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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
ライ兄様と夏休み

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57/61

第57話 夏休みですわ!

「はい、終了です。筆記具置いて下さい」


先生の声を聞くや否や、教室がざわざわと騒がしくなる。


「お、終わりました。試験が上手くいったかどうかはわかりませんが、とにかく終わりました。これで勉強から一時解放です!」


アメリアが飛び切りの笑顔で言う。


「ですが、授業が先に進まない夏休みは挽回のチャンスですわよ」

「おっしゃる通りでございます」


カリーナの言葉にアメリアがシュンとする。


「でもいいじゃない。貴女平民だった頃の家に遊びに行くでしょう?」

「はい。久しぶりにお母さんに会えるので嬉しいです!」


アメリアの笑顔が戻る。周りでも話しているのは、夏休みどう過ごすかということばかりだ。

モンクレージュ学園は寮生活が主だ。

だが、長期休暇のある夏と冬は家に戻る生徒が多い。

アメリアは実の母親の住んでいる家に遊びに行く予定だし、カリーナとマクスウェルは互いに領地が近く、家ぐるみで仲が良いので、互いの領地で行われる祭りに招き、招かれ過ごすらしい。

ユリウスは公務があり忙しそうだ。

カールは避暑地で過ごすと言う。

それをシェルリンはニコニコ顔で聞いていた。


「シェルリン様は、夏休み楽しみなことがあるんですか?」

「え?」


カリーナがくすりと笑って聞くと、カールも「楽しみって感じがあふれ出てる」なんて言う。


「旅行に誘われて嬉しかったみたい。ニヤニヤしてしまって恥ずかしいですわ」

「誰に誘われたんだい?」


ユリウスからそう聞かれて、家族旅行に誘うという言い方は変だったなと反省する。

よく考えれば兄であるライに誘われて自領に行くだけだし、自領なのだからきっと記憶があった頃にシェルリンは何度も行ったことがあるだろう。

それでも今記憶を失っているシェルリンにとっては初めて行く場所。

楽しみなのは仕方がない。

それに、ライから誘ってくれたのだ。

父バルデロイや母ケイシーヌは相変わらず家にはいないが、兄と妹で旅行……これは、家族旅行と言っていいのではないだろうか!


「ただの家族旅行ですわ」


◇


ガタゴトガタゴト馬車が何にもない一本道を進んでいく。

王都から出てしばらくは、王都から出る人、来る人の馬車でいっぱいの道だったが、半日も進めばだいぶ交通量はまばらになった。


「ほらみてごらん。あれはカジューの木だよ」

「カジュー……ですか? 初めて聞きましたわ」


ライが馬車の窓から外の木を指さす。

背の高い木だ。木のてっぺんの方に小さな赤い実が鈴なりに垂れ下がっている。


「平民たちがよく食べているものでね。あれは、絞ってジュースにするとおいしんだ。あとで立ち寄る町にあると思うから飲もう」


その後も、ライは馬車から見える景色のあれやこれやを教えてくれた。

植物について、その土地の美味しいものについて。

暇さえあれば記憶があった頃のノートを読みこんでいるシェルリンの知っている話もあれば、知らない話もあった。

例え知っている事であっても、ただノートの字を追うのと、実際に見てライと話しあうのでは受け取る印象は随分と違う。

出発前に長旅になるから覚悟しておいてと、暇つぶしも持って行ってねとライは言っていたけれど、暇だなぁと思う間もないほどずっと楽しくて、シェルリンは馬車に乗っている間ずっとライの話を聞いていた。


「シェルリンはアオリリスを知っているかい?」

「国旗に描かれている鳥ですわね。さすがに知っております」

「公爵領にもアオリリスが生息しているんだ。見ると幸せになるっていう言い伝えもあってね、アオリリスの形を模した笛もあるくらいさ」

「笛ですか」

「あぁ、吹くとアオリリスの鳴き声みたいにジェイジェイって音が鳴るんだよ」


ライが鳴き声をまねて、低い声でジェイジェイというのが面白くてぷはっと笑ってしまう。

それを見たライが、本当にこんな笛の音なんだと言ってさらにジェイジェイ言うのが面白くて、「やめてくださいませ」というのが精いっぱいだった。


「ギャーギャーバージョンもある。こっちはものすごいうるさいから、護身用にシェルリンに買ってあげよう。迷子になったら思いっきり吹くんだ。すぐにどこにいるかわかるよ」

「もう、ライ兄様。色々忘れている私ですけど、そんな迷子になるような年じゃありませんよ」


そんな楽しい会話をしている間に馬車はどんどん王都から離れていく。

ジリジリと焼けるような日差しが落ち着き、少し暑さが和らぎ始めた頃、馬車はようやく一つの町についた。



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