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隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった  作者: ゆずさくら


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茶室の老人

 途中、信号で止まることなく、走りっぱなしだったことから、高速道路を使って来たのだろう、と俺は考えた。

 だが、場所を分かりにくくする為に首都高をぐるぐる回っただけかも知れず、はっきりとは分からない。

 とにかく、かなりの時間車に乗ってようやくここへついた。

 そして、潜り込むような、低い入り口から中に押し込められると、俺はようやく目隠しを外された。

 そこは畳を敷いた小さな部屋だった。

 この小さい入り口から考えて、茶室なのだろうと思った。

 入り口が再び開くと、一人の老人が顔をみせ、潜り込んできた。

 外が暗いと言うことを、初めて意識した。

「お待たせしたね」

 老人が言うと、高橋は頭を深々と下げ、言う。

「貴重なお時間をいただきまして、申し訳ございません」

 老人の髪は黒々としていて、艶があった。

 しかし、顔や手足の見える場所には皺が非常に多く出来ていて、どれほどの年齢なのか推測がつかなかった。

 それと、この茶室は、老人には狭すぎるように感じる。

 立ち上がったら、俺より背が高いだろう。そんな体格だった。

「そちらは」

 老人の雰囲気から、俺は自然と頭を下げ、自ら名乗っていた。

「住山です」

 俺の名前を聞いて、何か考えているようだった。

「君が『信頼できるハッカー』か」

「俺が?」

「会長、そんなことより、洗脳官僚のお話を」

 そう言った高橋の顔が、なんとなく赤くなっている気がした。

「そうだね。見ての通り私には時間がない」

「そう言う意味では……」

 高橋が頭を下げるが、老人は割り込んで話し始めた。

「君たちの学校で洗脳を行なっているのは、所謂(いわゆる)秘密結社だ。どの政党が政権を取っても国を自由に操れるように、各省庁の官僚に、一部は政治家として蔓延(はびこ)っておる」

「それ、リストをデータでいただけませんか」

「……バカ」

 高橋が小さい声で俺にそう言うと、二の腕を後ろからキツくつままれた。

(いてっ)

 老人は笑った。

「残念ながらリストはないよ。私が知っていて、確実にその秘密結社に属している人物は一人。洗脳下にいる人間は結社の名前すら言えないだろう」

「その人物は誰ですか」

菅原(すがわら)啓太(けいた)

「そんな」

 高橋の声は、裏返っていた。

「誰?」

 老人は、先ほどより大きな声で笑った。

「信頼できるハッカーでもご存知ないか。彼は我が国の首相だ。つまり第一党の党首。彼は若い。私と違って時間はたっぷりある」

北河(きたがわ)会長、お時間が」

 その声は茶室の外からだった。

「話が終わったところだよ」

 老人はそう答えると、体を縮こめて、茶室から出ていく。

 老人が出た後、中を覗いて、最後に言った。

「いいか、奴を追うのは危険が伴う。君たちは若い。命は大切にするんだ」

 その老人の顔、態度、声に、俺は生まれて初めて『オーラ』を感じた。

 気迫とか殺気と言い換えてもいいかもしれない。

 それは、あの依田からも感じたことのないものだった。

 老人が茶室から充分離れるまで、俺たちは黙ったまま、座っていた。

 俺は口を開いた。

「事務所の会長?」

「……」

「ねぇ、疑問だらけだよ。もう少し何か教えてよ」

 高橋は畳を見つめたまま言った。

「さて。ここから出るには、また目隠しをしなければならないわ」

「なんで高橋はしなくていいんだ」

「私が高橋ひかりではなく、影武者で『忍者』だからじゃない?」

 またそれか、と俺は思った。

 確かに彼女が忍者なら、忠実な部下であって、拷問され命を失ったとしてもこの場所は吐かないだろう。俺とは違って。

「首相が敵だとしたら、勝ち目は……」

「それでも、やれということよ」

 俺は高橋の顔を見た。

「命は大切にするんだ、と言ってたぞ」

「死ぬな、と言ったのではなく、命を大切にしろ、と言ったの。ただ生きているのは命の無駄。それは大切にしているのとは違う。何もつかめずに死ぬのも同じこと。会長の言った意味は『死んでも何かを掴め』そういう意味よ」

 老人がかけた最後の言葉に『オーラ』を感じたのは、そういう決意だったのかもしれない。

「高校生が、国家を相手に?」

「現時点で、既に相手は国家かもしれない」

「……」 

 依田は秘密結社からの指示に従って、生徒を洗脳していた。

 生徒が生きていると、依田に、というか、その秘密結社に不利になる。

 だから殺した。自殺に見せかけて。

 特別教室の連中は全員、自殺に見せかけて殺すことが出来るように、練炭と睡眠薬を各々に買わせてストックしている。

「生徒が生きていたら、なぜ秘密結社に取ってマズイことになるのか」

 俺が言うと、高橋は黒いタオルを両手で持って俺の目に当ててきた。

「じゃあ、それは移動の間に考えて」

「そ、そう……」

 また、何も見えなくなった。

 そして高橋に手をひかれながら歩き、俺は考えた。

 もう一度、白い塔を出入りする映像を洗い直そう。

 わからなければ、分かるまで見返すだけだ。強い意志を持って。




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