辞表
俺は警察で自分が調べていたことを全て警察に伝えた。
その場で他の警察署であった自殺案件の情報も参照してくれた。
「確かに、状況の証拠は『怪しい』としか言いようがない」
何か含みのある言い方だった。
「だが、やはりそこまでなんだ。決定的な証拠がないと。例え、いろんな状況を作って自殺に追い込んでいたとしても」
「……」
「依田が君を傷つけたことは確実だ。警察が直接が見ているんだから」
「松田くんが依田の秘密を知ってしまったんです。だから、依田には松田くんを殺す動機があります」
俺は松田が『特別教室』で行われていた洗脳について調べていたことを説明した。
「『洗脳』か。その証拠を掴んでいたってことだよね。他人を洗脳しただけだと、犯罪としては成り立たないんだ。それを使って金品を奪うとか。不利益なことをさせるとか。そこまでいかないと、ね。だから『洗脳の発覚』を恐れて生徒を殺すと言うのはちょっと」
「学校で洗脳しているとわかったら、入学を希望する生徒が減るじゃないですか」
「依田が学校経営している立場だったら、それを使って脅すことができるかもね」
何かないか、と俺は必死に考える。
「特別教室で『洗脳』していると分かったら、優秀な生徒が特別教室に来なくなる」
「確かに依田が企画した教室に生徒が集まらなくなれば、学校内での依田の評価が下がるかもね…… けど、殺すかな?」
刑事さんは続ける。
「正直、『洗脳』されてでも東大に入れるなら、それでいいと言う人はいると思うよ。一生解けない洗脳とか、金品を奪われ続ける洗脳、じゃなければね」
「けど、俺は依田に殺されそうになった。俺が知っていることはさっき話したところまでが全てです。つまり、俺が知っていることを調べられると依田の立場が危うくなるんです。刑事さんに調べてもらうしかないんです」
「……」
松田やその他の生徒が、自殺に見せかけて殺された、と言う視点で俺は調べていた。
だが、依田がなぜ松田を消さなければいけなかったか、その動機はわからない。
依田が調べていた通り、複数の生徒を殺しているとする。それら全ての生徒が松田同じで特別教室で行われる『洗脳』のことを探られていた訳ではあるまい。確かに、刑事さんの言う通り『洗脳』ではない何かがあるはずで、俺はまだそこに辿り着いていないのだ。
「そうだね。君が依田が本当に生徒を殺した動機に辿り着いていないにも関わらず、君がした行為を恐れて尻尾を出した。それは君が掴んだ事実の中に隠されていると言うこと、なんだろうね」
刑事さんは、両手の指で髪を梳くように、何度か後ろに滑らせた。
「……うん。分かった。とにかくここから先は警察に任せてくれ。この件の裏にいる人物が依田だけとは限らないし」
「!」
そうか。
目に見える脅威だけを調べていた自分は、なんて愚かだったんだろう。
依田は駒に過ぎない、だとしたら、本当に悪い奴は誰か。
裏で糸を引いている巨悪を見つける。
そいつが『松田の死の真相』を握っているに違いない。
「ありがとうございます」
俺そう言って立ち上がり、頭を下げた。
「ど、どうした?」
「俺、もう一度調べ直します」
「おい、もうこの件に首を突っ込むのはやめろ」
俺は刑事さんの言葉を聞き流し、警察署を後にした。
警察署を出ると、俺は学校の近所のネカフェに行った。
もう学校に戻っても授業は終わっている。
ファミリールームを借りて、高橋にメッセージを送る。
学校が終わって、スマフォが返却されれば、高橋もここにくるだろう。
俺はそれまでの間、ハッキングして得られた情報をもう一度見直すことにした。
白い塔で行われる『特別教室』は確かに、依田のアイディアだった。だが、洗脳官僚自体はこの『特別教室』だけで作られているのではない。
この『洗脳官僚』という存在は、高橋から聞いた知識だ。
本当に『洗脳官僚』の存在を疑っていなかったが、誰がそんな人間を作っているのだろう。『洗脳官僚』を知ることは、依田を操る組織を探る手がかりになる。
だが、単純なWebの検索では出てこない。
検索の結果、出てくるのは以前、俺が動画サイトにアップした『学校がしている洗脳』を批判した動画だ。
この動画は、俺が検索すると検索結果に表示されるが、他人のアカウントでは表示されない。
「そうだよ」
世界の検索を支配している企業すら従うような、高い立場の人間が、組織にいると言うことだ。
洗脳動画が広まらなかった時に、なぜ検索から除外されたのか、もっと深く考えるべきだった。
高橋が知っているのに、Webで一つも引っかからない言葉『洗脳官僚』。
俺はDARKWEBを探そうとTORブラウザを立ち上げる。
すると突然、部屋の扉が開いた。
「住山、ここで何を調べても無駄よ」
高橋が、俺のPC画面を見て言った。
「DARKWEBになんか書いてないわ。洗脳官僚のことが知りたいんでしょ? ほら、支度して」
「ど、どこに行くの?」
俺は接続を切ってノートPCを閉じると、バッグに入れて立ち上がった。
止めてある車に向かって歩きながら、会話する。
「近くに車を待たせてる」
「あのさ、それと、かなり急いでるよね?」
「依田が辞表を出した」
「……」
「学校が先手を打ってきたの。昨日の事件と学校を切り離したいのよ」
俺は何が言いたいのか分からなかった。
「それは、どうい」
「最悪、依田は殺される」
「学校を辞めたことと何が関係するの?」
「死んでニュースになった時、xx学校の依田教師と書かれるか、無職の依田と書かれるかだけの違いだけど、学校の名前が出るかどうか大きく違うでしょ」
車に着くと、高橋が運転席の後ろ、俺がその隣に座った。
俺は高橋が取り出した真っ黒なタオルを、目を隠すように縛られた。
「目隠し? な、なんでこんなことするの」
「興奮しないで」
「こ、興奮なんかしてない」
いや『もしやソフトSM』と言う気持ちが一瞬でも頭を過らなかったか? と言われると否定できない。
「バッグも、スマフォも、預かるわね」
スマフォを探す為、制服のスラックスのポケットに高橋の手が突っ込まれた時、俺はパニクった。
「理由は簡単。秘密の場所に行くからよ」
俺は頷いた。
高橋は運転席へ言った。
「出発してください」




