表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第七話 語らい(Ⅰ)

ふーん、ここのエスカとレディンの語り合いのパートは

多分、かなり長いんで恐らく3分割での展開になると思います。

と、同時に、重要な背景設定の提示シーンでもあるんで

ここを突破できれば、本編の方を少し進めても良くなるんだがなぁと

エスカはエドランの近くに待機していた

レディンの乗艦『ヴァーユ・イルスキュルト』

の中に拉致されていた。

ブリッジの様な場所…

-イルスキュルトが艦の管制を100%掌握してるので

ブリッジと言っても、ただのだだっ広い空間ではあったが-

そこで変装を解いて元の肉体に戻ったエスカは

仁王立ちになって船に拉致ったレディンを睨んでいた。


エスカ:

「赤帝の提督を乗艦に強引に拉致するとは

 これは国際問題だぞ…

 幾らノードノークが自由都市だとはいえ

 赤帝の派遣提督を誘拐となれば

 赤帝の本土艦隊がノードノークに攻める事も

 可能性がゼロでは無くなるが

 それは熟慮の上での行動か?」


そう腰に手を当てて詰問するエスカ。


レディン:

「ああ?誘拐だぁぁ?

 緑帝の諜報員からわざわざ保護してやった恩人に

 その言いぐさはどうよ?」


エスカの言葉に脱力し

レディンは冷や汗を手で拭いながらそう返す。


エスカ:

「緑帝の諜報員?

 そんな奴ら何処に居た!?」


その反論を耳にしてエスカは驚いて

レディンの言葉を尋ね返した。


レディン:

「あんたの持ってる検出器じゃ感知できかったんだろうが

 あっこの酒場にゃゴロゴロ居たんだよ…

 緑帝の諜報員が…

 そいつ等がお前さんの異質な空間歪みに気付いて

 滅茶苦茶動揺してたとか

 分かってなかっただろう?」


呆れてレディンはそう返す。


エスカ:

「馬鹿な…

 オロードは連れてこれなかったが

 それでも擬装用の高価な複素結晶で身を固めていたんだ!

 諜報部が使ってるのをかっぱらって擬態してたのに

 それでバレてたなんて!!」


そんなレディンの言葉にエスカは憤慨するしかなかった。


レディン:

「それがバレちゃうんだよナァ…

 緑帝の奴らにはな…

 木を隠すなら森の中って言うだろう?

 森の性質を司る緑帝は、隠密、遮蔽、感知、治癒

 それらの技術が特化の色帝だ。

 他の色帝の技術では感知できない空間圧も

 あいつ等の技術では狭い空間でなら簡単に見分けられる…

 アンタはS級人類の空間圧を

 その装備で遮蔽できてるつもりなんだろうが、

 緑帝の検知器なら不思議なノイズを検出してたハズだ。

 ノードノークにゃ、そりゃS級人類だってゴロゴロしてるが

 あんな初級冒険者が集まるギルドに

 無警戒に出入りするS級人類なんか普通はいねぇよ…

 そこにいきなりS級人類の空間圧持ちが現れれば

 普通に何者だって警戒するだろ?」


言ってレディンは自分の顔を手で仰ぐ仕草をする。


エスカ:

「じゃ何でお前はあそこに居たんだ…

 お前だってS級人類だろう?」


その聞けば納得できそうな説明に

しかし全く合致しないレディンの行動には納得できず

エスカはそれを尋ねた。


レディン:

「言ったろう?あそこのマスターとは顔なじみだって…

 子供の頃からの古なじみなんだよ、

 本当にあっこのマスターとは…

 それに俺の持ってる偽装技術は

 緑帝の検出器も欺ける力があるからな…

 アンタみたいに、S級人類の空間圧、漏れ漏れにしてる

 そんな偽装じゃねぇから問題ねぇのさ…」


そう言いレディンはハァと溜息をついた。


エスカ:

「ほぉ…

 真性の緑色帝国皇帝陛下は言うことが違うな…」


そこでエスカは重要な事を思い出し

色々な意味で戦略的な一言をレディンに投げつけてみた。


レディン:

「うぐ!?

 な、ナンノコトデスカ、

 ボクニハ、サッパリワカラナイナー」


エスカの鋭い口撃に白々しい物言いをしては

レディンは目を剃らして質問を惚けようとする。


エスカ:

「緑のエンペリオオン持ってるような奴が…

 それもそれを発動できる様な奴が

 緑色帝国皇帝陛下ではないと?」


そんないい加減なはぐらかしに

エスカは更に怖い顔をして踏み込んだ。


レディン:

「ちっ、やっぱりエンペリオンだってバレってんのか…

 まぁそりゃそうでしょうけどな…

 あーーー、でも、一つ言っとくけど、

 俺は緑帝とは本当に個人的な関係はないからな!

 俺は正真正銘、ノードノーク出身の宇宙冒険家!

 生まれも育ちもノードノーク!

 緑帝との関係といえば、

 冒険者ギルドに売っぱらったクラーリンの戦利品が

 ギルドの流通経路で貿易品として

 緑帝に流れたかどうかって程度さ…

 直接は取引さえしてねーよ…

 つか、今は緑帝から懸賞金かけられてる賞金首なんだから、

 緑帝の諜報員は、俺の所在探査も仕事でしてるって状態だ。

 だから、あんな初心者のバーでも見張りがいるって事だしな…」


そう言ってレディンはエスカの問いかけに答える。


エスカ:

「ほぉ…

 という事は、先祖が緑帝の皇帝親族で

 バックレ皇帝一族の末裔って所か?」


レディンのその言葉を受けて

エスカはアルシオンと一緒に仮定した

レディンの生い立ちを直接本人に問い詰めてみた。


レディン:

「ほほう

 もうそこまで、赤帝に分析されてんのね…俺って…

 まぁそんな事、今更隠してもしゃーねーし

 つまり、そういうこった…

 俺のバーさんが、緑帝のフェリアル家の姫様でな…

 お前さん所のナストア帝が大暴れしてた頃に

 宇宙冒険家やってた俺の爺さんに恋して駆け落ちしたって…

 俺の覚醒遺伝って、そんな流れらしいよ?」


エスカ:

「は!?

 フェリアル家の姫が宇宙冒険家と駆け落ち!?

 そんな馬鹿なっ!!!」


そのレディンの告白に瞬時に頭が白くなるエスカ。

緑帝のフェリアル家といえば、

緑帝筆頭皇族4家の中の巫女系筆頭の一族である。

つまりガメットの巫女になる血筋のど真ん中。

赤帝で言えばエスカのオルフェニウス公国

エスカの愛するメリシア大公姫が120年前に

宇宙冒険家と駆け落ちしたという様な感じであった。


そんな事が明るみになったら緑帝の皇族への信頼は

連邦全土でガタ落ちになる程の大スキャンダルである。

エスカはその情報に驚愕するしかなかった。


レディン:

「んな事言ったって、

 そうなっちゃったモンはしゃねーだろ!?

 人の恋路はS級人類でも阻止できないってのは

 有名な諺だぜ?

 俺のバーさんは愛に生きたんだよ…

 でも、そういうのは俺は嫌いじゃないけどな!」


言って乾いた笑いを浮かべるレディン。


エスカ:

「まぁ駆け落ち皇族とかは

 子だくさんになって家督を継げない皇家子弟では

 無い話ではないし

 バックレ皇族が逃げる先なんざ

 宇宙冒険家と相場は決まってはいるが…

 それでもエンペリオンと

 ヒルリ・ベリアを持ち逃げなんかするか!?」


そこでエスカは更に一歩踏み込む。


レディン:

「おい、イルスキュルト…

 ヒルリ・ベリアだってのもバレてんぞ、おい…」


イルスキュルト:

「光栄ですね…ベリアと勘違いされるというのは

 悪くない誤解です…」


そのエスカの言葉を聞いた時

レディンは相棒にそう言って二人で苦そうに笑い出した。


エスカ:

「?」


その笑いが分からずにキョトンとするエスカ。


レディン:

「こいつはヒルリ・ベリアじゃないぜ?

 まぁそうでない訳でもないが…

 本体の方じゃねぇな…」


そんなエスカの表情にレディンは

その笑いのヒントを提供してみた。

その言葉で、またハッとなるエスカ。


エスカ:

「つまり…

 アルシオン陛下の予想ドンピシャか…

 ヒルリ・ベリアは分離型戦闘艦で

 分離部分の一部がヴァーユ・イルスキュルトだと…」


エスカはアルシオンが仮定した仮説を

言葉の駆け引きをする事もなく直球で投げつけてみた。


レディン:

「あれれ…そういう予想をされたのは

 アルシオン陛下様ですか…

 あー、そりゃそりゃ、流石、洞察力の高い大帝様で…

 ま、大当たりですよ…

 こいつはヒルリ・ベリアの分離できる3体のうちの1つ、

 ヴァーユ・イルスキュルト。

 本体がヒルリ・ベリアと呼ばれて

 分離体が、

 ヴァーユ・イルスキュルト

 ネルヴァ・サリスキュルト

 って言うそうな…

 ま、俺もコイツから聞いただけなんで

 本体のヒルリ・ベリアが、どんなんかは知らんのだがな…」


そう告白して楽しそうにケタケタと笑うレディン。


エスカ:

「ふーむ…

 それが聞けただけもノードノークに

 わざわざ足を運んだだけの事はあったと言う所だな…

 お前が緑帝と深く繋がっているかどうかで

 ヴァーチェ宙域制圧戦は

 構想を根本から変えないといかんからな…

 血縁関係はあれども

 お前は緑帝側というわけではないのだな?」


エスカは非常に興味深い情報が

向こう側からやって来た事に味を占めて

この際なので、押さえておけば未来がクリアになる情報を

全面開示させようと言葉を続けた。


レディン:

「血縁関係とか言い出したら

 ルーク家の1000年前の大元は

 青帝のバックレ皇族だぞ?

 それにルーク家は代々、宇宙冒険家やってるから

 血筋の中に、赤帝だ黄帝だ水帝だとかの流れが

 ぐちゃぐちゃに入ってるからナー

 何処の色帝の血が本流とか言われると

 それだけで、どれだろう状態だぜ…」


エスカの欲する情報に対して

それを隠す様子も見せずにベラベラと血筋を語るレディン。

そんな事は隠していたからといってどうこうなるモノでもなし

宇宙冒険家にとっては『普通の話』なので

レディンは軽くそう伝えたのであった。


エスカ:

「オイオイ、緑帝だけじゃなく

 青帝の帝族血まで持ってるのかよ…お前は…

 全部の色を混ぜて、

 真っ黒の黒帝ですとでも言うんじゃなかろうな?

 絵の具じゃあるまいし…」


そんなレディンの情報開示に眩暈を覚えるエスカ。

確かに宇宙冒険家とは六色帝国戦争に嫌気がさした

皇族や貴族が逃げ込む先の代表格ではあるが

自国から離れようとすればするほど、

各色の混血は重なるというわけで

それを1000年も続ければ全色の血統が混ざって

黒色にでもなるのかと思ってしまう。


レディン:

「そういう言われ方をすれば

 宇宙冒険家なんざ、みんな大なり小なり

 六色帝国貴族か皇族の混血ばっかりなんだから

 黒帝一族って事になるのかもな…」


エスカ:

「いい加減な…」


エスカの物言いにウケて笑いながらそう返すレディン。

その返しに目を細めるエスカ。


レディン:

「宇宙冒険家がいい加減じゃなきゃ

 銀河の誰がいい加減になればいいんだよ?」


エスカ:

「物凄い台詞だが…

 しかし…言い得て妙だな…」


その不遜な言葉の塊にしかし

妙な納得と笑いを覚えたエスカ。

そしてそこで二人は僅かな間、

ハハハハと乾いた笑いを続けたのだった。



レディン:

「まぁ俺の素性晴らしはこんぐらいでいいだろ?

 で、お前さんは何しに来たんだ?

 なんとなくその場のノリで

 緑帝の諜報員から助けたけどよ…」


その軽い会話の応酬の後、レディンは本題を思い出し

赤帝の提督様が何を血迷ってノードノークなどに

自分の本体で乗り込んで来ているのかを問いかけた。


エスカ:

「そう言えば、お前、

 何で私を緑帝から助けてくれたんだ?

 血縁がグチャグチャだとはいえ

 今、血が濃く発症してんのは緑帝血だろう?

 だったら緑帝側に付いても良かったろうに…」


その質問に逆にレディンの言葉が正しければ

緑帝から保護してくれた事の不思議さを尋ね返すエスカ。


レディン:

「え?何で緑帝の奴らなんかに

 俺が協力しないといけないんだ?

 俺達、友達だろう?

 友達だったら、他人より友達助けるのが筋じゃん…」


その問いかけに首を捻りながら答え返すレディン。


エスカ:

「はぁん!?

 何時、私とお前が友達になった!!」


レディンがさらっと爆弾発言を混ぜて言葉を返した事に

それに見事に引火して爆弾を爆発させ激高するエスカ。


レディン:

「え!?

 雷撃戦でお互いの実力を認めた者同士は

 友達になるのが常識だろ!?」


エスカ:

「何処の常識だよそれは!!」


レディン:

「宇宙冒険家は、だいたいそうですけれど…」


エスカ:

「聞いた事がねぇよ!!」


レディンの何を聞いているんだと言わんばかりの

『宇宙冒険家の常識』を口にされて

色帝の提督という重責と大名誉職にいる自分も忘れ

口汚く悪態をつくエスカ。


レディン:

「いや、でも宇宙冒険家って、そんなモンよ?

 あの酒場での決闘の後でも、みんなそうだったろ?

 雷撃戦で互いを認め合った奴等は

 その場でみんな仲間ってモンなんだよ…

 宇宙冒険家って…」


そのエスカの言葉に、ほんの数刻前の事を引き合いに出して

宇宙冒険家の性情を語るレディン。


エスカ:

「ああもう!!

 宇宙冒険家ってのはこれだから!!」


そんなレディンの解説に

エスカは宇宙冒険家のあまりの奔放な性情そのものに

床を蹴りつけて悪態をつくしかなかった。


イルスキュルト:

「あのー、お話中、申し訳ないんですが

 緑帝の哨戒艦隊が、ここら辺うろついてるんですよね…

 さっきのマスターの件で…

 潜宙して身を隠してる今の状態、

 内部エネルギーを大量に食い過ぎるんで

 ちょっと、2星系ぐらいスターゲートで跳躍して

 落ち着いた場所で会話して貰えませんかねぇ?」


その時、レディンの乗艦ヴァーユが周囲の状況を索敵し

ノードノークに潜伏して諜報活動している

緑帝の哨戒艦隊の活発な動きを探知して

彼的な最善策を二人に上申してきた。


レディン:

「おーーそうかーー

 じゃぁ、楽に潜伏するために

 アーリ星系通って、トルス星系にでも移動すっか…」


イルスキュルト:

「了解しました」


エスカ:

「ちょっと待て!!

 ノードノーク離れるのかよ!!」


レディン:

「離れなきゃ、面倒なんだよ!今の状況!!」



その様な会話の流れでレディン達は

ヴァーユの移動するままにノードノークからその奥

宇宙冒険家が開拓している銀河深淵への開拓路に

逃げ込むように移動し始めたのだった。







レディン:

「良い湯だなぁ~~ハハハン~~~」


レディンは温泉につかって鼻歌を歌っていた。


エスカ:

「良い湯だなじゃねぇよっオイ!!

 ノードノークから更に奥深くに赤帝の提督拉致して

 何を呑気に温泉入ってるんだよお前!!」


そう温泉の中で激高しながら

エスカは相変わらずの仁王立ちでレディンを睨んでいた。

ただし温泉に入れるように水着姿で、であった。


レディン:

「しっかり温泉に入ってて

 そうも激高されると対応にも困るのだが…」


そんなエスカの反応に細い目になるレディン。


エスカ:

「まぁ風呂に入りたい気分であったのは確かで

 ヴァーユの中に、こんな豪華な温泉が在ったら

 ちょっとは御相伴させて貰おうかぐらいの気分にはなるさ!

 なんせこんな宇宙僻地に拉致られてるんだからな!」


と言って、ヴァーユの別室に作られていた

豪華で広い温泉にザブンとつかるエスカ。

自分でも不思議だったのだが

この温泉には何故か入りたくなる

不思議な魅力があったのだった。


レディン:

「拉致ったつもりはないが

 拉致ったって事なら、拉致でもいいや…

 友達になった宇宙冒険家は、

 相手の都合も考えずにひっ捕まえて

 宇宙冒険に行くことも良くあるのだ…」


そう言ってレディンは温泉の湯を自分の両腕に

練り込み始める。


エスカ:

「だから私はお前の友達になった覚えなど…」


と当たり前の文句をまた言おうとした時だった。

エスカの目の前で信じられない光景が起きていた。


レディン:

「ああ、この温泉は相変わらず大怪我に良く効くわ~」


言ってレディンが両腕に湯をじゃぶじゃぶかけていると

レディンの腕にあったエスカが付けたミージュの傷が

どんどん回復しているのがエスカの空間歪み測定で

観測できたのであった。


エスカ:

「ちょっと待て!!

 それは何だ!!おいっ!!」


エスカは9階まで複素結晶を切り裂いたレディンの腕の傷が

その湯が浸透する度に猛烈に回復していくのを見て

愕然と成るしかなかった。


レディン:

「いや、何だと言われても…

 湯治でありますが…」


エスカの問いに素朴に返して

同時に丹念に腕に湯を練り込むレディン。


エスカ:

「この湯…複素結晶回復液なのか!!

 それも9階複素を直す湯だと!?」


そう叫んで、エスカ自身、

自分の体の状況を空間歪み測定で検知していった。

自己の体内複素結晶が、湯の浸透の度に活性化しており

今まで酷使して、それなりに痛んでいた体の全て

その内部の複素結晶の損耗が

急激に回復しているのを感じれたのだった。


レディン:

「ふははははは…

 この船、ヴァーユ・イルスキュルトは

 緑帝のヒルリ・ベリアの一部でありますよ?

 そして緑帝の技術の象徴は『森』

 森から派生される技術特性は『生命』と『治癒』

 機動皇帝旗艦ともなれば、

 その一部であってもS級人類をフル回復させる回復温泉が

 あったりするんですねぇ~~~」


そう言って、レディンは嫌らしい笑みを浮かべては

自分の両腕に湯を塗り塗りする。


エスカ:

「9階以上の複素結晶さえ回復させる

 回復温泉だと!!!」


レディンの言葉に衝撃を受け、反射的にエスカは

自分のレディンに切り裂かれた腕の切断面に

その湯をネリネリと練り込んだ。

すると腕の切断面の所に帯状に空白地帯化していた

6階以下までの複素結晶が

周囲情報を元に種結晶を生み出して

どんどんと生まれては結晶成長していくのだった。


エスカ:

「6階複素結晶が、こんな速度で治ってる!!」


エスカはその光景に絶句した。

肉体内にある複素結晶を損傷した場合

全体情報から再生治療をする事はできるが

そんな6階等という高階複素結晶では

治癒までに1年は優にかかるのが普通である。

それも定期的に治療用のカプセルに入ってだ。


9階等の、より複雑なモノは失っての再生など

思考天体にある高度救急回復装置にでも入らなければ

そうは簡単に再生できるモノではない難治の大怪我である。


だからこそミージェで切り裂いたときには

確信して『勝った』と誰しもが思えたモノなのだが…。


エスカ:

「あの戦闘時に9階の複素を切り裂かれたのに

 その致命的なダメージに衝撃を受る風でもなく

 また普通なら修復不能に近い傷を負ったのに

 飄々とテレビ放送に出ていたのにも呆れもしたが

 こんなトンでもない隠し球を持っていたとはな…

 ど~りで致命的な大怪我してるハズなのに

 それでも、何時かはアルシオン帝に挑む等という

 意味不明で剛気な放送をするわけだ…」


そう言ってエスカは改めて目の前の

インチキ宇宙冒険家に閉口するしかなかった。


レディン:

「ま、バレてしまっては仕方ない…

 つっても、そこまで隠す気もないけどな…

 この艦の素性の問題があるんで

 クラーリンから奪取したインチキ戦利品の1つって所で 

 誤魔化しているし

 それは半分は嘘でもないしな…

 このヴァーユ・イルスキュルトは

 ヒルリ・ベリアから分離した時のオリジナル状態から

 俺が…

 っていうか俺達の一族がクラーリンと戦って得た戦利品を

 あちこちに追加パーツでぶち込んで改造してる改造艦なんで、

 回復温泉の能力もクラーリンパーツで

 能力がブーストされてるんだ…

 んでもって、雷撃戦で手傷を負わせてしまったんで

 その謝罪に同じ湯で湯治して貰いましょうかいな…とね…」


と言ってワハハハハとレディンは笑う。

その言葉にエスカはワナワナと肩を震わせた。


そしてあまりの興奮にエスカはその場からザバァっと

レディンに飛びかかる。


エスカ:

「レディンさん!私と結婚して!!

 うん、そうしよう!!

 そうするべき!!!

 それでヴァーユ・イルスキュルトは

 赤帝の所属艦にしようじゃないかっ!!」


そう叫んでエスカはレディンに抱きついた。


レディン:

「アンタ、いきなり何言い出してるんですかっ!!」


その突然の告白に、

今まではおちょくって楽しんでいたレディンが

逆に見事に一本取られて慌て出す。


エスカ:

「結婚が嫌なら、それでも構わんぞ!!

 つーか私もお前なんかと結婚なんぞ願い下げだからな!!

 でも、ヴァーユは私に下さい!!」


エスカは笑いながらレディンに全力で抱きついて

非常にはしたないお強請りをした。


レディン:

「アホか!!

 ヴァーユなんか一番やれんわ!!

 それも赤帝にだと!!

 アンタ、無茶苦茶言うな!!!」


エスカ:

「無茶苦茶で結構っ!!

 こんなトンでもねー艦があって、

 それが私の所有物になるんなら

 どんな奴でも伴侶にして、手に入れるわ!!」


レディン:

「無茶苦茶でんがな!!」


エスカ:

「無茶苦茶なのは、お前のこの船だ!!

 なんだオロードも感知できない潜行技術だ

 9階の複素結晶を治す温泉湯だ、とか!!

 こんな無茶苦茶な船があったら、

 誰だって無茶苦茶になる!!」


レディンの大慌てな形相に

無理くりであろうとも今の自分の行動の

『理性的な』説明をしては不条理な事を続けるエスカ。

それには流石のレディンも暴れて喚くしかなかった。


レディン:

「なるほど!

 それは正論だな!!

 だが、あんた俺の事、嫌いって言ってなかったっけ!?」


エスカ:

「ええ、そうですよ!

 多分、銀河で2番目に嫌いな奴がお前だよ!!

 女の戦艦にアポ無しで乗り込んできて

 容赦なく腕を切り裂く様な奴の

 何処を好きになれるって言うんだ!!」


レディン:

「そんな嫌いな奴に、抱きついてでも

 あまつさえ無理矢理、結婚してでも、

 この艦欲しいのかよ!!」


エスカ:

「欲しいに決まってるだろ!!!

 この船在ったら、アルシオン陛下の銀河深淵突撃も

 後顧の憂いなく、やれるではないか!!

 なら、欲しい!!

 とても欲しい!!

 是非欲しい!!

 欲しいんで合法的に手に入れよう!!

 結婚までしたなら、嫁にも所有権利は半分ですよね!!

 ほらもう、この私のような超美人が

 嫁になるおまけで付いてくる優良物件!!

 だからさぁ君も、赤帝に入って銀河深淵を目指そう!!」


レディン:

「何処の怪しい宗教勧誘だよ!それはっ!!!

 結局アンタの渇望はこの船の能力だろ!!

 愛の欠片もねー、自分のその発言に

 何か思うところは無いのか!!

 赤帝の大提督様よ!!!」


エスカ:

「愛が欲しいなら、愛もなんとか努力してやるぞ!!

 問題ない、大丈夫だ!!」


温泉のお湯をジャバジャバ周囲に溢れさせながら

レディンにしがみついて無理難題を要求するエスカ。

銀河一の冒険家も、流石にその素っ頓狂な発言に驚愕し

大騒ぎ大暴れと同時にマシンガントークをエスカと応酬し合った。


レディン:

「アンタ、俺の事、大嫌いですよね!!」


エスカ:

「ええ、銀河で2番目に大嫌いですよ!!」


レディン:

「アンタ、銀河で2番目に大嫌いな奴の所にでも

 嫁に来れるほど、神経、恒星直系並にぶっといの!?

 それはそれで、別の意味で尊敬しちゃうよ!!」


エスカ:

「大丈夫!!銀河で一番嫌いな奴に比べたら

 アンタなんか遙かにマシで

 嫁に行く気になれる人材だから!!

 アレの嫁になったら

 ヴァーユ手に手に入るとか言われたら

 流石に全力でお断りするけど

 お前程度なら、まだセーフだ!!!

 大丈夫!!問題ないっ!!」


レディン:

「ちょっと、その比較はそれはそれで凄いな!!

 アンタが銀河で一番嫌いな奴って、どんな奴やねん!!

 ヴァーユを引き替えにしても全力でお断りとか!!」


そこでエスカがとんでもない事を言い出し

流石にそれはどんな奴なんだと、抵抗するのも辞めて

エスカが銀河で一番嫌いな男に興味が沸いて

それをレディンは尋ねた。


エスカ:

「君は、オーラクルム皇国の

 ベルモンドという人物を知っているかね!!」


レディン:

「はぁ?オーラクルム皇国のベルモンド?

 それってもしかして

 あの『ベルモンド理論』のベルモンドさん!?」


レディンは、エスカが

こんなヴァーチェ宙域にさえ『その名』が轟いている、

ある一種、エスカよりも超有名な

オーラクルム皇国の提督の名前を口にしたので

確認の為に強くそれを尋ねた。


エスカ:

「おお、そうか! 知っているかね!!

 あの糞の『ベルモンド理論』を振りまく

 糞中の糞男の事を!!

 そう!

 あの糞ったれな『ベルモンド理論』を体現している

 オーラクルムのベルモンドさん!!

 そいつが、私が銀河で一番嫌いな男なんだよ!!」


レディン:

「ほう!貴方が銀河で一番嫌いな男は

 あの『ベルモンド理論』のベルモンドさんか!

 それは、貴方が女性なら、分からんでもないな!」


レディンはエスカが銀河で一番嫌いで

ヴァーユと天秤にかけても

お断りであると言った人物を理解して、それなりに納得はできた。

まぁ『ベルモンド理論』に納得できない女性なら

全力で拒否するのは当然だろう。

それでも、ここまで毛嫌いするのにはまだ違和感もあった。

その違和感は、次のエスカの言葉が瞬時に氷解させる。


エスカ:

「分かるだろう!!

 常識的で冷静な判断力があったなら!!

 だがしかし!!

 困ったことに、更に悪い話があってだな!!

 あの糞が、対外的には私の許嫁という事になっているんだよね!

 赤帝の社交界の中ではな!!

 あはははは!!!!

 もう笑ってしまうしかねーな!これは!!

 あはははははは!!!!」


レディン:

「はぁぁぁぁ!?

 あれがアンタの婚約者なの!?」


そんなエスカのとんでもない情報提供にレディンも騒然となった。

『ベルモント理論』の体現者本人と

この紅の雷光様が、赤帝では許嫁の関係等というのである。

それは常識的に考えれば、絶対に有り得ない組み合わせだった。

だから、今まで幾多の脅威を越えてきたレディンでさえ

その事実に驚いたのであった。


エスカ:

「そうなんだな!!!

 とても残念な事に、

 これは親族が勝手に決めた縁談でね!!

 一応、あの糞が私の婚約者という事になっているんだよ!!

 オーラクルムとオルフェニウスの強い同盟関係を

 より強固にする為とか、云々でな!!

 それは私には吐き気がするような思いだが!!

 だから、あんな糞の嫁になるくらいなら

 お前の様な屑と、結婚する方が遙かにマシなんだっ!!

 分かったかね!レディン・ルーク!!」


そう言って笑いながらエスカは涙目になっていた。


レディン:

「なんか俺個人は屑とか

 滅茶苦茶ディスられてる気がするんですけど

 ちょっと、あの『ベルモンド』さんが比較対象だと

 心の底から納得できるこの状況が辛い!!

 とにかく離せ!!!

 赤帝の女提督!!

 色んな意味で恥を知れ!恥を!!

 流石にここは色帝国軍人の威厳在る行動を望む!!」


エスカ:

「自分達はスーパーフリーダムに生きてる癖に

 いざ面倒事になったら相手に色帝の矜持を要求するとは

 器の小さい男だな!!!」


そんな押し問答の後で、レディンは何とか

エスカの抱きつき攻撃を振り払って

互いに話が出来る距離まで仕切り直した。

そして凄く申し訳なさそうな顔になって

頭を下げるレディン。


レディン:

「いやすいません…

 その何と言っていいのか…

 あの『ベルモンド』さんが、その…貴殿の許嫁とは…

 どんな慰めの言葉を贈って良いモノやら…」


エスカ:

「いや、なんていうか、そのな…

 マジで結婚してくれねぇ?

 あの糞と結婚しなくて良くなる為だけに…

 いや、マジで、本当に…」


そんな少し落ち着いた状況になって

レディンに真心で優しい言葉をかけられると

如何に自分がトンデモナイ奴と許嫁関係なのかを理解して

ホロホロと涙を零し始めるエスカ。

そんな赤帝で畏怖をまき散らす女提督の

信じられない弱腰な姿を見て、

色んな意味でいたたまれなくなるレディン。


レディン:

「いや、まぁ…

 あの人の『ベルモンド理論』は、さぁ…

 男としては立派だなぁと思う時もあるよ、うん…

 真似したいとも思わないし

 真似できるとも思えないけれど…」


エスカ:

「『ベルモンド理論』だけは否定しろ!!

 マジで!後生だから!!!」


そんなレディンのちょっとした言葉に

しかしエスカは激高して湯船から立ち上がって

周囲に湯をまき散らす。


レディン:

「どうどうどう!!

 落ち着け!紅の雷光様!!

 まぁ、友達に泣かれてまでお願いされたら、うん…

 別に『ベルモンド理論』を否定しても良いけどさ…」


その激高したエスカに優しい言葉で諫めるレディン。


エスカ:

「お前と友達になった覚えなど全くないが!!

 『ベルモンド理論』を否定してくれたら

 今日から貴方は私の友達でいい!!

 友達でも嫁でも何でもなってやるんで

 後生なんで、『ベルモンド理論』は否定して!!」


レディン:

「いや、俺も一応、許嫁居るし…

 そっちみたいに全力でお断りの相手じゃなくて

 まぁそのうち結婚するかいなって感じの

 幼馴染みで従妹な双方合意の相手がなぁ…

 だから、アンタを嫁に貰ってやる事は出来んが

 友達になるのは、もうそのつもりなんで

 『ベルモンド理論』を否定してやるんで

 友達って事にしようぜ?」


エスカ:

「何だよ!!

 お前みたいな屑にも

 嫁に来るような奇特な女が居るの!?」


そのレディンの脅威的な情報に

やっぱり湯をまき散らして立ち上がるエスカ。


レディン:

「今さっき、嫁に貰ってくれとか叫んでいた人が

 言うことか!!その台詞!!!」


エスカ:

「お前の様な屑でも

 『ベルモンド理論』と比較すればマシという話だ!」


レディン:

「あーーそうですか…

 アンタにゃ、とことん嫌われてるな…

 ベルモンド中将…」


屑だ何だと言いながら、それでもアレから逃げれるなら

嫁に貰ってくれとかいう意味不明な事を仰る赤帝の女提督に、

流石に眩暈を覚えるレディン。


エスカ:

「当たり前だろう!!!

 私はまだ輿入れさえしてないのに

 ベルモンド家にゃ

 妾が10人で子供が24人も居るような状況だぞ!!

 おい!!!

 どういう状況なんだこれは!!

 なのにあの糞から

 『正妻の座は、ずっと空けてあるから

  早く嫁ぎに来てよエスカちゃん

  10人の嫁達と24人の子供達もみんな待ってるから!』

 とか、この前メールが来やがったよ!!

 どういう神経してたら、そんな手紙出せるんだよ、おい!!

 オーラクルムの公爵家の人間じゃなかったら

 そのまま家に殴り込んで命を取る雷撃戦仕掛けてる所だぞ!!」


レディンの素朴な言葉にしかし超反応して

エスカが今置かれている深刻な状況を

分かり易くこの目の前の大馬鹿に説明するしかなかった。


レディン:

「すげぇな、その状況…

 相手の家には、妾が10人で、子供は24人…

 流石、『ベルモンド理論』のベルモンド中将…

 『確率論の問題なんだから

  S級人類が子作りしまくっったら

  S級人類はもっと出来るハズだ!!』かぁ…

 『ベルモンドのS級人類増産理論』…

 理屈だけなら分からんでもないんだがな…」


エスカ:

「理屈だけなら納得できる所が腹立たしい!!

 人間性だけを無視したらその通りだしな!!

 しかし我々は昆虫か何かなのか!!

 『ベルモンド理論』!!」


レディン:

「友達として心の底から同情いたします…」


エスカ:

「ありがとう…」


その時、不思議なまでにその二人の間には

雷撃戦の使い手同士の力強い信頼関係と

お互いを思いやる友情が生まれたのであった。


お互いを気遣い合いながら、エスカが落ち着くまで

湯の中で泳いで二人は現実逃避を繰り返した。


エスカは正直、こんな所で、本当に何をしているんだろう?

と今の自分の状況を自分に問いかける。




そして一呼吸置いて、またしても元々の本題を思い出し

それを不意に問いかけるレディン。


レディン:

「で、結局、何しに来たのよエスカさん…

 あまりにびっくり情報が次から次へと出てきたんで

 思わずそっちで盛り上がってしまったが

 本題の方をそろそろ聞かせてくれや…」


そう言ってこんな冒険者の巣窟に

赤帝の女提督が自分の乗艦を下りて危険に身を曝してでも

潜入視察と思われる行動をしている事を問いかけ直す。


エスカ:

「あ?

 それはな、ノードノークを陥落させるための

 情報収集に来たんだよ…」


そんなレディンの言葉に、先ほどの凹みから立ち直り

またしても憮然としたキャラを取り戻して

エスカはそう言い放った。


レディン:

「はぁ!?

 今、なんつった!?」


レディンは、そんなエスカの意味不明な言葉を聞いて

それをもう一度聞き直す。


エスカ:

「聞こえなかったのか?

 ノードノークを陥落させるための

 情報収集に来たと言ったんだが…」


エスカは、やれやれとばかりに頭をかきながら

レディンの問いかけにもう一度答え返す。


レディン:

「このノードノークを陥落!?

 何で!?

 アンタ、ヴァーチェ宙域に緑帝と戦いに来たんじゃねーの!?

 どういう理屈を経由したら、そういう話になんの!?」


レディンはエスカの言葉の意味をようやく理解して

だからこそ理解できないその内容に

両手をわきわきと握ったり開いたりするしかなかった。


エスカ:

「緑帝と戦うために戦略構想で

 ノードノークを陥落させる必要があるんで

 視察に来てるんだ…

 目的としては理路整然としているが?」


レディン:

「いやいや、ノードノークを陥落させると

 どういう流れで緑帝と戦う話になんの!?

 そもそも、たかだか1艦隊で陥落させれるような

 星系じゃなかろうが!!」


エスカのあまりにあっさりと答え返す言葉に

その噛み合わない2つの要素を問いかけるしかないレディン。

いや、ノードノークを落とすとなるなら

戦力不足という点では3つの要素というべきか。


エスカ:

「銀河1の宇宙冒険家も

 流石に宇宙の全体戦略までは

 頭が回らないと考えていいのかな?

 『陥落』という言葉の捉え方が狭いのではないか?

 武力で星系を火の海にする事だけが

 星系陥落ではないんだぞ?」


そのレディンの言葉を受けて口をニヤリとさせながら

嫌らしそうにそう返すエスカ。


レディン:

「どういう事だよ?」


エスカの不気味な笑顔を訝しながらレディンは更に問うた。

エスカはそんなレディンの表情に人差し指をチッチッチと振って

レディンの考えている『常識の範囲』の盲に

得意な気持ちになるしかなかった。


エスカ:

「銀河最強の宇宙冒険家の虚が突けたと言う事は

 これはかなり奇策になると思っていいのだろうな…

 それはそれで貴重な情報収集だ…

 ノードノークまで足を運んできたかいがあったと言う所か…

 なーに、簡単な話だよ…

 ノードノークと緑帝の貿易ルートを遮断する

 それだけさ…」


そう言ってエスカは満面の笑みを浮かべた。


レディン:

「!?」


レディンは突然『貿易ルートを遮断する』という

戦略案を聞かされて、その目を見開く。


レディン:

「ノードノークと緑帝の貿易ルートの遮断!?」


あまりに突飛な言葉にレディンはオウム返しの様にそれを尋ねた。

その驚きに更に得意になるエスカ。


エスカ:

「そうだ、ノードノークと緑帝の貿易ルートの遮断。

 それが私の考える『ノードノークの陥落』さ…」


言って自分の右手をヒラヒラと動かすエスカ。


レディン:

「何で貿易ルートの遮断がノードノークの陥落になる!?

 そもそもどうやってノードノークと緑帝の

 貿易ルートを遮断するんだ!?」


レディンはそのエスカの奇策に引き込まれ

そのよく分からない具体案を尋ねる。


エスカ:

「ノードノークは建前は自由都市なのだろう?」


レディン:

「建前じゃねぇ!

 普通に自由都市だよ!!」


エスカ:

「まぁ星系民がどう思って様が、確かに自由だがな…

 我々としては、その宣言を逆手に取らせて貰うわけだ…

 つまり、我ら赤帝はノードノークと自由貿易を要望する!」


レディン:

「赤帝と貿易!?」


エスカの言葉の流れで

ノードノークと赤帝の間で貿易交易を開始する

というアイデアを聞かされ、流石に目を見開くレディン。


エスカ:

「自由都市なのだろう?

 なら何処と貿易をしても自由なハズだ…

 自由都市とは、そう言う意味なんだからな…

 さて、そういうバックグラウンドがあった上でだ、

 恥ずかしながら、我々の現状を自白すると

 困ったことに、現在、我らが赤帝の派遣艦隊は

 本土からあまりに遠く、補給線があまりに細い状況下にある。

 この状況でヴァーチェ宙域を進軍するなど

 現実的には、夢のまた夢だ…」


レディン:

「ふむ、まぁそれはそうだな…

 そこら辺はヴァーチャ宙域の星系民全員が

 エスカ提督がこの不利な状況で、どんな手腕を見せるのか

 そこら辺のお手並み拝見といった所なわけだが…」


エスカの解説にレディンは率直に頷き

ヴァーチェ宙域民がみな刮目して赤帝の女提督の一挙一投に

期待と不安を抱えて注視している現状を言葉にする。


エスカ:

「そう…

 問題はここだ。

 我が艦隊がヴァーチェ宙域で満足に動けないのは

 我が艦隊に対して本土からの補給線が

 あまりに長く、非常に細いという点が全てなのだ。

 しかし逆に考えれば補給線さえ拡充すれば、

 やり様は幾らでもあるという事だ。

 と、考えると…

 あるじゃないか…

 我々の近くにクラーリンからの戦利品をわんさか売っている

 武装補給しまくれる丁度いい所が!」


そうエスカが説明した時に、レディンにもようやく

エスカがノードノークに自身で視察に来ている理由が理解できた。

そう、弾が無ければ、現地で買ってくるという方法論もある。

そしてそれにうってつけの場所は確かにノードノークなのだ。


レディン:

「はーーー、なるほどな!

 ノードノークの貿易品で取引して

 それで戦力増強しようって話か!

 そりゃ盲点だな!

 でも、そんな事したら緑帝が黙っていないぜ!?」


そのエスカの奇抜な案に驚いて最初は感嘆の声を上げたが

次の瞬間には最大の妨害要素を思いつくレディン。


エスカ:

「だろうな!

 だが黙っていない事こそが、こっちには好都合なのさ!

 むしろ我々とノードノークの貿易を

 黙って黙認される方が我々は困るというモノだ!

 つまり、こういう算段だ…

 ノードノークと通商貿易条約を締結した後に

 ランドロノア星系に貿易航路のルートを拡充し

 ついでに緑帝の通商貿易を妨害する宇宙海賊もする。

 すると緑帝としてはノードノークの宇宙開拓貿易に対して

 その流通が滞る事になるから

 クスコア星系のベルクドガに籠もってる腰抜け共も

 嫌がおうでも穴蔵から出てこなければならなくなるわけだ。

 そうすればランドロノアかジュリかモルトメ星系で艦隊戦だ!

 あんな手に負えない古代要塞のベルグドガなんぞから

 艦隊でノコノコと出てきてくれて、星系会戦に持ち込めれば、

 こっちも微笑みながら雷撃戦を仕掛けれるってモンさ!」


そのレディンの言葉を待っていましたとばかりに

その流れから泥縄式的に発生する緑帝の艦隊行動と

その対抗策案を口にして、エスカは思わずウィンクする。


レディン:

「なるほど!そういう事か!

 クラーリン貿易をする事で戦力を増強するついでに

 緑帝の艦隊もおびき寄せると…

 その為のノードノークとの通商貿易協定…

 ほほーーー…

 そりゃ、赤帝とノードノークが

 通称貿易協定を締結してしまえば

 緑帝から見ればノードノークは陥落したも同然だな…」


エスカ:

「そういう事だ…

 問題は、このプランでノードノークの星系民と

 赤帝が通商貿易の協定を結ぶ余地があるかどうか?

 それとここと緑帝との繋がりがどれだけ太いか?

 それを明らかにしないといけない…

 だから私自身が潜入調査をしに来たわけだ…」


レディン:

「ふーむ…なるほどね…

 そんな政治家がする様な事を

 自分の足で現地視察して調査し

 可能ならば個人裁量で条約締結しようとはな…

 なかなか宇宙冒険家みたいな地道な努力だぜ…

 俺はそういうの嫌いじゃないぜ?」


そんなエスカの戦略案を聞いて

心の底から驚いて賞賛の声を上げるレディン。

そのレディンの反応にむしろエスカの方が呆れる。


エスカ:

「緑帝の血族の癖に

 こんな話を聞いて喜ぶなんざ

 お前は本当に根っからの宇宙冒険家なんだな…」


そう、よくよく考えれば緑帝側の人間に

トンデモナク重要な戦略案を聞かせている事を思い出し

それに何の反感も持っていないレディンに呆れるエスカ。


レディン:

「緑帝の血の話をされてもなぁ…

 俺は生まれも育ちもノードノークの

 宇宙冒険家ですからなぁ…

 緑帝なんざ、冒険資金を出してくれる

 お金持ちのクラアントぐらいにしか思ってねーし…

 それが赤帝に変わった所で、冒険の邪魔さえしてくれなきゃ

 お金くれる所は何処でも良いって所でな…」


と、レディンは自分達ノードノーク民の基本的な感覚を口にする。


エスカ:

「ならどうだ?この戦略案…

 ノードノーク1の宇宙冒険家のお前なら

 意見を得るにはふさわしい相手なのだが…」


そんなレディンの返しに、

ならばノードノークの英雄とまで言われている人間に

その戦略の有効性と可能性を尋ねてみるエスカ。


レディン:

「ふーん、俺は政治にゃ関心は無いからなぁ…

 自治政府の奴らがどう言うかは、あいつ等次第だし…

 んでもって、あいつ等が何言ったって

 俺達、宇宙冒険家はそんなの聞く耳持つ必要も無いしなぁ…

 要はギルドを通さずに、個人貿易の販路開拓しても

 それで事足りるって事だろ?

 それなら、アンタがそう呼びかけるだけで

 個人的に商談持って行く奴等はゴロゴロ出てくると思うぜ?」


エスカのその問いにレディンは自分が賛成しようが反対しようが

『ノードノーク民的なノリ』を前にして

エスカがそうすれば、起きるであろう事を口にしてみた。

その答えに思わず閉口するエスカ。


エスカ:

「本当にいい加減なんだな…宇宙冒険家ってのは…

 というかノードノーク星系民というべきか…」


レディン:

「自由を求める自由民から

 自由を奪ったら何も残らんからな…」


エスカ:

「なるほどな…」


レディンのその返しに自分の矜持のフレーズを被せられ

思わず苦笑してしまうエスカ。

なるほど、この土地柄で最も重要なのは『自由』らしい。

それはそれで羨ましいモノだと少しだけ思うエスカ。


レディン:

「ただまぁ…

 俺もそこそこノードノークじゃ発言力のある方だしな…

 なら、こういうのはどうだ?

 アンタが俺を満足させてくれたら

 俺が上の奴らに口を利いてやるってのは?」


エスカ:

「お前を満足?

 なんだ?嫁か妾にでもなれっていうのか?

 ヴァーユくれたら考えてやるぞ」


レディン:

「その発想から離れろ!!

 精神鋼鉄の仕事中毒者が…

 そんな従妹の許嫁から鉄拳制裁食らうような要望じゃねーよ!

 俺と酒でも飲んで、ちょっとこの宇宙の謎を語り合って

 ついでにクラーリンの雑魚を倒しに

 一緒に宇宙冒険に付き合ってくれるんなら

 考えてやってもいいって、そんな所だ」


エスカ:

「ああん?

 お前と談話して宇宙冒険しろってか?」


レディン:

「ダメか?」


レディンに要求されたので何事かと思い聞けば

物凄く簡単な事をすれば、

ノードノークの上層部に口利きをしてやるという話らしい。

それには思わず飛びつきたくなるエスカだったが

しかし、それに対して深い懸念もあった。


エスカ:

「しかしなぁ…

 テクアルコアツを長い間、空けっぱなしにしてると

 オロードだけじゃ対処できないんだよな…

 オスロの要塞にドッキングさせてるから

 それなりの宇宙要塞として動きはするが

 マスターの私が居なければ、オロードの能力も全力で出せんしな…

 今の所、概算で緑帝とは3ヶ月は睨み合いでいけるかって

 ギリギリの所でな…

 だからオスロを空けるのには、長くても2ヶ月が限度なんだ…」


レディン:

「ふむ…2ヶ月か…

 いや、そんだけありゃ十分だろ?

 俺も、アンタに大怪我負わされてるしな…

 この傷でクラーリンの准将居るような所で遊ぶ気にはなれん…

 近場で、クラーリンの少佐級の所行って

 戦利品狩りするってのはどうよ?

 せいぜい長引いても、1ヶ月はかからんと思うが…」


そんなエスカの苦しい台所事情に

レディン自身も自分の深手の傷の事を思って

妥当な案を提案してみる。

その案は時間的には無理ではない案だった。

だが、更に渋る問題が残った。


エスカ:

「私はシュルトワルゼなんか持ってきてないぞ…

 どうやってクラーリンと戦えっていうんだ?」


宇宙冒険でクラーリンと戦って戦利品というのは

ただそれだけで魅力的な話だったが

いかんせん、今は潜入調査なので

エスカは自分の乗艦のシュルトワルゼ・オロードを

ノードノークには持ち込んでいないのだった。

戦艦が無いのにクラーリン戦艦と戦うとかいうのは

流石に夢物語である。


レディン:

「俺、腕が今、こんななんだけど?

 だから、アンタにヴァーユを貸すって感じで

 考えてるんだけど…」


そんなエスカの逡巡にレディンは現実的な今の状況で

満足に戦闘できるのが誰なのかを指摘して

最も妥当な方法を口にした。


エスカ:

「え!?

 この船、使わせてくれるの!?」


レディン:

「ま、貸与系だけどな…」


エスカ:

「なら行く!!絶対に行く!!!

 こんなインチキ戦艦、

 クラーリンとの戦闘でその性能を全部、暴いてやる!!」


エスカはレディンが貸与とは言え

古代戦艦では最強艦種を使わせてくれると聞いて

それだけで2つ返事になった。

こんなおかしな船、赤帝でも筆頭御三家の皇帝族所有艦を

引き合いに出さなければ、対比も出来ないのである。

そして皇帝族所有艦に乗る等、船乗りとしては夢のまた夢なのだ。

ならば、これだけの提案で首が縦に振れなければ、

提督という職務適正にかなりの問題があると言えるだろう。


レディン:

「アンタ、本当に仕事中毒だなぁ…」


そんな良い船を使えるという話だけで

二つ返事で満面の笑みになるエスカに

レディンは呆れかえるしかなかった。



前書きで書いた事は、そうだとは思うのですが、

今回の話の中での展開で、次までの流れの説明の様に

クラーリンと戦うまでが、ノードノーク編なので

それが終わるまでは本編は動かせないかなぁ…と…


ともかく、語りモードが長くなると思うんで

そこら辺、しんどいかなぁと…


ここさえ越えれば、いっきに下準備は完了なんですがねぇ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ