5.村
「うーん、あ、おはよう」
「おはよう」
大きく背伸びをするメル。
「寝起きのメルもやっぱり可愛い」
「昨日の引きずってる? 今日は恥ずかしがらないからね」
そうは言いながらも頬が少し赤らんでいる。
可愛いな。
「とりあえず、朝食は取れないし先に進むか」
「そうだね」
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歩いて数時間。
村らしきものが見えてきた。
「あ、もしかして村かな」
「村っぽいな。というか、俺が三年前に住んでいた場所だと思う」
遠くから一番最初に見えるのは村一番の大きな家だ。
一目だけ見たら一般的な木造建築に見えるが、実は屋根に村長の絵が描いてある。
独特な画風なので、すぐに村長の家とわかった。
「え、ケルトの村なの!?」
「その言い方には語弊があると思うよ」
俺の村ではない。
村長の村だ。
いや、村長の村でもないか。
ただの村だ。
「まさかケルトの住んでいた村に着くなんてびっくりだよ。でも嬉しい」
俺も驚きだ。
まさか自分の住んでいた村に着くとは。
でも、あの三人がいた国からこの村までは歩きで二週間半ほどかかるはずだ。
荷車だし歩きと同じくらいのスピードなはずだが、七日で村近くに着いたということか……
あの荷車運転してたやつらどんだけ速いんだよ。
というか、村近くで捨てるって誘拐犯何者だよ。
偶然なのか? いや、偶然なわけがない。
本当なら今頃性奴隷になっていたはずなんだ。
いやいや、俺は性奴隷になってないよ。
そんな話はどうでもいい。
親や友達との約三年ぶりの再会となるので、とても楽しみだ。
もう戻れないと思ったときは絶望したが、誘拐犯のおかげで戻ってこれた。
再会とはいっても、親との別れは苦い記憶となったため、緊張する。
村の手前に着いた。
木造建築の家が軒を連ねる。
俺が一歩足を出そうとしたら、メルが裾を引っ張ってきた。
「私、大丈夫かな」
不安と緊張が入り交じった面持ちでそう聞くメル。
大丈夫かな、というのは髪の色のことだろう。
黒髪というのは五百年以上前から忌み嫌われている存在だ。
忌み嫌われているのには、当時戦争が起きており、その際に味方を大量に殺したという記録が残っているからだ。
まあ、この記録は実は嘘であるが。
実際は指揮していたやつが味方を大量に殺し、それを黒髪になすりつけたらしい。
なぜ殺したのかはわかってないらしいが、異常な存在だったことだけはわかる。
この話は最近になって露呈したので、正確な記録は中々広がらなかった。
なので、現在も黒髪は忌み嫌われている状況にある。
黒髪を苦しめている指揮していたやろうが許せない。
もしも目の前にいたら、絶対に殺すと思う。
「大丈夫だよ。もし、悪口言うやつがいたら、俺が百倍にして返すから」
「百倍はやりすぎだけど……ありがとう」
メルも一歩踏み出し、村へ入った。
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まずは俺の家に向かう。
「初手にケルトの家に行くのは緊張する……」
「俺の親は差別しないから大丈夫だよ」
「ケルトがきちんとしてるから、親御さんが差別しないのはわかってるよ。普通にケルトの親御さんに会うのが緊張してるってこと」
そういうことか。
信頼関係を結べていることが再認識できて嬉しい。
「あ、着いた。ここが俺の家だよ」
周りの家よりも一回り大きい木造建築。
特徴はない。
強いて言えば、俺がおねしょした跡が残ってるくらいか。
いや、おねしょの跡ぐらい子供がいた家ならどこにでもあるか。
「すごい緊張する。髪とか整えなきゃ」
「結婚報告でもするのかよ」
「ちゃんとしたら勘違いされちゃうか。ならこのままでいくね」
そのままでもメルは十分にきちんとしている。
三年ぶりとなると、俺も緊張してくる。
一度深呼吸をし、コンコンとドアを叩く。
果たして最初に何を言われるだろうか。
叱られるか、泣かれるか、それとも通常運転か。
三年前の別れ方的には叱られても仕方がないだろう。
「はーい」
ドアの奥から母さんの声が聞こえてきた。
ガチャリと音が鳴り、ドアが開いた。
「どなたでしょう--」
俺の姿を見た瞬間、母さんは固まってしまった。
「母さん、久しぶり」
「久しぶり……本当に久しぶりね」
母さんは大粒の涙を流し始めた。
まさか泣くとは思っていなかった。
まずは叱られ、その後に叱られ、さらに叱られると思っていた。
「ケルト、帰ってきてくれてありがとう」
「こっちこそ待っていてくれてありがとう。そして、三年前は本当にごめん」
「私の方も悪かったよ。無事に帰ってきてくれるってわかってたら、あんなに止める必要はなかったのに」
「結果論としては良かったのかもだけど、三年前なんてどうなるかわからなかったんだから止めるのは正解だったよ。でも、それに反抗して出ていって本当にごめん」
「そんな謝らなくていいのよ。戻ってくれたんだから」
母さんはギュッと俺を抱きしめてくれた。
なんだか俺も涙が出てきそうになる。
「いいですね」
メルは俺以上に涙を流しながら再会を祝福してくれている。
「そういえば、この子は誰かな。もしかして彼女--」
「パーティーを組んでいるメルだよ」
「初めまして。メルと申します。ケルトさんのお母さまに出会えて大変光栄です」
「あら、きちんとしている子ね。まさかケルトの彼女になってくれるなん--」
「だから、探索者仲間だよ!」
俺の涙は目の奥に引っ込んでしまった。




