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闘神を宿す拳で、異世界を歩く  作者: 朝霧ネル
第一章 赤き刻印の目覚め
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赤刻(ルベリス)

黒瀬は、ふらりと立ち上がる。

足元が揺れ、視界が二重にぶれる。

一歩。また一歩。

だが、力が抜け、膝が崩れる。

そのまま、前のめりに倒れた。

遠くで、レオンたちの姿が見える。


グラディウス・オーガが、ゆっくりと歩み寄っていく。


黒瀬は、薄く目を開く。かすれた声。


「……だめだ……はやく……逃げて……」


グラディウス・オーガはレオン達を見下ろす。

その瞬間。

心臓が、重く脈打った。


――耐えてみせよ。


低く、深く、響く声。


――我が赤刻のルベリスのことわりを。

――肉を裂き、骨を軋ませ、血を焚く。

――それでも立てるか、我が器よ。


黒瀬の右手が、赤く光る。

皮膚の下から、文字が浮かび上がる。

一文字ごとに、焼けるような痛み。


「ぐああああああッ!!」


崩れ落ちた街の幻影が見える。

その中心に、巨大な影。

炎のような赤。闘神ゴウラが、廃墟に立っている。




ゴキ、ゴキ、と骨が鳴る。

折れていた両腕が、無理やり戻る。

筋が繋がり、骨が嵌まり、肉が焼かれるような痛み。


黒瀬は床を掴み、叫ぶ。


「ぐっ……あああああああッ!!」


その間にも。

グラディウス・オーガの拳が、レオン達に振り下ろされる。


レオンはミリアとセラの前に立ち、目を閉じる。


だが、衝撃は来ない。


そこにいたのは、片腕だけ赤く発光した、黒瀬だった。

右腕で、巨大な拳を受け止めている。

ゆっくりと顔を上げる。


グラディウス・オーガの拳を、片腕だけで押し返す。

弾かれたグラディウス・オーガが、咆哮を上げる。


もう一度。


巨大な拳が振り下ろされる。

拳と拳が、真正面からぶつかる。

衝撃波が走る。


次の瞬間。


オーガの腕が、内側から弾け飛ぶ。

肉と骨が飛散する。


黒瀬の赤い刻印が、さらに強く脈打つ。


オーガは、残る片腕を振りかざす。


黒瀬は静かに言う。


「……何度やっても、同じだ」


再び拳がぶつかる。

もう片腕が吹き飛ぶ。オーガが、膝をつく。

血が溢れ、床を染める。


黒瀬は、ゆっくり歩み寄る。

赤く光る右腕が、熱を帯びる。

オーガの眼前で、立ち止まる。


「……終わりだ」


拳が振りかざされる。

次の瞬間、オーガの上半身が爆ぜる。

血と肉片が、空中に舞う。

赤い雨が、降り注ぐ。静まり返る迷宮。

崩れた魔石が、床を転がる。

その中心に、赤い腕を持つ黒瀬が立っている。

刻印が、ゆっくりと明滅する。


ルヴィアが、薄く目を開ける。

血の雨の向こう。

赤く光る腕の黒瀬が、立っている。


異様な光景。


「……黒瀬……」


ルヴィアのその声を最後に、

黒瀬の膝が崩れ、赤い光が消える。

同時に、ルヴィアの意識も、暗転した。


「レオン!!無事か!!」


複数の足音。

松明の灯りが一斉に差し込む。

駆け込んできたのは、武装した冒険者たち。

レオンは、霞む視界の中で呟く。


「……なぜ……」


ひとりの男が駆け寄る。


「キーナさんが緊急で救助依頼を出したんだ!報酬は後回しでいい、必ず連れ帰ってくれってな!」


周囲の冒険者が安堵の声を上げる。


「それに、Sランクパーティ――白銀の聖騎(はくぎんのせいき)も来てくれてる!もう安心だ!」


その名に、レオンの目がわずかに見開かれる。


「白銀の……」


重い足取りで、一団が奥へ進む。

白銀の鎧を纏った女騎士が、転がる魔石の前で立ち止まる。

巨大なグラディウス・オーガの魔石。

割れた迷宮の床。


そして――倒れている黒瀬。


赤い血に染まった床。

女騎士は、魔石を見つめ、そして黒瀬へ視線を移す。目が細くなる。


「……まさか、この子が……?」


小さく、呟く。


女騎士は無言で黒瀬の腕を見る。

焼けたように赤くなった右腕。


「運べ」


静かな命令。


「全員だ。急げ」


レオン、ミリア、セラ、ルヴィア。


そして黒瀬。


次々と担がれ、迷宮の外へ運び出される。

最後に、女騎士が振り返る。


「ここでなにが……」


低く、呟いた。

迷宮に、再び静寂が戻った。

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