第47話 海外派遣の試練
加納常務の失脚が決定的となった翌日。
役員会議室は、まだ緊張の余韻を残していた。
「篠宮君」
社長・水無月幸太郎が俺を呼び止める。
「昨日の件、よく切り抜けた。だが――ここからが本番だ」
その言葉に俺は思わず息を呑んだ。
「君の実力を見極めたい。だから、一つ課題を与えよう」
「課題……ですか」
「そうだ。来月、我が社と海外子会社との合同プロジェクトが始まる。だが現場は混乱し、人材も不足している。そこで――君に現地統括を任せたい」
周囲の役員たちがざわついた。
「無謀だ」「急すぎる」などの声が飛び交う。
だが社長は笑みを崩さない。
「君ならできるはずだ。いや、君にしかできないだろう」
俺は拳を握りしめた。
これは試練であると同時に、信頼の証でもある。
「承知しました。その任務、全力で遂行いたします」
◇◇◇◇◇◇
会議室を出ると、すぐに紗彩たちが駆け寄ってきた。
「隆行さん、大丈夫ですか?」
「社長が試してますね。ここで成果を出せば、春までに役員入り確定です」
深雪が冷静に状況を読み解く。
フィルは力強く頷いた。
「フィルも一緒に行く。隆行の支えになる」
「私ももちろんお供します。準備は私に任せてください」
「ええ、私も。情報面は全部フォローしますから」
三人の心強い言葉に、胸が熱くなる。
だが同時に、重圧がのしかかってくるのも感じた。
(俺にしかできない任務か……。なら、やってやるしかないだろう)
◇◇◇◇◇◇
その夜。
俺たちはフィルのマンションに集まり、ささやかな作戦会議を開いた。
「海外子会社かぁ……きっと向こうでも妨害してくる人がいるよね」
紗彩がペンをくるくる回しながら言う。
「ええ。内部に加納派の残党が残っているはずです。そこをどう抑えるかが鍵ですね」
深雪はタブレットを操作し、資料を映し出す。
フィルは少し考えてから、俺の手を取った。
「でも、大丈夫。隆行には、みんなの心が繋がってる。だから絶対に負けない」
その無垢な笑顔に、不思議と心が軽くなった。
「……ああ。みんなの力を借りて、必ず成功させる」
新しい試練の始まり。
俺はその夜、仲間たちと共に未来への誓いを立てた。
海外子会社――正式名称は「ミナヅキ・インターナショナル」。
俺が派遣されたのは、アジア経済の中心に位置する都市だった。煌びやかな高層ビル群の下では、多国籍の人々が行き交い、活気と喧騒が入り混じる。だが、その華やかさの裏に、確かに暗い影が潜んでいる。
「篠宮さん、こちらが現地オフィスです」
案内してくれたのは現地スタッフの女性・リナ。日本語も堪能で、人懐っこい笑顔を見せる。
「ようこそ。待っていました」
だが、彼女の背後に並ぶ社員たちの表情は硬かった。
俺の姿を値踏みするように眺める者、露骨に不満を滲ませる者……歓迎ムードとは言い難い。
「……やっぱりね」
後ろで紗彩が小さくつぶやく。
「ここ、加納派の残党が牛耳ってる」
「そうか」
俺は小声で返し、視線を正面に向ける。
◇◇◇◇◇◇
最初の会議は荒れに荒れた。
「日本本社の人間に何が分かる!」
「こっちは現場で必死にやってるんだ!」
「勝手に来て好き勝手仕切られても困る!」
罵声が飛び交い、机を叩く音が響く。
俺は深呼吸し、立ち上がった。
「皆さんの気持ちは理解しています。ですが――だからこそ、俺はここに来ました」
静まり返る会議室。
俺は一人ひとりの顔を見ながら言葉を続けた。
「俺一人で変えられるなんて思っていません。皆さんと一緒に、この会社を立て直したいんです。そのために……どうか、力を貸してください」
しばし沈黙が流れた。
そのとき、隅にいたリナが一歩前に出た。
「私は、篠宮さんを信じます」
その一言が、場の空気を変えた。
◇◇◇◇◇◇
だが、敵は黙ってはいなかった。
数日後、重要な商談の直前、契約資料が忽然と消えたのだ。
「なっ……!? 書類がない!?」
深雪が顔を青ざめさせる。
「完全に内部の犯行ね」
紗彩は冷静に推測を下した。
「誰かが意図的に盗み出して、プロジェクトを潰そうとしてる」
その時、フィルが静かに目を閉じた。
「色が見える……悪意の色。犯人、すぐ近くにいる」
彼女の能力が、この罠を暴く鍵となる。
(ここで負ければ、すべてが水泡に帰す……)
俺は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。
「いいだろう。罠なら正面から打ち破る」
新たな戦いの火蓋が切って落とされた。
◇◇◇
契約資料が消えた翌朝、オフィスは重苦しい空気に包まれていた。
社員たちは不安げに視線を交わし、誰もが口をつぐんでいる。
「完全に、内部にスパイがいますね」
深雪は腕を組み、冷たい眼差しで会議室を見渡す。
「外部の人間がここまで侵入するのは不可能。つまり、この中に――」
彼女の視線を受け、数名の社員が顔を強ばらせる。
「……騒ぎ立てるのはまだ早い」
俺は静かに声を上げた。
「犯人を決めつければ、仲間まで疑心暗鬼に陥る。それは一番避けなきゃいけない」
「でも、放っておいたら次もやられるよ?」
紗彩は眉をひそめる。
「隆行さん、今こそ決断の時です」
そのとき――
「見える……!」
フィルの瞳が淡い光を宿した。
「赤黒い色。強い悪意。……資料を盗んだ人、まだこの部屋にいる」
会議室がざわめく。
フィルは迷いなく、一人の男を指差した。
「あなた。篠宮隆行を妨害しようとした」
名指しされたのは、現地幹部の一人・チャン。
彼は額に汗をにじませ、しどろもどろに言い訳を始めた。
「ち、違う!俺じゃない!ただ……上から命令されただけなんだ!」
「上……?」
俺は目を細めた。
「加納派の残党が、まだこの海外子会社に根を張っているということですね」
深雪が冷然と告げる。
「そうだ……俺だって逆らえば潰される!だから仕方なく――」
必死の弁解。しかし、もう逃げ場はなかった。
紗彩が差し出したのは、チャンのPCから発見された不正アクセスのログ。
さらに、フィルの能力によって“悪意の痕跡”が赤く浮かび上がる。
「証拠は揃っている」
俺は一歩踏み出し、彼を見下ろした。
「――これ以上、社員を裏切ることは許さない」
チャンは膝をつき、観念したようにうなだれた。
◇◇◇
スパイの摘発は社内に衝撃を与えたが、それ以上に社員たちの結束を強める結果となった。
俺は皆に向かって言った。
「俺たちは仲間だ。裏切りは許さない。でも、恐れることもない。互いに信じ合い、未来を作ろう」
その言葉に、ようやく安堵の笑みが広がった。
社内の空気は少しずつだが、確かに変わり始めている。
(まだ罠は続くだろう。だが、俺たちは必ず突破できる)
心の奥で強く誓いを立てた。
※後書き※
明日から20:00に1本投稿となります。最終回までノンストップです。
よろしくお願いします
面白かったら下部にある☆☆☆☆☆をポチッと押して黒く変えてもらえると嬉しいです




