第59話 肉ですわ!
店に入ると、すぐに給仕の人がやってきた。
白いシャツに黒いエプロンでビシッと着こなしている。少し……執事の服に似ているかもしれない。
給仕の彼は、私たち五人をさっと見てそのまま二階へ案内すると言う。
店の入り口すぐの所にある階段を上っている時そっと下を見た。
1階は随分にぎわっているようだ。
「下は冒険者たちなんだよ。彼らは獲物を持ってくる代わりに少し安く食べられるんだ」
ライがそっと教えてくれる。
冒険者だと思って見ると、確かに下で食べている人たちは防具をつけ武器を下げている。
そしてすごい勢いで食べている。
シェルリンはテーブルの上に置かれた山盛りの肉が一瞬で失くなっていくのを、ただ黙ってみていた。
二階に着くと、さっきの一階と代わって静かだ。
席と席は程よく離れ、真ん中にはサラダやフルーツ、チーズやハムが種類豊かに並んでいる。
飲み物を頼んですぐに、ベルとベラが席を立つ。
食事中に席を立っても良いのだろうかとベルたちの行方を目で追うと、二人は真ん中に並んでいたサラダやフルーツ、チーズやハムを少しずつ綺麗に盛り付けて帰ってきた。
え? と目を丸くしていると、「ここはこうして好きな物を自分で取りに行くスタイルなのですよ」とそっと教えてくれる。
東の孤児院でみんなでサンドイッチを作った時のようだなと東の孤児院で建国祭を祝った時のこと、もっと具体的に言うとその時ユリウスがシェルリンの手からフルーツサンドをそのまま食べたことを思い出しかけ、慌てて打ち消した。
いけない。あの時のことを思い出すとつい顔が赤くなってしまうからダメだ。
「シェルリン、どうかした?」
ライが疑わしそうに見る。
なんでもないと答えたけれど、動揺して「な、な、何でも……」と変な答えになってしまった。
その後頼んでいたカジューのジュースが着くと同時に、大きな肉の塊を乗せた給仕係がやってきた。
肉の説明をするとその場でスライスし、否応なくみんなの皿に取り分けている。
ありがとうとお礼を言って食べ始めると、また少しもしないうちにべつの肉を持ってやってきた。
え? と思っている間にお皿に肉が増えていく。
「シェルリン、何を思い出して顔を赤くしているのかは聞かないけれど……そんなことしてたらあっという間に肉の山ができるぞ」
「え? まだ来るのですか?」
驚いて周りを見ると、ベル、ベラ、フリッツのお皿はいつの間にか空になり、ハムやサラダを楽しんでいる。
ライもさらに残った最後の一切れを口に入れると、ライの言った通り次の給仕係が来た。
まだ皿に肉が残っているのはシェルリンだけだ。
その後は一心不乱で食べ続けた。
給仕係が静かにやって来るのもすぐわかるようになり、「もう食べられません!」とさっとお皿を避けることもできるようになった。
それを見てライが笑い、フリッツが「では私の所に二切れ置いてくれ」と注文を付け、ベルとベラは微笑みながら、さっぱりしたサラダやソースを持ってきてくれた。
下からは相変わらず冒険者たちがわいわいにぎやかに食事をしている音が聞こえる。
記憶を取り戻してすぐ、長い長い机を挟んでライと二人きりでご飯を食べたことを思い出す。ライが寮へ帰ってしまってからは一人のご飯だった。
ここの料理は、フィッツベルグ家の食事より洗練されていない、きっと食材自体もフィッツベルグ家で出る物よりは劣るのだろう。
それでも……なんかこの雰囲気は楽しいなぁとシェルリンは最後の肉を口に運びながらほほ笑んだ。
肉屋を出て、ホテルに帰る前にジューススタンドで再びカジューのジュースを買う。
甘くて、それでいてさっぱりしているカジューのジュースは、肉の油をさっぱり流してくれるようで美味しい。
さっき食べたレストランの近くだからか、冒険者たちがよく通る。
何人かの冒険者から「一杯いかないか」と声もかけられた。
それをライは慣れた様子で片っ端から断っていた。
冒険者のあしらい方、レストランやホテルでの立ち振る舞いを見ていると、ライはあまりにも平民の暮らしに手慣れているように見えた。
その様子を見てシェルリンは突然ある考えが浮かぶ。
ライは以前フィッツベルグ家を継ぐのはシェルリンだと言っていた。
兄であるライがフィッツベルグ家を継がない理由は分からない。
けれどこの旅のライの様子を見ているとライは平民になるのではないかと思えてきた。
フィッツベルグ家からも、貴族社会からも、王都からも出て行ってしまいそうだ。
「シェルリン、見ろ。これは今飲んでるカジューの木を削りだして作られた簪だ。あっちの籠はカジューの葉を乾燥させて編んでるんだ」
ライが平民たちはよく知るカジューの植物について話してくれる。
この旅の間、高価な髪飾りはつけられないだろうと言って、カジューのジュース三杯分くらいのカジューの木でできた簪を買ってくれる。
その説明すらも、ライが将来家を出て平民として生きていく証拠のような気がして寂しい気持ちになった。




