第60話 聖なる湖に行きますわ!
お肉をたくさん食べた次の日の朝早くには町を出て、途中の小さな村に寄りつつ旅を続ける。
森を切り開いてできた道を通っている時は、魔物も出た。
フリッツとライであっという間に倒してしまったので特に問題はなかったが、次に寄った町で「あの道を通ったのか」と驚かれた。
なんでも魔物が出るので、普通は大きく迂回するのだとか。
そして今、シェルリンたちは聖なる湖のある町ラゴプルノへ向かっている。
森を出た後の町の食事処にいたおじさんは言っていた。
「旅なら、この辺じゃラゴプルノがおすすめだ。そりゃあ天下のフィッツベルグ家のお城がある領都もいいんだが、ラゴプルノに寄らずしてフィッツベルグ領に来たことにはなんねーよ」
シェルリンたちがまさかフィッツベルグ家の者だとは知らないおじさんは、お城? と首をかしげるシェルリンに嬉々として教えてくれる。
「フィッツベルグ城も聞いたことないか? ありゃ―凄い城だよ。湖のほとりに建っているんだけどな、城の裏側は小高い丘。しかもその丘、城がある側からは傾斜が緩やかで登れるが、その反対側は傾斜が急で人や馬車が進めるようなものじゃないと来た」
「え? では、お城へはどう行くのですか」
「一本、湖を突っ切って橋がかかっとる。しっかりした丈夫な橋がな。そこを通るのさ。あ、でも嬢ちゃんたちは間違ってもその道を通っちゃいかんぞ。丘も、湖周辺もフィッツベルグ家の土地だからな」
がははと笑いながら、おじさんは酒を追加してなおもフィッツベルグ城の素晴らしさを語り続けた。
そして、思い出したようにラゴプルノについても「ありゃー小さい湖だけんど、いい場所だ」と何度も何度も繰り返し、シェルリンたちに「だから、な! 明日はラゴプルノに行って、あそこで取れるアカイーのアイスを食べて、そんでフィッツベルグ城を見に領都へ行ったらいいが」と言った。
「王都の城よりもすごいぞ」とも。
王都にあるロイアルマ城よりすごい城なんて問題にならないのだろうかとシェルリンがどきどきし始めたところで、「ま、王都なんて行ったことないがな!」とがははとおじさんが笑ったので、シェルリンはほっと胸をなでおろした。
ラゴプルノへはあっという間についた。
町自体は小さな町で、1時間……いや30分ほどもあれば町の端から端まで歩けそうな位だ。
馬車を降りて町を歩く。
食事処のおじさんがあれだけお勧めしてくれただけあって、ラゴプルノは大変人気の観光地のようだ。
すごく小さな町なのに、宿屋か何軒も建っている。
普通の民家が見当たらないほど、宿屋、食事処、雑貨屋、武器屋しかない。
道に布を広げて座り込み、簡易的な店を出している者もいる。
「ほら、シェルリン。こっちへ来てごらん。これがギャーギャーバージョンのアオリリスの笛だよ。約束通り買ってあげよう。迷子になった時の為にね」
ライが笑いながら露店で鳥の形を模した笛を買う。
「小さな子ではないんですから、そんな迷子になんてなりません!」
シェルリンの反論もむなしく、アオリリスの笛を売っているおじさんや近くの露店の店主たちまで笑っている。
「嬢ちゃん、吹いてみな。迷子になった時の予行練習にな。思いっきり息を吹き込むんだ」
笛をシェルリンに手渡しながら、おじさんが言う。
シェルリンは言われるがままに、息を吹き込んだ。
ギャーーーーー!
思っていたよりも大きく、甲高い音があたりに響き渡る。
ライと露店の店主たちはわかっていたようで、見れば耳を手で塞いでおり、驚いているのはシェルリンとベル、ベラ、フリッツの四人だけだった。
その驚いた顔を見て、ライとおじさんたちが笑う。
「はぁー。でも、ええじゃろ、ええじゃろ。あの鳥がその声で鳴くんは、一年に一度、しかもここでしか鳴かんのじゃ。だからうるさいけどな、レアものじゃで」
笛屋の隣のおじいさんがウィンクをして教えてくれた。
建国祭のシーズンになるとここのアオリリスはこの笛のようにギャーギャー鳴き始めるのだとか。なぜそんな鳴き声になるのか、なぜここだけなのかはわからないそうだが、その特別な現象もあって、ここが聖なる湖と呼ばれ続けているらしい。
「きっと、あの湖に何かあるんじゃろ」と笛屋の隣のおじいさんはからからと笑いながら言った。
楽しい話をしてくれたおじさんたちと別れ、シェルリンたちはとりあえず宿をとる。
この小さな町にはただの民家よりも武器屋が多く、武器屋よりも雑貨屋が多く、雑貨屋よりも食事処が多く……そしてなにより宿屋が多い。
旅行者らしい人が多く、町も小さいので泊れるだろうかとフリッツは心配していたが、宿の多さ故、難なく泊まることができた。
聖なる湖ラグプルノに行くのは明朝。
朝がとりわけ美しく、旅行者もほとんどいないと聞き、朝に訪れることにした。
シェルリンたちは近くの食事処で本日のコースを食べ、翌日に備えて早めにベッドにもぐりこむ。
その晩、シェルリンは不思議な夢を見た。
ものすごく青い水の流れる滝のふもとで、なぜかライがたたずんでいた。
その顔があまりに寂しそうに見えて、夜明けとともに目覚めた後もなかなか寝付けなかった。




