第45話:フロード補佐官の染みと、三本で立つこと
夕刻前に、フロード補佐官が屋敷に来た。
マルダが応接室ではなく書斎に通したのは、私がそう指示していたからだ。応接室は、客を迎える場所だ。書斎は、仕事をする場所だ。今日のフロード補佐官との話は、後者に属する。
扉が開く音がした。
リタが廊下に立った。シリルは、書斎の中にいない。
(今日は、二人で話しますわよ。……シリルには廊下で待っていてもらっていますもの。扉一枚の向こうに二人がいれば、それで十分ですわよ)
フロード補佐官が入ってきた。
三年間、王城の財務記録の副本を一人で取り続けてきた人間だ。顔に、その年数が出ている。目の下の皺が、削れたような形をしている。
でも今日は、いつもより背筋を正そうとしている。
(用意してきた人間の立ち方ですわよ。……書状を送ってから、今日ここへ来るまでの間に、話す内容を整えてきた人間の体の形ですもの)
「フロード補佐官、本日はお越しいただいてありがとうございますわよ」
「……いいえ。こちらからお願いしたことですから」
声が、少し低い。緊張ではなく、覚悟の種類の低さだ。
「どうぞ、座ってくださいな」
補佐官が椅子に座った。
私は机の向かいに立ったまま、扇子を閉じた状態で持った。
(座らないのは、少し圧を作るためですわよ。……圧が必要な場面ではありませんもの。でも、こちらが落ち着いて聞いていることを示すには、立っている方が伝わりやすいですわよ)
「書状を拝読しましたわよ。……七年前の書面の件、と書いてくださいましたもの。先日お届けした書状では触れられていなかった詳細を、今日直接お聞きしたいと思っていましたわよ」
「はい」
「聞かせていただけますかしら。……最初から、順序通りに」
フロード補佐官が、少し間を置いた。
それから、話し始めた。
* * *
七年前。補佐官が財務部門に異動してきた最初の年のことだ。
上長から一つの依頼を受けた。「この書面を、指定の人物に届けてほしい」というものだった。内容は確認できない封のされた書面で、届け先は「ネーベル・アルバ」という名前の人物だった。
「当時の私には、その名前に意味がありませんでした。……商人の名前だと思いました。財務部門でよく使われる、貿易関係の業者への書類転送だと理解しました」
「一度だけですかしら」
「はい。……一度だけです。届けた後、上長から特に何も言われませんでした。私も、それきり忘れていました」
(一度だけ、ですわよ。……昨夜の船の上でシリルと確認した名簿の七ページ目の記録ですもの。「三年前ではなく七年前の一回」という記録が、今補佐官の口から出ましたわよ。書状で存在を知っていた事実の、細部が今ここで埋まりますもの)
「その書面の内容は、今でも分かりませんかしら」
「分かりません。……封を開けることは、しませんでした。届けるよう言われた書面を、届けたというだけです」
「上長の名前は、教えていただけますかしら」
補佐官が、一度目を閉じた。
「……エステ・ハルム文官補です。当時は財務部門の上席でしたが、三年前に別の部署に異動しています」
(エステ・ハルム文官補。……D-3「王城の内通者」の調査線に、また新しい名前が出てきましたわよ。ガルベス子爵の屋敷と往来があった王城の文官補、という情報が以前からありましたが、今日フロード補佐官の口から名前が出ましたもの)
「補佐官は、その後エステ文官補と何か接触はありましたかしら」
「ありません。……部署が変わってから、廊下で挨拶する程度です。ただ」
「ただし」
「三年前に財務記録の差分を取り始めた頃、一度だけ、エステ文官補から声をかけられました。「最近、記録の確認作業が多いようだね」と言われました。……それだけです。脅しでも、示唆でもなく、ただそう言われました」
(ただそう言われた。……でもその言い方が、フロード補佐官には監視されているという感覚を与えたということですわよ。そうでなければ、今日ここでこの話を持ち出す理由がありませんもの)
「その一言を、どう受け取りましたかしら」
補佐官が、少し手を膝の上で組んだ。
「……分かっているぞ、という意味だと受け取りました。でも証拠がなかった。エステ文官補がガルベス子爵側と繋がっているという確認が取れなかったので、何も言えませんでした」
「それで、三年間一人で続けてきた」
「はい」
(三年間、見られているかもしれないという状況の中で、それでも副本を取り続けた人間ですわよ。……背中に視線を感じながら、手を止めなかった人間の話ですもの)
右手の指先が、少しだけ冷たくなった。
打ち消さなかった。
* * *
「フロード補佐官、一点だけ確認させてくださいな」
「はい」
「七年前の書面を届けたことは、あなたが意図してドレインの経路に加担した行為だと、ご自分では思っていますかしら」
補佐官が、少し顔を上げた。
「……思っています」
「なぜですかしら。……あなたは内容が分からない書面を、上長の指示で届けただけですもの」
「内容が分からなくても、届けたという行為の結果は、私が行ったことです。……後になってドレインという組織の輪郭が見えてきた時、七年前の記憶が戻ってきました。自分がその経路の中に一度でも入っていたという事実は、消えません」
(消えないと分かっていますわよ、この方は。……それが今日ここへ来た理由ですもの。自分が一度でも経路に入っていたという事実を、こちらに告白する前に確認されることを選ばなかった。自分から話しに来ましたわよ)
「フロード補佐官」
「はい」
「あなたが今日の書状を送ってきてくださったのは、私がフォル・ネビュラで照合を終えたことを予測したからですかしら」
「……はい。あなたが隣国で動いていたことは、王城内でも話が入ってきていました。ネーベル・アルバという名前に関わる記録が精査されれば、七年前の私の名前が出てくる可能性がある。それが分かっていましたから、先に申し上げようと思いました」
(先に申し上げようと思った。……こちらが照合して発見する前に、自分から話した。これは、掃除の仕方を知っている人間の選択ですわよ。汚れを指摘される前に、自分で汚れの場所を示してくる人間ですもの)
「ありがとうですわよ、補佐官」
フロード補佐官が、少し顔の表情が変わった。
「……感謝されることではありません。こちらの方が、お伝えする義務がありましたから」
「義務と感謝は、別の話ですもの」
補佐官が、また少し間を置いた。
「……クレア様、あなたは、私の件をどう処理するおつもりですか」
(どう処理するか、という問いですわよ。……焼却か、染み抜きか、リサイクルか。補佐官自身が、その問いを持って今日来ていますもの)
私は扇子を、少しだけ動かした。
「染み抜きですわよ」
「……染み抜き」
「七年前に一度、経路の中に入ったという染みがありますもの。でも、三年間副本を取り続けたことで、その染みがどういうものかが、今日この書斎で分かりましたわよ。染みがついた布でも、染み抜きをすれば使えますもの。焼いてしまっては、三年分の記録も一緒になくなりますわよ」
補佐官が、少し目を伏せた。
「……証拠として扱っていただけるということですか」
「ええ。……七年前の書面を届けたという事実は、むしろ証拠の一部になりますわよ。エステ文官補がその指示を出していたという事実と合わせれば、D-3の調査線にもう一本の経路が加わりますもの。あなたが今日話してくださったことが、掃除の材料になりますわよ」
(染みは、染み抜きをした後に、別の布の補強材になることがありますもの。……フロード補佐官の七年前の一回が、今日エステ文官補という名前を引き出しましたわよ。汚れが汚れの地図を作ることがありますもの)
* * *
「補佐官、もう一点だけよろしいですかしら」
「はい」
「エステ文官補は、今どちらにいますかしら」
「王城の一般行政部門に籍を置いています。……ガルベス子爵の屋敷への往来があるという話は、フロード名簿の中に記録があるはずです」
(名簿の中にある記録。……D-3の調査委員会の範囲に、エステ文官補を含める申請が必要ですわよ。今日補佐官から聞いた七年前の書面の件と、三年前の「記録の確認が多いようだね」という一言を合わせれば、申請の根拠になりますもの)
「シリルに動いてもらいますわよ。……エステ文官補の件は、調査委員会の範囲に含める申請を明日の朝に出しますもの」
「分かりました。……私は、証言できます」
「ありがとうですわよ」
フロード補佐官が、少し肩の力を抜いた。
覚悟を持ってきた人間の、緊張がほどけていく時の動き方だ。
(これだけ重いものを一人で持ってきてくださいましたわよ。……七年前の一回と、三年間の副本と、今日の書状と。全部、自分の足でここへ持ってきた人間ですもの)
「補佐官、最後に一つだけ聞いてもよろしいですかしら」
「何でしょうか」
「三年間、一人で副本を取り続けた間、誰かに話せましたかしら。……七年前の書面のことも含めて」
フロード補佐官が、少し考えた。
「……誰にも。話せる相手が、いませんでした」
「そうですわよね」
「あなたが来てくださるまで、一人でした」
(一人でしたわよ。……三年間、誰にも話せずに副本を取り続けた人間が、今日書斎でそう言いましたもの)
右手の指先が、また少し冷たくなった。
今日は二度目だ。
打ち消さなかった。受け取っておきますわよ。
(今日この書斎で受け取ったものの重さを、私が持っていますもの。フロード補佐官の三年間の分と、七年前の一回の分を)
* * :
フロード補佐官が帰られたのは、一時間ほど後だった。
廊下でシリルを呼んだ。
「今夜お聞きになりましたか」
「廊下で、大体は」
「エステ文官補の件、明日の朝に調査委員会の範囲申請を出してくださいな」
「既に草稿を作っています。……七年前の書面の転送指示という事実と、三年前の声かけが、申請の根拠として使えます」
「D-3の調査線に、もう一本追加ですわよ」
シリルが、完璧な笑顔のまま少しだけ笑顔の質を変えた。
「フロード補佐官の件は、どう処理されますか」
「染み抜き、と申し上げましたわよ。……証人として、証拠として、今後も動いていただきますもの。三年分の副本は、この掃除の一番大切な道具の一つですわよ」
「道具が、自分の汚れを申告してきた、ということですね」
「大切な道具ほど、汚れたまま使い続けていてはいけませんもの。……染み抜きをして、また使いますわよ」
シリルが、一度頷いた。
「明日の朝、カラミ様との照合と、エステ文官補の申請と、E-1の閲覧申請返答の受け取りが並びます。……三点同時に動きますよ」
「順序通りに進めてくださいな」
「承知しています。……ガルベス子爵の撤収も、明日か明後日という情報です。今夜の段階で、通関申請の開示請求の手配を進めておきますよ」
(ガルベス子爵の撤収。……ベルト・ライスさんから得た情報の通り、三日以内の一日が今夜で終わろうとしていますもの。明日が、本番になるかもしれませんわよ)
「シリル、今夜の準備に何が必要ですかしら」
「三点。……開示請求の書式確認、明日のカラミ様との照合資料の整理、エステ文官補の申請草稿の最終確認。この三点だけです。二時間もあれば終わります」
「では今夜は、その後に休んでくださいな」
「はい。……お嬢様も今夜はお早めに」
(シリルに言われますわよ。……でも今日は素直に従いますもの。明日は、長い一日になる可能性がありますわよ)
* * *
サロンに移ったのは、夜の八時を過ぎた頃だった。
シリルがトレイを運んできた。
テーブルの上に、白いカップが二つ。
「今夜のティータイムは何ですかしら」
「フォル・ネビュラから持ち帰った茶葉の残りがあります。……ロワール・ダークではなく、今夜はセルバン・ドックで手配した乾燥香草の茶を淹れました。先日の夜にも出しましたが、今夜は少し濃いめにしています。香草の草の香りが、今夜の方が強く出ますよ」
「菓子は」
「帰国後に王都の菓子屋から届いていたアンブル・タルトの残りと、今日厨房で作った薄焼きのウエハースです。……アンブル・タルトは蜂蜜と干し果実の詰め物ですが、今夜は仕上げの塩を少し多めにしてもらいました。ウエハースは香草茶に合わせて、バターを控えた素朴な焼き加減です」
カップを持った。
草の、少し苦みに近い渋みのある香りが来た。以前より濃い。
一口飲んだ。
(苦みが先に来ますわよ。……でも、嫌みのある苦みではありませんもの。飲み込んだ後から、静かな甘みが来ますわよ)
(今夜の茶の形ですわよ。……苦みが先で、甘みが後。フロード補佐官が持ってきたものと、同じ形ですもの。七年前の重さが最初にあって、三年間の副本が後から甘みとして来ますわよ)
「シリル」
「はい」
「今日、自分の染みを持ってきた人間が何人いましたかしら」
シリルが少し考えた。
「カラミ様、スラッジ書記官、フロード補佐官。……三人ですよ。それぞれが、違う形の染みを持ってきました」
「全員、染み抜きの対象ですわよ」
「はい。……今日の屋敷は、持ち込み窓口のようでしたね」
「上品ではありませんわよ、シリル。……でも、言い得ていますもの」
(持ち込み窓口ですわよ。……今日は焼却の日ではなくて、受け取る日でしたもの。染みを持って来た人間たちの話を、順序通りに聞いた一日ですわよ)
アンブル・タルトをひとつ取った。
フォークを入れると、蜂蜜と干し果実の詰め物が出てきた。仕上げの塩が、今日は少し多い。甘みと塩気が、一緒に来た。
(甘みと塩気が同時に来ますわよ。……どちらかではなくて、一緒に来るということが、今日の形ですもの。染み抜きをしながら、その染みが証拠の材料になるという、甘みと塩気が混ざった日でしたわよ)
「シリル、明日のガルベス子爵の通関申請の件ですが」
「はい」
「一点だけ確認しておきたいですもの。……仮に通関申請が出てしまった後でも、開示請求で申請内容を確認できますよね」
「はい。……廃業したネッセル商会の名義が使われていれば、申請が出た段階で不正が確認できます。その場合、国境での拘束の申請が翌朝には出せます」
「翌朝、ということは、今日ではなく明日に動きますわよ」
「はい。……ただし、申請が今日の深夜に出る可能性があれば、夜のうちに開示請求を出す手はずを整えておく必要があります。今夜の三点の準備の中に、その手配も含めておきます」
(全部を今夜のうちに、ということですわよ。……シリルが今夜二時間で三点と言っていましたが、この追加を含めると四点になりますもの。でも言い直してきませんわよ。もう計算に入っているということですもの)
「ありがとうですわよ、シリル。……いつも、私が言う前に考えていますもの」
「掃除は、先回りが大事ですから。お嬢様に教えていただきましたよ」
(そうでしたかしら。……言った覚えがありませんわよ。でも、確かにそうですもの。汚れが広がる前に手を動かすことが、掃除の基本ですわよ)
薄焼きウエハースを一枚手に取った。
素朴なバターの香りが来た。飾りのない、シンプルな菓子だ。
(アンブル・タルトは複雑で、ウエハースは素朴ですわよ。……今日の一日も、そういう形でしたもの。フロード補佐官の話は複雑な重さがあって、カラミ様の照合は、七年分の記録という素朴な数字の積み重ねでしたわよ)
茶をもう一口飲んだ。
今度は、苦みより先に、草の香りが来た。
(一口目と二口目で、少し変わりますわよ。……苦みが先だったものが、香りが先になりますもの。同じ茶でも、口が慣れてくると感じ方が変わりますわよ)
(明日が、三日以内の二日目ですわよ。……今日がその一日目でしたもの。ガルベス子爵の動きが、明日見えてくるかもしれませんわよ。E-1の照合結果も、明日の午前中には届きますもの)
「シリル、今日は四つの仕事が全部動きましたわよ」
「はい。カラミ様との照合、スラッジ書記官の証言確認、フロード補佐官との面会、E-1の申請。……四つとも、本日中に完了または着手できた形ですよ」
「順序通りに、丁寧に、でしたもの」
「ええ」
シリルが、完璧な笑顔のまま少しだけ別の表情をした。
「お嬢様、今日フロード補佐官が「一人でした」とおっしゃった場面で、お嬢様の手が少し動いていましたよ」
(見ていましたわよ、シリルは。……右手の指先が冷たくなった時の、その感覚を受け取った瞬間を見ていましたもの)
「見ていましたかしら」
「廊下から、少しだけ」
(扉一枚ですもの。……シリルの目は、扉一枚では遮られませんわよ)
「打ち消しませんでしたわよ」
「はい。……そのことは、分かりました」
それだけだった。シリルは、それ以上は何も言わなかった。
(それでいいですわよ。……感じたものを感じたまま受け取った、ということを確認しただけですもの。今日の書斎で起きたことは、そういうことですわよ)
アンブル・タルトをもう一つ取った。
今度は、塩気が先に来て、蜂蜜の甘みが後から広がった。一つ目と順序が逆だ。
(同じ菓子でも、二つ目は違う味がしますわよ。……一口目で驚いたものが、二口目では落ち着いてきますもの。それが、受け取るということの形ですわよ)
(今夜は、フロード補佐官が持ってきた染みを受け取りましたもの。カラミ様の照合が八件一致したことも受け取りましたわよ。スラッジ書記官の奥様が三年間口座記録を取り続けていたことも。……全部、受け取りましたもの。今夜の書斎は、受け取ることが仕事でしたわよ)
「明日は、ガルベス子爵が動くかもしれませんもの」
「はい」
「E-1の照合結果も来ますわよ」
「来ます」
「その前に、エステ文官補の調査申請を出しますもの」
「七時台に出せます」
私は茶を、最後の一口飲んだ。
苦みと草の香りと、静かな甘みが、一緒に来た。
(三つが一緒に来ましたわよ。……一口目は苦みが先で、二口目は香りが先で、最後の一口は全部が一緒でしたもの。積み重なって、最後に一つになりますわよ)
(カラミ様の証言、スラッジ書記官の証言、フロード補佐官の証言が、三本で立っていますもの。一本より三本の方が、倒れにくいですわよ。今日私がカラミ様に言ったことですもの)
カップを置いた。
窓の外が、すっかり暗くなっていた。
明日の午前中に、E-1の照合結果が届きますわよ。
ガルベス子爵が動けば、申請が出ますもの。
エステ文官補の調査が始まりますわよ。
今夜受け取ったものが、明日形になりますもの。
今日はここまでですわよ。明日の仕事は、明日にしますもの。
――その時、シリルが書斎へ戻りかけた足を止めた。
「一点、報告を忘れていました。……ベルト・ライスさんから先ほど、農道の件で連絡が入りました」
「農道の件」
「ガルベス子爵が本日の夕刻、農道を使って屋敷を抜け出した痕跡が確認されました。……ベルト・ライスさんの手の者が後を追い、国境手前の検問所付近で騎士団の協力のもと身柄を確保したとのことです。現在、王都への護送手続きを進めています」
私は少し、間を置いた。
(夕刻に動きましたわよ。……三日以内と言っていましたが、一日目の夜が終わる前に、ガルベス子爵は自分で動いてしまいましたもの。農道を選んだということは、表の通関を避けたということですわよ。それが、拘束の理由になりましたもの)
「ベルト・ライスさんの手の者が、ちゃんと動いていましたわよ」
「はい。……明日の朝には取調べの場が整います。今夜の開示請求の手配と、国境護送の手続き確認を並行させます。五点になりましたが、計算には入っています」
(五点ですわよ。……言い直してきませんもの。やはり、もう計算に入っていましたわよ)
「分かりましたわよ。……順序通りに進めてくださいな」
「はい」
シリルが、今度こそ廊下へ消えた。
明日が、本番になりますわよ。




