第5章*お前以外、結婚は考えられない
「ーーレオンハルトさん…嘘、だろ…?」
首筋に落とされる熱いキスと肌を粟立たせる愛撫に翻弄されながら、優太は必死に息を整えた。
頭が追いつかない…レオンハルトが自分をずっとそんな目で見ていたなんて。
「嘘なものか。
お前がその小さな手で俺のために料理を作って、俺の帰りを待っているのを見るたびに…どれほど抱き潰してしまいたい衝動に駆られたか…」
レオンハルトは優太の両手首を片手で拘束したまま、もう片方の手で優太の腰をなぞり、引き寄せた。
完全に密着した躰から、彼の容赦のない熱量と嘘偽りのない硬い衝動が伝わってくる。
「お前は俺の家政夫で、俺の家族で…俺の、唯一の伴侶だ」
青い瞳が熱い涙で潤んでいる。
冷徹なはずの騎士団長が今にも泣き出しそうなほどに切実に自分を求めている。
その瞬間、優太の胸の奥をせき止めていたダムが大きな音を立てて崩壊した。
(ああ、そうか…俺は、本当に欲しかったんだ…)
元の世界で、自分は誰からも見られなかった。
自分は透明人間のように生きていても死んでいても変わらない、価値のない存在だと思い込んでいた。
そんな自分を、この男は最初から見つけていた。
見つけるどころか…狂おしいほどの執着で、1人の男として、誰よりも重く、深く、愛してくれていたのだ。
「ーーレオンハルト、さん…」
優太の目から、今度は恐怖ではない、安堵と歓喜の涙があふれ出した。
拘束されていた手首の力が、ふっとゆるめられた。
優太はその自由になった両腕を迷うことなくレオンハルトの逞しい首の後ろに回した。
「ーー俺、どこにも行きません…!
行きたくない…レオンハルトさんの、そばにいたい…!」
その健気な告白が、レオンハルトの理性を完全にぶち壊した。
「ーーもう、絶対に離さないからな」
深く、深く…今度は優しく、けれどどこまでも強欲に唇が重ねられる。
シーツが大きく乱れて、夜が更けるまで、彼らはお互いの存在を確かめあうように貪りあった。
優太は生まれて初めて、自分が誰かの全てになる快感に声を枯らして溺れていった。
* * *
翌朝。
窓から差し込む柔らかな光の中で、優太は目を覚ました。
躰のあちこちに残る心地よい気怠さと熱さが昨夜の出来事が夢ではないことを物語っている。
横を向けば…すでに身支度を整えたレオンハルトがベッドの端に腰を下ろして優太を見つめていた。
その表情は、いつもの優しい“お兄さん”に戻っている。
…ただし、瞳の奥の独占欲だけは隠されもしないままギラギラと輝いていたが。
「起きたか、俺のかわいい家政夫」
「ーーレオンハルトさん…あの、お見合いの件は…」
優太がシーツを胸元まで引きあげながら恐る恐る尋ねると、レオンハルトは極上の笑みを浮かべて優太の額にキスをした。
「言っただろう?
お前以外、結婚など考えられないと。
公爵令嬢には今朝一番の伝書鳩で、正式に断りを入れた。
代わりに、近いうちに我が近衛騎士団長の“伴侶”を披露する夜会を開くと王宮へ申請を出してある」
「えっ、伴侶って…!?」
「お前のことだ、ユウタ」
驚きで固まっている優太の指に、レオンハルトはいつの間にか用意していた美しいサファイアの指輪を嵌めた。
それは、彼の瞳の色と同じ色だった。
「もう逃げ道はないぞ。
お前をこの家から、俺の目の届く場所から、1歩も出さない。
一生、俺だけに尽くしてもらう」
少しだけ意地悪に微笑む主人に、優太はもう困惑することも怯えることもなかった。
「はい、喜んで…一生あなたにお仕えします、旦那様」
転生ミスから、異世界生活は始まった。
けれど…中学生だった彼は、世界で最も自分を必要としてくれる最愛の男の腕の中で、極上の幸せに満たされていたのだった。




