流行らない動画
俺たち三人の停学理由は、学校の器物を破損したという理由だった。
確かに白い塔に侵入する際、内側にあった指静脈の認証装置を壁から外してしまった。
三人とも監視カメラにバッチリ映っていたし、それは仕方ないことだった。
だが、それだけだった。
俺は確実に白い塔にあるサーバーからデータを取り出した。
だが、停学の理由に
『データをハッキングした』
と言う項目は一つも入っていなかった。
こっちから『ハッキングした』と言うのを待っているのか、それとも『ハッキングした』場合、もっと重い処分、つまり『退学』とかになってしまうから、敢えて出さなかったのだろうか。
それとも、もっと別の理由があって『ハッキングされた』と言えないのだろうか。
そんなことを考えながら、家でネットの掲示板などで情報を漁り、部屋で過ごしていた。
スマフォにメッセージが入った。
『住山、いる?』
高橋からのものだった。
『事務所のタレントが、私たちの動画について、それとなく触れて、バズるかと思ってたんだけど、あんまりコメントもつかないし盛り上がらないの。何かわかる?』
俺は分からない、と返し、調べてみる、と書き込んだ。
学校が主体となって、教師の思想を押し付けているのだ。かなりショッキングな動画として、社会が受け止めるかと思っていた。再生回数自体は多い。コメント欄も封鎖してない。それなのに、誰も学校を批判しないと言うことがありえるだろうか。
俺は疑問を感じ、動画を別のアカウントからアクセスしてみた。
すると、動画が『権利者からの申し立てで、削除されている』ことになっていた。
まさかと思ったが、俺たちの身内だけ見ることが出来ていて、実際、パブリックには公開されていないという状況になっているのだ。
この状況は初めてみた。
動画を上げ直すか…… 俺は二人に相談した。
『学校のHPみたか? 特別教室に対しての批判が一部あるが、でっちあげで事実と異なる、と書いてある』
『英訳して海外のサーバーに動画をアップする手もあるけど、特別教室の洗脳の件はあまり効果がなさそうね』
じゃあ、どうしろって言うんだ。
『住山が取ってきたファイルに勤務表があったわよね。以前取った学校側の勤務表とは微妙に違う内容だったわ』
『それが何になるんだ』
『私が気になるのは、松田くんが自殺した日の、依田の勤務状況よ』
俺は別のファイルを指してメッセージする。
『白い塔の入退室履歴もあるぞ』
角田から当日の日付を聞いて、俺は『白い塔』の入退室履歴を追った。
『夕方、松田が出て行った直後、依田も塔を出ているな』
『待って、その日、依田の授業は午後半休ということになっているのよ。学校側の勤務表は一日中いた事になっているけど』
『怪しいな。授業が終わった時間なら、別に外に出てもいいだろう。一度集まれないか』
『いいわよ。先に行って部屋、取っておくから』
午後、授業が終わったタイミングで、俺たちはいつものネカフェに集まった。
最初に高橋がいて、俺が次に入った。
すぐ後から、角田がやってきた。
「もう住山も来ていたのか。本題に入る前に、聞いておきたいことがあって」
「なんだ?」
俺がそう言うと、角田は首を横に振った。
「お前じゃない。高橋だ。白い塔に潜入した時、逃げ場がなかった俺を、高橋が助けてくれたんだ」
「……」
「廊下にスモークを充満させ、学生警備隊の視覚を奪って、天井裏に俺を引き上げた」
俺は言われたままの状況を想像した。
「まるでそういう訓練を受けているように思えた。高橋、お前、一体何者なんだ? 本当にテレビで見ている高橋なのか?」
俺は別の情報を持っていた。
事務所が雇った影武者としての『高橋ひかり』の情報だった。
別の名前、別の経歴を持っているのに、まるで双子のように似ている二人。
事務所は二人ともスカウトして、世間の目に触れないよう隠密に育てられた。
高橋はなんと言い訳するのだろう。
俺は黙ってみていた。
「別名義で出演したアクション映画があって」
俺は記憶を辿るが、その映画のタイトルは思い出せない。
「やたら本人にやらせたがる監督で、忍者のようなことをなん度もさせられたのよ。その時いろんなことを覚えちゃったの」
確かに映画はあった。だが、それはこの影武者の『高橋』が出た映画だ。
そもそも訓練自体は、影武者に習わせていた項目を見れば明らかだ。
ここにいる『高橋』には、まるで現代版忍者のような訓練をさせているのだ。
隠密行動はそこで身につけたに違いない。
「そうなんだ。やけに手慣れていたから」
「私も本題に入る前に、聞いておきたいことがある」
高橋が俺を向いた。
「住山が伊達メガネになった訳」
「俺は知りたくないが」
「本人は話したがるんじゃない?」
なんでそんな話を振るんだ。
おそらく高橋は、ここで俺がその話をすれば、角田が映画の話を忘れるか、印象が薄れると思っているのだ。
高橋のアシストをする為にも、辛くても、ここは話さなければならない。
「別に話したがっている訳じゃないんだが、話すよ」
角田が笑った。
「やっぱり話したいんじゃないか」
俺はおもむろにメガネを外した。
「意外とイケメンなんだな」
「……それが嫌だった」
「?」
角田は首を傾げる。
陽キャの角田には分からない心理だろう、俺はそう思った。そして自身の過去を振り返りながら、話を始めた。
自意識が芽生えた頃から、俺はパソコンに夢中だった。
積み木を与えられたり、落書き帳にお絵描きする頃から、俺はマイコンやPCに触れていた。
触る対象は、おさがりのPCでも、ラズベリーのような小さなマイコンでも、俺に取っては何でも良かった。子供が積み木やおもちゃ、小学生がスマフォやテレビ、ゲーム機に触れる前に、俺はコンピューターに夢中になっていた。
中学に上がった時、俺は学校でPCに触れている仲間を求めた。
その時、偶然出会ったその仲間が悪かったのだ、と今では思う。
「お前、イケメンだから俺たちに話しかけてくるな」
俺は自分の顔について、初めて意識をした。
顔でPCを操作するものではないのに、なぜそれが関係するか分からなかった。
PCの知識ばかり求めてきた俺は、中学生としての常識が、他人と違いすぎたのだ。
どうしても仲間に入れてもらえなかった俺は、服装や髪型を変えた末にメガネを掛けた。
メガネをすると、他人に笑われた。
俺が求めていた仲間が、そこでようやく受け入れてくれた。
ずっと一人だった俺は、その時初めて仲間ができた喜びを知った。
知識は与えることの方が多かったが、仲間からは、学ぶ機会を失っていた一般的な常識を得た。
それからと言うもの、俺はメガネを外すことはなかった。
メガネを外せば、仲間外れにされるからだ。
メガネは外さなかったが、高校で新しい仲間を作ることはなかった。
今までの仲間とオンラインで繋がっているし、そこからのつながりもある。だから、それ以上、広げる必要はなかったのだ。
「学校やバイト、企業の面接とかだと、不細工だと不採用になるんじゃねぇの?」
「学校は試験が良ければいいだろ? 残念だが、バイトや就職はしたことはないから」
高橋は俺のメガネを掛け、スマフォで自撮りしながら言った。
「そういうの、漫画とかではあるけどね。目立ちすぎてイジメられる女子が、メガネをかけたりするでしょ。逆もね。普段目立たない、と思っていた娘が、メガネをポロッと落とした時に、美少女だと知れてしまう、とか」
「……顔が良いにしろ悪いにしろ、仲間に入れてもらえないのは辛い」
角田は何度も頷いていた。
「本当は、目立つものがはじかれる社会の方がおかしいと思うけどな」




