エピローグ*透明人間の幸せな生活
ーーあれから数ヶ月が経った。
レオンハルト邸宅は、今日も穏やかな朝の光に包まれていた。
「よし、これで朝食の準備は完璧だ!」
優太はピカピカに磨きあげられたダイニングテーブルに焼き立てのパンと温かいスープ、彩り豊かなサラダを並べた。
左手の薬指には、朝日にキラキラと輝いているサファイアの指輪があった。
すっかりこの家に馴染んだ、優太にとっての“本物の居場所”の証だ。
「おはよう、ユウタ。
今日もいい匂いだな」
「おはようございます、レオンハルトさん。
早く席についてください、スープが冷めちゃいますよ」
優太に促されて椅子に腰を下ろしたレオンハルトは、彼の手料理を1口食べると、ふっと極上の笑みを浮かべた。
「やはり、お前の作る料理が世界でとても美味い。
毎日これを楽しみに生きていると言っても過言ではないな」
「もう…大袈裟ですよ、ただの家庭料理ですって」
照れくさくて苦笑する優太の前に、レオンハルトが手を差し出した。
優太がなれた様子で手を握ると、レオンハルトは愛おしそうに薬指の指輪に唇を寄せた。
「大袈裟なものか。
そう言えば…王宮の例の夜会だが、正式に来月執り行われることになった」
「えっ…本当に、俺を“伴侶”として紹介するんですか?
街の噂、すごいことになってますよ?
“あの堅物騎士団長が隠していた愛しい男を連れてくるらしい”って」
優太は少しだけ不安そうに眉を下げた。
元の世界では、誰の視界にも入らない透明人間だった自分が今や一国の英雄のパートナーとして、王公貴族の前に立とうとしているのだから現実感が湧かないのも無理はなかった。
そんな優太の不安を察したのか、レオンハルトは椅子から立ちあがると彼を背後からそっと抱きしめた。
大きな体温と心地よいお香の香りが優太を包み込んだ。
「不安か?
だが、俺は“お前を誰の目にも触れない場所に隠しておきたい衝動”と“お前が俺のものだと世界中に自慢したい衝動”の2つと毎日戦っているんだ。
夜会に出るだけで済むなら、お前にとっては幸福だと思え」
「…それ、全然慰めになっていません」
優太は呆れつつも、その独占欲に満ちた言葉が嬉しくて彼の胸にコツンと頭を預けた。
かつて、孤独のあまり“異世界に転生して、誰かに必要とされる特別な存在になりたい”と少年は願っていた。
転生ミスで勇者にはなれなかったけれど…今の自分は、魔王を倒すよりもずっと難しくて、ずっと甘い偉業を成し遂げている。
ーーこの世界でとても強くて美しい騎士団長の、唯一無二の世界の全てになる…と言う、偉業を。
「さあ、早く食べないと遅刻しますよ…旦那様」
「ああ…だがその前に、ひとつだけ」
不意に顎を上に向かされて…優しい、けれど深い口づけが降ってくる。
甘い痺れに翻弄されながら、優太は確信していた。
この男の腕の中と言う名の甘い檻から、自分は一生抜け出すつもりなんてないのだ…と。
☆★END☆★




