第八話 語らい(Ⅱ)
エスカとレディンの銀河語り編、その2です。
エスカはレディンに連れられてノードノーク星系から
銀河深淵への宇宙開拓路を淡々と最前線開拓地付近まで
ヴァーユに乗って進んでいた。
しかし、レディンはある星系にて、一端
ヴァーユ・イルスキュルトの歩を止める。
そして展望台状態にしたブリッジで
おもむろにエスカに酒瓶を投げつけては
自分も自分が飲む用に酒瓶を取り出して
床に座り込む。
エスカ:
「何だ?いきなり?
そりゃ飲めないわけではないが…
超代謝機能を切ってまで
無理に思考回路を酔わせる酔狂さは
私には無いんだが…
何かここに特別な思い入れでもあるのか?」
渡された酒瓶を手に
エスカは不思議そうな顔をして尋ねた。
レディン:
「気分だ、気分…
この星系に来るとさ…
気分で酔いたくなるんだよ…
だから、雷光様も、気分で一緒に飲んで
俺と少しは語ってくれや…」
エスカの問いにそう返し
レディンは楽しそうにウィンクする。
エスカ:
「この星系?
開拓最前線に向かう途中の
この場所で飲みたくなるとか…
ここには何か縁があるのか?
特別な場所か何かなのか?」
エスカはそう言って
360度周囲真っ白な白銀の世界、
銀河中枢特有の全ての周囲が星の白銀で満たされた宙と
この星系の中心であろう太陽の輝きを見つめてみた。
一見は、巨大恒星のある星系に見える。
レディン:
「この星系が、ランクルゼート星系だ…
あの太陽が、恒星ランクルゼート…」
レディンは酒瓶をそのまま瓶ごと口にして
ラッパ飲みをしながら太陽を指さした。
エスカ:
「は?何だと!?
ここがあの伝承に出てくる
ランクルゼートだと!?」
エスカはレディンの言葉に驚愕した。
そして指さした太陽を凝視する。
レディン:
「いやだって、ノードノークの奧にある星系だぜ?
そりゃ当然、ランクルゼートだって
どっかにあるに決まってるわな…
んでもって、この恒星の大きさ、位置的な妥当性
それと考古学者の発掘調査で、かなりの昔から
ここが、あの『ランクルゼート』だと分かった…
だから、ここで酒を飲みながら
特に赤帝の提督とは語り合って見たかったのさ…」
そう解説しながらも
同時に酒も飲んでレディンはエスカに肩を上げる。
エスカ:
「本当にここがあの伝説の『ランクルゼート』なのか!
だとしたら私も冷静では居られないんだが!?」
エスカはレディンの言葉に思わず興奮し
目の前の太陽のデーターを目視観測で測量を始めた。
体内複素結晶が眼球に空間補正を始め
入って来る光のスペクトル分光をしては周波数パターンを割出していく。
それと同時に、視線を周囲にギョロギョロと這い回らせて
複素結晶に補助された望遠レンズ視界で周囲宇宙の天体観測も行う。
その観測で分かってくる情報では、
目の前の恒星は少なくとも跳躍用の恒星としては
申し分無い太陽のB型主系列星だと分かった。
レディン:
「そうそう、
特に赤帝の提督には冷静で居られなくなって欲しいから、
ここランクルゼート星系でちょっくら
語り合いをしたくなったってわけだ…
疑おうがどうしようが、ノードノークの考古学者が
全力で調べての結論だからな…
ここが、そうなんだよ…」
エスカの慌て振りを見て悦に浸ると
ヒッヒッヒと肩で笑いながら酒をあおるレディン。
エスカ:
「なんだかこうも簡単に来れてしまうと
拍子抜けするな…
ここが本当にあのランクルゼートなのか?
そりゃ、恒星はBⅤ型だから…
O型主系列星とはいかないまでも
十分、インペリアルゲートを作る事もできようが…」
エスカはそう口ごもってランクルゼート恒星と
レディンが主張する太陽を見つめる。
あまりにもヴァーユが普通の移動経路としてやってきたので
その歴史的な重みの実感が沸かなかった。
と同時に、その自然な航路の様子が
ランクルゼートであるとすると寒気がするほど恐ろしい。
レディン:
「いやいや、あるんだな…
この恒星にも『インペリアルゲート』の残骸が…
恐らく…六色連合艦隊が銀河中枢へと
直接に殴り込むために建設したと言われる
軍事橋頭堡としてのそれ…
んでもって、多分、ついでに塞いどかないとマズイから
流血の女皇帝がぶっ壊したんだろう、残骸になってるそれがな…」
言ってレディンはヤレヤレとばかりに頭をかきむしった。
エスカ:
「1000年前の革命戦争の伝承通りに…か…
革命戦争当時、
ノードノーク他、『皇帝道』は汎銀河皇帝権限で封鎖され
連合軍は実力で銀河中央進駐せねばならなくなった。
その為、急遽、六色連合軍はガイアポリスに最も近い
航路ルート『ノードノーク』方面に集結し
ノードノークを進軍して航路の重要地点
ランクルゼート星系に『突入道』の
インペリアルゲートを緊急建設したという…
そのインペリアルゲートの残骸がここに?」
レディン:
「そうだ…
今は軌道の都合で見えないが…
大艦隊を送りつけるに十分な天体級のインペリアルゲート…
…の残骸が、この星系にある…
だから、ここがランクルゼート…だな…」
言ってレディンは、ハァと溜息をついた。
エスカ:
「それなら、ここが…
ここが…あの赤帝と緑帝が対決したとされる…
恒星系…」
そこでエスカは1000年前の
あまりにそれも意味不明な
革命戦争の伝承の『最初』を思い出した。
レディン:
「そ~さ…
あの意味不明な『最初の対決』
その舞台がここ、ランクルゼート…
だったら、やっぱり赤帝の人間とは語り合いたくなるだろ?」
レディンはそう切り出してはまたウィンクをして
苦そうな笑いを浮かべる。
自分の血の発症が緑帝血であるが故に
だからこそ、機会があるなら赤帝の人間と肩を並べて
1000年前の曖昧な伝承を前に酒を飲みたくなる。
それは人情だった。
エスカ:
「そういう事なら私も飲まずには居られないな…」
レディンの言葉に思わず感極まって
エスカも渡された酒瓶を開けてラッパ飲みを始める。
そして独り言の様に語り出す。
エスカ:
「汎銀河帝国の末代皇帝、流血の女皇帝、乱心される。
その乱心により、銀河は革命の気風溢れ
汎銀河帝国は六色帝国へと分裂。
汎銀河帝国と六色帝国連合の革命戦争起こる。
流血の女皇帝、銀河中枢への皇帝道を封鎖。
連合軍は反撃のためにランクルゼート星系に陣を構え
『突入道』を建設せん。
しかし、『突入道』の建設を阻止せんと緑帝が動く。
革命軍のリーダーである
赤帝アルフレッド・オーラクルムは、これに対峙。
ランクルゼート星系にて赤帝と緑帝の互いの一騎打ちとならん。
2人の巨大な色帝の一騎打ちは壮絶なる雷撃戦となりて
何日にも及ぶとさえ思われた。
しかしアルフレッド帝の武勇によりて緑帝は遂に討ち取られる。
かくて革命軍はランクルゼートからの橋頭堡を確立し
六色連合軍は銀河中枢へと乗り込む事に成功す。
そして六色連合軍は、流血の女皇帝の座
銀河中枢白色帝都『ガイアポリス』へと辿り着かん。
そこには流血の女皇帝が乱心の末に生み出したる
最強のクラーリン在り。
最強のクラーリンの力、絶大なれど
六色連合軍、これに対抗する六色機動皇帝旗艦を駆り
アルフレッド・オーラクルムのQ・バルディオス
ホーネス・エルミッドラのヒルリ・ベリア
サーバル・ハルフォーンのエルペネス・アーフレネア
ミレンドラ・ウルファナゾのシューヴァル・リーデル
メルフ・アルバージのグラゾンテ・ヴィルシュヴァーン
リーシャス・ガルドムルンゾのアーギュ・ペネストレナン
対クラーリン決戦用機動戦艦のそれらにより
最凶なる流血の女皇帝のクラーリンを討ち取らん。
ここに連合軍、汎銀河帝国に勝利するも
流血の女皇帝の最後の策
『皇帝道』の全破壊によって、
銀河中枢『ガイアポリス』への道は遮断されん。
かくて時代は、六色帝国時代を迎えんとす… か…」
そう呟いて、エスカは1000年前の革命戦争の
しかし『曖昧過ぎる』その伝承を口にするしかなかった。
レディン:
「相変わらず、よーわからん伝承だよな…
改めて聞くと…それ…
特に最初の所がな…
六色帝国に分裂して連合軍で戦ってたのに
何で、橋頭堡のランクルゼート星系で
赤帝と緑帝が一騎打ちしてんだ?ってな…
つまり、アルフレッド・オーラクルムと
ホーネス・エルミッドラがここで斬り結んだって事だろ?
何で、その討ち取った相手と今度は仲良く
流血の女皇帝を倒しに行ってるんだ?
意味分からんわ…」
言ってレディンは頭をかいて苦く苦く笑うしかなかった。
そう、意味不明なのだ。
全ての起源になっているその伝承そのものが…。
エスカ:
「まぁな…
考古学者達もずーっと困ってる話さ…
何で、一番最初に、赤帝と緑帝が一騎打ちしてんのかはな…
でも…そう考えれば…
その答え知ってる奴に、私達は乗ってるんじゃねーのか?
アルフレッド・オーラクルムと
ホーネス・エルミッドラが一騎打ちを何故かしたんなら
Q・バルディオスとヒルリ・ベリアが
直接戦ったって事だろ?
だったら、お前の乗ってるコイツが
ここでQ・バルディオスと戦ったって事にならんか?」
と、エスカはその時、
何気なくそんな事を口にしてしまった。
それは意識的に特に狙って口にした言葉ではなく
会話の流れの勢いで出た言葉だった。
イルスキュルト:
「あ、いえ…
あの時の戦いでは、私はまだ造船中でしたんで
私では無いですよ…戦ったのは…」
その時、何故かイルスキュルトは猛烈に迂闊に
エスカの疑問に答えてしまったのだった。
エスカ:
レディン:
「え!?」
その何気ない返事に二人とも同時に目を見開く。
ナージェスタ:
「馬鹿!!そんな簡単な誘導尋問に引っかかって
どうすんのよ!アンタ!!!」
その時、突然、エスカの中から声が響いた。
エスカ:
レディン:
「え!?」
突然、生まれた声に、またしても仰天の声を上げる2人。
イルスキュルト:
「おっとこれは不覚!!
し、しかし…あ、姉さん…
喋られる事にしたんで!?」
イルスキュルトは自分の迂闊な発言に
遂に沈黙を破ってそれをたしなめた大先輩の声に
思わず言葉をかけるしかなかった。
ナージェスタ:
「してやられたわ…
冷静に沈黙でいようとは思ってたんだけどね…
でも、1000年の時を越えて
こんなランクルゼートなんて場所に来られると
流石に私も、沈黙を続けるのは無理ね…」
そう言って皇帝護石『ナージェスタ』は
エスカの位相空間への配置を解き、
自らの意志で、通常空間の宙に出現したのだった。
エスカ:
「ナ、ナージェスタ様っ!!
自我をお持ちだったので!?」
エスカは初めて聞くナージェスタの声と
自発的な行動に仰天するしかなかった。
今までは『曖昧な意志』的な
機械的な意志系の複素結晶と思っていたし、
そうとしかナージェスタが振る舞ってなかったので
そう思い込んでいたが、
明確に『人格系』の意志で言葉を発せられ、
自分の操作要請ではなく自発的な行動を見せられると
それに驚くしかない。
ナージェスタ:
「その緑帝の出来損ないの小僧に
してやられた事にするわ…
流石に私でさえ、どんな偶然なのかと
笑ってしまうしかないけれど
ここ…ランクルーゼトなんて場所に来られると
思わず言葉を出さずには居られないのよ…
いえ…それよりは…
ベリアと切り結ばされたなんて…
あの冷や冷やに、流石に冷静では居られなかったって
そんな所かしら?」
そう言ってナージェスタは、宙に浮いて緩く回転しながら
楽しそうに笑っているかの様な明滅を作りだした。
レディン:
「ん?ベリア? ベリアって何だ?」
レディンはそのナージェスタの言う複素結晶の名…
ヒルリ・ベリアの駆動コアである『ベリア』の名を
口にされて眉をひそめるしかなかった。
エスカとの対決において使った駆動機関は
『イルスキュルト』であり『ベリア』ではない。
『ヒルリ・ベリア』は恐らく予想でしかないが
緑帝機動天体要塞『ノルビスエア』の中に封印されているハズだった。
ナージェスタ:
「はーーーーー
ちょっと、私も沈黙を破ったんだから
アンタも喋りなさいよ…『ベリア』…
グリーン・エンペリオン・『ベリア』…」
そうナージェスタが言うや、
彼女がその場に強い位相歪みを作り、
レディンが隠し持っていた、皇帝剣
エンペリオンをその場に出現させた。
ベリア:
「無理矢理、表に出して
ワシまで喋らすんかい…炎の皇帝護石…
相変わらずお前さんは強引な奴じゃの…」
その時、その実在空間に出現した皇帝剣は
呆れた様に声を上げた。
エスカ:
レディン:
「はぁ!?」
その複素結晶の声を聞いて
またしても頓狂な奇声を上げる2人。
ナージェスタ:
「だって1000年ぶりですもんね…
アンタに斬りつけられたのってね…
その私とアンタが、今は『ここ』に居るのよ?
これで喋らないなんて無理でしょう?
それに、正直、冷や冷やだったんだから…
アンタにテクアルコアツで斬られた時は…」
その皇帝剣に怖じ気づく事も無く
横柄な態度で語りかける皇帝護石。
ベリア:
「あれは不可抗力じゃろ?
1000年も時間が経てば、
お互い、何処に居るかなんて決まるわけでもなし…
1000年もあれば、また再びまみえる事もあるわな…」
その護石の言葉に
皇帝剣は過ぎた事と話を流そうとする。
ナージェスタ:
「そっちは出来損ないでも緑帝なのに
こっちは帝族血なだけよ!?
同調共鳴のレベル差で
全力が出せない状態の私がアンタに壊されたら
何の為に1000年も待ち続けたのか
それさえ分からなくなる所だったのよ!?
なら、文句の1つでも、言える時には言うでしょう?」
その皇帝剣のつっけんどんな答えに
護石は激高して激しく責め立てる。
ベリア:
「ワシがそんな無粋な事をするかえ…
お前さんを、不完全なまま損失するなんて
こっちとしてもありえん話じゃよ…
お互い1000年も待っているんじゃ…
適当な理由を付けて、
パワーセーブするつもりだったんで
ずーっと自我無しと思われてた方が
好都合だったんじゃがな…」
そう言い返して、皇帝剣は笑った。
ナージェスタ:
「あら、相変わらず悪い奴ね…
一応の御主人様を謀る予定だったの?」
ベリア:
「主人とはいえ、出来損ないじゃからの…
ちゃんとしたマスターとするには
まだまだ、この小僧では修行不足じゃ…」
ナージェスタ:
「ふーん、そうなの…」
と突然出てきて会話を始める2つの武器型の複素結晶は、
一応の主達を置いてけぼりにして
二人だけが分かっている知識の上で会話を続ける。
その会話をポカンとして
聞いているしかないエスカとレディン。
ともかくレディンは1点だけについて
文句の声を上げてみた。
レディン:
「おい、エンペリオン!
お前、インテリジェンス・ウェポンだったのかよ!」
レディンはベリアが自我を持っているその様を見て
複素結晶武器の中でも珍しい『自我武器』
である事を皇帝剣に問い詰めた。
ベリア:
「おうおう、バレてしもうたのう…
ま、実はそういう事じゃ…
それと、小僧、一応言うておくが
エンペリオンとは色帝の持つ証剣の総称じゃ
『皇帝剣』
その中で緑帝が所持する剣がワシ。
ワシの真名は『ベリア』
もう一つの『ベリア』を駆動させるための
マスターキーじゃよ
だから、これからは『ベリア』と呼んでくれや…」
レディン:
「マスターキー?」
そのベリアの言葉に眉をひそめ言葉をなぞるレディン。
ベリア:
「ニュアンスで察しろ…
そういう事じゃ…
エンペリオンが無ければ、
機動皇帝旗艦が動かんのはな…」
そう言ってヒッヒッヒと笑うベリア。
レディン:
「はーー、つまり双対型の複素結晶…ね…」
その皇帝剣の言葉に
レディンは自分の知識の中で該当する
特殊な構造の複素結晶を当てはめた。
双対型複素結晶と呼ばれる、
任意に該当の複素結晶を使えない様するために
よりマスターセキュリティを上げる構造として、
複素結晶生成時から本体と鍵の両方作って
鍵の方にマスター登録をさせるシステムを持つ
駆動機関複素結晶が珍しいながらも存在している。
ベリアはそのタイプなのだとレディンは判断した。
ベリア:
「双対型複素結晶のぉ…
ちと違うが、まぁその認識でも間違いではないか…
現実の状態は全くそれなんじゃしの…
ただし、元々、別途に作られた物を紐付けする方法でも
双対型複素結晶と同じ構造を作る事は
昔は簡単に出来たんじゃぞ?」
そんなレディンの言葉に
より精密な解説を入れてくれるベリア。
レディン:
「ほほう、なるほど…
双対型の鍵は純粋に機動鍵でしかないのに対して
昔の技術では武器と駆動機関を同調させて
双対構造に組み直す事も出来たって事か…」
ベリア解説でどういう事なのかを理解して
確かめる様に語るレディン。
ベリア:
「ま、そういう事じゃの…」
そんな理解の良い自分の主人に満足になり
その宙でフラフラとするベリア。
しかし、次の瞬間にはピタリと止まり
ナージェスタの方に向き直って護石に語り始めた。
ベリア:
「そんな事より、ナージェスタ…
お前さん、
こんなにベラベラ喋っていてええんかの?
アストラストの監視に引っかかったら
なんぞのペナルティでも食らわないんかえ?」
そう違った角度から話を切り出してみるベリア。
ナージェスタ:
「は!あんな糞の言う事なんか聞いてられないわよ!
それに、今はアンタも良い身分みたいで
『ここ』に居られるおかげで
グリーン・ガメット『エメドルリア』の監視に
引っかからないみたいだしね!
それなら、こっちも同じ事。
アストラストもエメドルリアも『ここ』には手出しできない
それに、私達ならば、出来たとしてもさせはしない!!
『ここ』だけは!!!」
ベリアの忠告に、
それを激しい言葉ではねつけるナージェスタ。
エスカとレディンはその二者の会話に口を挟んで
浮かぶ疑問を尋ねようと思いもしたが
このまま沈黙していれば、思わぬ情報が聞ける気もして
お互いに目を合わせて視線だけで語り合い
とりあえずは二者の話を聞くためだけに
沈黙をする事に決めた。
そして二者だけがそこで語り始める。
ベリア:
「相変わらず、炎帝の奴等は熱いのぉ…
まぁ嫌いではないがの…
その情熱の炎はの…
しかし、お前さんが感慨にむせぶのは分かるが
それならお前さんよりもワシの方が
よっぽど激情に駆られないといかんのだがの…
あべこべだの…」
ナージェスタの激高にそれを柔らかく受け止めるベリア。
ナージェスタ:
「いや、普通はそうでしょう!?
アンタの方が熱くならなくてどうすんのよ!?
ここはランクルゼートなのよ!?
これだから、森帝の奴等は冷静で嫌になるわ!
私とバルディオスとアンタとシスターナ
そして、アストラストとエメドルリア…
ここであの時、全てを賭けて激突して…
私達はアルフレッドとシザリ……」
ベリア:
「その名を口にするでない、炎帝の皇帝護石!」
その時、ナージェスタが勢いに任せて
口を滑らそうとした言葉をベリアは厳しく諫めた。
ナージェスタ:
「うっ!!!」
ベリアの抑制に瞬時に止まるナージェスタ。
ベリア:
「何の為にあの娘が、その名を消したと思っておる!?
お前さんの気持ちは分かるが
あ奴が、命を賭けてまで伝えたかった事は
簡単にその名を口にして良い程、軽い覚悟では無かったハズだ!
全てを失って、記録を抹消されてでも残すべき決意。
それだけはワシは守ってやりたい!
それが、あ奴に握られたワシの唯一の矜持じゃ!
そして、まだ終わってはおらんのだ!
あ奴が望んだ未来は!!
『運命の時を待つ』
我々には、それだけしか出来ん
それは分かっておろう?炎の皇帝護石!」
ナージェスタ:
「…………」
そうベリアが強く諫めた事で、
その動きを止めて意気消沈するナージェスタ。
ナージェスタ:
「悪かったわ…ベリア…
そうね…、まだ何も終わってはいなかったのよね…
少なくとも、あの魂が望んだ未来だけは…」
ベリア:
「分かってくれればいいんじゃよ…
戦友よ…」
そうお互いに言い合い、慰め合う皇族神器は
その後に僅かに乾いた笑いを浮かべた。
そして黙してそのやり取りを聞いていたエスカとレディンは
二者の言葉の中にある違和感に
二人同時に同じ推論を頭に浮かべていた。
二人がこうまで感情をむき出しにしてしまう程
激しく生きて何かを主張した『別の緑帝』が存在し、
それが『革命皇帝アルフレッド』と
戦ったのではないか?
と…。
伝承における最初の赤帝と緑帝の直接対決は
違和感の塊でしかなかったが、
アルフレッドとホーネスが切り結んだのではなく
『別の何某かの緑帝』が
赤帝アルフレッドと戦ったのだとすれば、
少しだけ話のつじつまは合ってくる。
それでも、内輪もめを最初にしているのは
やはり意味不明なのではあるが…。
そんな、今の者達の考察も他所に
2つの皇帝神器は会話を続けた。
ベリア:
「しかし、さて、どうするかの?
お前さんと同じで…
あまりにも『ここ』は
ワシ等の感情に訴えかけ過ぎて
どうしても饒舌にならざる負えん…
何より、思考天体共に監視されないのが快絶じゃ…
思考天体も『ここ』には手を出せん…
ここに踏み込めば『運命の時』を
自分達が動かしてしまうかもしれんからの…
それが出来ないのが、思考天体の限界なんじゃし…」
そう言ってカッカッカと笑うベリア。
ナージェスタ:
「どうかしら?
アストラストの馬鹿だけは分からないわよ?
アイツは賭けに出ている…
Q・バルディオスの封印を解くなんて暴挙…
1000年ぶりのフルメンテナンスだとか
無茶苦茶な理由で封印から引きだして、
銀河の趨勢をこうも傾かせた…
今のアイツは冷静じゃない…」
ベリアの言葉にナージェスタは
自軍の総大将だというのに
むしろ馬鹿にしたかの様な言葉で、今の現状を笑ってみた。
ベリア:
「仕方なかろう…
もしワシがアストラストなら、
やはり同じ様に狂い出すかもしれん…
お前の所の、赤帝の出来損ないは
あまりにも似すぎている…
アルフレッドにの…
運命や気運を思考天体が感じるのは
確かに滑稽じゃが…
それでも、こうも『有り得ん』事が重なるとな…」
言って深い溜息をつくベリア。
ナージェスタ:
「まぁ、そうね…
アンタの所の緑帝の出来損ないは
流石に似てないけれど…
それでも『出来損ない』が
2人も同時に同じ時代に生まれれば
それも、赤と緑の2つが…
それなら私だとて
『運命の時』は今ではないかと期待してしまうわ…
その点はアストラストを責めれないのは確かね…」
ベリアの言葉を受けて、その言葉の中にある
あるいは今の奇特な現状に苦笑いするしかない護石。
ベリア:
「その時が待ち遠しくて仕方ないのは
あの時から生き残ったモノ全てじゃからの…
機会があれば『運命の時』を自らで作り出したくなる
アストラストならば、それもやむなしであろうよ…」
ナージェスタ:
「アイツは一番、頑固だからねぇ…」
ベリア:
「そうじゃの…先駆者の意地かの…」
二人はそう言葉を交わして、
些か他者には分からないニュアンスで
互いに嫌らしそうな笑いを浮かべたのだった。
ナージェスタ:
「まぁ出来損ないが2人も同時代に居るんじゃ
何が起きても不思議ではないし…
楽しい事が起きそうで、
私としてはワクワクはするわね…」
そう言って忌憚ない意見を述べる護石。
その言葉に不意にベリアは緩く動いていた振動を止め
少し悩みながらもその口を開いた。
ベリア:
「さて…本当に2人だけなのかの?
『出来損ない』は…」
そう呟くベリア。
ナージェスタ:
「どういう意味?ベリア…
まさか、3人目の『出来損ない』まで居ると?
確率的には、2人ですら有り得ないのに!」
ベリアの意味深な言葉にナージェスタは
『まさか』の可能性を口にする。
ベリア:
「ワシは森の一族だからの…
思考天体並に疑り深いんじゃよ…
『出来損ない』どころではなく、
『本物』が居るんじゃないかと…な…」
ナージェスタ:
「馬鹿な!!
本物が生まれるハズなど有り得ない!!
どうしてこの状態で『運命の時』を見ないなんて
そんな事ができるのよ!
それに、もし本物が生まれれば、
銀河中枢へ行く事は、その者には可能なのよ!」
その皇帝剣の言葉に激高して反論する護石。
と同時にエスカとレディンの脳内にも
その言葉はあまりにも重要なキーワードとして
記憶に刻み込まれた。
『本物が生まれれば
銀河中枢に行く事はその者には可能』
それはあまりにも強烈な情報開示であった。
しかし、それを考察する間もなく
ベリアがナージェスタの疑問に答え返す。
ベリア:
「銀河中枢に興味の無い奴等が居るじゃろうが…」
ナージェスタ:
「!!!!!!」
ベリアの言葉で一瞬にして全てを理解したナージェスタ。
ナージェスタはその宝石の体を激しく震わせた。
ナージェスタ:
「まさか、そういう事なの!?
それじゃぁ、あの娘が!!」
ベリア:
「確証があって言っておる訳ではない…
困った事にワシのただの勘じゃ…
じゃが…、奴なら、有り得る話じゃ…
ガメットの封印を解くために
『本物』を作る…
奴等なら、唯一、やりかねん…
200年前の緑帝の敗戦の有様を思えば
尚更じゃ…」
そう言ってベリアは少し昔の事を思い出し
その思いを根拠にするしかなかった。
ナージェスタ:
「なるほど、そういう事なら辻褄が合うわね…
あそこなら、『本物』を作れば
銀河中枢への興味が失せる…
他の色帝とは、唯一違う、あそこならば…」
そのベリアの情報を得て、
逆に直ぐに納得するナージェスタ。
二人にとってはそれだけのやり取りで
互いに相互理解が出来るのであった。
ベリア:
「『出来損ない』2人に、『本物』1人
これだけのカードが揃っておったら
そしてそれをアストラストが掴んで居れば…
アストラストが賭けに出るのは、当然に思える…
しかし、やはりそれは賭けでしかない…
それをお前さんと『ここ』で語り合えたのは
どういう運命なのか、僥倖には思えるがの…」
そう呟いてベリアは少しだけ嬉しそうに笑った。
ナージェスタ:
「思わず激情に駆られて、言葉を発してみたけれど
語り合うだけの価値はあったかもしれないわね…
私としてもそれは物凄い情報収拾よ…
ならば『時』は近いのかもしれない…」
そう言ってナージェスタも不敵に笑った。
ベリア:
「まぁ、時が来るよりも先に
ウチの『出来損ない』が銀河中枢に辿り着く方が
先になるかもしれんがな…
それならその方が、話は早いしの…」
そう言い合った時に調子を変えて
ベリアは全く別の方法論をナージェスタに示した。
ナージェスタ:
「それはそうだけど…
『出来損ない』なりに、あと10~20年もすれば
その『出来損ない』が銀河中枢に
行けてしまえそうなのは確かだしね…
しっかし、緑帝の奴等は、
いつも、こんな裏技ばかり使って卑怯よ…
もうちょっと形式美というものを
大事にしないさいな…」
ベリア:
「そこはそれ…
静かなる事、森の如しじゃよ…」
そう言い合って、そこで二人の会話は終わった。
そんな会話が為されていた頃、同時にある特殊な空間にて
誰に知られる事もなく、二者が会話を始めていた。
フォレスト:
「お目覚めですか?陛下…」
プリメーラ:
「陛下は1000年経っても、どうしても慣れないわね…
あの子と同じ様に、やっぱり姫様で呼んで貰っては
駄目かしら?」
フォレスト:
「失礼しました…それでは姫様…
急遽覚醒して頂いた件に関して…」
プリメーラ:
「どうしました?
またアストラストの嘆願での
アルシオン・オーラクルムを主役とした
銀河改変政策への政策変更要請ですか?」
フォレスト:
「いえ、いつものそれではなく
些細なれど、我が支配領域にて
偶発的な事象が起きまして…
その監視情報の報告について…」
そう語った存在は赤い長髪の少女に
彼が記録した情報の詳細を複素光子情報体で
その認識領域に情報転送した。
プリメーラ:
「なんと…ランクルゼート星系で
ナージェスタとベリアが邂逅…
それも、あのレディン・ルークを介してですか…
これは驚きの偶発的な展開ですね…
ふふ、おかしい…
流石にあの二者でさえ
1000年という時間を越えての邂逅では
口を開けるしかなかったと…」
フォレスト:
「私に監視されている事を承知の上で
この会話です…
間違い無く挑発ですな…
姫が存命かどうかを、私が動く事で知る為の…」
プリメーラ:
「やはり、あの二者も
私が存命である方を信じていますか…」
フォレスト:
「アストラスト以外の思考天体五体は95%の確度で
姫は存命中であると結論してるのですから
当然でしょうね…」
プリメーラ:
「まぁここまでやっておいて
私が幕引きをしないのは、誰も納得しないでしょうからね…
事実、私はこんな生きているのか死んでいるのか
曖昧な状態でも、存在はしているのです…
それはあまりに予想通り過ぎる話…
予定調和という奴です…
とは言っても、それをこちらから
ナージェスタとベリアに教えてやる必要はありません
沈黙のままで…」
フォレスト:
「御意…」
プリメーラ:
「しかし、不思議なモノですね…
理解はできますが…
あの時には互いに滅し合うのを覚悟で激突した、
ナージェスタとベリアが
1000年の邂逅で、こうも丸くなっているのは…やはり…」
フォレスト:
「お互いに最後にはアレを見たのです…
丸くもなりましょう…」
プリメーラ:
「ですかね…
そしてそれは全て、
シザリオン様の覚悟と決断のおかげです。
シザリオン様が決めなければ、
誰もここまでは出来はしなかった…」
その時、赤い髪の少女は目を瞑って
憂いの表情を顔に浮かべた。
フォレスト:
「姫様…」
プリメーラ:
「いいのです…私の事は…
しかし、確かに奇数な運命の邂逅ですが
私を起こしてまで報告する様な事ですか?
確かにこんな光景を見れば、
私だって感傷的には成りますけれど…
私に感傷にむせいで欲しいから
私を起こしたの?」
そんな些かの冗談を交えながらも
長き連れ添いのそれならば、あの時を思い出す邂逅ならば
情感の為に覚醒を促す事もあるだろうか?
と少女は僅かに悩んでみる。
フォレスト:
「いえ、残念ながら情緒的な理由ではなく
事務的な問題であります。
姫様に伝送した会話内容の記録を
再度、御参照下さい…
この会話の中において
ナージェスタとベリアの会話より
不確定要素が、もう一つ発生をした事に気付きました。
いえ、彼等が気付く可能性が出てきたというべきか…」
プリメーラ:
「不確定要素?
それは何です?
イレギュラーであるとはいえ、
アルシオン・オーラクルムとレディン・ルークの覚醒遺伝は
2つが1000年内に同時に起きるのは数奇であっても
可能性がゼロでは無いのです…
そんな不確定を残したのは貴方…
『そんな事もある』では駄目なのですか?」
その相方の言葉に赤髪の少女は眉をひそめる。
フォレスト:
「以前にお伝えしたとおり
アストラストの馬鹿が、この数奇な確率に
状況の改変を画策してQ・バルディオスの試運転を行いました。
アルシオン・オーラクルムにQ・バルディオスで
銀河中枢突破を実現させる為の試験運用にです。
当のアルシオン・オーラクルムは聡明なれど
全てを知りうるわけではないので、
アストラストの思惑を測りかねて、慎重な姿勢のままですが…。
今までの観察から、アルシオン・オーラクルムの方は
勝算もなく賭けに出る人柄ではありません。
情報収拾に相変わらず徹底しております…。
赤帝内に残る、銀河外縁の焚書しきれなかった資料を
フィールドワークで集め続け
1000年前の推論を続けているようです。
しかし、アストラストは、それでも現状の配置から
銀河中枢の突破を着々と狙っています…
赤帝の地固めは確実に進んでおり、展開としては
アストラストの思惑通りに進んでいるかと…」
プリメーラ:
「以前の報告から更に盤石な体制を整えるために
赤帝は匍匐前進といった所ね…
しかし、それは予想通りの事でしょう?
特に120年前のナストア帝の中央突撃での
ダメージを鑑みれば、赤帝が慎重になるのは当然の事。
アストラストとしては二の轍は踏めないという
凄まじい決意ですね…」
フォレスト:
「六菱覚醒者が出るのは、本当にイレギュラーなのです。
120年前に失ったチャンスが、こんなにも早くに
もう一回のチャンスがやって来たのなら
今度はアストラストも慎重になりましょう…
ただ、慎重も度が過ぎて、Qを封印から解くなどという
物凄いハッスル振りですがね…」
プリメーラ:
「アルシオン・オーラクルムを見ていれば
アストラストが狂うのは当然ではないかしら?
私がアストラストでも、ああ乱心すると思うわよ?
それにしてもアストラストは、本当に忠義心に熱い思考天体ね…
そんなに私を解放したいなんてね…
それは嬉しいと、喜ぶべき事なのかしら…」
そう言って赤髪の少女は少しだけ哀しそうに笑う。
フォレスト:
「あと500年も待てば完勝だというのに
気の短い奴です…」
少女の言葉にウケて、相方は呆れた調子で
長い付き合いの友人を皮肉ってみた。
それに釣られて笑う、赤髪の少女。
プリメーラ:
「思考天体の使命からすれば、
自分の存在意義に忠実なのでしょう?
500年の時間短縮が出来るのなら
それを今の時代の人間に賭けたい…
アストラストのその気持ちは分かります…
むしろそれは、当然の事でしょう?」
フォレストの言葉に赤髪の少女は肩を上げ
そう指摘する。
フォレスト:
「だからこその不確定要素の発生です…」
プリメーラ:
「不確定要素とは、赤帝のこのエスカ・ロックフォードと
レディン・ルークの接触によって生まれた関係により
アルシオン・オーラクルムと
レディン・ルークの共闘による
銀河中枢突破を確実にするという
シナリオ発生の可能性ですか?
まぁ、それはいいではないですか…
あまりにも低い確率であっても
2人も六菱覚醒が発生したのです…
むしろ、それくらいが起きてしまわないと
奇跡的な同時発生とは言えないし
貴方の計画通りの宇宙なんて、人類には退屈すぎるでしょう?
銀河中枢をようやく突破する…
現在の人類には、
未来に明るくなれるニュースではないですか…
それとも最初の計算通りに
1500年間は銀河中枢を突破されて欲しくなかった?
アレを現代の人類に見られるのは、貴方でも補正が効かない?」
そう言って赤髪の少女は
少しだけ自分の相方に意地悪な問いかけをする。
フォレスト:
「計算の中では人の努力次第で500年程度の突破短縮は
有り得る事という試算も出しています…
六菱覚醒出現というイレギュラー前提ですがね…」
プリメーラ:
「そのイレギュラーが同じ時代に2人出たんです。
なら突破されても、仕方在りませんね…」
フォレスト:
「いや、2人ではありません…
3人です…」
プリメーラ:
「3人!?
誰です?3人目のイレギュラーな六菱覚醒者とは…
そんな人物の事など今まで報告で聞いてませんよ!?」
フォレスト:
「厳密には赤帝が3人目の存在に気付く可能性が
この邂逅で発生した、という事です…」
プリメーラ:
「どういう事です?
………
!!!
プレティナ・ミルシューネが六菱皇帝である事に
赤帝が気付く可能性が生まれたという事ですか!?」
フォレスト:
「御意…」
そのやり取りで、赤髪の少女の冷然としていた態度に
些かの慌てた様子が生まれた。
記録情報を参照すれば、確かにベリアが
『存在の可能性』をナージェスタに伝えている。
この情報伝達が、可能性の糸を紡いでいけば…と考えれば
それは確かに新しい不確定要素の発生に間違い無かった。
プリメーラ:
「なるほど…
プレティナちゃんに気付かれてしまえば
銀河中枢突破から『その先』さえ発見する可能性も
ゼロでは無くなったと…」
フォレスト:
「御意…
時間はかかりましょうが…
アルシオン・オーラクルムの洞察力と
レディン・ルークの行動力があれば
銀河中枢へ辿り着いて、彼等が求める『真実』を手にした後に
『その先』へ手詰まりになって、考古学研究に陥ったとしても
『この時代』に『鍵』を見つけてしまうかもしれません。
プレティナ・ミルシェーネに彼等が出会う事が
もし起きれば…ですが…」
プリメーラ:
「そういう事ですか…
それは確かに、
私を起こして報告しなければならないレベルの話ですね…
しかし…執念ですね…これは…
今を生きる者達の…
いえ…華の理に殉じたリーシャスの
その熱き魂が受け継がれたというべきなのでしょうか…
皮肉なモノね…
華の理を語ったが故に、
銀河をこうしてしまった私は、まだここに在り…
リーシャスは、私とは逆に華の理に殉じた…
華の理をリーシャスに語ったのは…私なのに…」
そう呟くと、赤髪の少女は僅かにその瞳に涙を浮かべる。
フォレスト:
「そこは、在ると言う事を賞賛しましょう、姫様…
しかし我々としては、姫様を消失する事は困ります…
姫様の御尽力あってこその、今なのです…
こうなればアストラストの提案である
500年の計画の短縮…
計画の現状からの再設計
アルシオン・オーラクルムを主人公とした
『運命の時』を我々で作り出す事…
それに乗る案も悪くはありません…
いかがでありましょう?姫様…」
プリメーラ:
「100%を求める貴方が、
不確定の方に舵を切り替えるのですか?」
何年もアストラストの提案を渋ったフォレストが
ここに来てその提案に前向きになった事に
赤髪の少女は僅かに呆れて肩を上げ、そう腐してみた。
フォレスト:
「私が元々の計画を、現在の要素から再設計して、
500年後に100%の完勝の従来計画を
今の時代に95%の確率での勝利計画に変えて見せます…
偶然と必然の中で、これだけのタレントがそろっているのです。
彼等はやれるだけの十分な資質があります。
それならアストラスト同様に
今の時代の生きる者達を、信じてみようではありませんか…」
プリメーラ:
「そうね…あのアルシオン・オーラクルムなら…
そう…アルフレッド帝にそっくりな彼なら
95%なんて控えめな事を言わずに
100%の確率で勝てるでしょうね…
貴方がサポートするのなら、尚更…」
フォレスト:
「ならば!」
その主の言葉に思わず熱くなるその存在。
しかし赤髪の少女はそこでただ前を見つめて呟いた。
プリメーラ:
「でも、勝てるだけです…
それではクラーリンは倒せません…」
フォレスト:
「!」
その淡々とした一言に
その存在は気勢を一瞬にしてそがれた。
プリメーラ:
「勝つだけなら、もっと前の時代にでも
流血を恐れずに大量の血を流せば勝てたでしょう…
それこそ1000年前にも
あそこまで無理をしたのなら
もう一歩、更に無理をすれば勝てたとは思います…
でも、私はあの時、躊躇った…」
そう言って赤髪の少女は苦そうに笑う。
フォレスト:
「…………」
プリメーラ:
「それでもです…、
あの時、私は躊躇って正解だったと思うの。
私は、今になってみると戦いの勝利に価値を感じません…
私は1000年間、頭を冷やして考えてみると…
もっと何かが欲しいのです…
そう、勝利よりもそれ以上の何か…
クラーリンを倒せる…何かが…」
フォレスト:
「クラーリンだけを貫く
そんなおかしな槍ですか…」
その主の言葉に相方は主の望む莫大な願望に
肩を上げるしかなかった。
そんな都合の良いモノが在るならば
とっくの昔に自分が作り出していた事だろう。
それが分かっているからこそ、赤髪の少女も笑うのだ。
そして相方を見上げる。
プリメーラ:
「魅力的なのは、魅力なのよ?
これだけのキャラクター…
これだけの資質を持つ人々…
それが今、この時代に、同時に存在している…
彼等ならば確実に新しい時代を
作りだしてくれると信じる事は出来る…
でも…」
フォレスト:
「…でも?」
プリメーラ:
「何か、あともう1つ…
こんな奇跡が重なったのなら…
私も欲が出てしまいます…
だから、何か後、1つ…
私達が考えても居ない様な外側から
この状態をかき混ぜて
勝つよりももっと大事な事…
それを見つけ出してくれる様な…
そんな都合の良い何かに出会えたのなら…」
そう言って少女は、あまりにも勝手で都合の良い
夢想の様な願望を口にした。
しかしその言葉に唸るフォレスト。
フォレスト:
「そうですね…
十分なタレント達ですが…
確かに、何か、あと1つ…
我々の計算を根本から瓦解させてしまう様な
そんな1つのファクターが現れれば…
アストラストの提案に
私も踏ん切りがつくのですが…」
そんな2人の会話を、側で座して聞いていた存在が
その言葉をなぞってみる。
アルフォーレシード:
「あと1つ…
何か想定外の、あと1つの要素…か…」
そう呟いて、それは溜息をついたのだった。
エスカとレディンにとって非常に気になる会話を続けた
その2つの皇帝神器だったのだが、
2人が二者の会話内容について質問をしようとした時
『楽しいヒントお遊びはここまでだ!』
と両者それ以上の事を語らなくなり
沈黙モードに戻っていった。
ただし完全な沈黙というわけでもなく
『今の時代は今の時代の人間が動いて
この銀河の謎を解き明かすべきで、
努力の対価も無く真実を知ろうなんて怠惰な事をするな!
大きなヒントをくれてやったのだから
後は各自、自分でよく考えなさい!』
という奇妙な激励と
『基本的に人類が銀河中枢に向かって
開拓をするという今の姿勢は間違いではない。
だからそれはそれでいいのだと自信を持ちなさい。
それでも、我々にとって重要なのは
『運命の時』の到来であり、
我々はそれを待ち望んでいる。
だがそれが、100年後か1000年後なのか
何時、起きるのかなんて誰にも分からない…
だからこそ、人は人が出来る事…
銀河中枢の突破を目指せばいいのだ』
という毒にも薬にもならない
有り難いアドバイスを残してくれた。
そして本格的に沈黙モードに戻る二者。
ただし今後は戦闘時にかけ声くらいは出してくれるとの事。
そんな投げっぱなしな状況にされて
残された二人は渋面になって腕を組み
う゛ーーんと唸りながら、
色々なキーワードを思案するしかなかった。
レディン:
「元の様に黙して語らなくなったコイツ等に
何を聞いても、もう、無駄らしい…
物凄く気になるキーワードが出まくったが…
これはもっと時間をかけて、
今の現状の情報に
組み込んでいくしかないんだろうな…
ま、アンタをここに連れてきて
コイツ等にうっかり口を滑らさせただけでも
十分な収穫って思うしかないか…」
エスカ:
「いやいや、
当時者にキーワードを貰っただけで上々さ…
何よりナージェスタ様に意志があったとなると
これからの接し方も変えないといかんしな…
そう言って位相空間に引き戻ったナージェスタを
チラ見するエスカ。
しかし、沈黙モードに入った護石はこれからは
さっき程の様に簡単に口を滑らせてくれそうになかった。
それに溜息をつくエスカ。
エスカ:
「まぁそれはそれだ…」
言って気持ちの仕切り直しにを前髪をかき上げるエスカ。
その様に似た様な気持ちで肩を上げるレディン。
レディン:
「ともかく…
思わぬ情報を得てしまった上で
『今を生きる俺達』的には、色々と語り合いたいんだがね
特に赤帝の提督様としての立場のアンタとな…」
レディンは改めてそう切り出した。
エスカ:
「ほう?提督としての私にか…
何だ?作戦の機密事項を語れと言われたら
流石にそれは、立場上、無理だぞ…」
そう返して柔い牽制を入れるエスカ。
レディン:
「機密事項を語って欲しいわけでもないが…
もしかしたら最高機密事項を語って貰いたいかもな…」
その返事に笑いながらも、レディンが最も知りたい所は
本来『最高機密事項』に抵触しているハズなので
同じ様に柔く問いかけてみる。
エスカ:
「最高機密事項?」
そのレディンの不穏な単語にエスカの頬が引きつった。
レディン:
「ま、語れないなら、語れないでいいけどな…
教えて貰えるモンなら、教えて欲しいのさ…
それは、結構、大事な事だからな…
で、聞きたいんだが…
お前等…赤帝の予想では、
銀河深淵、銀河中枢『ガイアポリス』には
どんな『秘宝』があると予想しているんだ?」
そうレディンは軽く切り出した。
そして僅かに嫌らしそうな笑みを浮かべる
そんな鋭い言葉を投げつけられて
思わず目をパチくりさせるエスカ。
エスカ:
「おっと、そう来たか…
それは確かに赤帝の最高機密事項に抵触する内容だな…」
レディン:
「だろうな…」
レディンの鋭い質問に、一瞬、面食らい
『赤帝の提督として語りたい』という
言葉の意味を理解するエスカ。
確かに銀河で随一と黙されている宇宙冒険家ならば
色帝の隠している思惑は知りたい所であろう。
それを知っているだろう色帝の提督と一緒に居るのなら
それを尋ねて来るのは当然か…。
エスカ:
「そんな最高重要機密…語れるわけがないだろう?
…と普通は言わなければならん所なんだがな…
だが、いいだろう…
教えてやるよ…
それにこれは『公然の事実』に近い機密で
色帝の全てが同じ解答を持っているからな…
最高機密事項のハズなのに、実の所、機密になってないんだ…」
レディン:
「ふむ?」
そう苦そうに笑って自白するエスカに
レディンは首を傾げる。
しかしエスカは逡巡する様も見せずに
淡々とレディンの問いに答えた。
エスカ:
「思考天体だ…」
軽い口ぶりでそういうエスカ。
レディン:
「思考天体、ガメット?
銀河中枢にある『秘宝』は
7つめの思考天体だと考えているのか?」
あまりにあっさりとした解答に
レディンは同じ様にあっさりとした質問で返した。
エスカ:
「いや、7つめではない…
恐らく、オリジナルだ…」
レディン:
「オリジナル?」
エスカの解答に些かの驚く様子も見せずに
ただ彼女の言葉をより深く尋ねるレディン。
エスカ:
「ま、お前クラスなら色帝の基本的な機密ぐらい
知っているだろうから隠さずに言うが…
色帝の最高思考天体…ガメット級思考天体…
1000年前の革命戦争の後から作った
思考天体の模造品としての各国独自の思考天体等ではなく
連邦帝国議会が設置されている
汎銀河帝国遺産の最高思考天体、
レッド・ガメット『アストラスト』
アストラストという
同じモノが作れないほどの他と隔絶した思考天体は、
しかし、内部で探索調査されている高階複素結晶の
並列素子の質と量に対して、
行える演算が理論的に予想されるパワーよりも
あまりにも小さいのだ…
それでも、模造品の思考天体では
アストラストの演算力に質も量も追いつけないわけだが…」
そう言ってエスカは自嘲気味に笑う。
1000年前に作られたモノが、能力封印されているにも関わらず
現行技術を凌駕している等、質の悪い冗談にしか聞こえない話だ。
だが、それも現実だった。
レディン:
「ガメットと呼ばれる汎銀河帝国の最高遺産の思考天体は
思考天体のマスターである巫女の祭儀で
共鳴動作をした時だけ、瞬間的に1000年前の
『封印』されていない状態での全力演算が出来る…
それ以外の定常動作では、筆頭御三家が所有している
自国所有の思考天体の二個分の演算程度で動く…だったか?」
エスカ:
「よくお知りで…」
エスカはレディンの
色帝内上層部でしか知り得ないハズの情報に
呆れて舌を巻くしかなかった。
レディン:
「ノードノークも土地柄の都合で
自分達で思考天体の模造品はみんなが個々に作ってるからな…
それに、そうでもせんと、
クラーリンからのパーツ財宝を持ち帰っても、
自分の船に取り付ける改造設計ができん…
船を強くするためには、思考天体は必須の演算装置さ。
思考天体は何処の勢力でも喉から手が出るほど欲しい
重要なお宝だよ…」
エスカ:
「なるほどな…
ま、ウチのロルグベアでも緊急用に
現地に思考天体を作らせているんだから
やっぱ同じなんだろうな…
そんなわけで、祭儀の時だけ『全力』になれる
最高思考天体『アストラスト』なわけだが…」
レディン:
「……ふむ?」
そこで一呼吸置き、エスカは一瞬だけ語るのを躊躇う
苦々しい問題を脳裏に浮かばせた。
しかし勢いのままにそれを口にする。
エスカ:
「困った事に…
アストラストの内部に直並列連結されて
作り出されている高階複素結晶の素子…
そしてそれらを連結結線している構造
その全ての生成方法…
これが、全く分からんのだ…」
レディン:
「…ほー」
エスカのあまり言いたく無さそうな情報に
レディンはただ簡単な相槌を入れるしかなかった。
だがそれも、公然の事実ではあった。
もしそれが分かっていて自分達で内部部品が作れるのなら、
何処の色帝も二個目のガメットを自前で作るだろう。
しかし、どの勢力もそれが出来ない。
この現実が、隠している内情の単純な答えであった。
エスカ:
「となると、こんな製法が分からないモノを
どうやって作ったのかという事を考えればだ…
理論的に考えて、アストラストは
全力演算をして自身が生み出せる最高級の複素結晶を
自分に連結させて自分を作っていった…としか考えられないのさ…
1000年前の全力で駆動していた頃にな…
だからアストラスト級の各色帝の思考天体達は
そんな自己増殖をした思考天体だと考えられているわけだ…」
エスカは頭痛がするその推論を口にして
ますます苦そうな顔になるしかなかった。
レディン:
「なるほどな…
自分の最高演算で自己生成しながら
内部を自己進化させていく思考天体
それが、ガメットか…
しかし、それならその方法論が
思考天体の生成方法の理屈だろう?何か問題でも?」
レディンは自分でも分かっていて、
意地悪な質問をエスカに投げてみる。
その表情に、コイツは…と舌打ちしながらも
その答えを口にするエスカ。
エスカ:
「その理屈だったら、自分達が自前で作る思考天体に
同じ事させてりゃ、
何れかはガメット並に進化できる事に、なるだろーが…
思考天体、自分達で作ってるんなら、やってんだろ?
同じ事…
で、どうせ、同じ問題に直面してんじゃねーの?」
そう言ってエスカは侮蔑の表情を伴ってレディンを見つめた。
その問いに肩を上げるレディン。
レディン:
「仰る通り、自己進化型の思考天体を作っては
色帝のガメット並のモノを作ろうと
頑張ってはいるんですがねぇ…」
と両手をあげてレディンは笑った。
エスカ:
「自前で作った思考天体の進化促進速度から計算すれば
ガメットと同じモノにまで自己進化するには
6000年以上かかる…と試算が出てくるわけだ…
んでもって、巫女の祭儀で作るアストラストの
最高品質の演算複素結晶を、アストラストに取り付ければ
それで自前の思考天体よりも通常演算力が遙かに強化される…
鶏が先か卵が先か…という大問題だよ…
そのせいで帝国連邦議会は、いつも、
アストラストの作り出す演算型複素結晶を、
アストラストに内部装填するか
自国の思考天体に組み込むかという、
素子の分捕り合い議論で喧々ガクガクになるのさ…
なんせ、最高の思考天体なのに、
一番信頼されていない思考天体がガメットだからな…」
そう言ってエスカは笑うしかなかった。
レディン:
「過去の資料を全色帝で全て示し合わせて焚書した様な
思考天体達を、誰が心の底から信用するってんだ…
能力が高いから使うしかないってのが実情だろうが…」
エスカ:
「仰る通りで…」
そういうやり取りでこの銀河の悩ましい状況に
お互いに頭を抱える2人。
一番頼らないといけないモノに
全力で裏切られているという状況は
やはり腹立たしさしかなかった。
エスカ:
「ま、国情の愚痴はともかく、
理論計算して6000年とかふざけた年数を
要求するのが自己進化での思考天体の強化方法だ…
となると…
各色帝が持っているガメットには
元々は原型があったのではないか?
と、考えられる様になった…
ここが白色領域という名前で呼ばれているなら
さしずめ、ホワイト・ガメット、といった所か…
だから色帝の『秘宝』の見解は
オリジナルのガメット…
ホワイト・ガメットだと見ているわけさ…」
そう言ってエスカはハァと溜息をついて腕を組んだ。
その様に自分の頬に片手で手をやるレディン。
レディン:
「非常に説得力のある仮説だとは思うが
ならどうしてそんな顔をするんだ?」
レディンはエスカが自分で言いながら
その言葉に納得していない事を見抜いてそれを尋ねる。
エスカはレディンにその『違和感』を見抜かれて
更に気分が悪くなるしかなかった。
エスカ:
「当たり前だろう?
もし仮説の上でのアストラストがオリジナルガメット
ホワイト・ガメットに作られたのだとしたら
そこには矛盾しか出て来ないではないか!
アストラストを作ったのは汎銀河帝国時代の技術だ…
それは間違い無い。
現代の技術では再現できんのだからな!
では、その最高技術を
何故、わざわざ六色帝国の各々の中心地に
汎銀河帝国はバラまいたんだ?
気前が良すぎだろう?
それは、革命戦争が起こされる火種を
まき散らしてる行動なんだぞ?
軍事的に在り得ん行動だよ…。
そして、もう1つ…
何故、アストラストは『能力封印』されているのだ?
恐らく1000年前には、巫女の祭儀共鳴とは
今の運用とは全く異なったモノで
アストラストは常に全力演算が出来ていたハズだ。
なのに、今は何らかの理由で『能力封印』されている…
それをやったのは誰で、どんな方法でそれが出来た?
仮説が正しければ
泥縄式的にオリジナルガメットしか
それが出来るモノがありえんだろう?」
そうまくし立てて、エスカはいつもの
考古学者達が状況からの推理を解析しながらも、
どうしても説明に詰まるその部分に頭を抱えるしかなかった。
レディン:
「ふむ…つまり…
色帝の持つ最高思考天体『ガメット』達は
銀河中枢に存在しているかもしれない
オリジナルガメットによって作り出された
コピー思考天体で…
更には、各ガメット達はオリジナルに支配される性質があると…
そういう仮説を立てると、矛盾の嵐になるわけだな…」
エスカの苦悶にレディンはその概要を簡単にそう理解する。
レディンにそうまとめられてやはり眩暈しかしないエスカ。
エスカ:
「アストラスト以下、各国の持つ自前の思考天体に
各々に予想演算させても、それ以外の答えが出て来ない…
だから各色帝は皆、同じ予想…
銀河中枢には各色帝の思考天体の元となった
オリジナルの思考天体、
それが存在していると考えている…
そして、それが『秘宝』の正体だという予想だ…
まぁこの予想は仮説ではあるが、99%正解だろうな」
レディン:
「む~~…銀河最高の思考天体…
それが銀河深淵に存在している…か…
そして、そのオリジナルは色帝の最高遺産を
支配する能力があるかもしれない…とな…
それは確かに汎銀河帝国の最高遺産『秘宝』だな…」
エスカの言葉に淡々とその仮説の重要性を
言葉で認識するレディン。
エスカ:
「この銀河を全て統治していたとされる汎銀河帝国だ…
現在の各色帝がその国政のほとんどの事務処理を
思考天体に依存しているのなら
単純なスケールアップで
帝都『ガイアポリス』に汎銀河帝国を治めた
オリジナルの思考天体が存在していた…
と考えるのが自然ではないかな?
そしてそれが最も強力な思考天体だった…と…」
レディン:
「それは合理的な推論だ…」
エスカの言葉を素直に肯定するレディン。
しかしその『最もらしさ』が色帝の政治に関わる
全ての人間の苦悩の元になる。
エスカ:
「だが、この推論は、
困った事に派生的に
色帝に都合の悪い事を色々予想してしまうんだな…」
そう言ってエスカは自嘲気味に笑った。
レディン:
「色帝に都合の悪い事?」
レディンはその言葉を特に裏読みをする事もなく
率直に尋ねてみる。
エスカ:
「先ほどの、1000年前の革命戦争によって
色帝の思考天体を能力封印したのは、
そのオリジナルの思考天体なのではないか?
という基本的な予想…
これだけでも頭痛がする話なのだが…
もっと深刻な予想として、各色帝のインペリアルゲートが
色帝の傘下に入らず『中立』を保っているのは
インペリアルゲートの管理権限を、
そのオリジナルの思考天体が所有しているからではないか?
という予想があるんだ…」
レディン:
「ほほう…思考天体どころか
インペリアルゲートの全管理権限まで持つ
正に銀河を支配する能力を持ったガメットか…」
エスカ:
「そういう予想だ…
そして、もしこの嫌な予想が当たりなら
六色帝国戦争は起こるべくして起こるしか無かった
という話になるんだな…」
言ってエスカは薄笑いを浮かべるしかなかった。
色帝のガメット思考天体と全インペリアルゲートの支配。
そんな事が可能ならば、銀河中枢にあると考えられている
オリジナルの思考天体さえ確保できれば
その色帝が全銀河を再び制圧した事と同義になる。
レディン:
「なるほどねぇ…予想がドンピシャなら
銀河深淵、そのオリジナルの思考天体の確保は
銀河全てのインペリアルゲートの支配…
つまりは真の銀河覇権になるって所か…
新しい汎銀河帝国…
さしずめ第二次汎銀河帝国の成立って所だな…」
レディンはそう言ってエスカの考える
最も赤帝という立場では阻止しなければならない事
あるいは赤帝がそうならなければならない事を
軽口で言葉にし、エスカの気持ちを暗澹たるモノにさせる。
エスカ:
「そうだ…
各色帝がこの白色宙域で互いに戦争して
邪魔をし合うのも
その予想が当たりなら、
完全なる本土制圧が不可能では無くなるからだ…
インペリアルゲートが自由に封鎖できるなら
最早、まともな戦争にすらならん…
ガメット思考天体まで支配されたらそこで降参だ…」
言ってエスカは自分の髪をかきむしった。
レディン:
「はーー
色帝がそう予想してんなら
色帝としては好むと好まざると
六色帝国戦争するしかないわな…」
エスカ:
「そういう事さ…」
そんなレディンの他人毎の様な感想に呆れながら
しかしながら同時に的確な感想に脱力するしかないエスカ。
1000年前にどんな理由で始まったのはか定かではないが
1000年前にさえこの予想がされていたのなら
六色帝国戦争というのは起こるべくして起こった
必然の戦争だったという事になる。
それは寒い話だった。
エスカ:
「しかし、この予想を聞いてしまうと
お前等、宇宙冒険家はどうするんだ?
お前等宇宙冒険家に
銀河最高の思考天体など必要なのか?
『秘宝』がそれであるなら、
流石に、これは色帝ほどの
大量の星系支配をする組織でなければ、手に負えない話だぞ?
そんな思考天体なら、個人でどうなるような
お手軽なモノでもなかろうしな…」
そう切り出してエスカは、この色帝の持つ焦燥感は
むしろ宇宙冒険家にとってはやる気を削ぐ
理由にはならないのかという疑問が沸いた。
レディン:
「まぁそーだな…
実の所、ノードノークの予想でも
『秘宝』の正体は思考天体だとなってるんだ…
ウチの模造品の思考天体も、その答えを出してるんだな…」
そのエスカの質問に、僅かに笑いながら
今度はレディンの方がノードノークの最高機密に近い
情報を軽々と口にする。
エスカ:
「ノードノークでも同じ予想なのかよ…
そりゃマトモに動く思考天体作ってれば
そうだろうけどさ…
でも、それなら!!」
そう思わず意気込んで
エスカは宇宙冒険家達の知っているなら
矛盾まみれの行動に疑念の声を上げる。
レディン:
「いやいや、待て待て…
宇宙冒険家の全員が全員、何を思ってるか知らんが
俺達のグループは
基本的に思考天体には興味がねぇんだよ…
銀河の支配権なんてのも、尚更だ…」
エスカ:
「ほー
なら、何でお前は宇宙開拓を積極的にしてるんだ?
自分のポケットには入りきらない財宝を求めて
命を賭けて冒険するなど、正気の沙汰ではないと思うが?」
レディンの言葉に眉をひそめ
エスカが命を賭けるにはワリの合わないその報酬に
率直に疑問を投げつける。
レディン:
「俺達が欲しいのはな…『歴史の真実』なんだよ…」
その時、レディンは、
物凄くにやけた顔をしてそう呟いた。
エスカ:
「歴史の真実?」
レディンの虚を突かれる言葉に、流石にポカンとなり
その言葉をなぞって意図を尋ねるエスカ。
レディン:
「銀河中枢に最高の思考天体があって
それが『秘宝』だって言うんなら、それでもいいさ。
それは確かに、分かり易い宝だからな…
もう一度、汎銀河帝国を復活させる事のできる力。
そりゃ間違い無い…色帝にとっては『秘宝』だ…
だがな…なら、その隣に、
俺達にとっての『お宝』もあるハズなのさ」
その時、レディンはあまりにも子供の様に
目をキラキラさせながらその言葉を熱く語った。
エスカ:
「お前達にとっての『お宝』?
それが『歴史の真実』だというのか!?」
レディンの表情とその答えに思わず飲まれて
言葉をまた尋ね返すエスカ。
レディン:
「そーよ…
ガイアポリスに銀河最高の思考天体があるのなら
そいつだけは1000年前の革命戦争の全てを
知っているハズだ…
銀河から焚書された歴史の真実って奴をな…」
エスカ:
「お前達、宇宙冒険家が考古学心に溢れている
歴史研究家だったというのは、
今日、初めて知ったぞ…
そんな物をお前達は命懸けで求めていたのか?」
レディン:
「分からない謎があるから、それを知る為に冒険する…
そう言う生き方は駄目かね?
冒険する動機としては、十分だと思うが?」
エスカ:
「どうやら宇宙冒険家の認識を
今日から完全に改めなければならん様だな…
少なくとも『財宝』の定義に『それ』が入っているんなら
銀河中枢にあるのは確かに、お前達にとっては『財宝』だ。
もしオリジナルガメットなんてモンがあれば
確かに、そいつだけは全てを知っているハズだからな…
『歴史の真実』って奴をな…」
エスカはレディンの言葉を素直に受けて
誰も納得していない現在の『歪んだ歴史』に対する
『歴史の真実』の在処に納得する。
そう、焚書されて少なくなった当時の状況証拠を
アルシオン陛下の様に銀河周辺を調べて集めて
過去の謎に迫る考古学的な方法も方法論だが
もっとも簡単な方法は、この目の前の馬鹿が言ってる様に
その情報がそのまま残っている場所に行って
真実を閲覧すればいいのだ。
それは短絡的ではあるが、確実な方法ではあった。
そこでレディンは鼻をかいて、語り始める。
レディン:
「色帝の予想は妥当だ…妥当過ぎる…
だが、妥当が故に、矛盾もてんこ盛りだ…」
エスカ:
「……まぁあえて聞くが…矛盾とは?」
レディンが切り出したその言葉に
エスカは自分も承知している『予想の矛盾だらけ』を
あえてその宇宙冒険家に尋ねてみた。
レディン:
「アンタが口上した、1000年前の革命戦争。
その伝承はとにかく意味が分からん…
銀河最高の思考天体がガイアポリスにあったのなら
どうして革命軍は勝利できたのだ?
いや、何より銀河を支配できた大帝国
それも最も強力な思考天体を有していた勢力が
何を乱心すれば、6つに分裂して革命戦争なんかが起きる?
そして、何故、歴史は思考天体によって焚書され
その六色帝国戦争しなければならない
最も根源的な『理由』は尽く情報消失している?」
エスカ:
「歴史学者の様に、痛いところを突くな…」
エスカは至極最もな『矛盾の提示』に頬を歪ませるしかない。
そうだった。
銀河を征服していた最大勢力が『何を乱心すれば』
銀河をバラバラにしてしまう程の革命戦争にまで
陥るというのだろう?
この話は、一番最初がおかしいのだ…
『流血の女皇帝の乱心』という、内容不明の乱心が。
レディンはそれに続けた。
レディン:
「秘宝がオリジナルの思考天体なのなら
流血の女皇帝は負ける事の方がおかしい…
それに最強のクラーリンを以て戦ったとは何だ?
まぁ、そんなおかしな戦艦を作るのは有り得る。
それは無い話でもないだろう…
銀河の皇帝陛下様なんだからな…
銀河最強の戦艦を作って皇帝旗艦にしたってのは
普通の話だろう?
としても、前後関係が意味不明だ…
機動皇帝旗艦の六隻で、
その最強のクラーリンを包囲殲滅したという。
となると流血の女皇帝は
その後、どうやって、『皇帝道』をぶっ壊したんだ?
最強のクラーリンは倒されて戦闘力を失ったのに
それでも尚、『皇帝道』破壊できる方法を
流血の女皇帝は持っていたというのか?
あんな物理的な破壊が出来る別の何かを?」
エスカ:
「………みんなが思っている疑問を
簡単に口にしてくれるな…宇宙冒険家…」
エスカはレディンが言う『前後関係の矛盾』に
肩を上げるしかなかった。
しかし、エスカは実際に、機動皇帝旗艦の1隻
『Q・バルディオス』の他を超越している火力を目撃している。
あんな武器を持っている戦艦が
6隻も集まって倒せない存在など、在り得るのか?
というのも頭痛がする程の疑問だ。
しかし逆に『あんな動力源不明の武器』を作らないと
倒せなかったと考えられる『最強のクラーリン』も
またよく分からない存在になる。
目の前の宇宙冒険家ではないが、エスカだって知れるのなら
『歴史の真実』を知りたいとは思うのだ。
その謎に対する苦悶の表情を見て
レディンは嫌らしそうに笑って続けた。
レディン:
「それが自由業の良い所さ…
ともかくこの革命戦争は
情報改竄されているのは明らかだ…
正直、革命戦争は、本当は革命軍は負けたのではないか?
とさえ俺は疑っている…
革命軍の方に勝てる要素が見つからないからな…
ガメット思考天体の能力封印と
インペリアルゲートの全封鎖なんて事が
そのオリジナルの思考天体に出来るのなら
尚更な…」
エスカ:
「あまり肯定したくない意見なのだがな…
しかし予想範囲の中に、
『革命軍は本当は負けたのではないか?』
という予想が実際にあるんだよな…
オリジナルの思考天体に考えられる能力を予想すれば、
それに勝てる方法論が思いつかないからな…
だが、負けたのなら負けたで
何で六色帝国が銀河を六分割してでも
分割統治できているんだ?という
この現状が説明出来なくなる…
挙げ句に、その戦争を経験した当事者の言う事と来たら
『運命の時を待つ』とみんながみんな言うわけだ…
このナージェスタ様や、お前のベリア、イルスキュルト
みんな揃って、革命戦争の経験者がだ…
何だ?運命の時ってのは?
勝ち負け以前の問題で意味不明だ…」
そう言ってエスカは腐るしかなかった。
『歴史の真実を知っている物達』がごく間近に居るのに
それが全員が全員、その話になると
黙して語らなくなるという不思議
そして、謎のアドバイス『運命の時を待つ』で
常に流してしまうのだ。
これで苛立つなと言われたら、それは無理であろう。
レディン:
「だからこそ、銀河中枢突破さ…
グダグダ考えても、何も分からず
当時者が相変わらずのダンマリだ…
それなら、『歴史の真実』を知るには
もう行くしかないだろう?
銀河中枢によ!
当事者達は、
『その場にたどり着ければ、真実だけは分かる』
と言っているんだからな…
なら、行くの一択さ…」
そう言ってレディンは自分の拳を逆の手の平に
軽く叩きつけてパチンと音を立てる。
そして自分の行動に対する意気込みに奮起した。
エスカ:
「お前等は、単純明快で羨ましい…
宇宙冒険家ってのは、良い身分だよな…
だが、そういう思考の方が
六色帝国戦争なんて、回りくどい事をせず
『本当』は一番早い近道なのかもしれんな…」
そう返してエスカは自分にはどうしても無理な
『立場』だ『責任』だ『矜持』だという要素を
綺麗さっぱり捨てて真っ直ぐに走っていける者達に
僅かながらに羨望の思いを抱くしかなかった。
その刹那の間、自分の父の最期の言葉が
何故かエスカの耳に蘇る。
(「私は、それでも問いかけたい!」)
レディン:
「そうさ!とどのつまり、行くしかないのさ!!
銀河中枢にな!!
そして流血の女皇帝様に、
一発、パンチをぶちかましてやるのさ!
女皇帝様が居る玉座まで上り詰めて
この拳でぶん殴って言ってやるんだ!!
何でこんな銀河を作りやがったんだ!ってな!」
その時レディンは猛烈な言葉を
当たり前の様に叫んだ。
エスカ:
「何だと!!お前!
流血の女皇帝がまだ生きていると思っているのか!?」
エスカは心臓が止まりそうな思いになって
レディンの驚くべき言葉に問いを投げる。
レディン:
「生きてないと、お前達は思っていたのか!?」
その言葉を聞いて、
これ以上ない微笑みを浮かべて
レディンはエスカを見返して叫ぶ。
エスカ:
「それは!!!」
レディンの猛烈な言葉に絶句して
思わず次の言葉を出す事のできないエスカ。
そのままレディンは途切れる事無く叫んだ。
レディン:
「この銀河を滅茶苦茶にした奴は
銀河深淵ガイアポリスで、最強のクラーリンと一緒に
思考天体の横で未だに生きて、
俺達がそこに辿り着くのを待っている!
俺は、そう信じているね!
だから俺は、流血の女皇帝様に、一発、ぶちかます為に
銀河最強になりたいんだ!!」
そう宣言してレディンは不敵に笑うのだった。
まー正直、プリメーラをここで喋らせるのは
「まだ早いのではないか?」というのもあったんですが
設定上では、出てきて喋らないとおかしいのもあるんで
本編では、まだ欠片も姿を現す予定が無い赤メーラさんは、
こっちの方で初顔出しになります。




