第七話 語らい(Ⅰ)
ふーん、ここのエスカとレディンの語り合いのパートは
多分、かなり長いんで恐らく3分割での展開になると思います。
と、同時に、重要な背景設定の提示シーンでもあるんで
ここを突破できれば、本編の方を少し進めても良くなるんだがなぁと
エスカはエドランの近くに待機していた
レディンの乗艦『ヴァーユ・イルスキュルト』
の中に拉致されていた。
ブリッジの様な場所…
-イルスキュルトが艦の管制を100%掌握してるので
ブリッジと言っても、ただのだだっ広い空間ではあったが-
そこで変装を解いて元の肉体に戻ったエスカは
仁王立ちになって船に拉致ったレディンを睨んでいた。
エスカ:
「赤帝の提督を乗艦に強引に拉致するとは
これは国際問題だぞ…
幾らノードノークが自由都市だとはいえ
赤帝の派遣提督を誘拐となれば
赤帝の本土艦隊がノードノークに攻める事も
可能性がゼロでは無くなるが
それは熟慮の上での行動か?」
そう腰に手を当てて詰問するエスカ。
レディン:
「ああ?誘拐だぁぁ?
緑帝の諜報員からわざわざ保護してやった恩人に
その言いぐさはどうよ?」
エスカの言葉に脱力し
レディンは冷や汗を手で拭いながらそう返す。
エスカ:
「緑帝の諜報員?
そんな奴ら何処に居た!?」
その反論を耳にしてエスカは驚いて
レディンの言葉を尋ね返した。
レディン:
「あんたの持ってる検出器じゃ感知できかったんだろうが
あっこの酒場にゃゴロゴロ居たんだよ…
緑帝の諜報員が…
そいつ等がお前さんの異質な空間歪みに気付いて
滅茶苦茶動揺してたとか
分かってなかっただろう?」
呆れてレディンはそう返す。
エスカ:
「馬鹿な…
オロードは連れてこれなかったが
それでも擬装用の高価な複素結晶で身を固めていたんだ!
諜報部が使ってるのをかっぱらって擬態してたのに
それでバレてたなんて!!」
そんなレディンの言葉にエスカは憤慨するしかなかった。
レディン:
「それがバレちゃうんだよナァ…
緑帝の奴らにはな…
木を隠すなら森の中って言うだろう?
森の性質を司る緑帝は、隠密、遮蔽、感知、治癒
それらの技術が特化の色帝だ。
他の色帝の技術では感知できない空間圧も
あいつ等の技術では狭い空間でなら簡単に見分けられる…
アンタはS級人類の空間圧を
その装備で遮蔽できてるつもりなんだろうが、
緑帝の検知器なら不思議なノイズを検出してたハズだ。
ノードノークにゃ、そりゃS級人類だってゴロゴロしてるが
あんな初級冒険者が集まるギルドに
無警戒に出入りするS級人類なんか普通はいねぇよ…
そこにいきなりS級人類の空間圧持ちが現れれば
普通に何者だって警戒するだろ?」
言ってレディンは自分の顔を手で仰ぐ仕草をする。
エスカ:
「じゃ何でお前はあそこに居たんだ…
お前だってS級人類だろう?」
その聞けば納得できそうな説明に
しかし全く合致しないレディンの行動には納得できず
エスカはそれを尋ねた。
レディン:
「言ったろう?あそこのマスターとは顔なじみだって…
子供の頃からの古なじみなんだよ、
本当にあっこのマスターとは…
それに俺の持ってる偽装技術は
緑帝の検出器も欺ける力があるからな…
アンタみたいに、S級人類の空間圧、漏れ漏れにしてる
そんな偽装じゃねぇから問題ねぇのさ…」
そう言いレディンはハァと溜息をついた。
エスカ:
「ほぉ…
真性の緑色帝国皇帝陛下は言うことが違うな…」
そこでエスカは重要な事を思い出し
色々な意味で戦略的な一言をレディンに投げつけてみた。
レディン:
「うぐ!?
な、ナンノコトデスカ、
ボクニハ、サッパリワカラナイナー」
エスカの鋭い口撃に白々しい物言いをしては
レディンは目を剃らして質問を惚けようとする。
エスカ:
「緑のエンペリオオン持ってるような奴が…
それもそれを発動できる様な奴が
緑色帝国皇帝陛下ではないと?」
そんないい加減なはぐらかしに
エスカは更に怖い顔をして踏み込んだ。
レディン:
「ちっ、やっぱりエンペリオンだってバレってんのか…
まぁそりゃそうでしょうけどな…
あーーー、でも、一つ言っとくけど、
俺は緑帝とは本当に個人的な関係はないからな!
俺は正真正銘、ノードノーク出身の宇宙冒険家!
生まれも育ちもノードノーク!
緑帝との関係といえば、
冒険者ギルドに売っぱらったクラーリンの戦利品が
ギルドの流通経路で貿易品として
緑帝に流れたかどうかって程度さ…
直接は取引さえしてねーよ…
つか、今は緑帝から懸賞金かけられてる賞金首なんだから、
緑帝の諜報員は、俺の所在探査も仕事でしてるって状態だ。
だから、あんな初心者のバーでも見張りがいるって事だしな…」
そう言ってレディンはエスカの問いかけに答える。
エスカ:
「ほぉ…
という事は、先祖が緑帝の皇帝親族で
バックレ皇帝一族の末裔って所か?」
レディンのその言葉を受けて
エスカはアルシオンと一緒に仮定した
レディンの生い立ちを直接本人に問い詰めてみた。
レディン:
「ほほう
もうそこまで、赤帝に分析されてんのね…俺って…
まぁそんな事、今更隠してもしゃーねーし
つまり、そういうこった…
俺のバーさんが、緑帝のフェリアル家の姫様でな…
お前さん所のナストア帝が大暴れしてた頃に
宇宙冒険家やってた俺の爺さんに恋して駆け落ちしたって…
俺の覚醒遺伝って、そんな流れらしいよ?」
エスカ:
「は!?
フェリアル家の姫が宇宙冒険家と駆け落ち!?
そんな馬鹿なっ!!!」
そのレディンの告白に瞬時に頭が白くなるエスカ。
緑帝のフェリアル家といえば、
緑帝筆頭皇族4家の中の巫女系筆頭の一族である。
つまりガメットの巫女になる血筋のど真ん中。
赤帝で言えばエスカのオルフェニウス公国
エスカの愛するメリシア大公姫が120年前に
宇宙冒険家と駆け落ちしたという様な感じであった。
そんな事が明るみになったら緑帝の皇族への信頼は
連邦全土でガタ落ちになる程の大スキャンダルである。
エスカはその情報に驚愕するしかなかった。
レディン:
「んな事言ったって、
そうなっちゃったモンはしゃねーだろ!?
人の恋路はS級人類でも阻止できないってのは
有名な諺だぜ?
俺のバーさんは愛に生きたんだよ…
でも、そういうのは俺は嫌いじゃないけどな!」
言って乾いた笑いを浮かべるレディン。
エスカ:
「まぁ駆け落ち皇族とかは
子だくさんになって家督を継げない皇家子弟では
無い話ではないし
バックレ皇族が逃げる先なんざ
宇宙冒険家と相場は決まってはいるが…
それでもエンペリオンと
ヒルリ・ベリアを持ち逃げなんかするか!?」
そこでエスカは更に一歩踏み込む。
レディン:
「おい、イルスキュルト…
ヒルリ・ベリアだってのもバレてんぞ、おい…」
イルスキュルト:
「光栄ですね…ベリアと勘違いされるというのは
悪くない誤解です…」
そのエスカの言葉を聞いた時
レディンは相棒にそう言って二人で苦そうに笑い出した。
エスカ:
「?」
その笑いが分からずにキョトンとするエスカ。
レディン:
「こいつはヒルリ・ベリアじゃないぜ?
まぁそうでない訳でもないが…
本体の方じゃねぇな…」
そんなエスカの表情にレディンは
その笑いのヒントを提供してみた。
その言葉で、またハッとなるエスカ。
エスカ:
「つまり…
アルシオン陛下の予想ドンピシャか…
ヒルリ・ベリアは分離型戦闘艦で
分離部分の一部がヴァーユ・イルスキュルトだと…」
エスカはアルシオンが仮定した仮説を
言葉の駆け引きをする事もなく直球で投げつけてみた。
レディン:
「あれれ…そういう予想をされたのは
アルシオン陛下様ですか…
あー、そりゃそりゃ、流石、洞察力の高い大帝様で…
ま、大当たりですよ…
こいつはヒルリ・ベリアの分離できる3体のうちの1つ、
ヴァーユ・イルスキュルト。
本体がヒルリ・ベリアと呼ばれて
分離体が、
ヴァーユ・イルスキュルト
ネルヴァ・サリスキュルト
って言うそうな…
ま、俺もコイツから聞いただけなんで
本体のヒルリ・ベリアが、どんなんかは知らんのだがな…」
そう告白して楽しそうにケタケタと笑うレディン。
エスカ:
「ふーむ…
それが聞けただけもノードノークに
わざわざ足を運んだだけの事はあったと言う所だな…
お前が緑帝と深く繋がっているかどうかで
ヴァーチェ宙域制圧戦は
構想を根本から変えないといかんからな…
血縁関係はあれども
お前は緑帝側というわけではないのだな?」
エスカは非常に興味深い情報が
向こう側からやって来た事に味を占めて
この際なので、押さえておけば未来がクリアになる情報を
全面開示させようと言葉を続けた。
レディン:
「血縁関係とか言い出したら
ルーク家の1000年前の大元は
青帝のバックレ皇族だぞ?
それにルーク家は代々、宇宙冒険家やってるから
血筋の中に、赤帝だ黄帝だ水帝だとかの流れが
ぐちゃぐちゃに入ってるからナー
何処の色帝の血が本流とか言われると
それだけで、どれだろう状態だぜ…」
エスカの欲する情報に対して
それを隠す様子も見せずにベラベラと血筋を語るレディン。
そんな事は隠していたからといってどうこうなるモノでもなし
宇宙冒険家にとっては『普通の話』なので
レディンは軽くそう伝えたのであった。
エスカ:
「オイオイ、緑帝だけじゃなく
青帝の帝族血まで持ってるのかよ…お前は…
全部の色を混ぜて、
真っ黒の黒帝ですとでも言うんじゃなかろうな?
絵の具じゃあるまいし…」
そんなレディンの情報開示に眩暈を覚えるエスカ。
確かに宇宙冒険家とは六色帝国戦争に嫌気がさした
皇族や貴族が逃げ込む先の代表格ではあるが
自国から離れようとすればするほど、
各色の混血は重なるというわけで
それを1000年も続ければ全色の血統が混ざって
黒色にでもなるのかと思ってしまう。
レディン:
「そういう言われ方をすれば
宇宙冒険家なんざ、みんな大なり小なり
六色帝国貴族か皇族の混血ばっかりなんだから
黒帝一族って事になるのかもな…」
エスカ:
「いい加減な…」
エスカの物言いにウケて笑いながらそう返すレディン。
その返しに目を細めるエスカ。
レディン:
「宇宙冒険家がいい加減じゃなきゃ
銀河の誰がいい加減になればいいんだよ?」
エスカ:
「物凄い台詞だが…
しかし…言い得て妙だな…」
その不遜な言葉の塊にしかし
妙な納得と笑いを覚えたエスカ。
そしてそこで二人は僅かな間、
ハハハハと乾いた笑いを続けたのだった。
レディン:
「まぁ俺の素性晴らしはこんぐらいでいいだろ?
で、お前さんは何しに来たんだ?
なんとなくその場のノリで
緑帝の諜報員から助けたけどよ…」
その軽い会話の応酬の後、レディンは本題を思い出し
赤帝の提督様が何を血迷ってノードノークなどに
自分の本体で乗り込んで来ているのかを問いかけた。
エスカ:
「そう言えば、お前、
何で私を緑帝から助けてくれたんだ?
血縁がグチャグチャだとはいえ
今、血が濃く発症してんのは緑帝血だろう?
だったら緑帝側に付いても良かったろうに…」
その質問に逆にレディンの言葉が正しければ
緑帝から保護してくれた事の不思議さを尋ね返すエスカ。
レディン:
「え?何で緑帝の奴らなんかに
俺が協力しないといけないんだ?
俺達、友達だろう?
友達だったら、他人より友達助けるのが筋じゃん…」
その問いかけに首を捻りながら答え返すレディン。
エスカ:
「はぁん!?
何時、私とお前が友達になった!!」
レディンがさらっと爆弾発言を混ぜて言葉を返した事に
それに見事に引火して爆弾を爆発させ激高するエスカ。
レディン:
「え!?
雷撃戦でお互いの実力を認めた者同士は
友達になるのが常識だろ!?」
エスカ:
「何処の常識だよそれは!!」
レディン:
「宇宙冒険家は、だいたいそうですけれど…」
エスカ:
「聞いた事がねぇよ!!」
レディンの何を聞いているんだと言わんばかりの
『宇宙冒険家の常識』を口にされて
色帝の提督という重責と大名誉職にいる自分も忘れ
口汚く悪態をつくエスカ。
レディン:
「いや、でも宇宙冒険家って、そんなモンよ?
あの酒場での決闘の後でも、みんなそうだったろ?
雷撃戦で互いを認め合った奴等は
その場でみんな仲間ってモンなんだよ…
宇宙冒険家って…」
そのエスカの言葉に、ほんの数刻前の事を引き合いに出して
宇宙冒険家の性情を語るレディン。
エスカ:
「ああもう!!
宇宙冒険家ってのはこれだから!!」
そんなレディンの解説に
エスカは宇宙冒険家のあまりの奔放な性情そのものに
床を蹴りつけて悪態をつくしかなかった。
イルスキュルト:
「あのー、お話中、申し訳ないんですが
緑帝の哨戒艦隊が、ここら辺うろついてるんですよね…
さっきのマスターの件で…
潜宙して身を隠してる今の状態、
内部エネルギーを大量に食い過ぎるんで
ちょっと、2星系ぐらいスターゲートで跳躍して
落ち着いた場所で会話して貰えませんかねぇ?」
その時、レディンの乗艦ヴァーユが周囲の状況を索敵し
ノードノークに潜伏して諜報活動している
緑帝の哨戒艦隊の活発な動きを探知して
彼的な最善策を二人に上申してきた。
レディン:
「おーーそうかーー
じゃぁ、楽に潜伏するために
アーリ星系通って、トルス星系にでも移動すっか…」
イルスキュルト:
「了解しました」
エスカ:
「ちょっと待て!!
ノードノーク離れるのかよ!!」
レディン:
「離れなきゃ、面倒なんだよ!今の状況!!」
その様な会話の流れでレディン達は
ヴァーユの移動するままにノードノークからその奥
宇宙冒険家が開拓している銀河深淵への開拓路に
逃げ込むように移動し始めたのだった。
レディン:
「良い湯だなぁ~~ハハハン~~~」
レディンは温泉につかって鼻歌を歌っていた。
エスカ:
「良い湯だなじゃねぇよっオイ!!
ノードノークから更に奥深くに赤帝の提督拉致して
何を呑気に温泉入ってるんだよお前!!」
そう温泉の中で激高しながら
エスカは相変わらずの仁王立ちでレディンを睨んでいた。
ただし温泉に入れるように水着姿で、であった。
レディン:
「しっかり温泉に入ってて
そうも激高されると対応にも困るのだが…」
そんなエスカの反応に細い目になるレディン。
エスカ:
「まぁ風呂に入りたい気分であったのは確かで
ヴァーユの中に、こんな豪華な温泉が在ったら
ちょっとは御相伴させて貰おうかぐらいの気分にはなるさ!
なんせこんな宇宙僻地に拉致られてるんだからな!」
と言って、ヴァーユの別室に作られていた
豪華で広い温泉にザブンとつかるエスカ。
自分でも不思議だったのだが
この温泉には何故か入りたくなる
不思議な魅力があったのだった。
レディン:
「拉致ったつもりはないが
拉致ったって事なら、拉致でもいいや…
友達になった宇宙冒険家は、
相手の都合も考えずにひっ捕まえて
宇宙冒険に行くことも良くあるのだ…」
そう言ってレディンは温泉の湯を自分の両腕に
練り込み始める。
エスカ:
「だから私はお前の友達になった覚えなど…」
と当たり前の文句をまた言おうとした時だった。
エスカの目の前で信じられない光景が起きていた。
レディン:
「ああ、この温泉は相変わらず大怪我に良く効くわ~」
言ってレディンが両腕に湯をじゃぶじゃぶかけていると
レディンの腕にあったエスカが付けたミージュの傷が
どんどん回復しているのがエスカの空間歪み測定で
観測できたのであった。
エスカ:
「ちょっと待て!!
それは何だ!!おいっ!!」
エスカは9階まで複素結晶を切り裂いたレディンの腕の傷が
その湯が浸透する度に猛烈に回復していくのを見て
愕然と成るしかなかった。
レディン:
「いや、何だと言われても…
湯治でありますが…」
エスカの問いに素朴に返して
同時に丹念に腕に湯を練り込むレディン。
エスカ:
「この湯…複素結晶回復液なのか!!
それも9階複素を直す湯だと!?」
そう叫んで、エスカ自身、
自分の体の状況を空間歪み測定で検知していった。
自己の体内複素結晶が、湯の浸透の度に活性化しており
今まで酷使して、それなりに痛んでいた体の全て
その内部の複素結晶の損耗が
急激に回復しているのを感じれたのだった。
レディン:
「ふははははは…
この船、ヴァーユ・イルスキュルトは
緑帝のヒルリ・ベリアの一部でありますよ?
そして緑帝の技術の象徴は『森』
森から派生される技術特性は『生命』と『治癒』
機動皇帝旗艦ともなれば、
その一部であってもS級人類をフル回復させる回復温泉が
あったりするんですねぇ~~~」
そう言って、レディンは嫌らしい笑みを浮かべては
自分の両腕に湯を塗り塗りする。
エスカ:
「9階以上の複素結晶さえ回復させる
回復温泉だと!!!」
レディンの言葉に衝撃を受け、反射的にエスカは
自分のレディンに切り裂かれた腕の切断面に
その湯をネリネリと練り込んだ。
すると腕の切断面の所に帯状に空白地帯化していた
6階以下までの複素結晶が
周囲情報を元に種結晶を生み出して
どんどんと生まれては結晶成長していくのだった。
エスカ:
「6階複素結晶が、こんな速度で治ってる!!」
エスカはその光景に絶句した。
肉体内にある複素結晶を損傷した場合
全体情報から再生治療をする事はできるが
そんな6階等という高階複素結晶では
治癒までに1年は優にかかるのが普通である。
それも定期的に治療用のカプセルに入ってだ。
9階等の、より複雑なモノは失っての再生など
思考天体にある高度救急回復装置にでも入らなければ
そうは簡単に再生できるモノではない難治の大怪我である。
だからこそミージェで切り裂いたときには
確信して『勝った』と誰しもが思えたモノなのだが…。
エスカ:
「あの戦闘時に9階の複素を切り裂かれたのに
その致命的なダメージに衝撃を受る風でもなく
また普通なら修復不能に近い傷を負ったのに
飄々とテレビ放送に出ていたのにも呆れもしたが
こんなトンでもない隠し球を持っていたとはな…
ど~りで致命的な大怪我してるハズなのに
それでも、何時かはアルシオン帝に挑む等という
意味不明で剛気な放送をするわけだ…」
そう言ってエスカは改めて目の前の
インチキ宇宙冒険家に閉口するしかなかった。
レディン:
「ま、バレてしまっては仕方ない…
つっても、そこまで隠す気もないけどな…
この艦の素性の問題があるんで
クラーリンから奪取したインチキ戦利品の1つって所で
誤魔化しているし
それは半分は嘘でもないしな…
このヴァーユ・イルスキュルトは
ヒルリ・ベリアから分離した時のオリジナル状態から
俺が…
っていうか俺達の一族がクラーリンと戦って得た戦利品を
あちこちに追加パーツでぶち込んで改造してる改造艦なんで、
回復温泉の能力もクラーリンパーツで
能力がブーストされてるんだ…
んでもって、雷撃戦で手傷を負わせてしまったんで
その謝罪に同じ湯で湯治して貰いましょうかいな…とね…」
と言ってワハハハハとレディンは笑う。
その言葉にエスカはワナワナと肩を震わせた。
そしてあまりの興奮にエスカはその場からザバァっと
レディンに飛びかかる。
エスカ:
「レディンさん!私と結婚して!!
うん、そうしよう!!
そうするべき!!!
それでヴァーユ・イルスキュルトは
赤帝の所属艦にしようじゃないかっ!!」
そう叫んでエスカはレディンに抱きついた。
レディン:
「アンタ、いきなり何言い出してるんですかっ!!」
その突然の告白に、
今まではおちょくって楽しんでいたレディンが
逆に見事に一本取られて慌て出す。
エスカ:
「結婚が嫌なら、それでも構わんぞ!!
つーか私もお前なんかと結婚なんぞ願い下げだからな!!
でも、ヴァーユは私に下さい!!」
エスカは笑いながらレディンに全力で抱きついて
非常にはしたないお強請りをした。
レディン:
「アホか!!
ヴァーユなんか一番やれんわ!!
それも赤帝にだと!!
アンタ、無茶苦茶言うな!!!」
エスカ:
「無茶苦茶で結構っ!!
こんなトンでもねー艦があって、
それが私の所有物になるんなら
どんな奴でも伴侶にして、手に入れるわ!!」
レディン:
「無茶苦茶でんがな!!」
エスカ:
「無茶苦茶なのは、お前のこの船だ!!
なんだオロードも感知できない潜行技術だ
9階の複素結晶を治す温泉湯だ、とか!!
こんな無茶苦茶な船があったら、
誰だって無茶苦茶になる!!」
レディンの大慌てな形相に
無理くりであろうとも今の自分の行動の
『理性的な』説明をしては不条理な事を続けるエスカ。
それには流石のレディンも暴れて喚くしかなかった。
レディン:
「なるほど!
それは正論だな!!
だが、あんた俺の事、嫌いって言ってなかったっけ!?」
エスカ:
「ええ、そうですよ!
多分、銀河で2番目に嫌いな奴がお前だよ!!
女の戦艦にアポ無しで乗り込んできて
容赦なく腕を切り裂く様な奴の
何処を好きになれるって言うんだ!!」
レディン:
「そんな嫌いな奴に、抱きついてでも
あまつさえ無理矢理、結婚してでも、
この艦欲しいのかよ!!」
エスカ:
「欲しいに決まってるだろ!!!
この船在ったら、アルシオン陛下の銀河深淵突撃も
後顧の憂いなく、やれるではないか!!
なら、欲しい!!
とても欲しい!!
是非欲しい!!
欲しいんで合法的に手に入れよう!!
結婚までしたなら、嫁にも所有権利は半分ですよね!!
ほらもう、この私のような超美人が
嫁になるおまけで付いてくる優良物件!!
だからさぁ君も、赤帝に入って銀河深淵を目指そう!!」
レディン:
「何処の怪しい宗教勧誘だよ!それはっ!!!
結局アンタの渇望はこの船の能力だろ!!
愛の欠片もねー、自分のその発言に
何か思うところは無いのか!!
赤帝の大提督様よ!!!」
エスカ:
「愛が欲しいなら、愛もなんとか努力してやるぞ!!
問題ない、大丈夫だ!!」
温泉のお湯をジャバジャバ周囲に溢れさせながら
レディンにしがみついて無理難題を要求するエスカ。
銀河一の冒険家も、流石にその素っ頓狂な発言に驚愕し
大騒ぎ大暴れと同時にマシンガントークをエスカと応酬し合った。
レディン:
「アンタ、俺の事、大嫌いですよね!!」
エスカ:
「ええ、銀河で2番目に大嫌いですよ!!」
レディン:
「アンタ、銀河で2番目に大嫌いな奴の所にでも
嫁に来れるほど、神経、恒星直系並にぶっといの!?
それはそれで、別の意味で尊敬しちゃうよ!!」
エスカ:
「大丈夫!!銀河で一番嫌いな奴に比べたら
アンタなんか遙かにマシで
嫁に行く気になれる人材だから!!
アレの嫁になったら
ヴァーユ手に手に入るとか言われたら
流石に全力でお断りするけど
お前程度なら、まだセーフだ!!!
大丈夫!!問題ないっ!!」
レディン:
「ちょっと、その比較はそれはそれで凄いな!!
アンタが銀河で一番嫌いな奴って、どんな奴やねん!!
ヴァーユを引き替えにしても全力でお断りとか!!」
そこでエスカがとんでもない事を言い出し
流石にそれはどんな奴なんだと、抵抗するのも辞めて
エスカが銀河で一番嫌いな男に興味が沸いて
それをレディンは尋ねた。
エスカ:
「君は、オーラクルム皇国の
ベルモンドという人物を知っているかね!!」
レディン:
「はぁ?オーラクルム皇国のベルモンド?
それってもしかして
あの『ベルモンド理論』のベルモンドさん!?」
レディンは、エスカが
こんなヴァーチェ宙域にさえ『その名』が轟いている、
ある一種、エスカよりも超有名な
オーラクルム皇国の提督の名前を口にしたので
確認の為に強くそれを尋ねた。
エスカ:
「おお、そうか! 知っているかね!!
あの糞の『ベルモンド理論』を振りまく
糞中の糞男の事を!!
そう!
あの糞ったれな『ベルモンド理論』を体現している
オーラクルムのベルモンドさん!!
そいつが、私が銀河で一番嫌いな男なんだよ!!」
レディン:
「ほう!貴方が銀河で一番嫌いな男は
あの『ベルモンド理論』のベルモンドさんか!
それは、貴方が女性なら、分からんでもないな!」
レディンはエスカが銀河で一番嫌いで
ヴァーユと天秤にかけても
お断りであると言った人物を理解して、それなりに納得はできた。
まぁ『ベルモンド理論』に納得できない女性なら
全力で拒否するのは当然だろう。
それでも、ここまで毛嫌いするのにはまだ違和感もあった。
その違和感は、次のエスカの言葉が瞬時に氷解させる。
エスカ:
「分かるだろう!!
常識的で冷静な判断力があったなら!!
だがしかし!!
困ったことに、更に悪い話があってだな!!
あの糞が、対外的には私の許嫁という事になっているんだよね!
赤帝の社交界の中ではな!!
あはははは!!!!
もう笑ってしまうしかねーな!これは!!
あはははははは!!!!」
レディン:
「はぁぁぁぁ!?
あれがアンタの婚約者なの!?」
そんなエスカのとんでもない情報提供にレディンも騒然となった。
『ベルモント理論』の体現者本人と
この紅の雷光様が、赤帝では許嫁の関係等というのである。
それは常識的に考えれば、絶対に有り得ない組み合わせだった。
だから、今まで幾多の脅威を越えてきたレディンでさえ
その事実に驚いたのであった。
エスカ:
「そうなんだな!!!
とても残念な事に、
これは親族が勝手に決めた縁談でね!!
一応、あの糞が私の婚約者という事になっているんだよ!!
オーラクルムとオルフェニウスの強い同盟関係を
より強固にする為とか、云々でな!!
それは私には吐き気がするような思いだが!!
だから、あんな糞の嫁になるくらいなら
お前の様な屑と、結婚する方が遙かにマシなんだっ!!
分かったかね!レディン・ルーク!!」
そう言って笑いながらエスカは涙目になっていた。
レディン:
「なんか俺個人は屑とか
滅茶苦茶ディスられてる気がするんですけど
ちょっと、あの『ベルモンド』さんが比較対象だと
心の底から納得できるこの状況が辛い!!
とにかく離せ!!!
赤帝の女提督!!
色んな意味で恥を知れ!恥を!!
流石にここは色帝国軍人の威厳在る行動を望む!!」
エスカ:
「自分達はスーパーフリーダムに生きてる癖に
いざ面倒事になったら相手に色帝の矜持を要求するとは
器の小さい男だな!!!」
そんな押し問答の後で、レディンは何とか
エスカの抱きつき攻撃を振り払って
互いに話が出来る距離まで仕切り直した。
そして凄く申し訳なさそうな顔になって
頭を下げるレディン。
レディン:
「いやすいません…
その何と言っていいのか…
あの『ベルモンド』さんが、その…貴殿の許嫁とは…
どんな慰めの言葉を贈って良いモノやら…」
エスカ:
「いや、なんていうか、そのな…
マジで結婚してくれねぇ?
あの糞と結婚しなくて良くなる為だけに…
いや、マジで、本当に…」
そんな少し落ち着いた状況になって
レディンに真心で優しい言葉をかけられると
如何に自分がトンデモナイ奴と許嫁関係なのかを理解して
ホロホロと涙を零し始めるエスカ。
そんな赤帝で畏怖をまき散らす女提督の
信じられない弱腰な姿を見て、
色んな意味でいたたまれなくなるレディン。
レディン:
「いや、まぁ…
あの人の『ベルモンド理論』は、さぁ…
男としては立派だなぁと思う時もあるよ、うん…
真似したいとも思わないし
真似できるとも思えないけれど…」
エスカ:
「『ベルモンド理論』だけは否定しろ!!
マジで!後生だから!!!」
そんなレディンのちょっとした言葉に
しかしエスカは激高して湯船から立ち上がって
周囲に湯をまき散らす。
レディン:
「どうどうどう!!
落ち着け!紅の雷光様!!
まぁ、友達に泣かれてまでお願いされたら、うん…
別に『ベルモンド理論』を否定しても良いけどさ…」
その激高したエスカに優しい言葉で諫めるレディン。
エスカ:
「お前と友達になった覚えなど全くないが!!
『ベルモンド理論』を否定してくれたら
今日から貴方は私の友達でいい!!
友達でも嫁でも何でもなってやるんで
後生なんで、『ベルモンド理論』は否定して!!」
レディン:
「いや、俺も一応、許嫁居るし…
そっちみたいに全力でお断りの相手じゃなくて
まぁそのうち結婚するかいなって感じの
幼馴染みで従妹な双方合意の相手がなぁ…
だから、アンタを嫁に貰ってやる事は出来んが
友達になるのは、もうそのつもりなんで
『ベルモンド理論』を否定してやるんで
友達って事にしようぜ?」
エスカ:
「何だよ!!
お前みたいな屑にも
嫁に来るような奇特な女が居るの!?」
そのレディンの脅威的な情報に
やっぱり湯をまき散らして立ち上がるエスカ。
レディン:
「今さっき、嫁に貰ってくれとか叫んでいた人が
言うことか!!その台詞!!!」
エスカ:
「お前の様な屑でも
『ベルモンド理論』と比較すればマシという話だ!」
レディン:
「あーーそうですか…
アンタにゃ、とことん嫌われてるな…
ベルモンド中将…」
屑だ何だと言いながら、それでもアレから逃げれるなら
嫁に貰ってくれとかいう意味不明な事を仰る赤帝の女提督に、
流石に眩暈を覚えるレディン。
エスカ:
「当たり前だろう!!!
私はまだ輿入れさえしてないのに
ベルモンド家にゃ
妾が10人で子供が24人も居るような状況だぞ!!
おい!!!
どういう状況なんだこれは!!
なのにあの糞から
『正妻の座は、ずっと空けてあるから
早く嫁ぎに来てよエスカちゃん
10人の嫁達と24人の子供達もみんな待ってるから!』
とか、この前メールが来やがったよ!!
どういう神経してたら、そんな手紙出せるんだよ、おい!!
オーラクルムの公爵家の人間じゃなかったら
そのまま家に殴り込んで命を取る雷撃戦仕掛けてる所だぞ!!」
レディンの素朴な言葉にしかし超反応して
エスカが今置かれている深刻な状況を
分かり易くこの目の前の大馬鹿に説明するしかなかった。
レディン:
「すげぇな、その状況…
相手の家には、妾が10人で、子供は24人…
流石、『ベルモンド理論』のベルモンド中将…
『確率論の問題なんだから
S級人類が子作りしまくっったら
S級人類はもっと出来るハズだ!!』かぁ…
『ベルモンドのS級人類増産理論』…
理屈だけなら分からんでもないんだがな…」
エスカ:
「理屈だけなら納得できる所が腹立たしい!!
人間性だけを無視したらその通りだしな!!
しかし我々は昆虫か何かなのか!!
『ベルモンド理論』!!」
レディン:
「友達として心の底から同情いたします…」
エスカ:
「ありがとう…」
その時、不思議なまでにその二人の間には
雷撃戦の使い手同士の力強い信頼関係と
お互いを思いやる友情が生まれたのであった。
お互いを気遣い合いながら、エスカが落ち着くまで
湯の中で泳いで二人は現実逃避を繰り返した。
エスカは正直、こんな所で、本当に何をしているんだろう?
と今の自分の状況を自分に問いかける。
そして一呼吸置いて、またしても元々の本題を思い出し
それを不意に問いかけるレディン。
レディン:
「で、結局、何しに来たのよエスカさん…
あまりにびっくり情報が次から次へと出てきたんで
思わずそっちで盛り上がってしまったが
本題の方をそろそろ聞かせてくれや…」
そう言ってこんな冒険者の巣窟に
赤帝の女提督が自分の乗艦を下りて危険に身を曝してでも
潜入視察と思われる行動をしている事を問いかけ直す。
エスカ:
「あ?
それはな、ノードノークを陥落させるための
情報収集に来たんだよ…」
そんなレディンの言葉に、先ほどの凹みから立ち直り
またしても憮然としたキャラを取り戻して
エスカはそう言い放った。
レディン:
「はぁ!?
今、なんつった!?」
レディンは、そんなエスカの意味不明な言葉を聞いて
それをもう一度聞き直す。
エスカ:
「聞こえなかったのか?
ノードノークを陥落させるための
情報収集に来たと言ったんだが…」
エスカは、やれやれとばかりに頭をかきながら
レディンの問いかけにもう一度答え返す。
レディン:
「このノードノークを陥落!?
何で!?
アンタ、ヴァーチェ宙域に緑帝と戦いに来たんじゃねーの!?
どういう理屈を経由したら、そういう話になんの!?」
レディンはエスカの言葉の意味をようやく理解して
だからこそ理解できないその内容に
両手をわきわきと握ったり開いたりするしかなかった。
エスカ:
「緑帝と戦うために戦略構想で
ノードノークを陥落させる必要があるんで
視察に来てるんだ…
目的としては理路整然としているが?」
レディン:
「いやいや、ノードノークを陥落させると
どういう流れで緑帝と戦う話になんの!?
そもそも、たかだか1艦隊で陥落させれるような
星系じゃなかろうが!!」
エスカのあまりにあっさりと答え返す言葉に
その噛み合わない2つの要素を問いかけるしかないレディン。
いや、ノードノークを落とすとなるなら
戦力不足という点では3つの要素というべきか。
エスカ:
「銀河1の宇宙冒険家も
流石に宇宙の全体戦略までは
頭が回らないと考えていいのかな?
『陥落』という言葉の捉え方が狭いのではないか?
武力で星系を火の海にする事だけが
星系陥落ではないんだぞ?」
そのレディンの言葉を受けて口をニヤリとさせながら
嫌らしそうにそう返すエスカ。
レディン:
「どういう事だよ?」
エスカの不気味な笑顔を訝しながらレディンは更に問うた。
エスカはそんなレディンの表情に人差し指をチッチッチと振って
レディンの考えている『常識の範囲』の盲に
得意な気持ちになるしかなかった。
エスカ:
「銀河最強の宇宙冒険家の虚が突けたと言う事は
これはかなり奇策になると思っていいのだろうな…
それはそれで貴重な情報収集だ…
ノードノークまで足を運んできたかいがあったと言う所か…
なーに、簡単な話だよ…
ノードノークと緑帝の貿易ルートを遮断する
それだけさ…」
そう言ってエスカは満面の笑みを浮かべた。
レディン:
「!?」
レディンは突然『貿易ルートを遮断する』という
戦略案を聞かされて、その目を見開く。
レディン:
「ノードノークと緑帝の貿易ルートの遮断!?」
あまりに突飛な言葉にレディンはオウム返しの様にそれを尋ねた。
その驚きに更に得意になるエスカ。
エスカ:
「そうだ、ノードノークと緑帝の貿易ルートの遮断。
それが私の考える『ノードノークの陥落』さ…」
言って自分の右手をヒラヒラと動かすエスカ。
レディン:
「何で貿易ルートの遮断がノードノークの陥落になる!?
そもそもどうやってノードノークと緑帝の
貿易ルートを遮断するんだ!?」
レディンはそのエスカの奇策に引き込まれ
そのよく分からない具体案を尋ねる。
エスカ:
「ノードノークは建前は自由都市なのだろう?」
レディン:
「建前じゃねぇ!
普通に自由都市だよ!!」
エスカ:
「まぁ星系民がどう思って様が、確かに自由だがな…
我々としては、その宣言を逆手に取らせて貰うわけだ…
つまり、我ら赤帝はノードノークと自由貿易を要望する!」
レディン:
「赤帝と貿易!?」
エスカの言葉の流れで
ノードノークと赤帝の間で貿易交易を開始する
というアイデアを聞かされ、流石に目を見開くレディン。
エスカ:
「自由都市なのだろう?
なら何処と貿易をしても自由なハズだ…
自由都市とは、そう言う意味なんだからな…
さて、そういうバックグラウンドがあった上でだ、
恥ずかしながら、我々の現状を自白すると
困ったことに、現在、我らが赤帝の派遣艦隊は
本土からあまりに遠く、補給線があまりに細い状況下にある。
この状況でヴァーチェ宙域を進軍するなど
現実的には、夢のまた夢だ…」
レディン:
「ふむ、まぁそれはそうだな…
そこら辺はヴァーチャ宙域の星系民全員が
エスカ提督がこの不利な状況で、どんな手腕を見せるのか
そこら辺のお手並み拝見といった所なわけだが…」
エスカの解説にレディンは率直に頷き
ヴァーチェ宙域民がみな刮目して赤帝の女提督の一挙一投に
期待と不安を抱えて注視している現状を言葉にする。
エスカ:
「そう…
問題はここだ。
我が艦隊がヴァーチェ宙域で満足に動けないのは
我が艦隊に対して本土からの補給線が
あまりに長く、非常に細いという点が全てなのだ。
しかし逆に考えれば補給線さえ拡充すれば、
やり様は幾らでもあるという事だ。
と、考えると…
あるじゃないか…
我々の近くにクラーリンからの戦利品をわんさか売っている
武装補給しまくれる丁度いい所が!」
そうエスカが説明した時に、レディンにもようやく
エスカがノードノークに自身で視察に来ている理由が理解できた。
そう、弾が無ければ、現地で買ってくるという方法論もある。
そしてそれにうってつけの場所は確かにノードノークなのだ。
レディン:
「はーーー、なるほどな!
ノードノークの貿易品で取引して
それで戦力増強しようって話か!
そりゃ盲点だな!
でも、そんな事したら緑帝が黙っていないぜ!?」
そのエスカの奇抜な案に驚いて最初は感嘆の声を上げたが
次の瞬間には最大の妨害要素を思いつくレディン。
エスカ:
「だろうな!
だが黙っていない事こそが、こっちには好都合なのさ!
むしろ我々とノードノークの貿易を
黙って黙認される方が我々は困るというモノだ!
つまり、こういう算段だ…
ノードノークと通商貿易条約を締結した後に
ランドロノア星系に貿易航路のルートを拡充し
ついでに緑帝の通商貿易を妨害する宇宙海賊もする。
すると緑帝としてはノードノークの宇宙開拓貿易に対して
その流通が滞る事になるから
クスコア星系のベルクドガに籠もってる腰抜け共も
嫌がおうでも穴蔵から出てこなければならなくなるわけだ。
そうすればランドロノアかジュリかモルトメ星系で艦隊戦だ!
あんな手に負えない古代要塞のベルグドガなんぞから
艦隊でノコノコと出てきてくれて、星系会戦に持ち込めれば、
こっちも微笑みながら雷撃戦を仕掛けれるってモンさ!」
そのレディンの言葉を待っていましたとばかりに
その流れから泥縄式的に発生する緑帝の艦隊行動と
その対抗策案を口にして、エスカは思わずウィンクする。
レディン:
「なるほど!そういう事か!
クラーリン貿易をする事で戦力を増強するついでに
緑帝の艦隊もおびき寄せると…
その為のノードノークとの通商貿易協定…
ほほーーー…
そりゃ、赤帝とノードノークが
通称貿易協定を締結してしまえば
緑帝から見ればノードノークは陥落したも同然だな…」
エスカ:
「そういう事だ…
問題は、このプランでノードノークの星系民と
赤帝が通商貿易の協定を結ぶ余地があるかどうか?
それとここと緑帝との繋がりがどれだけ太いか?
それを明らかにしないといけない…
だから私自身が潜入調査をしに来たわけだ…」
レディン:
「ふーむ…なるほどね…
そんな政治家がする様な事を
自分の足で現地視察して調査し
可能ならば個人裁量で条約締結しようとはな…
なかなか宇宙冒険家みたいな地道な努力だぜ…
俺はそういうの嫌いじゃないぜ?」
そんなエスカの戦略案を聞いて
心の底から驚いて賞賛の声を上げるレディン。
そのレディンの反応にむしろエスカの方が呆れる。
エスカ:
「緑帝の血族の癖に
こんな話を聞いて喜ぶなんざ
お前は本当に根っからの宇宙冒険家なんだな…」
そう、よくよく考えれば緑帝側の人間に
トンデモナク重要な戦略案を聞かせている事を思い出し
それに何の反感も持っていないレディンに呆れるエスカ。
レディン:
「緑帝の血の話をされてもなぁ…
俺は生まれも育ちもノードノークの
宇宙冒険家ですからなぁ…
緑帝なんざ、冒険資金を出してくれる
お金持ちのクラアントぐらいにしか思ってねーし…
それが赤帝に変わった所で、冒険の邪魔さえしてくれなきゃ
お金くれる所は何処でも良いって所でな…」
と、レディンは自分達ノードノーク民の基本的な感覚を口にする。
エスカ:
「ならどうだ?この戦略案…
ノードノーク1の宇宙冒険家のお前なら
意見を得るにはふさわしい相手なのだが…」
そんなレディンの返しに、
ならばノードノークの英雄とまで言われている人間に
その戦略の有効性と可能性を尋ねてみるエスカ。
レディン:
「ふーん、俺は政治にゃ関心は無いからなぁ…
自治政府の奴らがどう言うかは、あいつ等次第だし…
んでもって、あいつ等が何言ったって
俺達、宇宙冒険家はそんなの聞く耳持つ必要も無いしなぁ…
要はギルドを通さずに、個人貿易の販路開拓しても
それで事足りるって事だろ?
それなら、アンタがそう呼びかけるだけで
個人的に商談持って行く奴等はゴロゴロ出てくると思うぜ?」
エスカのその問いにレディンは自分が賛成しようが反対しようが
『ノードノーク民的なノリ』を前にして
エスカがそうすれば、起きるであろう事を口にしてみた。
その答えに思わず閉口するエスカ。
エスカ:
「本当にいい加減なんだな…宇宙冒険家ってのは…
というかノードノーク星系民というべきか…」
レディン:
「自由を求める自由民から
自由を奪ったら何も残らんからな…」
エスカ:
「なるほどな…」
レディンのその返しに自分の矜持のフレーズを被せられ
思わず苦笑してしまうエスカ。
なるほど、この土地柄で最も重要なのは『自由』らしい。
それはそれで羨ましいモノだと少しだけ思うエスカ。
レディン:
「ただまぁ…
俺もそこそこノードノークじゃ発言力のある方だしな…
なら、こういうのはどうだ?
アンタが俺を満足させてくれたら
俺が上の奴らに口を利いてやるってのは?」
エスカ:
「お前を満足?
なんだ?嫁か妾にでもなれっていうのか?
ヴァーユくれたら考えてやるぞ」
レディン:
「その発想から離れろ!!
精神鋼鉄の仕事中毒者が…
そんな従妹の許嫁から鉄拳制裁食らうような要望じゃねーよ!
俺と酒でも飲んで、ちょっとこの宇宙の謎を語り合って
ついでにクラーリンの雑魚を倒しに
一緒に宇宙冒険に付き合ってくれるんなら
考えてやってもいいって、そんな所だ」
エスカ:
「ああん?
お前と談話して宇宙冒険しろってか?」
レディン:
「ダメか?」
レディンに要求されたので何事かと思い聞けば
物凄く簡単な事をすれば、
ノードノークの上層部に口利きをしてやるという話らしい。
それには思わず飛びつきたくなるエスカだったが
しかし、それに対して深い懸念もあった。
エスカ:
「しかしなぁ…
テクアルコアツを長い間、空けっぱなしにしてると
オロードだけじゃ対処できないんだよな…
オスロの要塞にドッキングさせてるから
それなりの宇宙要塞として動きはするが
マスターの私が居なければ、オロードの能力も全力で出せんしな…
今の所、概算で緑帝とは3ヶ月は睨み合いでいけるかって
ギリギリの所でな…
だからオスロを空けるのには、長くても2ヶ月が限度なんだ…」
レディン:
「ふむ…2ヶ月か…
いや、そんだけありゃ十分だろ?
俺も、アンタに大怪我負わされてるしな…
この傷でクラーリンの准将居るような所で遊ぶ気にはなれん…
近場で、クラーリンの少佐級の所行って
戦利品狩りするってのはどうよ?
せいぜい長引いても、1ヶ月はかからんと思うが…」
そんなエスカの苦しい台所事情に
レディン自身も自分の深手の傷の事を思って
妥当な案を提案してみる。
その案は時間的には無理ではない案だった。
だが、更に渋る問題が残った。
エスカ:
「私はシュルトワルゼなんか持ってきてないぞ…
どうやってクラーリンと戦えっていうんだ?」
宇宙冒険でクラーリンと戦って戦利品というのは
ただそれだけで魅力的な話だったが
いかんせん、今は潜入調査なので
エスカは自分の乗艦のシュルトワルゼ・オロードを
ノードノークには持ち込んでいないのだった。
戦艦が無いのにクラーリン戦艦と戦うとかいうのは
流石に夢物語である。
レディン:
「俺、腕が今、こんななんだけど?
だから、アンタにヴァーユを貸すって感じで
考えてるんだけど…」
そんなエスカの逡巡にレディンは現実的な今の状況で
満足に戦闘できるのが誰なのかを指摘して
最も妥当な方法を口にした。
エスカ:
「え!?
この船、使わせてくれるの!?」
レディン:
「ま、貸与系だけどな…」
エスカ:
「なら行く!!絶対に行く!!!
こんなインチキ戦艦、
クラーリンとの戦闘でその性能を全部、暴いてやる!!」
エスカはレディンが貸与とは言え
古代戦艦では最強艦種を使わせてくれると聞いて
それだけで2つ返事になった。
こんなおかしな船、赤帝でも筆頭御三家の皇帝族所有艦を
引き合いに出さなければ、対比も出来ないのである。
そして皇帝族所有艦に乗る等、船乗りとしては夢のまた夢なのだ。
ならば、これだけの提案で首が縦に振れなければ、
提督という職務適正にかなりの問題があると言えるだろう。
レディン:
「アンタ、本当に仕事中毒だなぁ…」
そんな良い船を使えるという話だけで
二つ返事で満面の笑みになるエスカに
レディンは呆れかえるしかなかった。
前書きで書いた事は、そうだとは思うのですが、
今回の話の中での展開で、次までの流れの説明の様に
クラーリンと戦うまでが、ノードノーク編なので
それが終わるまでは本編は動かせないかなぁ…と…
ともかく、語りモードが長くなると思うんで
そこら辺、しんどいかなぁと…
ここさえ越えれば、いっきに下準備は完了なんですがねぇ…




