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第1章*騎士団長・レオンハルト

次に優太が目を開けると、そこは真っ白な空間だった。


教会のような高い天井に色とりどりのステンドグラスから光が差し込んでいる。


「いや、はや…」


「こんなことあるの…?」


目の前にはローマンカラーシャツ姿の初老の男性と修道服姿の女性が大きく目を見開いて自分のことを見ていた。


所謂、牧師と修道女と言うものなのだろうか?


(と言うか、もしかしなくても…?)


優太は周りを見回した。


見慣れない豪奢な神殿に、見たこともない豪華な法衣に身を包んでいる異国の人々がたくさんいた。


これが小説でよく見る“異世界召喚の儀式”そのものの光景で、優太は自分の心臓がドキドキと高鳴ったのがわかった。


「あの…召喚された方、ですよね?」

と、修道女が優太に声をかけてきた。


(ショウカンって…もしかしなくても、あの“召喚”だよな!?


と言うことは、本当に異世界に転生したって言うことだよな!?)


「ーーは…はい、そうです!」


優太は彼女に向かって返事をした。


彼女は「やっぱり…」と言う顔をした後で、牧師と顔を見あわせた。


牧師は優太の前に歩み寄ると、

「あの、大変申し訳ない話なのですが…実は、召喚の儀式の術式に一部狂いが生じてしまいまして…」

と、言ってきた。


「は、はい…?」


何を言われたのかわからなくて、優太は聞き返した。


「まさか…予定の座標から大きく外れた世界から、これほど小さなお子様を引っ張ってきてしまうとは…しかも、その…」


牧師は額にダラダラと冷や汗を流しながら、修道女と気まずそうに顔を見あわせた。


「実は…」

と、口を開いたのは修道女だった。


「我が国を脅かしていた魔王は…3年前に前の儀式でやってこられた先代の勇者様によって、とっくに討伐されてしまっているのです…」


「はっ…?」


優太はポカンと口を開けたままの状態で彼女の言葉を脳内で反芻した。


(転生ミスだったうえに…しかも、魔王はもういない…?)


胸の奥で、何かがパキリと音を立ててひび割れたのがわかった。


現実逃避のように読み漁っていたファンタジー小説の異世界転生ものに救われて、勇者とか悪役令息になりたい、何でもいいから誰かに必要とされる特別な存在になりたいと憧れて…その願いが通じたのかはよくわからないが、自分はトラックに撥ねられて異世界転生をしたのだ。


それなのに、

「申し訳ございませんでした!


すぐに元の世界に戻す術式を組み立てます!


幸い、こちらのミスですので魔力は全てこちらで負担いたします!


ですから、どうか穏便に…!」


牧師が土下座して叫ぶように言った時、優太の中で何かが切れる音がした。


「ーーふざけるなよ…ッ!」


ポツリと、優太の口からこぼれ落ちた呟きに、牧師と修道女はビクリと躰を震わせた。


「ふざけるなよ!」


神殿の壁に反響するほどの怒鳴り声で、優太は彼らに向かって怒鳴りつけた。


「誰が戻るかって言ったよ!


せっかくここにこられたのに…あっちに戻ったって、俺の居場所なんてどこにもないんだよ!


誰も俺のことなんて見ないんだよ!」


優太の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。


「ですが…魔王のいないこの世界に身寄りのない子供を置いておく訳には…」

と、修道女が困惑したその時だった。


「ーーならば、俺が彼を引き取ろう」


低く落ち着いた声が神殿に響いた。


そこに立っていたのは、1人の男だった。


まばゆい銀髪を後ろでゆるく結び、切れあがった涼やかなその目は、深い青色をしていた。


仕立てのいい漆黒の軍服に身を包み、腰には見事な装飾の長剣を帯びていた。


あまりの美しさに、優太は見惚れてしまった。


コツコツ…と、重い靴音を鳴らしながら、彼は優太の前に歩み寄ってきた。


「異世界からの客人を簡単に“元の世界へ戻す”など乱暴過ぎる、俺が責任を持って彼の面倒をみよう」


彼は牧師と修道女に向かって強く言い切ると、優太に視線を向けた。


「お前、名前は?」


「吉川優太です…」


名前を聞かれたので、優太は恐る恐る自分の名前を答えた。


「ユウタか…いい名前だ、行く当てがないなら俺の家にくるといい」


彼はそう言って柔らかく微笑んだ後で、その大きな手で優太の頭を撫でた。


「俺はレオンハルト、この国の近衛騎士団長をしている」


彼ーーレオンハルトは自分の名前を言った後で、優太に向かって手を差し伸べた。


「俺の家で暮らさないか?


ちょうど、家政夫の手が足りなくて困っていたところなんだ。


お前が手伝ってくれるなら、とても助かる」


あからさまな建前で、神殿のミスで行き場をなくした子供を救うための優しい嘘なのはわかっている。


けれど、優太はそれが嬉しかった。


生まれて初めて、誰かが自分を真っ直ぐに見つめて“きてほしい”と言ってくれたのだ。


「ーーはい…!」


優太は制服の袖で涙を拭った後、差し出されたその手に向かって自分の手を伸ばした。

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