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第49話:染み抜きの三本目と、エステの文官補

 朝、手袋を嵌める前に、手を見た。


 白い指だ。


(今日は、三本目の照合ですわよ。……ガルベス子爵の証言、カラミ様の台帳、フロード補佐官の財務記録差分。三本が揃えば、J-3「セドゥン商会の送金先」が完全な形で見えてきますもの)


 指先が、少し冷たい。


 打ち消さなかった。


 手袋を嵌めた。


* : *


 書斎に入ると、シリルが机の前に立っていた。


 昨夜の照合記録が、今朝の書類の中に整然と並んでいる。


「おはようですわよ、シリル」


「おはようございます、お嬢様。……今朝、フロード補佐官からの書状が届いています」


「内容は」


「財務記録差分の追加資料を、今日の午前中に届けられるとのことです。……昨日こちらから三本目の照合依頼を送りましたもの。補佐官が動いてくださいましたよ」


(速いですわよ、補佐官は。……昨日の依頼に、今朝の段階で返答が来るということですもの。王城の中で一人で不正と戦っていた人間の動き方は、こちらの動きを受け取ってから対応が早いですわよ)


「午前中に届くということでしたら、その前に台帳の該当部分を改めて確認しておきますわよ」


「カラミ様に声をかけますか」


「ええ、一緒に確認していただきますわよ」


 扉の向こうに、シリルが声をかけた。


* * *


 書斎のテーブルに、カラミ様の台帳の複写が広げられた。


 昨夜確認した七点一致の箇所に、細かい付箋が貼られている。シリルが昨夜のうちにつけたものだ。


(昨夜の夜遅くに、三時間しか眠らないあの従者が、ここまで整えましたわよ。……呆れますもの。悪い意味ではありませんわよ)


「カラミ様、昨夜の七点一致の箇所について、今日の照合のために改めて確認させてくださいまし」


 カラミ様が、台帳の付箋の箇所を開いた。


「この七点は、全部セドゥン商会名義の送金が確認できる行ですわよ。金額と日付が、ガルベス子爵の証言した時期と重なっています」


「空欄の期間は——二年前からでしたわよね」


「はい。……七点のうち、五点が空欄になる前の記録で、残り二点が空欄期間に入る直前のものです」


(五点と二点ですわよ。……空欄になる前後で、記録の形が変わっていますもの。二年前に何かが起きて、受取商会名を消すよう指示が来た。その指示がエストから来たということが、昨日分かりましたわよ)


「空欄期間の直前の二点は、金額は分かりますかしら」


「……こちらです」


 カラミ様が、二行を指で示した。


 金額の列に、数字が入っている。


(昨日より少し大きな金額ですわよ。……空欄になる前の最後の二点が、それ以前より金額が増えていますもの。これは、何かが起きる前に送金量が増えたということかもしれませんわよ)


「シリル、この二点の金額を、今日の財務記録差分との照合対象に追加してくださいまし」


「既に追加しています」


(当然ですわよ)


* * *


 フロード補佐官の書類が届いたのは、午前十時を少し過ぎた頃だった。


 王城の使い走りではなく、補佐官付きの文官が直接持参してきた。


 シリルが受け取って、書類を確認した。


「財務記録差分、三年分です。……セドゥン商会に関連する取引の記録が、全部抽出されています」


「何件ですかしら」


「二十三件です。……カラミ様の台帳と照合するには、金額と日付の両方を当てていく必要がありますもの」


「始めますわよ」


 書斎のテーブルに、台帳の複写と財務記録差分を並べた。


 照合は、シリルが金額と日付を声に出し、カラミ様が台帳の対応する行を確認する形で進めた。


 私は照合の結果を書き取りながら、パターンを確認した。


(一件目、一致。……二件目、一致。三件目——一致ですわよ。ガルベス子爵の証言、カラミ様の台帳、フロード補佐官の財務記録差分。三本が、同じ取引を別の角度から示していますもの)


「シリル、何点一致しましたかしら」


「今のところ、十一件です。……二十三件のうち十一件が、三つの資料で同時に一致しています。残り十二件は、台帳の空欄期間に重なっているため、台帳側での確認ができないものですよ」


(十一点の三本一致ですわよ。……七点の二本一致が昨日でしたもの。今日は十一点で三本が揃いましたわよ。偶然では、この数は出ませんもの)


「カラミ様、今日の十一件は法廷で使える形になりますかしら」


 カラミ様が、少し間を置いた。


「……私が証人として立って、この台帳が私の手で作ったものだと証言すれば、使えると思います。受取商会名として「カラミ商会」が入っている行も、自分で書いたと説明できますもの」


「自分の名前が入っている台帳を持ってきて、証人として立つということは、覚悟がいりますわよ。……無理を言っているとは分かっていますもの」


 カラミ様が、少し顔を上げた。


「……逃げられなかったから記録が残った、とおっしゃっていましたわよね、昨夜」


「ええ」


「逃げられなかったなら、その記録を使い切ろうと思います。……七年間持ち続けたものが、今日ここで三本の一つになったということですもの」


(受け取りましたわよ。……カラミ様が、今日自分で言ってくださいましたもの。昨夜私が言ったことを、今朝ご自分の言葉に変えてくださいましたわよ)


 右手の指先が、少し冷たくなった。


 打ち消さなかった。


(汚れを道具に使われた人間が、その道具を証拠として使い切ろうとしていますわよ。……これが、焼却ではなく分別を選ぶ理由ですもの。燃やしてしまえば、カラミ様ごと消えてしまいますわよ)


* * *


 照合が終わった後、シリルが書類をまとめながら言った。


「J-3「セドゥン商会の送金先」の完全回収に向けて、本日の三本一致が決定的な一手になりますよ。……送金先がカラミ商会であること、そこからドレインの経路に流れていたこと、ガルベス子爵がそれを知っていたこと。三つが一つの事実として示せる形になりましたもの」


「残りの課題は何ですかしら」


「二点です。……一点目は、送金がカラミ商会から先にどこへ流れたかの確認。これはフォル・ネビュラのセドゥン商会倉庫の物流記録を回収しなければ、完全には分かりませんもの。二点目は——」


 シリルが少し間を置いた。


「二点目ですかしら」


「エステ文官補の件ですよ。……D-3「王城の内通者」の別経路候補として、昨日の段階で調査申請を入れていましたもの。本日の午後、申請の結果が王城から来る予定です」


(エステ文官補ですわよ。……マールス上席侍従の証言の中に、もう一本の情報経路として名前が出てきた人物ですもの。ガルベス子爵の屋敷と往来があった記録があって、審議停止の日の朝に早朝登城が確認されたということでしたわよ)


「午後に結果が来るということでしたら、今日の午後はそちらに使いますわよ」


「承知しました。……その前に、今日の照合記録を整えて、フロード補佐官への報告書面を作成します。補佐官が動いてくださった三年分の財務記録に対して、こちらの照合結果を返すということですもの」


「補佐官には、今日の照合で三本が揃ったということをお伝えしてくださいまし」


「はい。……補佐官が、これを聞いた時どんな顔をするかは分かりませんが、報告書面は丁寧に書きますよ」


(フロード補佐官は、王城の中で一人で動いていた人間ですわよ。……今日の三本一致は、その補佐官の財務記録差分がなければ出てきませんでしたもの。補佐官の一本が、今日の決め手でしたわよ)


* * *


 午後の二時頃、王城からの書状が届いた。


 シリルが確認して、書斎に持ってきた。


「エステ文官補の調査申請の件ですよ。……審議停止の日の朝の早朝登城について、王城の記録で確認が取れたとのことです」


「確認が取れた、ということは」


「はい。……エステ文官補が審議停止の日の朝、通常より二時間早い登城をしていたことが、入門記録で確認されました。さらに——」


 シリルが書状を少し立てた。


「その同じ日の前日の夕刻に、ガルベス子爵の屋敷への訪問記録が残っているとのことです。エステ文官補自身は「個人的な知り合いの屋敷を訪ねた」と説明したそうですが、その説明のみで現段階では証拠として不十分ということです」


(個人的な知り合い、ですわよ。……ガルベス子爵の屋敷を訪ねた翌朝に、二時間早く王城に来たということですもの。審議停止の情報が、どのタイミングでどこへ流れたかを考えると、この流れは自然ではありませんわよ)


「まだ証拠として不十分ということですかしら」


「はい。……訪問の事実と早朝登城の事実は確認できていますが、情報を流したという直接の証拠が出ていないということです。王城の調査委員会の範囲に含める申請は通っているので、今後の委員会の調査で浮かび上がる可能性がありますもの」


(委員会に任せるということですわよ。……エステ文官補という埃は、今急いで拭っても散りますもの。委員会という掃除機が動き始めた以上、自然に吸い込まれる形を待つ方が確実ですわよ)


「シリル、この件はフロード補佐官に委ねますわよ。……委員会が調査を進める中で、エステ文官補の件も一緒に整理されていきますもの。こちらが急いで手を出す場面ではありませんわよ」


「承知しました。……ただし、一点だけ確認させてください」


「どうぞ」


「エステ文官補が、委員会の調査に気づいて情報を消す可能性はありますかしら」


(消す可能性、ですわよ。……埃が、掃除機の音に気づいて逃げるということですもの)


「ありますわよ。……でも、早朝登城と屋敷への訪問は入門記録に残っていますもの。消せない記録が、すでに二点ありますわよ。記録を消そうとする行為そのものが、後から新しい証拠になることもありますもの」


「なるほど。……では、泳がせる、ということですね」


「今は、そうですわよ。……細かい埃を追いかけるより、委員会という仕組みに流させる方が、丁寧な処理ですもの」


(委員会という排水管に、エステ文官補という小さな埃を流すということですわよ。……今日の段階では、それで十分ですもの。大きな澱はガルベス子爵という形で処理場に向かいましたわよ。細かい埃の処理は、仕組みに任せますわよ)


* * *


 夕刻前に、今日の整理をシリルとした。


「今日の動きを確認しますわよ」


「はい。……一点目、フロード補佐官の財務記録差分との照合完了。二十三件中十一件が三本一致で確認。J-3「セドゥン商会の送金先」の完全回収に向けた決定的な照合が終わりました。二点目、フロード補佐官への報告書面の作成と送付完了。三点目、エステ文官補の調査申請の結果を受け取り、委員会調査に委ねる判断を確定。三点が、今日の一日ですよ」


「昨日より少ない動きですわよ」


「はい。……でも、昨日の照合が今日の三本一致に繋がっていますもの。今日は昨日の積み重ねの上にある日でしたよ」


(一日に一点ずつ積み上げているということですわよ。……ガルベス子爵の取調べ初日から数えると、何点積み上げたかですもの。証拠の数が、日を追うごとに増えていますわよ)


「次は、フォル・ネビュラですわよ」


 シリルが少し間を置いた。


「……J-3の残り一点と、G-1「L」の正体確認ですね。フォル・ネビュラへの再訪が、次の大きな一手になりますよ」


「セドゥン商会の倉庫の物流記録を回収して、カラミ商会から先の送金先を確認しますわよ。……それが出れば、J-3が完全に閉じますもの」


「出発のタイミングはいつ頃を考えていますかしら」


(いつ頃、ですわよ。……ガルベス子爵の取調べはここまでで一段落ですもの。委員会が動き始めた以上、王都の処理は委員会に委ねられますわよ。エステ文官補の件も委員会に任せましたもの。王都でこちらがやらなければならないことが、今日で一区切りつきましたわよ)


「明後日には出られますわよ。……準備を始めてくださいまし、シリル」


「承知しました。……経路の確認と荷の準備を、今夜から始めます。カラミ様に同行いただく件も、今夜ご確認しておきます」


(カラミ様には、フォル・ネビュラへ一緒に来ていただく必要がありますわよ。……現地の地理と倉庫の場所、チェルマ・ヴォースとの接触。全部、カラミ様の存在が重要ですもの)


「カラミ様に、フォル・ネビュラへの同行について、今夜お話ししますわよ」


「承知しました」


* : *


 夕刻になって、カラミ様に声をかけた。


 小さな書斎の椅子に向かい合って座った。


「カラミ様、一つお願いがありますわよ」


 カラミ様が、少し表情を変えた。


「フォル・ネビュラへの同行ですか」


(気づいていましたわよ。……早いですもの)


「ええ。……明後日に出発しますわよ。セドゥン商会の倉庫の物流記録の回収と、チェルマ・ヴォースとの接触が目的ですもの。カラミ様がいなければ、倉庫への経路も、チェルマさんとの接触も、難しいですわよ」


 カラミ様が、少し間を置いた。


「……七年ぶりになります」


「怖いですかしら」


(怖いかと聞くのは、余計なお世話かもしれませんわよ。……でも、七年間いたことのある場所に、今度は別の立場で戻るということは、簡単なことではないはずですもの)


「怖い、というより……」


 カラミ様が、少し目を細めた。


「台帳を持ってきた時と、同じ気持ちかもしれません。逃げられないから、向き合うということです」


(受け取りましたわよ。……カラミ様が、また自分の言葉で答えてくださいましたもの)


「ありがとうですわよ、カラミ様。……では、明後日の出発に向けて、荷の準備をしてくださいまし。シリルが経路の詳細をご説明しますわよ」


「分かりました」


* * *


 夜になった。


 書斎のランプの下で、今日の一日を頭の中で整理した。


(三本が揃いましたわよ。……昨日の二本から、今日の三本になりましたもの。十一点で、三方向から同じ事実が示された形ですわよ)


(フォル・ネビュラへの準備も始まりましたもの。……J-3の残り一点と、G-1「L」の正体。港の底に溜まった澱の最後の部分が、倉庫の中で待っていますわよ)


 右手の指先を、少し見た。


(今日も冷たくなりましたわよ。……カラミ様が「逃げられないから向き合う」と言った時ですもの。その言葉を聞いた後に、指先が冷たくなりましたわよ)


(逃げられないから向き合う、という理由で証言台に立とうとしている人間がいますわよ。……私は、逃げられないから掃除しているのか、それとも選んで掃除しているのかが、今夜少しだけ分からなくなりましたもの)


(打ち消しませんわよ。……今夜は、この問いを持っておきますもの)


 扇子を一度開いて、閉じた。


(でも今夜は、これ以上は考えませんわよ。……明後日、フォル・ネビュラへ出発しますもの。港の底の澱を引き上げるには、道具の手入れが先ですわよ)


* * *


 サロンに移ると、シリルがすでにランプを点けていた。


 テーブルの上に、今夜の用意が整っている。


「今夜のティータイムは何ですかしら」


「本日、王城に向かった際に補佐官付きの文官の方が、小さな包みを添えてこられましたよ。……補佐官からのご挨拶とのことで」


「補佐官から、ですかしら」


「はい。……開けてよろしいですか」


 シリルが包みを開けた。


 中に、乾燥した茶葉の袋が一つと、紙に包まれた薄い焼き菓子が数枚入っている。


「補佐官付きの文官の方の話では、この茶葉は「王城の記録室で長年飲まれてきたもの」だそうです。……記録作業が長引く夜に、補佐官が好んで飲んでいたものとのことで」


(フロード補佐官が、記録室で飲んでいた茶ですわよ。……王城の中で一人で不正の記録をつけ続けていた人間が、夜に飲んでいた茶ですもの)


「淹れてくださいまし」


 しばらくして、カップに注がれた液体は、落ち着いた濃い茶色だった。


 香りが、少し渋く、しっかりした印象の香りだ。


 一口飲んだ。


(渋みが、はっきりしていますわよ。……甘みを加えたくなる種類の渋さではなく、渋みそのものが主張している茶ですもの。長い夜に記録をつける人間が好む茶だと分かりますわよ)


「菓子は何ですかしら」


「薄焼きのクラッカーに、乾燥した木の実を散らしたものです。……王城周辺で作られているものだそうで、記録室の棚に常備しているとのことでした」


 一枚手に取った。


 薄く、歯応えがある。木の実の香ばしさが、渋い茶の後から来た。


(渋みの後に、香ばしさが来ますわよ。……順序が、今夜の一日と同じですもの。今日は最初に照合という渋い作業があって、最後に三本一致という実のある結果が来ましたわよ)


「シリル、補佐官への返礼をどうしましょうかしら」


「……フォル・ネビュラから帰ってきた後で、何か手配するのが良いと思います。今送るより、帰ってから「フォル・ネビュラでこのようなものを見つけましたよ」という形の方が、補佐官への報告も兼ねられますもの」


「良い考えですわよ。……そうしましょうもの」


 茶をもう一口飲んだ。


 今度は、渋みよりも、茶葉の深みが先に来た。


(同じ茶でも、二口目は少し違いますわよ。……慣れることで、渋みの奥に別のものが見えてきますもの。補佐官は、この茶を記録室で何年飲んでいたかですわよ。毎夜飲んでいれば、今夜の私よりずっと深みを知っていますもの)


「今日で、王都の掃除がひと区切りつきましたわよ」


「そうですね。……ガルベス子爵の証言三本、委員会の発足、エステ文官補の委員会への引き渡し。全部が今日でひと区切りになりましたよ」


「フォル・ネビュラでの掃除が、次の区切りですわよ。……港の底に溜まった澱を、ちりとりに収めてきますもの」


 シリルが、完璧な笑顔のまま言った。


「港の澱は、底から引き上げる前に、倉庫の鍵が一本要りますもの。……鍵はケルミ亭の宿屋にありますよ」


「チェルマ・ヴォースが教えてくれた鍵ですわよ。……七年前から変わっていないということですもの」


「七年間、錆びずにいた鍵ということですね。……使える鍵ですよ」


(七年間、誰も使わなかった鍵が、今の私たちには必要ですわよ。……港の底の澱も、七年間そこにありましたもの。七年前から変わっていないということが、今日の証拠の積み上げと、これからのフォル・ネビュラを繋いでいますわよ)


 薄焼きの菓子をもう一枚取った。


 二枚目は、木の実の香ばしさが一枚目より強く来た。


(慣れるということは、最初に見えなかったものが見えてくるということですわよ。……フォル・ネビュラの倉庫の中にも、最初には見えないものがあるかもしれませんもの。丁寧に確認しますわよ)


「では、明後日の出発に備えて、今夜は早めに休みますわよ。……シリルも、今夜は少し長く眠ってくださいな」


「……善処します」


「善処、ではなく、眠ってくださいまし」


「承知しました。……三時間は、眠ります」


(三時間が最大値なのですかしら。……この従者の睡眠は、本当に固定されていますわよ)


 茶の残りを、最後に一口飲んだ。


 渋みと深みが、最後に一緒に来た。


(今夜の補佐官の茶は、最後まで渋みが主張しましたわよ。……甘みで終わらない茶ですもの。それが補佐官という人間の、王城での仕事の性格に似ていますわよ。甘くない場所で、渋い仕事を長年続けてきた人間の茶ですもの)


(明後日からは、港の風の中で別の茶を飲みますわよ。……フォル・ネビュラの霧の中で、倉庫の鍵を使いますもの)


 カップを置いた。


 ランプが、静かに揺れた。


 王都での掃除がひと区切り。


 次は、港の底から引き上げる番ですわよ。


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