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面倒なので忘れますわ!  作者: 南の月
トビアスと建国祭

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第50話 お腹が青く光っていますわ!

夕方ごろ健康診断が終わり帰る準備をしていると、何やら入口の方が騒がしくなった。


「先生、お願いだ! 見てくれー」

「取り押さえろ!」


そんな声が聞こえる。

建物内で片づけをしていたトビアス、マリー、シェルリンは急いで外へ出た。

外はひどい騒ぎだった。

まず目に飛び込んできたのは、二人の騎士がおなかの大きな女性を押さえていること。次に見えてきたのは、その周りで倒れている男たちだ。

彼らは昼に健康診断に来ていた男性たちだった。


「少しそのままで!」


トビアスが叫んで建物へ身をひるがえす。

一本の注射器を持って、戻ってきた彼は騎士に抑えられている女性に近づいた。

女性の目は血走り、息も荒い。


「大丈夫ですよ、ちょっと落ち着く薬を打ちますからね」


トビアスがなだめながら、注射をする。

次第に女性の力が緩んでいき、誰もがホッと息をついたとき、女性は騎士の一人の手を振り払い、トビアスにとびかかった。

騎士たちが再び女性を取り押さえる。

間もなく、薬が効いたのか女性はそのまま安らかな寝息を立て始めた。


マリーが動いた。


「先生、大丈夫ですか?」


マリーが先生の腕を見る。

とびかかられた時に引っかかれたようで、トビアスは腕に血が出ていたが、それ以外何ともなさそうだった。それからマリーは、倒れている男の人たちを順にみていき、けが人を全員中へ運ぶよう指示した。


「トビアス先生、しっかりしてください。私は先に診察室を準備しておきます」

「あ、あぁ」


マリーとトビアスが診察室に戻り、けが人が中へと運び込まれる。

トビアスにとびかかった女性も念のため手首を縛って、中待合室に寝かした。

シェルリンは、少し気になることがあった。

地面に取り押さえられていた時にはわからなかったが、トビアスにとびかかった時青い光が見えたような気がしたのだ。


危ないからと横に騎士を立っている中、シェルリンはハンカチで女性の顔を拭う。

地面に押さえつけられていたので、顔に土がついてしまっている。

次に掌。寝ている姿を見ると、トビアスにとびかかったのが信じられないほど彼女の手首は細かった。

昼間の聞き込みを思い出す。

フロルと同じ治癒師に治療をしてもらったお腹の大きな妊婦がいると言っていた。

きっと彼女がその妊婦メイだろう。

爪の間に入っている血を拭いながら、さりげなくお腹を見る。

お腹は青くはなかった。

ガチャリ、扉が開いてユリウスが入ってきた。


「シェルリン、今は良いが目を覚ましたらまた暴れるかもしれない。あまり近づくのは危ないよ。それに暗くなってきた。人を呼んでおいたから、私たちは帰ろう」

「ではマリーを呼んできますわ」


ノックをして待合室から診察室へ行けば、あらかた怪我の処置は終わったようだった。

マリーを伴い、待合室に戻る。

右へ左へ体を揺らしながら、メイが苦し気に息を吐き出している。


「トビアス先生!」


それを見たマリーが診察室へ駆け込み、トビアスが急ぎ、出てきた。

そして、シェルリンは見た。

水が球体上になって浮かんでいるように、青い光がゆらゆら揺らめきながらお腹の周りにまとわりついていた。

一瞬時が止まったように、皆動かなかった。

注射を打ったトビアスは、その効果が切れるのが想像以上に早かったようでそれに驚いていた。

待合室で待機していた騎士たちはきっと、彼女が暴れ始めた時に備えている。

シェルリンはというと、大きくせり出したお腹を包むように揺れている青い光に目を奪われた。

どうしてだろう。美しいと同時に、少し、怖い


「青い」


ぽつりとつぶやいた。

突然トビアスが弾かれたように、部屋に戻り、細長い赤い紙を持ってきた。

紙をメイのお腹にのせる。

紙は一瞬ふわりと浮き、ちりちりと端が青くなった。

そして、端が青くなったかと思った途端、青色は赤色を侵食していき、あっという間に全体が真っ青になった。

あの光の色だ、とシェルリンは思った。

深い海のような……そんな色。


「ありえない」


トビアスがつぶやいた。

トビアスはシェルリンの方を振り返りながら、呆然とした様子で「ありえない」ともう一度呟く。

誰一人言葉を発さない。

二度も「ありえない」とつぶやいたトビアスはなぜだかシェルリンをじっと見ていた。

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