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隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった  作者: ゆずさくら


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12/27

一日警察署長

 停学が解け、俺たちはまるで何もなかったかのように学校に通っていた。

 芸能人『高橋ひかり』の一日警察署長の話は、一気に話がまとまった。

 俺たちも急ピッチで準備を進め、ようやく明日の当日を迎えることになっていた。

 俺は教室に一人残ってPCを操作していた。

 突然、身体が反応した。

 俺は振り返ると、そこに高橋が立っていた。

「なんか言ってよ。急に振り返られると、びっくりするじゃない」

「すまん」

 やっぱり高橋だった。

 俺の身体が、フェロモンというか、匂いを感じているのか、それとも独特の息遣いが聞こえているのか、具体的な理由は全くわからない。ただ、高橋が近づくを身体が反応しているのだ。これは俺が勝手に覚えたのか、高橋にそうなるよう仕向けられたものなのか、それすらもよくわからない。

「準備できたわね?」

「ああ。今確認してた」

「先生に明日休むこと、伝えた? 私はいつものように封筒で渡してるけど」

 キーボードに触れていた指を止めて、返事をする。

「言われた通り申請したよ」

「じゃあ、明日よろしく」

 高橋が帰ろうとすると、角田(つのだ)がやってきた。

「よお、お二人さん。作ったファイルみてくれた?」

「ああ、見た。ありがとう」

 俺は角田が差し出す手を握り、握手をした。

「明日だな」

「ああ。平日だし、角田は大人しく学校に通ってくれ」

「マスコミもくるってことだから、気を抜かないでね」

「お前もな」

 高橋は自らの胸に手を当てて言う。

「マスコミがいるなんて、私にとってはいつものことなのよ」

 影武者のくせに、と俺は思う。

「さあ、一緒に帰るか?」

 俺たちは一緒に教室を出て、学校の外に出た。

 帰り道、ネカフェの前にくると、高橋が指をさした。

「すまん。俺は帰る」

 角田はそう言って手を振って去っていった。

「高橋はどうする」

「今日はやめとく」

 なんだろう。俺は妙に緊張し始めていた。

 分かれ道で立ち止まると、高橋が手を振る。

「住山」

「何?」

「……やっぱりなんでもない」

 高橋はそう言って背中を向けると、歩いていってしまった。

 高橋は何が言いたかったのだろう。

 いつもの学校帰りと違う緊張感の中、俺はそんなことを考え始め、よる遅くなるまで寝付けなかった。


 朝、俺は警察署近くのコーヒーショップでコーヒーを飲んでいた。

 今日は『高橋ひかりの一日警察署長』が行われるため、事務所のスタッフと合流する必要があった。スタッフの指定が、この店だったのだ。

 夜遅くまで起きていて、かつ、朝が早かったため、コーヒーに砂糖を入れずに飲んでいた。そもそも熱い飲み物が苦手な上、ブラックを飲みつけていなかったので、少しずつ、少しずつコーヒーを飲んでいた。

 そうやって待っていると、意識していないタイミングで呼びかけられた。

「住山」

「?」

「おはよう」

 呼びかけられた場所にいたのは高橋だった。俺は緊張と寝不足からか、身体がいつもと違う気がした。

 スーツを着た男性が高橋の背後から、近づいてきた。

「住山くんだね。ここは狭いから、あっちの席に移動しよう。まだ来てないスタッフもいるが、君には先に話しておきたい事がある」

 俺は言われた通り席を移動した。

 スーツの人は、金田というマネージャーさんで今回の一日警察署長を仕切ることになっているらしい。

 金田さんが警察と打ち合わせて、今日の流れを決めたのだということだ。

「君に先に言っておきたいことがある、今日、君が失敗しても事務所側は一切知らぬ存ぜぬを貫く。覚悟しておいて。いいね」

 俺は唾を飲み込み、頷いた。

 そう、ここは学校ではない。オイタが許される世界ではないのだ。

「あとはまあ、気楽に。進行表の通り、時間内に作業を終わらせてくれば、それでいい」

 俺も事前に進行表はもらっていた。

 言い終えた金田さんの表情が柔らかくなると、他のスタッフも感じたのか、席を移動してきた。

 金田さんを中心に、皆んなが雑談をしていると、スタッフが一人、また一人とやってきた。

「ちなみに、住山くん、今日の『一日警察署長』の主旨はわかってるかな?」

「『サイバー犯罪撲滅』と『地域の防犯強化月間』をアピールするためですよね」

 言いながら、皮肉な内容だ、と俺は思った。

 最後の一人がくると、簡単な打ち合わせが始まった。

 金田さんが仕切り、進行表を読み合わせながら注意点を指示していく。

「住山くんは、市民の人に説明するときの演出を手伝ってもらう」

 警察署の中にある小さなホールのようなところで、集まった人たちにサイバーセキュリティの必要性を訴えるらしい。

 高橋は一日警察署長なので警察官の役、一般市民役を事務所の女性スタッフが、ハッカー役を俺がすることになっていた。

「ここは『怪しいUSBメモリを挿したら危険だ』というシーンだ」

「あの、なんでエプロン付けてるんですか?」

「主婦を想定しているからだが?」

 ちょっとズレている。

「怪しいUSBを拾う主婦はあまりいないので、設定をオフィスにして、スタッフさんもOL風の格好をすることは出来ませんか?」

「わかった。朝の(うち)に先方の関係者と話をしてみよう」

 これが終われば、俺は署内で控室として使わせてもらう部屋にいればいい。

 その間にどれだけハッキングが出来るかが勝負だ。

 進行の確認が終わって、金田さんが言った。

「よし、時間になったら翔頭(しょうとう)署に移動しよう。それまで休憩」




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