4.草原
結局どうすることもできずに、時間だけが経過していた。
体内時計は12時間経ったと示している。
現在も縄で縛られ目口は覆われているため、どこにいるのかは全くわからない。
----
体内時計は48時間経ったと示している。
この36時間の間に二回の食事が提供された。
食事を与えてくれるところは他の誘拐犯より優しいようだ。
まあ、今までに誘拐された経験はないため、俺の誘拐犯のイメージが違ってただけかもしれないが。
ちなみに、食事の際に大声をあげてみたが、誘拐犯が慌てて口を塞ぎやがったため食事の回数が減った。
----
体内時計は168時間経ったと示している。
状況は変わっていない。
食事は17回提供された。
「おい、そろそろか?」
「そろそろだな。準備しろ」
誘拐犯二人が話している。
ちなみに、この荷車は三名の誘拐犯が運転手と縛り役をローテーションしているらしい。
「おい、暴れるな」
準備ということなので、俺は精いっぱい暴れさせてもらう。
もうここから逃げ出すにはこの時間しかない。
「ちょちょ、暴れすぎ」
俺は七日間の荷車生活で溜まっていた力を全力で出した。
まあ、毎日不規則に力を出してたため完全な全力ではないが。
「もうここでいいんじゃね?」
「そうだな、やっちまえ」
もしかして俺を殺すために誘拐したのか?
嫌だよ、死にたくないよ。
今からでも暴れるのはやめるので殺さないでください。
そう思っている間に、荷車からぽいっと投げ捨てられる感覚がした。
そして、誘拐犯は俺の縄を解いたあとすぐさま荷車に乗り込み全速力で駆けていった。
俺を乗せなくて大丈夫なの?
殺すんじゃなかったの?
「いてて、腕掠っちゃった」
背後からメルの声が聞こえたため、すぐさま振り返った。
「メル! 大丈夫か!」
「投げ捨てられたからかすり傷があるけど、概ね大丈夫だよ」
「それは良かった……」
メルの安全確認ができて良かった。
「メルも荷車に乗せられてたのか」
「うん、目口塞がれて乗せられたっぽい」
そういえば俺の乗った荷車の後ろにもう一台荷車がいたな。
「荷車に乗ってる間に変なことされたりはしてないか?」
「一応大丈夫だったよ。荷車に乗ってた人は全員女性だったぽいし」
それなら安心か。
でも、あの荷車はなんだったんだ?
「俺たちって誘拐されたんだよな?」
「最初は誘拐だと思ったけど、途中からはただ運ばれてるだけだと思ったよ」
誘拐ではなかったようだ。
しかし、何だったのかはわからない。
「それより、ここはどこだろう?」
メルの疑問符に俺は周囲を見渡した。
一面が緑で覆われており、中央に人間の銅像がある、見たことがない景色--いや、あるような気がする。
「なんかここ来たことある気がする」
「どんなとこなの?」
「どんなとこかはわからない……」
見たことのある景色だとは思うが、どこでどんな場所なのかはわからない。
「とりあえずどっちかの方向に歩いてみる?」
俺の顔を覗き聞いてくるメル。
現在進むべき道は東と西の二つある。
東は遠くにうっすらと山が見える。荷車が駆けていった方向だ。
西は果てしなく緑が続いている。
いや、東と西の前に重要なことがあった。
「あの三人がいる国に戻りたいか?」
「戻りたくないかな……」
眉間にしわを寄せるメル。
そりゃそうだよな。
苦しめられた場所に戻りたいやつなんていないよな。
俺だって戻りたくないし。
そして、忘れていることがあった。
「本当に、ごめん」
頭を深々と下げ、謝罪した。
「ケルトが謝罪する必要はないよ」
「荷車に乗る前の話だ」
「うん。わかってるよ。だから謝罪しなくていいってこと」
「きちんとした謝罪はさせてほしい」
「……わかったよ」
メルからの許可をいただいたので、精いっぱい謝罪する。
数十秒後、頭を上げる。
すると、メルが深々と頭を下げた。
「私も迷惑かけてごめんなさい」
「メルは謝らなくて--」
「私にも謝らせて」
「……わかった」
数十秒後、メルは頭を上げた。
「どんな仲でも謝罪するのは大切だよね。でも私の都合でごめんだけど土下座だけはやめてほしいな」
「土下座はやめておく」
まさか土下座が仇となるとは思っていなかった。
「それなら、どこ行くか決めよっか」
「メルは山と草原どっちに行きたい?」
「私は草原かな」
「なら、西に向かおう」
「了解!」
行く先が決まったため、ひたすら歩いていく。
−−−−
辺りが暗くなってきた。
現在の場所と出発した場所の風景に変化がない。
「俺たち実は同じ場所を回ってるわけじゃないよな」
「多分それはない、って信じたい」
さすがに三年も探索者をやっているため方向音痴ではないはずだ。
でも、ダンジョンと地上じゃかなり違いがあるからな……
いやいや、そんな心配をしている場合ではない。
今は寝床を探すんだ。
「寝床どこにする?」
「ここら一帯草でふわふわだしどこでもいいんじゃないかな? それより食料と水をどうするかの方が大切だと思うよ」
草原で寝そべればよかったのか。
「水は魔法で生成すればいいんじゃない?」
「あ、そっか、地上でも魔法使えるんだったね」
地上でモンスターが出現する機会は滅多にない。
ゆえに魔法を使用する機会が少ないため、魔法が使えることを忘れることが多い。
「ちょっと手出して」
メルに言われるがままに両手を出す。
「『水玉生成』」
一つの水玉が生成され、両手にパシャリと零れ落ちた。
「早く飲まないとちょっとしか残らなくなるよ」
メルに急かされ両手の水を一気に飲み込んだ。
「メルの分も出すから両手出して。『水玉生成』」
メルが両手を出したので、俺は魔術を唱え水玉を生成した。
「ありがとう」
メルも両手の水を一気に飲み干した。
「食料はどうする?」
食料は一番の問題だ。
ダンジョンならばモンスターを狩って食えばいいだけだが、地上となると動物を狩らなければいけない。
しかし、この数時間草原を歩いたが、動物の姿は一度も見なかった。
「一日ぐらいなら大丈夫じゃない? また明日食料は探そう」
「私ご飯食べなかったらイライラしちゃうけど大丈夫かな?」
「メルのイライラしてる姿は可愛いだけだから俺は大丈夫」
イライラするとはいっても、イライラが収まるまで水玉を生成して壁にぶつけるだけだ。
頬を膨らませて水玉を生成してる姿は、俺から見たらただただ可愛いメルの姿だ。
「イライラしてるのに可愛いってそんなことないでしょ」
「そんなことがあるんだよ。メルはなにしても可愛いから」
「そんな冗談はやめてよ」
赤らめた頬を手で覆うメル。
恥ずかしがるメルの姿が一番可愛い。
「今日はもう寝るからね。おやすみ」
メルは俺から少し離れて横たえた。
俺もメルから少し離れて横たえる。
ずっと一緒にいるため、離れる時間を作るのも大切だ。
まあ、今日は数時間しか一緒にいなかったがな。




