現場
俺と高橋は、松田が自殺した駐車場に来た。
確かに駅に往来する人々からの死角に位置している。駐車場が面している道の先は鉄道会社が立っていて、通り抜け出来ない。
ここにテナントビルを建てるにも人の往来が無さすぎて、仕方なく駐車場にしたのだろう、と思うような場所だ。
「よく見て、覚えて」
「覚えるって何を?」
「わからない。立地とか全体の構造とか、管理会社とか。なんでもいい」
「……」
俺はスマフォでとにかく何か手掛かりになりそうな箇所をスマフォで撮影した。
五台しか止められない駐車場だ。
調べるにしてもそんなに時間がかかるものではない。
「やれることはやった、けど」
「そう。次に行きましょう」
高橋は自身のスマフォの画面を俺に向けてそう言った。
画面には電車の『乗り換え案内』が表示されていた。
「その駅に何があるの」
「学校の生徒の自殺は松田くんだけじゃない」
高橋は近年あった当校の自殺案件を全て調べるつもりなのだろうか。
電車に乗ると高橋は口を聞かない。
声で芸能人だとバレることがあるからだ。
乗っている間は、スマフォで会話する。
『リストを送るから、住山も事件現場を調べてくれる』
『こんなに自殺があるの?』
『ええ、そう見たいね』
『じゃあ、俺はこのリストの下からやるよ』
次の現場までの間、俺は今から向かう現場とは関係ない、別の生徒の自殺案件を調べた。
調べていくと自殺の方法や現場がわかった。
電車を降り、駅を出ると小さなロータリーがあって、小さい地下の駐輪場へ入る道があった。
「こっちよ」
地下へ降りようとした俺を、高橋は呼び止めた。
高橋が先を進む道は、かなり入り組んでいて、やはり人通りが少ない道だった。
たどり着いた先は、袋小路の先にある、寂れた月極駐車場だった。
「ここ?」
高橋は頷いた。
そして俺は高橋の調べた内容を聞いた。
ここで亡くなった彼も当校の生徒であり『特別教室』で学んでいた。
そして何より、自殺の方法が、放置自動車の中での練炭自殺であることだった。
「高橋のリストから、さっき俺が調べた生徒の自殺も『放置自動車の練炭自殺』だった、これって……」
「流行り、というだけでは、色々共通点がありすぎるわ」
俺は松田の現場と同じように、スマフォで辺りの様子を撮影した。
時間帯なのかもしれないが、俺たちが駐車場にいる間、道で見かけた人はいなかった。
「次行くわよ」
生徒は様々な地域から通ってくる。
各々の生徒の家に近いところで、こういう場所を探したと言うのか。
様々な地域で別々に事件が起こるから、それらの関連性を調べる人間がいなかった、ということかもしれない。
見た感じ、地元の人間でもこれらの駐車場を知っている人間は、ごく限られた人数に留まるのではないか。
ましてや放置自動車があるかどうか、まで含めたら、もっと確率が下がる。
それが三つも、四つもの事件で一致したのだとしたら、不審死で警察が調査してもいいくらいだ。
俺は次の現場に向かう間、更にリストの調査を進めた。
四つ目の駐車場までは、高橋と一緒に調べた。
だが、通っている夜学の時間が迫ってきた為、高橋とは途中で別れ、五つめからは俺一人で調べることになった。
駅を降りると夕日が傾いてきていた。
スーパーへ買い物や会社帰りの人たち、部活を終えて家に帰る学生などが行き来している。かなり人通りはある。
五番目の現場も、そんな人通りがある時間帯にも関わらず、駐車場近辺には、人の行き来が全く無かった。
駐車場、放置自動車。こんな条件が、あちこちの現場でこうも綺麗に揃うものだろうか。
そんなことを思いながら、駐車場の状況をスマフォで撮影していく。
「……」
俺は視線のようなものを感じ、あたりを見回した。
しかし、誰もない。気のせいだ、と考えた。
俺は次の駐車場に行くか、とりあえず今日はこれで終わらせるか、とか考えながら駐車場の様子を確認していた。
「そうだ、ここもだ。ここも監視カメラがない」
スマフォのメモに書いた。
後で画像を比較してみればわかる。
今どき珍しいくらい、これらの駐車場には、監視カメラの設置がないのだ。
場所の選び方や特徴に一貫性がある。ただ寂れた場所にある駐車場、程度の一致ではない。三つ目や、ここ四つめの駐車場は、放置自動車ではなく、それぞれWebで借りれるレンタカーや、契約車両だったりするので、必ずしも一致しないが……
やっぱりこれは、何かある。
人通りのない道を、駐車場に向かって一台の車が入ってくる。
車に当たらないように避けるが、車は俺に向かって進んでくる。
「!」
車を運転しているのは……
俺は、運転席の男を認知した。明らかに、さっき感じた視線とは別のものだ。
俺は後ずさりした。
車が止まり、運転手が降りてきた。
依田だ。
「学校を休んでるのに学校に来てみたり、こんな辺鄙な駐車場に来てみたり。君はいったい何を嗅ぎ回ってるのかな」
「せ、先生こそ、どうしてこんな場所に」
と言いながら『違う! 叫ぶんだ』と考える。だが、体は声を出せない。
依田はあっという間に俺の腕を捻じ上げ、袋を被せた。
俺は必死に、抵抗しようと、暴れようとした。
だが、すぐに胸が苦しくなって俺は、そのまま動けなくなってしまった。
そして体を倒されると、辺りは真っ暗になった。
車に乗せられた。
肌に感じる硬さから判断すると、トランクだ。
迂闊だった自分の行動を公開した。
そもそも犯行には打って付けの場所なのだ、もっと警戒をするべきだったのだ。




