次の作戦
ネカフェの中で、俺たちは『依田の勤務状況』のことを話していた。
口では依田のことを話しているが、俺は相変わらず、高橋(の影武者だが)に近づくと、身体が反応していた。
バレないよう、下は緩めのサイズを履くようになっていた。
すると、勤務状況のファイル上でマウスカーソルを動かしながら、角田が言った。
「直接的に『洗脳』を訴えても『特別教室』を止めさせられないなら、特別教室の主催である依田を直接的に追い込むしかないな」
「勤務状況からわかるのは、松田くんが亡くなった日の勤務状況が『怪しい』と言うことだけ」
高橋は冷静に内容を分析してそう言った。
「警察はどこまで調べたんだろう。練炭自殺するなら、練炭や睡眠薬を買っているはずだ。ネット購入にしろ実店舗で買ったにしろ、何か裏付けが取れているのかな」
「松田の家に言った時に知った内容だと、松田のポケットからレシートが出てきたって言ってる」
「それだけだとしたら……」
今時の店なら、レシートの番号から防犯カメラの画像を引き出すことぐらいできるだろう。それをやった上で、自殺と判断しているのか、ポケットに入っていた時点でそれ以上の追求をしていないのか。
「警察もグルってことは?」
俺の言葉に、高橋が反論してくる。
「遺書、レシート、学校での様子を依田が言った、と証拠が揃っていたら、捜査を省略してしまうのは、普通な事かもよ」
「俺は警察の持っている証拠が見たい」
角田の言い方からは『憤り』を感じる。
「角田、悪いがそう言う情報は公開対象じゃないからな」
「親族が申し立てても?」
「それはいけるかもしれないけど、家族の人を巻き込んでしまうのはどうなの?」
「なんとか警察に入れば」
俺が言うと、高橋はキーボードを触るような手つきをして見せ、
「入れば、ハッキングできるって?」
と言った。
高橋が首を横に振って、言う。
「そんなに簡単に警察署に入れれば苦労しないって…… 待って、良いこと思いついた」
「前科者になるのは嫌だぞ」
「まさか一日警察署長とか?」
角田の言葉を聞いて、高橋が指をさした。
「そう、それ。事務所から翔頭警察署に営業かけてみるわ」
角田が言う。
「一日警察署長って、警察署から持ちかけてくるんじゃないんだ?」
「普通はね。ギャラもほぼ無いに等しいから、名前が売れたタレントは普通は受けないの。だから逆に、事務所側からボランティアで、と持ち掛ければイケる可能性はある」
どういうつもりでその話をしているのか、半信半疑の俺は言う。
「高橋、ちょっと甘く考えてない? 一日警察署長だって、捜査資料に触れられる訳じゃない」
「あなたたちをスタッフに仕立てて、署内に導くことは出来るわよ」
「警察の監視下でハッキングしろってのか」
「自分で『中に入れれば』って言い出したんでしょ? 今になって自信がないとかほざくなら止めとくわ」
プライドを傷つけられた。
だが、カッとなって根拠なくものを言うと失敗する。
俺は必死に冷静さを保つよう、自分に言い聞かせた。
「入るだけ入ってみよう。本当にやれるかどうかは、当日決めよう」
「じゃ、話進めちゃうわよ」
高橋はスマフォで事務所へ連絡している。
警察署側のイベント準備がすぐに終わるとは思えない。何ヶ月も先の話だったりすれば、俺たちは卒業してしまう。それじゃあダメだ。
卒業してまで、この話に付き合うか、と言われると、正直、俺の気持ちは微妙だった。
「何よ、角田」
「証拠品とか、そういったものって、全部画像データとか、電子データになってるのかな」
「どうなの、住山」
「電子データになってなかったら、直接資料倉庫まで入って、写真撮ってくるしかない」
俺が言うと、角田は視線を逸らした。
「気楽に言ってくれるな、それは誰が写真撮ってくるって言ってんだよ。俺は警察署の中でウロウロするのは嫌だぞ」
「わかった。角田は『一日警察署長作戦』からは外れて。私と住山でやるから」
「まじか」
角田はほっと胸を撫で下ろした。
「警察署に入る前の準備だけ手伝って」
「ああ、協力する」
角田はそう言うと、安堵したように壁に背中をつけ、天井を見つめた。
俺と高橋だけで出来るのだろうか。なんでこうも簡単に高橋は角田を外したのだろう。何か理由があるような気がしてならない。
当然、高橋のスタッフとしては俺だけではなく、何人かがくるだろう。
俺のハッキングがバレたら事務所ごとヤバいことになりかねない。
匿ったら匿ったで問題になるだろう。
絶対に失敗できない。
少しでもヤバい時は絶対に手を出さない、と言う割り切りが必要だ。
「松田の無念を俺の手で晴らせないのは悔しいけど、仕方ない」
「帰るの?」
「ああ、作戦の準備で必要だったら言ってくれ」
角田は自分で持ってきた飲み物を飲み干すと、コップを持って出て行ってしまった。
「おい。一人抜けたぞ。どうするんだよ」
「人数が多いほど失敗する確率は上がるのよ。初めに戻っただけ。私たちでやるしかないじゃない。もし、依田が自殺に見せかけて生徒を殺したのだとしたら、絶対に許されることじゃない。他殺の可能性を無視して捜査をしなかった警察も同罪よ。正義は私たちにある」
「正しいやり方ではないがな」
俺は、自分のノートPCを出した。
「ねぇ、近辺のホームセンターの映像を見れない? 松田くんが自殺した日のレジの防犯カメラ映像」
「裏どりをしておく、と言う意味か」
「そう。そもそも松田くんが買ってないなら自殺じゃないでしょ」
ネカフェのネットに繋ぐと、翔頭近辺のホームセンターを検索した。
俺はその店名を裏サイトから探す。
専用に引いたから絶対に外につながっていない、と思っている連中はお気楽だ。
ハッキングする連中は、ただ調べるだけでなく、いつの間にか外に繋がる穴を開けたりしている、その穴は、見たい入りたいイジりたいと言う連中にこうやって公開されているのだ。サーバーが重いな、と感じたら疑ってみたほうがいい。
俺は狙ったホームセンターのシステムに侵入した。
「ちょっとみてみるか」
俺はデータを引き抜くと履歴を消して接続を切った。
そして松田の顔画像が引っ掛かるか、スクリプトを使ってファイルを舐めた。
「ない」
「じゃあ、依田は?」
俺は再びスクリプトを起動してファイルを舐めた。
松田も、依田も、様々な角度から見た画像を使っている。それら全てを通しても引っかからないとしたら、おそらく人の目で見ても同じだろう。
「ないな。自殺した当日に買ったのではない、と言うことは?」
「……」
高橋は顎の先を指で触れながら、首を傾げた。
「まるで本人が買ってきた証拠のように、練炭を買ったレシートが車の中にあった訳でしょ」
「全然違う日付だったらわからないよな」
「レシート見れば日付ぐらいわかるわよね」
日付が分かったとしても、店舗側の監視カメラ画像が残っているかわからない。
俺は慌てて店のシステムに入り直した。
「どうするの?」
「何日前まで画像が残っているのか、とか、もし消えて行くのだとしたら先に取っておかないと」
「店舗から映像が消えていたら事実だとしても『証拠』にならないんじゃ?」
確かに高橋に言う通りだ。
だが、事実関係を追う際、確実に分かっている事象がないよりましだ。
「とにかく、消えないうちに古いのを取り出しておくよ」
「任せるわ」
「一日警察署長の作戦はどうする?」
俺は店舗から抜き出すファイルの進捗状況を確認しながら、そう言った。
「事務所の人と、計画の骨子を作ってくるから、それから考えましょ」




