届かぬ一撃
ルヴィアは歯を食いしばり、グラディウスオーガを睨む。
「くそ……!黒瀬。三人を連れて逃げろ!ギルドへ報告してくれ。ここは私が時間を稼ぐ」
「これは命令だ。早く行け」
「……そんなのできるわけないじゃないですか」
ルヴィアが振り返る。
「死にたいのか!」
「違います……こいつを野放しにしたら、もっと犠牲が出る」
「俺は、この街に来たばかりですけど、好きなんです。アウレイヤが、市場の匂いも、うるさいくらい賑やかな通りも、だから逃げません」
ルヴィアは一瞬、言葉を失う。
やがて、ふっと笑う。
「……本当に、不思議なやつだな」
剣を構える。
刃に、黒い霧がまとわりつく。
「ならば、力を貸せ、黒瀬」
黒瀬は、少し照れたように笑う。
「はい!」
ルヴィアは深く息を吸う。
「正面から勝てる相手じゃない、だから、私の全魔力をぶつける。だが、詠唱には時間がいる
稼げるか?」
「もちろんです!」
黒瀬は駆け出す。
グラディウスオーガの斧が振り下ろされる。
(こんなの一発でも直撃したら……終わりだろ)
拳を叩き込む。だが、硬い。
(効いてない……!)
後方で、低い詠唱が始まる。
「深淵を渡りし黒き潮流よ、我が血と契約をもって命ずる」
「この身を器とし、滅びの理を顕現せよ!」
「黒瀬!」
魔力が渦を巻く。
「――【オブリビオンノヴァ】」
黒瀬は即座に跳ぶ。
次の瞬間。
闇の巨大な球体が形成され、爆ぜた。
黒い光が迷宮を染める。
グラディウスオーガに直撃し、壁ごと吹き飛ぶ。
(……これが……ルヴィアさんの魔法……)
砂煙が舞う。
ルヴィアは息を荒げる。
だが――
「なっ……」
背後に、グラディウスオーガが、立っていた。
黒瀬の声が響く。
「ルヴィアさん!!後ろ!!」
グラディウスオーガの腕が薙ぎ払われる。
ルヴィアの体が宙を舞い、壁へ叩きつけられる。
「ルヴィアさん!!」
黒瀬が駆け寄り、抱き起こす。
「ルヴィアさん!目を開けてください!」
薄く、瞼が動く。
「……はやく……逃げろ……」
「できません…」
黒瀬は静かに言う。
グラディウスオーガは、レオンたちへ視線を向ける。
黒瀬はルヴィアをそっと横たえる。
「少し待っててください」
立ち上がる。
「おいデカブツ」
グラディウスオーガがゆっくり振り向く。
「相手はこっちだろ」
レオンの声が震える。
「黒瀬さん! だめです!」
「ここで倒します」
「無茶です!黒瀬さん!」
ミリアの声。
「無茶でも、やらなきゃいけない時があるんです」
グラディウスオーガが雄叫びをあげる。
(動きは遅い……確実に避けて、顔面に一撃を与えろ!)
黒瀬は、グラディウスオーガの猛攻を避け、隙を伺う。
腕が振り下ろされる。黒瀬は腕を駆け上がり、顔面へ渾身の一撃。
グラディウスオーガがよろめく。
「もう一発!」
だが、グラディウスオーガの腕はよろめきを遠心力に変え、振りかざされる。
(やばい!)
黒瀬は両腕を盾にするが、直撃し、吹き飛ぶ。
息が、抜ける。
(動かない……折れてる……)
両腕の感覚がない。
(ゴウラの力がなければ……今ので粉々だったか)
影が覆う。オーガの手が黒瀬を掴む。
叩きつけられる。肺から血が溢れる。視界が揺れる。
(くはっ!……痛ぇ…頭が……割れそうだ)
(守れなかった、力を借りても……俺じゃ)
視界が暗くなる。遠くで、叫びが響く。
「黒瀬さん!!」




