶっ壊してまで封印して

 銀河中枢に引き籠もっただけだ。、

 なのに、銀河中枢まで再び人類が行こうとすれば

 クラーリンなんぞという、邪魔するモノを配置して…

 しかし宙域エリアのボスクラーリンを撃破すれば

 その宙域は、人類が再奪取できるとかいう

 意味不明のルールを作っているわけだ…

 もし女皇帝が不老不死の絶対者であるなら

 頑張れば人類が銀河中枢にたどり着ける様にしてくれている

 そんな甘い事をする必要も無かろう?

 どういう事なんだそれは!?

 処刑人なんて、姿さえ見えない謎の能力者を有してまで

 自身の不老不死を独占したいのに、

 それらを使って色帝を全て潰すわけでもなく…

 不老不死をしようとする奴等だけを特定して抹殺しては

 銀河中枢に引き籠もって宇宙を傍観してという事になる。

 どんな精神に至ったら、そんな理解できない事をやれるんだ!

 『不老不死の独占』という考えは

 確かに説得力のある仮説だが

 やっぱりそれでは、この銀河の現状が説明できない!」


そう叫んで、エスカは、何度もみんなで考えて

意味不明の矛盾まみれに陥って説明不能に陥るその考察に

昔と同じ様に荒れるしかなかった。


レディン:

「んーーー

 そうなんだよなーー

 流血の女皇帝が処刑人の元締めなら

 銀河をこんなに隙だらけにする理由が

 確かに思いつかないんだよなーー

 何か、イイ線行ってるとは思うんだけどナー」


エスカのその言葉を受けて、レディンも自分の頭をかきながら

自分の仮説から生まれる矛盾に、やはり肩を落とす。

レディン自身も、エスカが指摘した問題を以前に同じ様に考察して

この仮説に重大な穴が空いている事に気付いていた。

だがだからといって、仮説そのものが的外れとも思えない。

何か重要な因子。

この説明不能に陥るパズルに、何か1つ謎を解くピースが

手に入ったなら…

その時には、この銀河の謎の全貌が見えてくるハズなのだが…。

そういう思考のゴチャゴチャ感に

レディンは自分の仮説に、更なる仮説を重ねてみた。


レディン:

「なら、処刑人と流血の女皇帝は、何らかの理由で対立してて

 奴等を自分の所に近寄らせないために

 銀河中枢を封印したとか?

 そんな、よーわからん理由なら

 この話が連結せんでもないんだがな…

 でも、それならクラーリンは撃破不能の

 インペリアルゲートに居る防衛艦隊みたいな

 容赦ない奴等じゃないとおかしいしなぁ…」


そう言って自分の持論に拘りながらも

追加仮説を入れても、やはり更に説明不能に陥るレディン。

仮説に仮説を重ねるのだから、

謎が深まっていく泥沼のスパイラルでしかなかった。


エスカ:

「まぁ汎銀河帝国なんて

 インチキな技術で成り立ってた所の皇帝様だ…

 何らかの理由で『不老不死』を獲得してて

 銀河中枢で、人類が来るのを待ってても

 理由が分からんなりに、あっても不思議ではない話だが…

 それなら、1000年も銀河の真ん中で引き籠もって

 宇宙を傍観している、その人間性が見えん…

 銀河をこんな1000年の環状戦争状態にして

 1000年間それを眺めて笑っているっていうのか?

 悪趣味な…

 そんな事してたら、そのウチ飽きて

 そのまま精神が死んでしまわんか?

 ええっと、何と言ったかな…あの仮説の名前…」


言いながらエスカは不意に人類学者が考えた

1つの思考実験の仮説を思い出してそれを口にした。


レディン:

「あ?アレか?

 人類学者の考えた不老不死化した場合の思考実験…

 何だっけかな? トーハン? ネーヒン?」


エスカの言い出した人類学者の仮説を耳にして

宇宙冒険の中でたまたま聞いて

うろ覚えで聞き流していたその仮説の音名を

口にしようとするレディン。

しかし、適当にしか聞いて来なかったモノで

的確な音が出て来なかった。


エスカ:

「ああ、そうだ、『ネーハン』だ!

 人類学者の思考実験…

 仮に不老不死が成立したとして

 同じ記憶や、同じ感情が積み重なっていくと

 生きている事がループ化して

 やがて全ての出来事に感動が出来なくなり

 精神が無機的になって、無機の複素結晶の様な

 機械的な思考形態になってしまう事…

 生きている事を続けていれば

 結果的に人間種としては精神死してしまうのではないか?

 という、不老不死になってしまうが故に生まれる

 究極の精神死!

 その仮説…

 だから、例え流血の女皇帝が

 1000年間、銀河中枢に引き籠もって、

 この状況を楽しんでいたとしても

 その仮説のネーハン状態になって、

 精神が壊死してんじゃねーか?」


そう言ってエスカは人類学者の言う

適当な思考実験の予想を口にしてみた。

その言葉を聞いて、青ざめるレディン。


レディン:

「えーーー、これからめっちゃ苦労して

 銀河中枢に行こうとしてんのに、

 苦労の果てに、銀河の中枢に辿り着いた時に

 精神が廃人になってる流血の女皇帝に出会ったら、

 すっげー嫌だぜ…

 そうだったら、俺、本気で泣いちゃうよ!?

 マジで泣いちゃうよ?

 それは絶対に嫌だなーー

 そんなんに出会ったら

 殴りつける気も起きないじゃねーか…」


そんなエスカの何気ない言葉にそう返して

レディンは頬を引きつらせて、全力で嫌がった。


エスカ:

「まぁ、その時はその時だ…

 銀河の雄大さを思えば、

 そういう事もあるって事で諦めろ…」


そんなレディンの様に、しかしエスカは

とても冷たく言葉を返したのであった。







レディン:

「なぁ、話は全然変わるんだけどよ…」


エスカ:

「何だ?いきなりだな…」


レディン:

「個人的な事…

 個人だけとは言い難いが

 赤帝的な個人話を聞いてみたいんだが…」


エスカ:

「ほう?赤帝的な個人話とは面妖な物言いだな…」


そんな不思議な物言いで切り出して

話題を変えてくるレディン。

エスカはレディンの奇妙な言い回しに

眉をひそめるしかなかった。

レディンはその問いを切り出す前に

珍しく僅かに逡巡する様を見せたのだが

しかし、何とか意を決した後には

ボンヤリとした調子で、それを尋ねてきたのだった。


レディン:

「まぁ要するに…

 アルシオン帝の兄殺しといい

 お前さんの親父さん殺しといい…

 赤帝ってのは、肉親殺して誇りを保つってのが

 社会的な美徳なのか?」


そう切り出してレディンは

いきなり猛烈な精神攻撃をエスカに見舞った。


エスカ:

「なっ!!

 貴様っ!! 私の事はともかく

 アルシオン陛下の事を悪く言うのは許さんぞ!!」


その猛烈な精神攻撃に瞬時に激高して

ミージュを出現させては、それをレディンに向けるエスカ。


レディン:

「…え?

 私の事を悪く言うのは許さんぞ!じゃねーのか?

 アルシオン帝の方がアウトなの!?」


そんなエスカの返し言葉に

怒りの矛先が想定したところとは違う事に

レディンは流石に驚いた。


エスカ:

「我々の家の事は、我々の家の事で

 今では納得している!!

 だが、アルシオン帝の話は別だ!!

 オーラクルム皇国先々帝のフェルネデス陛下は

 赤帝の魂を凝縮された御方だったのだ!!

 あの決闘に関しては、誰にも何も言わせない!!」


言ってエスカはミージュを前に出して猛烈にレディンを睨んだ。


レディン:

「いやいや、

 フェルネデス帝は確かに熱い方だと思ってたよ…

 俺も若い頃には、アンタん所のあの人には憧れていたからな…

 今でも『炎の皇帝』って称号は、

 あの人こそ相応しいと思わないでもないし…

 正直、アルシオン帝があの決闘で覚醒するまでは

 フェルネデス帝がそのうち赤色皇帝に戴冠するだろうって

 俺達他所の人間ですら、みんな思ってたからな…

 そうなるとオーラクルム皇国からの連続選出にはなるから

 それはそれで赤帝的にはマズかったのかもしれんが…

 それでも、王の資質考えたら、

 あの当時はあの人しか在り得なかったしな…」


言ってレディンは昔の事を思い出しては

本来は彼に与えられた称号であったろう、

幻の『炎の皇帝』の事を懐かしんだ。

宇宙の公共放送で、赤帝が公式に広報報告をしていた

武帝にして賢帝であった、理想的な王。

あの当時は、アルシオンと同じ様に

『A級人類程度の欠陥S級人類』だったレディンには

当時の銀河最強の雷撃戦の使い手であった

オーラクルム皇国のフェルネデス皇王は

純粋な憧れの人であった。


エスカ:

「お爺さまも、先帝様も、言っておられた…

 フェルネデス陛下は、あまりにもオーラクルム皇国…

 いや赤色皇帝としての資質が有り過ぎたのだと…

 正直、六菱覚醒もせずに、

 あそこまで強かったオーラクルム皇国陛下は、

 今まで居なかったんじゃないかって

 お爺さま等、前時代の軍人にも言われていたし…

 それに、私も若い頃に手合わせで鍛えて貰った時は

 思ったものだしな…

 この陛下は強すぎる…と…」


言ってエスカは若かりし頃の憧れの大帝…

その本人から雷撃戦の訓練を

直接指導された時の事を思い出した。

豪奢な金髪と青い瞳の、帝王に相応しき容貌。

しかし、戦いと成れば苛烈に、そして華麗に…

雷撃戦とは何かをエスカに教えてくれたモノだった。

今のエスカの雷撃戦の腕は、

祖父のジルフィール・ロックフォードの直接指導もあったが

そこに、フェルネデス陛下の助力も

『王たる剣の使い方』という思想で

間違い無く影響していたのだった。

もっと言えば、アルシオン陛下もフェルネデス陛下から

子供の頃より雷撃戦の指導を受けて育った方である。

その後に軍属中に祖父のロックフォード元帥からも

指導を受けたので、アルシオンとエスカは

大きく見れば二人の兄弟弟子であると言えなくもなかった。

その武人として圧倒的に強かったフェルネデス陛下であるが

だが普段は、温和で慎み深く…

周囲への配慮も非常に手厚い理想的な皇王陛下。

何よりアルシオン帝よりも、

遙かに赤帝の頂点である事に誇りを持っていた

赤帝の筆頭皇王であった。


王、という言葉を知りたいのなら

フェルネデス陛下に出会えば良い…。

そうみんなが思っていた次期赤帝の頂点…


オーラクルム皇国の今世代の長男にして

アルシオン陛下の実の兄君…

フェルネデス・オーラクルム先々代皇王陛下…。


レディン:

「未だに、アルシオン帝とフェルネデス帝の

 公開決闘試合の事は忘れられん映像なんだが…

 あの二人は仲が悪かったのか?

 不出来な弟ならば、最早、処刑するまで!

 みたいなノリで…」


昔を思い出していたエスカに

レディンはそう言って冷や水を浴びせた。

その言葉に、ハッと現実に戻ってくるエスカ。

その言葉で、エスカはあの伝説の決闘の事を直ぐさま思い出す。

エスカがある一種の理想としていた陛下が

しかし、遠い昔、アルシオン帝…

その当時は、穀潰し扱いの第三皇子でしかなった彼だったが…

その彼を呼びつけ、赤帝、あるいは、銀河全土に知れるよう

自身との公開決闘を命令した事を。


エスカ:

「馬鹿な事を言うな!!

 フェルネデス陛下ほどアルシオン陛下を溺愛した方が

 オーラクルムに居られるか!!

 もし本当にA級人類種で

 アルシオン陛下が生まれていたとしても

 フェルネデス陛下なら、同じ様に大事にして下さったろうさ!

 現オーラクルム皇王のフリューデン陛下共々

 あんなに仲の良かった三兄弟は居ないわ!」


そう叫んでエスカは思わず床を叩いた。

そう…、王としての器が長男も次男も広すぎたが故に

不遇の時代のアルシオン皇子は、二人の兄に過大に守られ…

愛されていた。

周囲が呆れてしまうほどに、三兄弟は仲が良かったのだった。

だがその愛が逆に、アルシオン陛下を苦しめてもいた。

周囲が認める『出来損ないの皇子』という現実のせいで

二人のアルシオンへの過保護は

存在のコンプレックスを深める結果にしかならなかったのだった。

そして更にそんな所にトドメを刺したのは、

個人的には心苦しいが

エスカの愛するオルフェニウス公国の第一公姫

メリシア・オルフェニウス姫であった。

それを思い出してエスカは頭を抱えてしまう。


レディン:

「そっか…あんまり不仲だって話は聞かなかったから

 むしろ大事に育てられてたって事か…

 直系皇族から生まれたのに、A級人類程度しか

 能力発現しない『欠陥S級人類』として…ね…」


そんなエスカの言葉に、妙に納得したかの様に

レディンは笑ってそれを受け止めた。

そして、フッと不思議な微睡みを浮かべる。

レディンはその時、己の手の平を見つめていた。


エスカ:

「アルシオン陛下が、本当にただのA級人類であったなら

 皇族家の遺伝の中でも稀な世代退化遺伝として扱われ

 それでも皇族直系の血だからな…

 次の世代の覚醒遺伝を期待しての、政略結婚の種馬として

 それはそれなりに大事にされただろうさ…

 オーラクルムの血だ…皇族の縁談には困らん…

 だが、アルシオン陛下の体内にあった複素結晶は

 A級人類のせいぜいが6,7階までの複素結晶ではなく

 S級人類と同じ…いや、むしろそれ以上の

 12階以上の複素結晶だったんだ…

 肉体の素体としてはS級人類…それも極上の部類…

 なのに、その体内複素結晶の尽くが動かず

 精々出来るのがA級人類程度の空間操作…

 その生まれの『欠陥性』に周囲は困ったモノだったよ…

 実際、私も…陛下を見抜けなかった頃は

 A級人類程度の皇族なんて…と侮って接していたしな…」


そう言ってエスカは自分の過去の自分の陛下への

物凄い無礼な態度を思い出し、

恥ずかしくなって頭をかくしかなかった。

何分、その時はエスカはメリシア姫の大公姫護衛騎士(インペリアルガード)だったのだ。

メリシア姫がオーラクルム皇国を表敬訪問し

お付きの案内で宮廷を歩いていたその時に、

『一目惚れ』をした『S級人類の出来損ない』

それが、その当時のアルシオン第三皇子だったのである。

その運命的な『一目惚れ』の出会いに

エスカ自身も当然、立ち会っていた。


しかし今の圧倒的な力で存在している陛下ならいざ知らず

当時のA級人類程度しか能力を発現できない『出来損ない』を

侮るなという方に無理がある。


最初に出会った時には、相手が帝族とはいえ

失礼でも空間測定をして空間操作の能力を測り

『噂通り』のA級人類程度と把握して、

護衛の仕事範囲を考えたものだった…。

つまり、何らかの襲撃があった場合に、

足手まといのA級人類まで居て、それまで護衛範囲であると。

そんな仕事の量が増えた事についつい愚痴ってしまったものだ。


「オーラクルムなんて、赤帝のど真ん中の血なのに…」と


しかし、その時のエスカの判断を誰が責められよう…。

護衛官として、ただエスカは仕事に忠実だったのだ。

本来、誰しもが安心して背中を任せる事が出来る実力を持つ

S級人類確定の筆頭帝族血。

本土の筆頭御三家に乗り込んで

暗殺を企てる命知らずな敵性S級人類など、元々居るハズもないが

それでも、僅かな可能性に油断しないのが皇族というモノだ。

そんな緊急の出来事が起こった場合に、

それでも、何らかの隔離策を取られ皇族が賊に一対多数という

状況に陥った時、しかしS級人類の皇子が

賊相手に瞬時に暗殺されるなど在り得ない。

S級人類は、その本人自身が純粋な戦略兵器なのである。

だから、隔離策を取られた場合には、何秒で駆けつければいい、

という安全マージンの試算が出来るのだ。

しかし、そこに『A級人類程度』が居ると話が変わってくる。

『A級人類程度の皇子』ならば、

手練れのS級人類の暗殺者に遭遇すれば、

倒される事は有り得る話だった。

その因子が防衛任務の全ての計算を狂わせ、

自分に要求されるの防衛行動半径が倍以上に広がったのだ。

流石のエスカも、いつも以上の防衛範囲の広さに

頭痛がしたものだった。


「何で、皇子がA級人類程度なんだ…」


力量を測った初見で、

そう心の中で愚痴ったのは事実である。

ただ皇族として遺伝欠陥で生まれてくるというのは

確かに稀であるが、無い話でも無い事で

しかし種馬としては、それでも良血か…という

オーラクルムという血統にだけは敬意を払った。

欠陥遺伝の父から生まれた子が、

大帝になった話も無いわけでもないし、

エスカ自身、それに似た様なモノであったから

例えその代が欠陥S級人類だとて、

未来を侮る事だけはできなかった。

それが『覚醒遺伝』の素敵なミステリーである。

なので、この皇子の子孫に期待するしか無いなー

という難しい感想で、初見を認識したものだった。

そんな普通の思考で、エスカはその時、

アルシオンの認識を止めてしまった。

それがある一種の、エスカの限界であった。


しかし、メリシア姫だけが、その最初の出会いで

アルシオン皇子を見つめ続け、その『違和感』

体内の中に莫大な才能を秘めながら

それを発露する事が出来ないという欠陥性

それに『自分の運命』を見つけた。


あの時のメリシア姫の言葉は

今でも自分の中の衝撃として残っている。


メリシア:

「アルシオン皇子…

 貴方の中に、私の運命が見えました。

 ですから、私の旦那様になって貰えませんか?」


そう満面の笑みを浮かべてメリシア姫は

一目惚れをしたその瞬間に、

アルシオン皇子にプロポーズを申し込んだのだった。


オーラクルム皇国の宮廷で、

その場に居た全ての者が、皆、凍り付いた瞬間であった。

自らホストとしてオルフェニウス公国一行を案内をしていた

フェルネデス陛下ですら、

その時ばかりは、オーラクルムの大帝の顔を失ったモノだった。


メリシア姫からの願いでのアルシオン皇子への求婚。

その電撃的な求婚劇は赤帝においての一大事件となった。


元々、オーラクルム皇国とオルフェニウス公国は

もう1つの筆頭家であるウィルソード王立共和国共々、

古代大オーラクルム皇国から三家に別れた

分家の親戚王族であった。

主家をそのまま受け継いだ、オーラクルム皇国は当然

分家であるオルフェニウス公国もウィルソード王国も

元を遡れば、古代オーラクルム皇族である。

なので血の血統を保つ為に、

定期的に皇族同士が輿入れして、血の保存と共に

筆頭三家の同盟関係を不動のモノとしていた。

つまりオルフェニウス公国にオーラクルムの皇子が

婿養子に来たり、ウィルソードにオーラクルムの姫が

輿入れしたりするのは、よくある光景だったのである。

しかし当時のオーラクルム皇国の上の兄弟は、既に既婚であり

そのような年齢の不釣り合いと既婚の問題から、

メリシア姫がオーラクルムから血を得る丁度の相手は

年齢的には、当時アルシオン皇子しか居なかったのだった。


後で聞けば、オーラクルム的には実の所、その時

アルシオンをオルフェニウス公国に

婿養子に出したいという苦しい心算があり、

メリシア姫に初めてオーラクルム皇国を表敬訪問して貰う事で

ゆっくりと二人に顔合わせをさせて、

やがては二人の縁談にまで持って行けないか?

と真剣に考えていたらしい。

現状では、本人は『欠陥S級人類』ではあるが

間違い無くオーラクルム皇家の直系の血筋である。

『覚醒遺伝』という博打が常に存在する以上

社会的地位はともかく血筋としての釣り合いは十分であった。

なので、最悪の場合は、フェルネデス陛下が

オルフェニウス公王に頭を下げての

婚姻嘆願もやむなしという考えだったらしく、

本来の主家が、分家に頭を下げるなど

主家の面子が潰れる事ではあったが

こんな困った現実の板挟み状態でギリギリの所だったらしい。


それがよもや、オーラクルムからの嘆願ではなく

メリシア姫からの『一目惚れ』での『婚姻要請』になるとは。

その表敬訪問が、アルシオン皇子とメリシア姫の

見合いの前座を兼ねていたとはいえ…

まさか、その場で即断即決で事が決まってしまうとは…

思惑を巡らせていた皇族関係者だけでなく

それは赤帝全土が驚嘆した事件だった。


メリシア姫と言えば、その当時で既に

『レッドガメット・アストラスト』に主巫女として見初められ

僅か20歳という異例の若さで、

アストラストの祭儀巫女となった『巫女の大天才』であった。

オルフェニウス公国が元々、大オーラクルム皇国から

巫女系帝族が分派した一族で、代々、アストラストの主巫女を

排出してきた巫女族の主家だったとはいっても

20歳の若さで主巫女となったのは、

赤帝の長い歴史の中でも歴代1位の事であった。

(S級人類なので、

 20歳はB級人類的には中学生くらいの感覚になる)


そんな才気溢れる姫であったから、

オルフェニウス公国としては、メリシア姫は

オーラクルム皇国のフェルネデス陛下に

勝るとも劣らない、自慢の姫君であった。


その『次期赤色帝国の女性側皇帝』が確約されている姫が

自分の主人として求めたのは、なんと『欠陥S級人類』だった。

だからこの電撃婚約の成立が、

赤帝全土を震撼させたのは当然の事だった。


あの当時の赤帝全土の臣民の動揺は、

今でも笑えるほどにハッキリと思い出せる。


『天才巫女と落ちこぼれ皇子のカップル成立』


その事件に赤帝全てが色めき立った。


だが、その事件によってオーラクルム皇国のフェルネデス陛下は

アストラストの巫女が見いだした『可能性』に

ようやく積年の疑念に対する『確信』を覚え

アルシオン皇子に『覚醒』を期待をする様になってしまった。


ずっと生まれてきた当時から

不遇な状態で生まれて来た弟のアルシオン皇子を、

可愛がってきたフェルネデス陛下である。

そんな沢山の時間を、アルシオンと共有したが故に

陛下の中にはいつしか『疑念』が渦巻くようになっていた。

何度調べても、自分以上の才能が潜んでいる体内複素結晶。

にもかかわらず、それが動く様子はまるで無い。

いや後から、次男のフリューデン陛下から聞いた話では

ほんの些細な瞬間ではあるが、アルシオン皇子の中から

強烈な空間圧が発生して背筋が凍った事がある…との事で

全く徴候が無かったわけでも無いらしかった。

それでも、確信するには、

それはあまりにも弱い根拠だったらしい。

生み出す空間圧の持続時間が短すぎて、

何かを為すモノとは思えない程度らしかったので。

しかし、長い時間、兄弟三人で過ごしてきて

特に末弟を一番気にかけていた長男のフェルネデス陛下は

そんな不思議な経験に何度も遭遇したので

いつしか、アルシオン皇子の体内の複素結晶は

『不全』なのではなく『睡眠中』なのではないか? 

と考え始めたのだという。


その長年の疑念に駄目押しをしたのが、

つまる所、メリシア姫だった。


アストラストの巫女は、自分の弟の体が

『覚醒』していないだけなのを、見抜いている。

そして、やがてはそれは『覚醒』するであろう事も。

だからこそ、自分から進んで『運命の人』と言い切り

自分の夫になる事を求めたのだ。


そう悟ったフェルネデス陛下は、

その縁談がまとまった後に

アルシオン皇子に

『オルフェニウス公国に婿入りするならば

 オーラクルム皇国の皇族として

 万民を納得させるだけの業績が必要である。

 故に、赤帝全土に修行に出て、業績を積み重ねて来い』

と命じて、

赤帝全土を歩かせて覚醒の修行を試みたのだった。


そのアルシオン皇子の修行の旅に、悪ノリをして

『将来の夫とは共に歩いて夫婦の仲を深めるべき』

と言い出して、メリシア姫が修行の旅に同行してしまい

泥縄式的にエスカは姫の護衛官として

アルシオンの修行の旅に連れそう事になった。


よく分からないのは、

何か子供の頃からアルシオン皇子とウマの合った

ウィルソード王立共和国の第二王子

ダンフォース・ウィルソードという破天荒な人物が

その旅は面白そうだと言い出して、

これまた同行して来たという事で…

上手くダンフォース殿下に言いくるめられて

その4人で、修行の旅が始まったのだった。


今になってみればであるが、

やがては赤色帝国の主皇帝と副皇帝、主皇妃に成る方と、

旅路を共にしたという凄い事を

エスカはその当時、やっていたのである。


ただ当時は、欠陥S級人類と、自由奔放な赤帝の次世代の主巫女

王子なのに王家の威厳1つ見せない荒くれ者という

赤帝筆頭三家の威光も糞も無い、鼻つみ者集団であり

周囲から、色んな意味で迷惑がられたモノであった…。


ともかくその旅において、

赤帝全土に散見される、古代資料の探索という

アルシオン皇子の旅の基本テーマに沿って

基本4人で領土内を歩き回ったのだった。

エスカにとっては、今になってみると、

その日々は懐かしい思い出である。

あの頃は、今のレディンと語り合っている様な

『銀河の謎』を、その4人で毎日の様に議論しては

何か、ガメット達が焚書し忘れた古代資料は残ってないかと

過去に繋がる情報を探し歩いたものだった。


そんなアルシオン皇子の赤帝領土紀行記は

元々の修行の思惑もそれなりに満たし、

生来の肉体的な欠陥から、

思慮深かい人格になったアルシオンに

この銀河の謎をより深く考えさせるという

今の陛下のスタンスの基礎も作り上げた。


純粋な王になる為の皇子の修行としては良い旅になり

アルシオンの歴史研究の数々は

歴史学者から高い評価を得、資料の再検討の流れを作り

また、行く先々での赤帝領土内での

各星系国家間の揉め事を筆頭皇家の直接視察により

解決したりという事もあったので、

旅を重ねる毎にアルシオンという個人への人望が各地で高まり、

『オーラクルムの出来の悪い第三皇子』から

『為政者として将来を嘱望できる器』とまで

世論が変わってしまうほど、

十分な業績を納める事に成功した。


純粋な王となるための修行としては

十分な成果をアルシオンは残したのである。


しかし、そんな修行を積んでも

フェルネデス陛下が期待していた『覚醒』には至らず

武門的修行の成果としては

『S級人類でも油断したら倒される恐ろしいA級人類』という

A級人類の達人域まで達する程度であった。


それはそれで物凄い事で、

S級人類寸前まで肉薄するA級人類など、

刮目して対峙する存在であり

その修行に付き合って

手合わせを続けたエスカとダンフォースは

『よくもそこまで縛られた条件で、

 身心共に強くなれるモノだ』

と感心を越えて、畏敬の念が生まれるレベルであった。

しかし、それだけの努力を積み重ねても

フェルネデス陛下が期待していた『覚醒』には

到達せず、大帝は苛立った。


いや、この段階でフェルネデス陛下は

気付いてしまったのかもしれない。

フェルネデス陛下自身が

余りにも王として高い資質を持った人物だったが故に

アルシオン皇子の体に眠る秘密の正体について。

つまりフェルネデス陛下が考えた予想


『アルシオンは六菱覚醒に至る者かもしれない』


という真の赤帝の発現の可能性を。


自身が当代最強の三菱と評された人物であるからこそ

その力を以ても届かない、もう一つ上の存在

『六菱覚醒者』

その可能性を思いついたのだ。

そして、六菱覚醒などという大きな力を得るには

それに相当する巨大な代償が必要なのであろうという事も

同時にフェルネデス陛下は考えた。


そのフェルネデス陛下が思い悩んだ果ての答えが

『自らが決闘を申し込み、

 肉体的にも精神的にも絶体絶命にまで弟を追い込む事』

であった。


それが後に銀河中で語り継がれる事になる


『オーラクルム皇王の座を賭けた

 アルシオン皇子とフェルネデス陛下の決闘試合』


と成る。


今でも思い出せるあの時の衝撃的な陛下の宣言。


『我はこれより、末弟アルシオンとオーラクルム皇王の

 椅子を賭け、命を賭けた決闘試合を行うモノとする!』


その宣言で、またしても赤帝全土が震撼する事となった。

オーラクルム皇王の御乱心。

そうとしか誰もが思えなかった。

弟と命賭けの決闘試合を行い、

その勝者をオーラクルムの皇王にする等

正気の沙汰ではない。

だが、フェルネデス陛下は淡々とその手配をし

決闘試合は陛下の独断で強行された。


エスカは決闘場につめかけ

直に自分の目で、あの決闘を見届けたのだった。


あの一方的な決闘を。


親愛する兄に刃を向けられないアルシオン皇子と

六菱覚醒できないのなら抹殺もやむなしと、

全力でアルシオン皇子を殺しにかかるフェルネデス陛下。


あの壮絶な光景。


防戦一方だったアルシオン皇子は、

当時の赤帝の雷撃戦使いの頂点であった

フェルネデス陛下の攻撃を

よくも何度も交わしたものだと

褒めるしかなかった。


S級人類にA級人類程度が攻撃されていたのに

それを旅で培った修行の成果で、

何度も何度もギリギリの所で交わし続けたのだ。


それはそれで瞠目に値する姿だった。


だが、所詮A級人類程度の力である。

三菱の額紋展開をし、

全力になったS級人類の全力攻撃に抗えるわけがない。


確実に死んだ…


そう思われた一撃をフェルネデス陛下が

アルシオン皇子に繰り出した時…

『確実な致死』に至るその瞬間に出会った時

その時、アルシオン皇子は『覚醒』したのだった。


フェルネデス陛下が予想したとおりの『六菱』を


その額に額紋展開させたアルシオン皇子の…

体が自動的に作りだした強力なフォースシールドと…

無意識に繰り出されたカウンターの高階光子の刃…

無機の複素結晶による武器媒介ではなく

空間に直接体内複素結晶が生み出した、高階の複素光子の刃。

『六菱覚醒者』のみが使える皇帝技。

複素(コンプレックス)光子刀生成(フォトニクスブレード


あの刃にフェルネデス陛下が貫かれた時

エスカはあの時の事を今でもハッキリと覚えている。

フェルネデス陛下はその刃に貫かれて笑っていた。

これ以上無い程、嬉しそうな笑顔で笑っていた。


自分が望んでも

どうしても手に入れる事が出来なかった

『六菱覚醒』

それを長い年月をかけて、

ようやく自分の最愛の弟に発現させた事

それによって生み出された伝説の皇帝技に貫かれている自分

それが何よりも嬉しいと悟らせる笑顔を、陛下は浮かべていた。


あの時の大帝の最期の言葉が今でも耳に木霊する。


『私の役目は、どうやらここまでの様だ…

 だが、何の悔いも無い…

 私の手で、その六菱を作り出す事が出来たのだから…

 オーラクルムの、いや赤帝の王として

 これ以上の喜びは無いさ…

 だからお前が銀河を変えろ…アルシオン…

 オーラクルム皇王であり、お前を愛した兄でもある

 私の最期の命令であり、心からの願いだ…

 王とは人を導く者…

 導く力をその手にした者…

 だからこそ…この銀河を変えられる力を得たお前こそが

 私の意志を継いで、この銀河を平定するんだ…

 私の命を代償に、お前に覇気を渡す…

 銀河を征服せよ…アルシオン…

 お前が、この下らない六色帝国戦争を終わらせるのだ。

 何故なら、今からお前が、

 アルシオン・オーラクルム皇王

 やがて赤色帝国皇帝になる男なのだから…』


そうアルシオンに囁いて、フェルネデス陛下は微笑んで逝った。

エスカはその微笑みをずっと見つめるしかなかった。

これこそが、真の帝王の姿なのだ…

そう思わされた。


アルシオンの父君である先帝の赤色帝国皇帝も

祖父のジルフィール・ロックフォードも…


『誰も我が息子の行動を責めないで欲しい…

 我が長男は、誰よりも、私よりも、王であった…

 純粋な王で有り過ぎた…

 それだけの事なのだ…』


『よく覚えておけ…エスカ…

 あれこそが、真の王の姿じゃ…

 死してさえ人を導くのじゃ…

 それが王という魂。

 その魂、忘れる事は許さん…』


と次世代の赤帝の中心になるハズだった帝王の

早すぎる逝去に、賞賛と悲嘆の声を送ったモノだった。


そして、あの決闘は、同時に

赤帝のその後の流れを決めた。

アルシオン1人にだけではなく、

フェルネデス陛下が遺した言葉は

赤帝全土のその後の遺志になった。


『この時代に赤帝が得た、六菱の真性赤色皇帝を戴き

 六色帝国時代を、赤帝が銀河を征服して終わらせる!』


それだけの熱を赤帝全員に与えるのに

偉大なる大帝の死は十分なモノであった。


今のアルシオン陛下…

いや、むしろ赤帝全土は、

フェルネデス陛下の遺志の元に動き続けている。

ナストア帝以来の赤帝の今日の大偉業は

その実行者は確かにアルシオンであったが

それを導いたのは、間違い無くフェルネデス陛下であった。


それは幻の『炎の皇帝』


アルシオン陛下は、自身は銀河の征服という行為に

莫大な疑問を抱きながらも

フェルネデス陛下に遺志を託されたが故に

銀河の覇者にならんと、日々、下積みを積み重ねを続けている。


それが個人にとって幸せなのかは

エスカにはよく分からない。


だが、生きていれば、今頃はアルシオンの代わりに

赤色皇帝に戴冠していても、何の不思議も無い大帝が

その命を対価に赤帝に与えてくれた『六菱覚醒』である。


その覚悟相手では、最早、個人の感傷程度など、

取るに足りないモノの様にしか思えなかった。


赤帝は、あの決闘の日から、

止まる事が出来なくなっていたのだった。



レディン:

「命を代償に、六菱覚醒を促した

 幻の『炎の皇帝』か…

 宇宙冒険家的には、相容れない思想だが…

 それでも、どうしても敬意だけは抱いてしまう…

 なんとも奇妙な話だな…」


そう呟いて、レディンはレディンで

己の手の平を、ぼーっと眺めるのだった。



まー、本編の続きを書くために必要な情報は

序盤に書いてる部分なんで、ここの銀河設定さえ提示できれば

後は、キャラの過去エピソードなんで、

次のエスカとレディンの過去話とかは、まったりやってもいいんですが…


でも、早くクラーリンと戦わせたくてウズウズもしているのもあるんで

ちゃちゃっとその(Ⅳ)を終わらせたいというのもあり

悩ましいですね…


本編の方も、これで次の話を出してもいいですし…

(実は渋の方には、次の話まで載せているんですけど

 これでようやく、色んなモノが連結し始めた… Orz )


ただ、『星の大河』本編では、話のど真ん中になる『ネーハン』概念こと

『涅槃』が、初出自は外伝の方が先行になるというのは

ちょっと首を傾げる所で…


赤メーラといい涅槃といい、何で先にこっちで出てくるのか

分かる様な、分からん様な… 不思議な感じです。


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