第2話
「何だ、何の音だ!」
「なっ、何かが近づいてきます」
不気味な騒音はすぐそこまで近づいてきていた。
「がふっ...」
巨大な虫の足のようなものが背後から帝国兵の胸を貫いた。
そして獲物を突き刺したまま足の主が藪から姿を表す。
「ひぃ!」
「何だこいつは...」
足の主は髪の長い人間の女のような頭にムカデのように平たく巨大な胴体には無数の人間の手足のようなものがついており、2対の前足のみが巨大な虫の足のような形をしている。
さらに人間の大人の3倍はあろうかという体躯はこの世のものとは思えぬ醜悪な怪物の姿だった。
「い、異形だ!」
「装填急げ!」
帝国兵の隊長は拳銃を抜き、異形へ向けて発砲した。
弾は命中したが異形は僅かにたじろぐと前足に刺していた帝国兵を振り払い怒りの叫びを上げた。
人間の声と小鳥の囀りを合わせたような耳を劈く不快な音を発して襲い掛かろうとした。
「今だうっ」
異形は勢いよく前足を隊長の頭に向けて振り払った。
頭を失った胴体はそのまま倒れていき、すぐさま残りの帝国兵たちに向けて前足を振り払う。
残った帝国兵たちはまとめて木に叩きつけられ動かぬ肉塊とかした。
「うっ...」
一瞬の出来事に声も出せず、惨事を見届けたルミリアは恐ろしい怪物を前に動けずにいた。
異形がルミリアに気づき向ってくる。
「こ、来ないで...」
恐怖のあまり、尻もちをついたまま後ずさろうとすると手に何かが触れた。
帝国兵が持っていた長銃が落ちていた先には銃剣がついている。
「し、死ねない。だってフェリク様が」
異形が不気味な叫びを発しながら獲物にとどめを刺そうと前足を振り上げる。
「うああああああ!」
ルミリアが咄嗟に銃を拾うと異形を目掛けて発砲した。
弾は異形の右目に命中、異形は苦しみ後ずさっていく。
再度銃の引き金を引くが弾は出ない。
装填方法を知らないルミリアは異形の頭に向けて渾身の力で投げつけた。
額部分に突き刺さりさらに藻掻く異形を尻目にルミリアは逃げていった。
(異形は産んだものの形質が強く出ると言われている。あの姿はどう見ても...)
走っている最中、良からぬ懸念が頭を過ぎり強い嫌悪感に襲われていると背後から異形の叫びが聞こえてきた。
「そんな、まだ動けるなんてっ...」
すでに体は限界を向えていたが、異形の這うような足音が近づいてくる。
目の前にはルミリアよりも背が高い藪の壁が立ちはだかっていた。
「こんなところで終われない!」
勢いに任せて藪の壁に突入した、藪を掻き分けて行く余裕はなく両腕で顔を守りながら突き進んでいく細かい枝が服を、肌を裂いても痛みに嘆く暇はなかった。
何処までも続いていくような錯覚に襲われかけていた時、急に視界が開け勢いを殺せず転倒してしまう。
「っ、何?ここ」
そこだけ森を切り開いたような空間が目の前に広がっていた。
決して広くはないが伸びきった草が辺りを覆い、奥に廃墟のような小さな館が見える。
背後から迫ってくる足音がすぐ近くで聞こえてきた。
「まだ追ってくるの」
逃げようと立ち上がった瞬間、異形が藪の中を突き破ってきた。
一瞬で距離を詰め前足を掲げ、ルミリアに向かって振りかぶろうとする。
「いやあああ!」
逃げる隙を失い恐怖に立ちすくみ震えるルミリアに向って容赦のない前足が向ってきた時、黒い影が目の前に現れた。
次の瞬間、異形の前足が宙に舞っている。
「えっ!」
目を見開くルミリアの前には黒い衣服に身を包んだ青年が立っていた。
手には長剣を握っているが装飾一つない柄や刀身は影よりも濃い黒色で何処か禍々しい雰囲気を纏っていた。
「_____」
青年は異形との距離を詰めると痛みに藻掻く異形の首めがけて剣を振り上げた。
異形の巨大な頭部は鈍い音を立てながら地面に転がった。
胴体は力を失い地面にひれ伏し、そして急速に体が萎んでいき干物のように干からびていった。
青年は剣を鞘に納めると、ルミリアのほうへ歩いてきた。
黒い髪に黒い衣服を纏った影のようないで立ちに暗い瞳が真っすぐにルミリアを捕らえる。
「あ、あなたはっ」
「お前は誰だ」
ルミリアの質問を遮るように青年が口を開いた。
鋭利な口調だが鋭さの中に少し悲しさが混じったような声で問い詰める。




