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隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった  作者: ゆずさくら


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スタッフルームの住山

 翔頭(しょうとう)警察署に入ると、広報担当と下打ち合わせを行った。

 俺が言った主婦の格好は変だという点は受け入れられ、オフィス内の設定として変更された。

 署内でスタッフルームとして使わせてもらう部屋があり、俺はそこでPCを構えた。

「俺と高橋は署長に挨拶してくるから」

 そう言うと金田さんは高橋を連れて出ていった。

 軽く署内のWiーFiを確認してみる。

 警察署と言っても一般的な規格の通信を使っているようで、簡単に入ることが出来た。

 だが、主要なデータを保管しているサーバーまでは繋がらないようだった。ましてや警察全体のネットワークへは繋がらない。

 金田さんと高橋が帰ってくると、ゆったりしていた雰囲気がガラッと変わった。

 高橋は一旦メイクを落とされ、しっかりとメイクさんの手による化粧が始まった。

 メイクさんは、ベリーショートだったが、短い髪の毛にさまざまな色が付いていて、角度が変わるごとに不思議な色合いを見せていた。それと、メイクさんの耳には複数のピアスが、アシンメトリーにじゃらじゃらと付いていて、少し引いた。

 現時点ではこれ以上ハッキングは進められない。

 仕方なく、高橋のメイクを見ていると、メイクさんが一瞬俺を見てから言った。

「メイクが気になる? 後で君もしてあげるから心配しないで」

「えっ、俺はいいですよ」

 メイクさんは笑った。

「一応、君も舞台に上がるのよ、そのままでいいわけないじゃない」

「そういうものなんですか?」

「今日で、メイクに目覚めちゃったりしてね」

 ずっと高橋の方を見ながら、メイクさんはそう言った。

「それはないと思います」

「楽しみに待っててね」

 その間も、高橋はずっと無表情のままだった。

 部屋にノックの音がして、広報担当の警察官が入ってきた。

「サイズは二つ用意してきてます」

 そう言うと、今日の一日警察署長で着る制服を見せた。

「着てみて決めますし、場合によっては組み合わせます。両方お借りできますか」

「わかりました、こちらにかけておきます。警官の制服なので紛失すると大問題になるので、その点は……」

 金田さんが言う。

「承知しております。全員に向け、十分に言い聞かせておきます」

 広報の人が部屋を出ていき、メイクが終わると、部屋の中の仕切りの向こうに制服を持っていき高橋が着替えて出てきた。

「どお?」

「いいね」

 と、言ったり、拍手をしたりして、スタッフが反応する。

 金田さんが言う。

「やっぱり、この前の連ドラ『新米婦警物語』の長野A子より、高橋の方が似合うよな。高橋にやらせたかったんだが」

「ドラマみたけど予算がなかった感じですから、長野と高橋のギャラ差から考えて、ドラマ自体の制作出来なくなったとおもいます」

「いや、だから結構値引きしたんだがな……」

 金田さんは一旦、黙って間を作ってから言う。

「そろそろかな。全員、委嘱式を行うので、支度して移動」

 いよいよだ。

 ここでの俺の役割は、隙をみて、署内のネットワークに仕掛けをすることだ。

 今回は、RJ45型プラグを延長するエクステンダー型の通信盗聴ツールを仕掛ける。外したり付けたりする時間が掛かるが、クランプ型に比べてデータが正確なのが強みだ。クランプ型は、洗濯バサミのようにケーブルを挟むだけだが、取得するデータの精度が悪すぎて、解析に余計な時間がかかるからだ。

 翔頭警察署は入り口部分が広めで、駐車場より良いだろうとの判断で、委嘱式は入り口ホールで行われる。

 委嘱式の間、注意がそちらに向くから、俺がそこで通信盗聴ツールを仕掛けることになっていた。

 一階に降りると、撮影用の『ついたて』もすでにあって、マスコミもホールでウロウロしていた。

 俺は肩に腕章をつけ、一階の職員がいる側に回り込ませてもらった。

 机の上にあるノート型のPCは無線接続の可能性が高いので、ディスプレイとキーボードだけが机にある座席を見繕う。

 職員の動きや流れ、防犯カメラの死角などを考えながら、ターゲットを決めると俺はゆっくり移動した。

 広報担当がマイクを使って話し始めた。

「それでは本日、女優『高橋ひかり』さんの一日警察署長、委嘱式を始めさせていただきます。高橋さんはこの翔頭地域とゆかりが深く、本日の一日警察署長のイベントを快く……」

 警察の方にしては手慣れている、と俺は思った。

 全員の視線が高橋の方へ集まり、注意がそちらに向いた。

 俺はターゲットの机に近づいた。

「?」

 署の職員が俺を振り返る。

 付けていた腕章が目に入ったようだった。

「君、スタッフの人だっけ。俺のせいで見えないなら、前に行っていいんだよ」

「いえ、スタッフなんで、ここで大丈夫です」

「……」

 職員は俺をじっと見ている。

 鼻の根元、左目の側に特徴的なホクロがある。

 職員と言っても警察学校で学んでいるのだ。油断は出来ない。

 再び委嘱式の方を向いて拍手をしていたが、職員もこっちを意識しているだろう。

 俺は動くに動けなくなった。

 その時、ホールの端にいるメイクさんが目に入った。

 髪色やピアスなど、警察署にいるとかなり異質な容姿だ。

 俺は職員に気付かれないよう、静かにメイクさんに向けて手を振ると、メイクさんが大げさに反応してくれた。

 俺を意識していた職員の注意が、メイクさんのいるホールの端に移った。

 職員は、ホールの端に顔を向け、何かを探すように見回している。

 ここだ、と俺は思った。

 素早く机の下に潜り込み、イーサネットケーブルに継ぎ足しする作業を行なった。

 イーサネットのコネクタの爪が鳴らないよう、最新の注意を払う。

 作業が終わると、机から出て四つん這いで移動し、離れた位置で立ち上がる。

 スマフォを取り出し、接続状況を確認する。

 通信盗聴した内容はWiーFiで離れた位置から傍受することになる。つまり、この中で新しいWiーFiが立ち上がったようになる。

 通常、セキュリティが高い領域でそういった電波が発せられると、セキュリティシステムが電波を検知し、警告が発せられる。

 だが、ここはマスコミや一般市民も入れる入り口ホールだ。

 ここならそう言った新しい電波が発せられることが多いため、セキュリティを切っているはずだった。そうでもしないと、運転免許の書き換えをしに来た一般市民が持っていたWiーFiルーターに、セキュリティシステムが反応してしまう。

 偶然だったが、この警察署はハッキングしやすい好条件が揃っていた。

 接続を確認すると、俺は軽くため息をついた。

 目立たぬようその場で、高橋の委嘱式を見守ることにした。




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