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ヵラガラ 横丁  作者: ヘヨカ
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第七話 唐草と水玉


 夜の帳がさらに深く、どこまでも静かな藍色の底へと世界を沈み込ませていくころ、カラガラ横丁の空気は、まるで冷えたガラスの瓶に閉じ込められた月の光のように、ぴんと張り詰めた透明度を帯びていました。

 ネッシー王女のゆっくりとした尾のひと振りに合わせて、街の足元はかすかに、しかし途切れることのない確かな波のビートを刻み続けています。その巨大な体は夜の海を切り裂きながらも、頭上の小さな街を決して揺らしすぎることはありません。王女の皮膚を撫でて流れる潮風には、かすかに摘みたてのハッカの香りと、遠い海底から這い出してきたばかりのような湿った泥の匂いが混ざり合っていました。

 スウは、自分の小さなフウセンキノコの家のベッドにもぐり込むのをすっかり忘れてしまい、家の外、丸い屋根のすぐそばに広がる苔の絨毯の上に、大の字になって寝転がっていました。見上げる夜空には、人間の歴史よりもはるか昔から変わることのない星々が、まるで水底の砂金のように冷たく、けれど鮮やかに瞬いています。

 スウの小さな胸元では、あの青い水玉模様の硝子ビーズが、まるで小さな生き物の心臓のように、かすかな、けれど確かな温もりを放ち続けていました。それは夜の冷気の中でも決して冷たくならず、触れているだけで胸の奥がじんわりとほどけていくような、不思議な優しさを湛えたガラスでした。

「ねえ、長老……」

 スウが暗闇のなかに向けて、ふと小さな呟きを漏らしました。

 その声に応えるように、王冠の中央、広場の真ん中に鎮座するポロット長老のダイヤモンドの体が、夜の闇を内側から透きとおらせるようにして、青く澄んだ光を優しく瞬かせました。

 長老には目も口もありません。手足を広げて抱きしめてくれるわけでもなければ、人間の言葉で「よしよし」と慰めてくれるわけでもありません。幾何学的なカット面を持つその巨大な結晶は、ただそこに静かに在るだけで、冷たくて残酷なだけのこの世界が、本当はもっと美しく、光に満ちた場所であるということを無言のまま証明していました。

 スウが胸元の水玉硝子をそっと指で転がすとき、いつも思い出すのは、あの旅人の姿でした。

 少し離れた場所——街のいちばん端、黄金の王冠の淵にしっかりとペグを打ち込まれた「ひっくり返した船のテント」の影から、ふわりと一筋の薄紫色の煙が立ち上っていました。

 テントの入り口の小さな丸太に腰掛けたカタメは、目深にかぶったつばの広い帽子の下で静かに片目を閉じ、長管の煙管を指に挟んでいました。彼の胸元に下げられた小さな硝子細工には、繊細で美しい唐草模様が焼き付けられています。その唐草模様は、スウの胸にある水玉模様と対をなすように、ひそやかに青く濡れた光を放っていました。

 カタメはめったに言葉を口にしません。その佇まいは、いつだって静寂そのものであり、どこか遠い世界の悲しみや、誰も知らない過去の重みをひとりで背負っているかのような、孤高の旅人の影をまとっていました。

 けれど、そのカタメの胸元にある唐草模様の硝子と、スウの水玉硝子、そして街の住人たちがそれぞれのポケットや首元に忍ばせている硝子の欠片たちは、目に見えない細い糸で、いつでもお互いを固く結び合わせていました。

 それらの硝子は、ただの綺麗な飾りなどではありませんでした。

 どれほど夜が深くても、周囲に誰もいないような孤独に襲われたとしても、同じ風を感じて互いの存在を確かめ合える——それらは、この不確かな世界で決して迷子にならないための、そして決して孤独にならないための、かけがえのない「繋がれる絆」そのものでした。

 カタメは煙管の吸い口からふわりと白い煙を逃がすと、言葉を発する代わりに、その唐草模様の硝子にそっと指先を触れました。

 一瞬の静寂のあと、スウの胸にある水玉硝子がぽっとあたたかな温度を持ち、スウの頭の中に直接、カタメの静かな声が響いてきました。

『……夜がどんなに深くてもな、スウ。光を宿した硝子は、決して冷たくはならないのさ。僕たちはいつだって、同じ空の下で、同じ温もりを抱きしめているんだから』

 スウはその声を聴きながら、胸元の水玉硝子を両手でぎゅっと握りしめました。

 小さな体の隅々まで染み渡っていく温もりの中で、スウはそっと目を閉じました。今、この瞬間に互いの存在を硝子の糸で確かめ合えること。遠くにいるカタメも、広場にいる長老も、そして不器用なモンも、穏やかなマダマダも、みんな同じ王女の背中に乗って、同じ波の音を聞いているということ。それだけで、街の夜は十分に美しく、満ち足りていました。

 王女の長い首がゆっくりと優しくうねり、ハッカの香りの夜風が、カラガラ横丁の丸い屋根たちをそっと包み込んでいきます。

 誰も置いてけぼりにしない街は、確かな絆という名の光を胸に抱きながら、静かな夜の海をどこまでもまっすぐに、未来へと進んでいくのでした。

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