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2.反省

 ケルトとメルが見えなくなるまで感情が表に出ないよう我慢した。


「もう、見えないな」


 カトルの微かな声を聞き、私は泣き崩れた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 ケルトやメルに向かって言ったって、もう間に合わない。


「本当にごめんな」

「ごめん。本当にごめん」


 私に続くようにカトルとロードスも謝る。


「本当にごめんなさい」


 ケルトやメルに聞こえなくても、謝らなければならない。


----


「エレナ大丈夫か」

「私は大丈夫だよ。それよりカトルは大丈夫なの」


 カトルの目には涙が浮かんでいた。

 カトルが泣く姿なんて今までに数度しか見たことがない。


「俺は大丈夫だけど、エレナは大丈夫じゃないだろ。そんな涙を流して」

「私は少しのことで泣いちゃうから大丈夫だよ。それより、ロードスも大丈夫かな」


 ロードスの目にも涙が浮かんでいた。

 ロードスが泣く姿も数度しか見たことがない。


「俺だって大丈夫だよ。それよりエレナの方が心配だよ」


 私そんなに泣いてるのかな。


「もうたくさん泣くのはやめるって決めたのに……」

「別にたくさん泣いたっていいだろ」

「探索者って強いんだから普通はこんな泣かないでしょ」

「そうだな。普通は泣かない」

「なら、泣くの我慢しなきゃ--」

「でも、探索者にはエレナみたいな子が必要なんだよ」


 カトルは人差し指で私の涙を拭った。


「同い年なのにエレナだけ子供っぽく見えるよな」

「そうだな」


 二人は笑みを浮かべながらそう言った。


「今は笑ってる場合じゃないでしょ」


 今はケルトとメルに謝らなければいけない。

 たとえ届かないとしても。


「笑ってる状況じゃなくても笑いたいんだよ。苦しみから解放されたいから」

「二人を死なせずに済んだんだから、少しぐらい苦しみから逃れたい。まあ、まだ二人が国を抜け出せてるかはわからないし気は抜けないけど」


 この国は外部から一度入ると出れない仕組みになっている。

 元々住んでいる場合も当然ながら同じだ。

 なので、通常は運び屋を用意して出ていく。

 私も二人が出国できるよう運び屋を用意した。

 もちろん国の部隊にバレれば連れ戻されるため、几帳面な運び屋にお願いした。

 かなりのお金は必要になったが、二人が出国できるならただのようなものだ。


 私たちは元々この国に住んでいるため、出国すれば家族が連行されてしまう。

 なので、私たちはこの国に残ることにした。

 たとえ死のダンジョンに挑まないといけないとしても。

 

「気は抜けないけど、苦しみからは解放されたいよな」


 確かに、苦しみからは逃れたい。

 でも、逃れてはいけない。

 たとえ死なせないためとしても、あの二人に酷いことをし続けたのだから。

 でも、二人を追放するために酷いことをしようと考えたのは私で、カトルとロードスはそれに追従しただけ。

 二人に苦しみを共有する必要はない。

 私だけ苦しめばよい。


「ごめん。二人が苦しむ必要はなかったね。さっき言ったことは忘れて」

「俺たちも苦しむ必要はあるぞ。でも、とても苦しむ必要はない。メルだって例外じゃない」

「私は苦しまないと--」


 私の唇にそっと指を当てるカトル。


「メルは真面目すぎる。一ヶ月後には死の道を歩まなければいけないんだぞ? そんな中で涙を流すほど苦しむ必要はない――とは言い切れないけど、そんなに苦しまなくたっていいんじゃないかと思う」

「一ヶ月後……」


 一ヶ月後には中央ダンジョン、通称死のダンジョンと呼ばれる場所の探索に行かなければいけない。

 これは国家指令であるため、拒否はできない。

 拒否をしてしまえば、その先に待っているのは死だ。

 どちらも死ではあるが、探索者にとってはダンジョンで死ぬ方が何百倍もましであるし、ダンジョンに行かないというのは探索者の矜持に反する。


 ケルトとメルを追放したのもこれが元凶だ。


「そりゃ苦しまなきゃいけないのはわかるけど、死を目前にして苦しみたくなんかないだろう?」


 私の目前に立ち、そう聞いてくるロードス。


「苦しみたくないけど、反省しなきゃいけないから……」

「苦しむだけが反省かはわからないぞ。反省の形は色々あると俺は思う」


 色々な形か。

 私には反省は苦しんで二度としないことを誓うことだとしか思えない。


「ちなみに俺の考える反省はできる限り生きることだな。努力をすればとても苦しまなくても反省になるはず」


 確かに、努力も反省の一つであるかもしれない。

 でも、苦しむのが一番だ。


「私は努力の前に苦しみを味わなければいけないと思う」

「それなら、エレナは苦しむということでいいよ。けど、俺でもカトルでもいいから胸に飛び込んで泣いてほしい」

「二人に縋ってるみたいで嫌だよ。泣くのもやめる」

「俺たちはエレナが苦しんでるのに何もできないのが嫌なんだよ。泣くのをやめるのだって難しいだろう?」


 苦しんでるのに何もできないのは絶対に嫌だ。

 でも、私はカトルとロードスに甘えすぎている。


「私はもうカトルとロードスに甘えたくない」

「そしたら俺たちもエレナに甘えられなくなるよ」


 二人が私に甘えることなんてほとんどないのに。


「探索者として強い姿を見せたいのかもしれないけど、もう昔みたいに弱い姿を見せてもいいんだぞ。二人の後輩はいないんだから」


 二人の後輩はいない。

 そんな甘言に私は屈しそうになる。

 でも、成長しなければいけない。

 屈してはいけない。


「成長しないといけないから今回は甘えない。苦しくて仕方がないときに甘える--」

「今も苦しくて仕方ないだろ?」


 カトルが真顔で問うてくる。


「今は大丈夫」

「大丈夫ならもう泣き止んでるだろ」


 私まだ泣き止んでいないんだ。

 早く涙止まってよ。


「本当はよくないんだろうが、ごめんな」


 引き寄せるようにして私に抱きつくカトル。


「状況は全然違うし可能性は低いけど、前みたいになるかもしれないって思ったら怖いんだ。成長するって言っても無理なものは無理なんだ。だから俺たちを頼ってくれ」


 前みたい、か……


 私は素直にカトルの腕の中で号泣した。

 少しだけ気持ちが楽になった。

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