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探求と十字架

「コンパクトに戦え、か……。何で、こんなことになったんだろうね」


 サイアスは会話のようでいて、その実、会話になっていない自問自答を続ける。


「当主とは何か……。民に尽くすのが当主か、それとも当主に尽くすのが民か……」


 その民に手をかけたのは、間違いなく自分自身だ。答えの出ない自問自答の最中に起きた悲劇。


「一度振り切れた天秤は、簡単には戻せない。私は、私に逆らう者を許せない。……もはや理屈でも、感情ですらないのだ」


 サイアスの言葉にベルルが答えることはなかった。ただ一つ、肌を刺す殺気から直感する。

 ――来る。


 戦いは、火花を散らす至近距離の剣戟けんげきへと移った。

 サイアスが放つ力任せの重い一撃を、ベルルは短剣で滑るように受け流していく。


(高い出力、そしてそれを支える無尽蔵の魔力総量。……まるで、叩きつける滝そのものだ)


(何故だ……何故、手応えがない!)


 サイアスの攻撃は、膨大な魔力に裏付けられた苛烈なものだ。だがベルルを相手にすると、まるで空を切っているかのような錯覚に陥る。

 その激しい攻防の果て、サイアスがわずかに見せた隙をベルルの「一閃」が射抜いた。


「――”迅雷剣”!」


「ぐあああっ!」


 サイアスは苦し紛れに魔力を放出したが、ベルルの剣筋は、その魔力砲撃ごと彼を切り裂いた。


「――”起源オリジン”、解放」


 起源。それは原初の瞬間に刻まれた、魂の方向付け。

 あらかじめ定められた物事の本質。素質や才能とも言い換えられる、生まれ持った祝福。


「与えられし起源の名は――”神秘の探求者アルカーニー・エクスプローラートル”」


 起源を明かすことで精神のリミッターを外す「起源解放」。

 それにより、ベルルはこれまで内側に封じ込めていた真の魔力を解き放った。


「真の魔術師は、自身の魔力を起源の言葉で律し、封じ込めるもの。貴方のように、無秩序に垂れ流したりはしない」


 ベルルの起源は「探求」。

 わずかな足跡から真実を導き出すその才能は、行方不明のアレクシスを捜索する際にも、そして今回の事件で誰よりも早くサイアスを捉えた際にも発揮されていた。


「くっ……!」


 サイアスは再び魔力砲撃を放つ。だが、ベルルは指先一つ触れることなく、それを霧散させた。

 魔術とは神秘そのもの。手品と同様、種が明かされればその権威は失墜し、効果は激減する。

 解析を旨とするベルルの才能は、魔術師として超一流であると同時に、あらゆる魔術的事象にとっての「天敵」であった。


「うああああ!!」


 逆上したサイアスが何度も魔力を叩きつけるが、すでに構造を解体された攻撃は、ベルルの肌をかすめることすら叶わない。


「悠久の彼方、常世とこよの前。矛盾を抱えたまま、その十字架を背負って生きなさい。――”ポゼッシブ・クロス”」


 光り輝く魔力の十字架が、サイアスの四肢を縛り上げる。

 それは、対象の魔力を強制的に引き出し、空になるまで封じ込める非情な拘束術であった。

 サイアスの魔力が尽き、サイアスは力尽きるように気を失った。


――――



 無惨に崩れた山を下りきると、麓の集落ではワルターさんと師匠が待ち構えていた。

 近辺に「竜」が現れたようだが、二人の手によって既に討伐は完了しているようだった。

 

「お疲れ。……無傷で済んだようだな」


「どっちのことを言っているんです?」


 ワルターさんに軽口を返したが、隣に立つ師匠は射抜くような、本気の目を向けていた。

 

「ワルターさん、あの人は最後に正気を取り戻しました。瀉血のように余剰な魔力を抜き去ったら、あとは自力で戻ってこれたようです。……どうやら彼は、治癒術師だったみたいですね」


 治癒術師。

 外傷の治療や解毒を専門とする魔術師。そのアプローチは多種多様であり、一家言ある治癒術師の家系も存在する。

 生きた人間の肉体に直接魔術を干渉させることは極めて難易度が高く、かつ危険を伴うため、彼らには厳格な適性と国家資格が求められるのだ。


「治癒術師か。それが合法かどうかは後で調べておくとして……殺さずに済ませたんだな」


「ボクを貴族殺しの罪人にしないでくださいよ。彼なら、安全な場所で寝かせてあります。このままだと風邪をひくかもしれませんが」


 ボクは、サイアスを殺せなかった。

 相手を無力化するための手段が戦闘であり、他に術がない時に選ぶのが、殺人。

 ボクの言葉を聞いたワルターさんは、すぐさま部下をサイアスの回収に向かわせた。

 

「師匠が教えてくれた魔術があるから、ボクには選べる手段がたくさんあるんです」


「……」


 師匠はそれ以上何も言わなかった。

 けれど、その眼差しには確かな温度があった。


「――帰りましょうか」



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