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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第39話 アナスタシアの真意


 フィルの両親との話は落ち着いた料亭で食事をとりながらすることになった。

 ゲオールグ氏は堅物ではあるが真面目で一本気があり、芯の通った立派な人物であることが分かる。

 逆に奥方であるアナスタシアさん、通称アナさんは気さくで明るく、ほわほわした人物に見えるが会議での立ち回りは月夜さんや紗彩にまったく引けを取らないものだった。


 やはり支社長秘書をしているだけあって単なる”のほほん美人”ではないらしい。


 二人とフィルを加えたエレノフスク家との会食は、半ば両親顔合わせ的な意味合いになる。

 いわゆる”娘さんを僕にください!”的な奴だ。ちなみに双子の姉妹は紗彩に相手をしてもらっている。


 二人は楽し気に食事をとり終え、俺たちとの歓談もひと段落した後、真剣な表情で居住まいを正し俺に向き直る。


「さて、このような場を設けたのには理由があるだろう?媚びを売ろうとしていないことは分かる。我々に何か重要なことを伝えるために、ではないのかね?」


 来た。向こうから話を振ってくれるのはありがたい。タイミングをうかがっていたがここまで来たら直球勝負。


「その通りです。フィルさんとの関係について、お二人にお話しておかなければならないことがあります」

「ふむ、聞こう」

「なんでしょうねぇ」


 二人の表情はおふざけを許さない緊張に包まれている。特に奥さんの方は一件いつもと変わらないように見えるが、纏っている空気はある意味ゲオールグ氏よりも厳しい。これは何かを察しているのだろうか。


「私はフィルさん、いえ、フィルを愛しています。私はこれからの生涯をかけて娘さんを愛しぬき、幸せにしていくとここで誓いを立てる覚悟です」


「あら。なんて立派な宣言かしら」

「ふむ。良い目をしている。これはフィルを任せても良さそうだ」



「大事なのはここからです。私が愛する女性はフィルリーナ一人ではありません」

 ピクリ、とゲオールグ氏のこめかみが動いたのが見えた。

「ほかに三人、愛している女性がいます。そしてそれはこれからも増えるでしょう」


 ゲオールグ氏の眼が怒りに満ちる。アナさんの表情は氷のように冷たい空気を纏っているかのように無表情だった。

「君は自分がどれだけ酔狂なことを、いや、愚劣極まりないことを言っているのか分かっているのかね?」

「……」


 険しい表情で俺を睨みつけるフィルの父。そのことにフィルも息を呑んだのが分かる。

「酔狂、愚劣。そうかもしれません。しかし、私はこの気持ちを偽るつもりはありません。誤魔化すつもりも隠す気もない。私は私を愛してくれたすべての女性に誠意をもって答えたい」

「その誠意とやらが、手塩にかけて育ててきた娘を他の女と同列に並べていることを堂々と宣言することだというのかね?」

「その通りです。私はフィルも、紗彩も、深雪も玲緒奈も、誰一人として私を愛してくれる人達に不誠実なことはしたくない。そして、私を愛してくれたすべての人と一緒に幸せになっていく覚悟があります」


 場に沈黙が流れる。長い長い静寂が支配し、料亭に流れる三味線の有線放送と庭に備え付けられた鹿威(ししおど)しが”カコン”と響く。


「本気、のようだな」

「はい」

「今日の仕事ぶりを見る限り、君が社長の信頼を得て仕事の出来る男であることは分かった。そしてフィルや紗彩嬢、副社長になられた愛沢嬢からの信頼もとても厚いようだ。どのような経緯でそうなったのか聞かせてもらえるかね?」


「勿論です」

「その前に、一つよろしいかしら?」

「なんでしょうか、奥様」


 俺とゲオールグ氏との視線が交わり緊張が走るなか。聞いたことのないような落ち着き払った口調でその場にアナさんが割って入る。


「篠宮さん、あなたは他の誰でもなく紗彩さんを結婚相手に選びました。それは何故ですか?」


「!?」

「実は、あなたの事情は社長秘書である月夜から聞いていました。全ての事情を知ったうえで、あなたがどのような行動に出るのか観察させてもらい、その真意を測ることにしたのです」

「おいおい、私は聞いていないぞ」

「あなたはすぐに顔に出るではありませんか」

「う、むぅ」


 二人のやり取りフリーズ仕掛けるが慌てて思考を引き戻す。俺は紗彩への想いをありのままに伝えることにした。

「どうなのですか?はっきり言ってしまえば深雪さんの方が年齢は近いし、女性としてのスペックは上でしょう」


 遠慮のない分析に一瞬だけ言い返したくなったが、今はそこを議論すべきではないので質問に答える。

「それは紗彩が、私を失意の底から救い上げてくれた恩人だからです。長い時を過ごし、互いを信頼し合い、そして愛しました。だからこそ、その信頼に応えたいと思ったからです」


 アナさんの視線が俺に突き刺さる。

「なるほど。もう一つ聞きます。あなたはフィルのどこを愛していますか?」

「全てです」


「全て、とは?」

「文字通りです。彼女の全てを愛しています。彼女もまた、私と同じ時を過ごしてきました。そしてその時間の中で信頼し合い、互いを知ることができました。その全てを知っているとは自惚れていません。これから知るであろうフィルの知らない部分も含めて、私はフィルを愛しています。これは紗彩、深雪、玲緒奈も同じです。私がまだ知らない彼女達の全てを、私は愛しています」


 アナさんの視線が突き刺さる。氷のような冷たい瞳は、どこか温かみがあるかのような母性に満ちているがそこに安心できるような心の余裕は今の俺にはなかった。


 俺は一瞬たりとも彼女から視線を外さないように精神力を総動員して耐え抜いた。

 口の中が渇き、汗が流れる。緊張で呼吸が止まりそうだ。ほんの数秒が永遠にも感じる緊張の瞬間だった。

 はっきり言ってゲオールグ氏よりも彼女の方が遥かにプレッシャーが強い。


「……よろしい。フィルとの交際を許可します」

「アナスタシア、いいのか?」

「あなた。篠宮さんは立派な方です。裏も表もなく、ありのままにフィルを愛している。不器用なあの子がここまで成長できたのは彼のおかげでしょう」

「う、うむ。確かに、昔に比べて他の人達との信頼関係が濃密になっていたようだ」

「ならば、それを成し遂げられたのは篠宮さんが上司として導いてくださったからでしょう。それはフィルから聞いていた話と一致します。紗彩さん、月夜の娘である彼女と無二の親友であるフィルが、同じ男性を好きになり、尚且つ同じ立場で愛していけることに、彼女がどれだけ喜んでいるか。それを考えれば世間的な常識なんてものは考えるだけ無駄です。彼はきっとフィルを幸せにしてくれるでしょう」

「お前が言うなら問題はないのだろう。確かに、彼はただものではないようだ」


 ゲオールグ氏もうなずいて何かを納得している。しかし俺は彼らがどこを見てそれを判断したのか計りかねていた。


「そうですねぇ。私がさっきからずっと神力で威圧しているのに全く堪えていないようですし。それどころか気が付いていないようですね」


「え?」


 そういえばアナさんの纏っている雰囲気が先ほどまでとは全く違って厳しいものに感じていたが、もしかして神力で威圧していたからなのか。

「うむ、それは気になっていた。ほとんど全開になっている。少し強すぎるのではないか?私も普通にしているのがギリギリ困難なレベルだぞ。フィルが気絶してる」


「え?あっ、フィル!?」

「……(チーン)」

 さっきから一言もしゃべらないと思ったらフィルは白目をむいて座ったまま気絶していた。

「だ、大丈夫かフィル」

「母の神力強烈。死ぬかと思った」

 俺が揺さぶると我に返ったフィルは震えながら俺の後ろに隠れるようにしてしがみ付いた。こんなフィルは初めてみるな。


「あら、神力感知出来るようになってたのね。それにしても篠宮さん、私、神力を出してあなたを失禁させるつもりで威嚇していました。気が付いていましたか?」

「いえ、お恥ずかしながら……少し厳しい雰囲気を纏っていらっしゃるな、としか」


 俺の言葉に満足そうに笑ったアナさんは身を乗り出して俺の手を握る。氷の彫像のような美しい白い手は、見た目に反してとても温かく、ぬくもりに満ちていた。

 透き通るような青い目に思わずドキっとしてしまう。


「フィルをよろしくお願いしますね」

「はい。命がけで愛します」


「うむ。良い覚悟をもっている」


「ありがとうございます」

「よかった。フィルは安心した。隆行、フィルは少し席を外す」

「ん?ああ、わかった」


 フィルは少し慌てた様子で立ち上がる。何を焦ってるんだ?


「あらあら、もしかしてお手洗い?」

 若干ニヤニヤしているアナさんは口元に手を当てて笑いをこらえているように見えた。

「ッ……すぐ戻るッ」

 顔を真っ赤にしたフィルは足早にその場を去ろうとする。一体どうしたんだ?


「下着の替えは持ってる?」

「ぁ……」


 その一言で俺は察してしまった。フィルはこれまで見たことのないくらい顔を真っ赤にして表情を崩した。


「お母さんのバカァアアアアアアア!!」

 俺はこの日、初めてフィルの叫び声を聞いた。


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